■文月堂奇譚 〜古書探し〜■
藤杜錬 |
【6082】【オールド・スマグラー】【炭焼き職人/ラベルデザイナー】 |
とある昼下がり。
裏通りにある小さな古い古本屋に一人のお客が入っていった。
「いらっしゃいませ。」
文月堂に入ってきたあなたは二人の女性に迎えられる。
ここは大通りの裏にある小さな古本屋、文月堂。
未整理の本の中には様々な本が置いてある事でその筋で有名な古本屋だ。
「それでどのような本をお探しですか?」
店員であろう女性にあなたはそう声を掛けられた。
|
文月堂奇譚 〜古書探し〜
オールド・スマグラー編
●不思議な客人
とある休日の昼下がり、古書店文月堂の周りにどこか変わった、ありていに言えば怪しい風体の男がうろついていた。
男の体には褐色の肌に刺青がびっしりとあり、身につけているものと言えば腰に付けた褌と布だけであった。
男は周囲をどこかに行くという様子でもなくうろついていたが、その周囲唯一あいていた店であった文月堂に唐突に入って行った。
「ちわっす」
唐突に入ってきたその男に店内にいた黒い長い髪の女性は思わず唖然とする。
「……い、いらっしゃいませ」
女性は引きつった表情と声でそう答えるのが精一杯であった。
「おう、俺はオールド・スマグラーだ、スマグラーって呼んでくれ」
唐突に自己紹介を始めた男に対し、黒髪の女性、佐伯・隆美(さえき・たかみ)も思わず名乗ってしまう。
「私は佐伯隆美です、ここの店員をしています」
「隆美ねーちゃんか。ここは見たところ本屋かい?」
答えるまでもなく本がうずたかく詰まれた店内はどう見ても本屋以外何ものでもないのだが、真顔でスマグラーはそう隆美に聞いた。
そんなスマグラーに半ば隆美は呆れつつ答える。
「……え、ええここは古書店文月堂です」
そう引きつった表情を抑えようとしている隆美が答える。
「そうか本屋か」
「……は、はい」
「で、俺はは字が読めない、本屋に来てどうしようってんだろるうな」
高笑いを浮かべて、いきなり隆美にそうスマグラーは聞く。
「……さ、さぁ……?」
聞かれた隆美は言葉に詰まるしかなかった。
そして隆美は一生懸命営業スマイルを浮かべようとするが、どうしてもその笑顔は引きつったものにしかならなかった。
そんな隆美を全く気にせず、スマグラーは自分の世界に突入する。
「一体全体俺はここでどうしたら良いんだ?」
ぶつぶつとそんな風に呟くスマグラーに隆美は心の中でこう思うしかなかった。
『全く何をしたいのか聞きたいのは私の方よ……』
そんあ風に思ってる隆美の事は意に介さず、気がつくとスマグラーは自らの事を話はじめていた。
「俺は字がかけない、だから本を読めない。だから本屋には何の用事もない、だけど来てしまった、これには訳があってな」
気がつくとそういってなにやら武勇譚の様な物を話始めるスマグラー。
その話は延々と続き、隆美にはその時間が永遠の苦しみのように感じられた。
「で、聞いてるのか?隆美のねーちゃん」
「……は、はい」
半ばこびりついた虚ろな営業スマイルを浮かべて隆美はそう答えた。
……
………
…………
そして隆美にとって無限とも言えるようなその時間はようやく終わりを告げた。
「で、そういう訳で気がついたらここに来ていたわけだ」
スマグラーは自慢そうに武勇譚を話していた。
「で、結局隆美のねーちゃんは俺がどうしたら良いと思う?」
再びそう聞くスマグラーに隆美は乾いた笑みを返すことしか出来なかった。
隆美から答えが帰って来ないので、スマグラーは再び自らの世界に没頭し始める。
「ここは本屋だ。って事は本がある。本があるが俺は本が読めない」
一人でぶつぶつ言いながら考え込むスマグラー。
そして唐突にむき出しの太ももを手でピシャリと叩き叫ぶ。
「よし決めた!?俺はここで字を習う!?」
「……は?」
唐突なそのスマグラーの言葉に隆美は思わず間抜けな声をあげる。
「だから俺はここで字が書けるようになる」
再びそう言ったスマグラーに隆美はおずおずと聞き返す。
「そ、それはここで、字を書くための教本を買って行くって事ですか?」
「おう!?そういう事だ」
そう言って、スマグラーは近くにあった椅子にドンと座る。
「判りました、それではそういう本を探してみますね」
そう言って隆美はカウンターから出てゆっくりと本棚を探し始める。
だが隆美が探し始めたのに、スマグラーは全く動く気配がなかった。
『まぁ、下手に動かれて店内をぐしゃぐしゃにされるよりは良いわよね、私が探した方が……』
そんなスマグラーを見て思わず隆美は心の中でそう呟いた。
そして隆美が本棚を探しはじめて数分がたった頃。
「まだか?まだみつからねーのか?隆美のねーちゃん」
まるで数時間探した後かのような様子で、みつからないのか?とスマグラーはせかす。
「は、はい、まだちょっと見つからないです」
「早くしてくれよ、隆美のねーちゃん」
もう待ちきれないといった様子でスマグラーは隆美に話す。
そんな様子を見て、隆美は探す手を少し早めた。
そして本と本の間に挟まった一冊の本が隆美の目についた。
「あ、これならいいかしら?」
そう呟いて隆美はその本を手に取りパラパラとめくった。
中身を確認すると、隆美は頷く。
「これなら良さそうね」
そういって本を手に取った隆美にスマグラーが声をかける。
「まだかー?隆美のねーちゃん。俺、待ちくたびれた」
「この本とかどうかしら?」
隆美はせかすスマグラーに先ほど見つけた本を手渡す。
「おうっ!?これで良い。じゃあ次だな」
「次?」
思わず聞き返す隆美であった。
「隆美のねーちゃんが俺にこの本を使って字を書ける様に教えてくれるんだろ?」
断定形で断る事の出来ないその口調に隆美はこわばった笑みで受けるしかなかった。
そして隆美にとって無限地獄とも言える時間が始まったのであった。
そしてそんな事があって数週間後。
古書店文月堂に一通の手紙が届いた。
汚い字で書かれたその手が身に恥を教えてくれた事への謝辞が書いてあった。
差出人の名前にはオールド・スマグラーとあった。
Fin
□■■■■■■□■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
■ 登場人物(この物語に登場した人物の一覧) ■
□■■■■■■□■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
≪PC≫
■オールド・スマグラー
整理番号:6082 性別:男 年齢:999
職業:炭焼き職人/ラベルデザイナー
≪NPC≫
■佐伯・隆美
職業:大学生兼古本屋
□■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
■ ライター通信 ■
□■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
どうもこんにちは、ライターの藤杜錬です。
今回はこの様になりましたがいかがだったでしょうか?
楽しんでいただければ幸いです。
2006.02.20.
Written by Ren Fujimori
|