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■駅前マンション〜ある日の回覧板■

日向葵
【0086】【シュライン・エマ】【翻訳家&幽霊作家+草間興信所事務員】
 だいたい月に一度の周期でマンション内を一周する回覧版がある。
 その回覧版の内容は様々で、最近事件が多いから気をつけてとか廃品回収だとかそんなごくごく普通のものからこのマンションにしかないような――陰陽師や退魔師に向けた仕事募集のメッセージや最近マンション内で起こった怪奇現象に関する事柄などなど。
 ちなみに、そういった怪奇現象関係の内容は、ある程度以上の霊力のある人間でなければ見えないよう、管理人のじーさんが小細工をしている。
 一応だが、ここには少数の一般人も住んでいるのだから……。


『ひな祭りをやりましょう』

 回覧板はそんな見出しから始まっていた。
 毎度ながら会場はマンション屋上。雛人形を持ち込んで、ちょっとしたパーティをやりましょうということらしい。
 ちなみに雛人形は、大家のじーさんが用意してくれるらしい。
 
駅前マンション〜ある日の回覧板・ひな祭り


●駅前マンション掲示板

 元退魔師のじーさんが大家を務める駅前マンション、怪現象もどんとこいなマンション。その1階には住人たちのためのコミュニティースペースがある。
 ちょっとした椅子とテーブルと、自動販売機。
 その壁に貼られているのは、住人たちに回されている回覧板の用紙だ。
「あら……面白そうね」
 マンションにすむ知り合いのところへの用事が終った帰り道。ひな祭りをやりましょう、というそのお誘いに、シュライン・エマは呟いた。
 ひな祭りなんて子供でもいなければあまりやる機会はない。
 ……子供、とは少々違うが、事務所にはそれに近しい少女がいる。ある意味では義兄よりよほどしっかりしているのだが、いろいろと事情があって世間でのあれこれについては知らないところが多々あるのだ。
「零ちゃん、きっとひな祭りパーティなんてやったことないわよね」
 草間興信所の主、草間武彦は良い人ではあるが、致命的なまでに金運に見放されているし、あの事務所では雛人形も用意できまい。



「と、言うわけなのよ。一緒に行かない?」
「すごい、楽しそうですね!」
 事務所に帰ってすぐのシュラインの呼びかけに、まず一番に反応してくれたのは零だった。
「まあ、いいんじゃないか」
 一瞬ぽかんとしていた武彦も、これといって反対する理由はなく頷いてくれる。
「桐鳳くんも行く?」
 今日は珍しく武彦のデスクの上ではなく事務所のソファで、まるで他人事のように聞いていた桐鳳は、問われてきょとんと不思議な顔をした。
「ひな祭りって、女の子のお祭りじゃなかったっけ?」
「皆で一緒に行った方が楽しいですよ、きっと」
「女の子のものとされてるけど、別に女の子しか参加しちゃいけないって決まりもないし」
 零とシュラインにそういわれて、今度は桐鳳はにこりと見かけに似合わぬ大人っぽさで微笑んだ。
「そう? じゃ、僕も行くよ」
 こうして草間一家(?)は一同そろって、ひな祭りパーティに参加することとなったのだった。


●パーティ会場にて

「こんにちは」
「遊びに来ました!」
「やっほー」
「……」
 お土産の料理を抱えてほぼ時間ぴったりにやってきたのは、シュライン・エマ、草間武彦とその妹の零に、興信所の居候神様・桐鳳だ。
「こんにちは、いらっしゃいませ」
 微笑んで返すのは、大家の老人に頼まれて準備の手伝いをしていた天薙撫子。撫子の少し後ろで温和に微笑んでいるのは企画者の老人だ。
「あら、早いのね」
 もちろんそんな事情をしらないシュラインは、すでにすっかり会場で落ち着いている撫子に少し驚いた顔をする。
「準備を手伝ってもらったんだよ」
 横から入った老人の言葉に、シュラインも納得した。
「で、肝心の雛人形はどうしたんだ?」
 望んできたというよりは、つき合わされている感の強い雰囲気で、武彦がぐるりとマンション屋上に目を向ける。
「そういえば……」
 言われて初めて気付いた零も、きょろきょろと視線を彷徨わせて少しだけ残念そうな顔をする。
「それはこれから出すんですよ。皆でやったほうが楽しいですから」
「ふーん……面倒そうかも」
 憚ることなく、ぽつりと呟いたのは桐鳳だ。すでに心は料理の方へと向かっている様子。と言っても、力の入った零の台詞を無下にする気もないらしい。
「そんなことないですよ。皆でやったら楽しいです!」
「ま、いっか。たいして時間かかるもんでもないしね」
「そうそう。皆でやったらすぐよ」
 頷いた桐鳳に、シュラインがにこりと笑みを向けた。
「それじゃ、箱から出しましょうか」
 撫子が箱に手を伸ばそうとしたその時だった。
「遅いっ!」
 突如聞こえた声に、大家の老人を除いた全員が、思わず辺りを見回した。
「まったく、わらわは待ちくたびれたわ。久しぶりの出番だと言うから楽しみにしておったものを」
 ごそ、と内側から箱の蓋が持ち上げられる。
「そんな風に言うもんじゃないよ。倉庫にしまったまま忘れられるよりはいいじゃないか」
 ひょい、と鮮やかな十二単を身に纏ったお雛様と、烏帽子はまだかぶっていないお内裏様が箱の中から這い出してくる。
「あら、まあ」
「シュラインさん、雛人形って喋るものなんですか?」
 目を丸くしたシュラインの横で、零はきらきらと楽しそうに瞳を輝かせていた。
「……普通、人形は動かないし喋らないな」
 そのやりとりに、怪奇現象はこりごり――でも縁が切れないと嘆いている武彦はただただ力なく呟くしかない。
「ああんっ、勝手に出て行くなんてずるいですわぁっ!」
「わたくしたち、出していただけるまできちんと待つつもりでしたのに」
 と、今度は別の箱から賑やかに響く女性の声。
「へぇ、九十九神がついてるのかな?」
 さっきのさっきