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■鏡張りの迷宮牢■

蒼木裕
【1335】【五代・真】【便利屋】
「これからの出来事も夢になるのね」


 あたしは彼に言った。


「誰か来るのか?」


 彼は聞き返してくれた。


「ミラー、これからやってくる迷い子の事をちゃんと記憶して、忘れないであげて頂戴」
「そうだね。君を愛してるから、ずっと僕は君の為に記憶し続けるよ」


 ドレスシャツにゴシックパンツ姿の少年は目を開いたまま木製椅子に座っている白ゴシックドレスを身に纏う少女に額をくっつける。
 緑色の瞳が少女の目に写り込む。綺麗なエメラルドグリーン、そんな彼の眼球が好きだと彼女は思う。ぼやけた景色の中でそう僅かに感情を浮かせた。


「貴方は優しい人ね」
「いいや。君にだけだよ」


 鏡だらけの部屋はまるで自分の心の中。
 乱反射する空間を好む歪みまくった精神は何処で狂ったの?


 でも、それすらも、遠い過去に捨てて。


 あああああああああああ――鏡張りの部屋で呪われる。


 それと同時にやがてやってきた「お客」と言う名の迷い子を見遣る。
 この人は知っている人だったか、それとも初めてあった人だっただろうか。それすら分からない少女の無茶苦茶な頭の中身。それでも生きていられるのは彼がいるから。
 彼が――口元に当てた手の下で微笑んでいる事すら知らずに。


「いらっしゃい、迷い子。――さあ、取引しましょうか。貴方の大切な何かと引き換えに」


 そして彼女は正気に戻った瞳で貴方に微笑んだ。

+ うさうさぱにっくぱらだいす★ +



■■■■



 それはある日ある時三日月邸の台所にて。


「えー、ボクはこっちの方が好みぃー!」
「だったら、こうしてこう……」
「うわ、すがたんってばそんなのが趣味なの!?」
「何言ってるの。社ちゃんの方こそこれはどうかと思うよ?」


 スガタはぷぅっと頬を膨らませながら目の前にある葉っぱを一掴みする。
 対して社と呼ばれた少女はごりごりとすり鉢で幾種類かの薬草を煎じていた。ちょこちょこっと赤くて小さな実をその中に放り込めば、彼女はぎゃー! と騒ぐ。一体何をやっているのやら、と呆れて見ているのは少年一人と……謎生物一匹。


「お前ら一体いつまで掛かってんだよー」
「もー、にじかぁーん」
「客待たせてそれでも商売かよ」
「かがみのいうとーりー……」


 部屋の隅にあった丸イスに腰掛けながらカガミと呼ばれた少年はふぅーっとため息を吐く。膝の上に乗せているのは背の高いいよかん。ちなみに名前は『いよかんさん』とそのまんまのネーミングだったりする。


「後は此れと此れと混ぜれば完成〜っ!」
「わぁー、やっと出来上がるんだねっ」
「ふっふっふっ! この社様に出来ない薬は(多分)なぁーい!」
「わぁー、かっこが絶妙なニュアンスだねっ」
「其処は突っ込みなしだよぅ〜、にゃっはは〜!」


 社とスガタはきゃっきゃと可愛らしく音符マークを飛ばしながらはしゃぐ。
 カガミはイスから立ち上がり、足元にいよかんさんを下ろす。それから近寄って二人の間を覗き込んだ。


「で、何が出来上がったんだ?」
「いやはや良いところに気が付いたね、かがみん。これはだね、ずばり! 兎に変身出来ちゃうらぶりーあんどきゅーと★な薬だったりしちゃうんだよね!」
「……あっそ」
「うわぁああん! かがみんあっさりしすぎー、淡白しすぎー、リアクション最低ー!」
「いや、それ以外どう反応しろと?」
「わーとかぎゃーとかしゃーとかにゃーとかっ!」
「わ  け  わ  か  ん  ね  え」


 一言一言区切りながら返事をする。
 ぷぅーっと頬を膨らませながら社はぷいっと横を向いた。


「さーってと袋に入れてお客さんに渡しさないと」
「あ、足元気をつけないと其処にいよかんさんが」
「あだっ、う、ぐげご!」


 どんがらがっしゃーん!
 どっばぁああ!!!


「きゃぁああ!!?」
「うわぁああッ!」


 …………。


「……ドア開けた瞬間に薬撒き散らしやがったな」
「……扉開けた瞬間に薬撒いちゃったね」
「客に薬ぶっ掛かったな」
「お客さんに薬掛かったね」
「じゃあ、これは幻覚じゃねえんだな?」
「じゃあ、これは幻覚じゃないんだね」


「「この向こうにうさうさがいっぱいいるのは、見間違いじゃないと言う事で」」


「あーん、やしろー……いたいいたいー……!」
「いたたたたぁー! 何でいよかんさんが足元にいるのー!?」
「いたい、よー……どいて、ぇー」
「いよかんさん、邪魔ッ!!」
「あぁーん!! ふまれ……たぁー!」


 スガタとカガミの目の前にはいよかんさんと転げている社の姿。
 そしてきゅっきゅと鳴くうさぎの耳と尻尾を生やしたお客達。


「ったく、折角作った薬台無しになっちゃったじゃない! もうっ、面倒臭いけど今から解毒剤作んなきゃっ。あー!! 部屋の中滅茶苦茶になっちゃったし、他の部屋に移動なんて危なくて出来ないから、悪いけどかがみん達あのうさうさ達を外で遊ばせておいて!」


 社はばっと起き上がり、どたばたと大きな足音を立てながらどこかに消える。
 残されたのはスガタとカガミとまだこけているいよかんさんに……うさうさ達。少年達二人は顔を見合わせ、それから窓の方を見遣る。


「外で遊ばせとけって言われても……」
「確かかなり雪積もってたよね」
「……ゆきがっせーん。ゆきだるまー……かまくらー!」


 きゃーっといよかんさんがうさうさの一人の服を掴み、そのまま引っ張っていく。
 が。


「あ、いよかんのバカ凍りやがった」
「駄目だよ、いよかんさん。冷凍いよかんさんになっちゃー。ほら、ちゃんと防寒服着てから行こうね」
「あばばばばばばばばば……」



■■■■



「な……何だこりゃ!?」


 長袖ダウンベストにジーンズをいう格好の青年……五代 真が自身の頭に生えた兎耳を触りながらすっとんきょんな声を出す。彼はえ? え? としきりに耳をくいくい引っ張ったり、何故かズボンを通り抜けて生えている尻尾を見ようと腰を捻っている。
 彼同様にうさうさになってしまったお客は自分の状態にあわあわ。その場は「一体何事だ!?」とざわめいていた。


「はーい、てなわけで現在うさうさの皆良く聞いてねー」
「現在社のバカがそのうさうさ状態を何とかする薬を作っている」
「だからー……それまで、みんなでー……ゆきあそびー」
「「「あーゆーおーけー?」」」


 メガホンを持ったスガタ、カガミ、いよかんさんがその場にいるうさうさ集団に声を掛ける。最後に強制する意思はないと一言付け加えておくのも忘れない。あくまでこれは自由参加である。
 何人かは寒いから室内に残ると言い、何人かは遊ぶと手をあげる。


 その様子を見た二人と一匹は遊ぶと意思表示したメンバーを外に連れ出した。
 もちろんその際、いよかんさんにマフラー、長靴、手袋など適当な防寒服を着せるのを忘れない。何とか凍らずに済んだいよかんさんはきゃっきゃとはしゃぐ。


「と、言うわけで五代、お前は俺のチームに入るよな?」
「何がどうなって行き成りチームなんだ?」
「雪合戦にはお前みたいな戦力が必要なんだって。ほらスガタもあっちでメンバーをナンパし始めたしー」
「あー、成る程な。お前は雪合戦をするのか」
「てなわけで、お前は俺のチームな!」


 カガミがぽんっとうさうさの一人、五代真の肩を叩く。
 そしてきらきらと眼を輝かせてお願いをする。後ろの方ではスガタが他のうさうさ達に声を掛けている様子が見えた。五代はどうみても運動神経ばりばり。だからカガミは戦力として欲しいのだろう。
 だが、五代は首を左右に振り、カガミの頭をぽんっと撫でた。


「あいにく俺は雪だるまを作るんだ。こう、でっけーヤツを作るのが良いんだよ。だから誘ってくれたのは良いんだが雪合戦はまた後でな」
「ちえー。後で参加してくれるかー?」
「それまでに社ちゃんが薬を完成させてなかったらな」
「ぶー!」


 若干ブーイングを零しながらカガミはまた後でな! と言いながら去っていく。
 苦笑を漏らしつつも五代は目の前に降り積もる雪を見遣る。本当に清々しいほど綺麗に積もった雪。これを一体どのように雪だるまに仕上げようか彼は考え始めた。


「さぁーってと、社ちゃんが解毒剤作るって言ってたから、それまでの辛抱だ。我慢するか」


 足元の雪を掴む。
 新雪なのか、まださらさらとした其れを捏ねるように弄んだ。背後ではぎゃーぎゃーと騒がしい声。どうやら雪合戦が始まったらしい。二手に分かれて丸めた雪玉を投げ合っている姿が見える。その中には他のいよかんさん達が含まれていた。どうやら戦力として社の邸から連れ出されたらしい。
 彼ら? はあいにく社の飼っているいよかんさんとは違い、マフラー等は着せられていない。寒さに凍えそうになっている様子が痛々しいが、それも身体を動かせば問題ないだろう。
 五代は被害を受けないように出来るだけ場所を外し、腰に手を当てた。


「んー。普通の雪だるまじゃ面白くない。雪いよかんさんでも作るか。おーい、そこのいよかん、モデルになってくれ」
「う?」
「大まかなのができるまでそこ動くなよー」
「んーとー……ぼくー、かまくらつくるー」
「分かった分かった。適当な時にポーズをつけてくれりゃいいから」
「もしうごかないのがねー……ほしかったらー……はい、これ」


 さっといよかんさんが取り出したもの。
 それは既に凍ってしまった別のいよかんさんだった。かっちーん……っと固まっている其れは確かに動かない。五代はふむっと頷くと急いで雪を積み上げていくことにした。
 その隣ではいよかんさんが小さい手を使ってぺちぺちと雪を積み上げていく。一人と一匹……いや、凍ったのをあわせて二匹はのほほんっと自分達の作りたいものを作り始めた。


「しかし、道に迷って凍りそうになっちまってたのを社ちゃんに助けられたのは良いけどよー。こんな騒動に巻き込まれるなんて思っちゃいなかったぜ」
「毎日まきわり……ありがとー」
「良いってことよ。こっちだってアレからこの家にしばらく厄介になってんだ。そんくらいはしなきゃな」
「えへへー」
「さーってと、上の方をやんなきゃな……とりゃ!!」


 積み上げた雪はどれくらいになってきただろうか。
 もう手を伸ばす程度では雪を積み上げられなくなった五代は、うさうさ薬によって伸びた跳躍力を使用し、ジャンプして雪を器用に積み上げていく。もう良いのではないかと思うほど高く伸びた円柱。
 しかし彼はまだ満足していないのか、ぴょんぴょんっと高く高く飛び跳ねた。


 見ていたいよかんさんがおーと手を叩いてはしゃぐ。
 彼? の方は何とかかまくらが出来たらしく、小さなかまくらが其処に存在していた。かまくらはいよかんさんの身体上穴がいやに細長いものであったが、それでも立派に作り上げられていた。


「よし、完成! どうだ? いよかん、お前そっくりだろう」
「わー……たかーい」
「ほら、もっと良く見せてやるよ」
「きゃー……!」


 いよかんさんを抱き上げ、上部の方を見せてやる。
 だが良く見えないらしく、首を傾げられた。其れを知ると五代はいよかんさんを抱いたままその場で高く跳ね上がる。一瞬ではあるが近くで全体像を見ることが出来たので、いよかんさんはきゃっきゃっと声をあげて喜んだ。
 手は木で作られ、もちろん先には手袋が添えられている。あいにく足は作れなかったので省略されていたが、それでもその雪いよかんは立派なものだった。


「そうそう。忘れてたけど、お前大丈夫か?」
「あばばばばばばば……」
「あちゃー、さっきよりももっと凍っちまったか。よし、俺が暖めてやるよ」


 モチーフとして置かれていたいよかんさんを優しく抱き上げる。
 かちんこちんに固まった其れは簡単には溶けないようだ。五代は苦笑しつつ、ダウンベストを開く。そして雪を適当に払った冷凍いよかんさんを胸に入れ、顔だけ見えるようにしてからチャックを閉めた。


「どだ、あったかいだろ」
「はふー……」
「よしよし。悪かったな。さて……あっちの方はどうなったかな?」
「せっせんー……」


 くっと雪合戦の方を見遣る。
 雪玉がびゅんびゅんっと飛び交っているその場所はまさに戦場。雪玉を作るスガタ、投げるカガミ。同じ様に雪玉を抱え持って飛び跳ねているのはうさうさ達。耳がふらふらと揺れる様子が妙に愛らしい。


「どりゃぁああ!! うさうさ軍団GOー!!」
「カガミになんか負けないよ! うさうさ隊、カガミを集中攻撃ー!!」
「うわ、卑怯だぞ!?」
「覚悟ぉー!」


 集中攻撃を受け始めたカガミはじたばたと逃げ出す。
 流石に一人で敵のうさうさ達を相手にするのは出来ないらしい。スガタは玉を捏ねながら相方が攻撃を受けている様子を傍観する。のほほんとした様子は少しボスらしかった。


「さてっと、約束だったからカガミの方に俺も入ってやるかな」
「じゃー、ぼく……スガター」


 一人と二匹はほのぼのとチームに混ざろうと移動した。
 体温を貰って何とか生き返ったいよかんさんも五代と一緒に雪玉を作って相手に投げる。


「うぎゃー!! 来るな来るなー!!」
「えーい、攻撃ー!!」
「攻撃ー!」
「どりゃぁあ!!」
「当たるかぁああーー!!」


 相手から集中攻撃を受けていたカガミがくっと頭を若干下げ、物凄い勢いで飛んできた雪玉を何とか回避する……が。


「皆ー! 薬出来……――――うぶ!?」


 ばっしゃぁああんん!!
 回避した雪玉が邸から出てきた社の顔面に直撃する。先程まで清々しい笑顔を見せていた社の顔が雪玉によって一瞬にして隠れてしまった。


「あ」
「げっ」
「うわ……」
「あーあ……」


 一気に血の気の下がる音がする。
 ずるぅり……と雪が社の顔から滑り落ち、降り積もった雪の上へと落ちた。嫌な予感が沸き起こる。スガタはあー……と開いた口が塞がらず、カガミはひくっと顔の筋肉を引き攣らせ、いよかんさんは五代の後ろに隠れた。うさうさ達も言葉が出ないようだ。


 再び見えた社の顔。
 それはもうこめかみに沢山の青筋を立てていて……――――。


「……かーがーみーんっ♪」
「は、はいぃ?」
「ちょっと、こっちに来い?」
「え、やだ」
「良いから来いってーの!!」
「うぎゃぁあああああ!!! 何で俺何だよー!?」
「あんたが避けなかったらあたしに当たらなかったんでしょー!!」


 カガミの襟首を掴んでそのままずるずると邸の裏の方に行く。
 しばらくすると、子供にはお聞かせ出来ない声高い悲鳴が聞こえてきた。その暴力的な音声をうさみみでキャッチしながらも、うさうさ達は「薬が出来上がったのかーあっはっは」と笑い、さらりと状況を無視することにした。


「あーあ、これも一つのコミュニケーション? 社ちゃんったら本当怒らすと怖いねー」
「あばばばばばばばばば」
「あ? 寒いのか? よし、お前も温めてやろう」


 震えているのは寒さが原因ではない。
 恐怖に怯えるいよかんさんは、五代のダウンジャケットの中で両手を合わせることにした。



……Fin





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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【1335 / 五代・真 (ごだい・まこと) / 男 / 20歳 / バックパッカー】

【NPC / スガタ / 男 / ?? / 案内人】
【NPC / カガミ / 男 / ?? / 案内人】
【共有化NPC / いよかんさん / ? / ?? / いよかん(果物)】
【共有化NPC / 三日月・社(みかづき・やしろ) / 女 / ?? / 三日月邸管理人】
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■         ライター通信          ■
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 こんにちは、蒼木裕です。
 今回はコラボに参加して下さり、真に有難う御座いましたvお一人での参加となってしまいましたが、楽しんで頂けるといいなと思いますっ。
 個人的に雪いよかんが見てみたいです(笑)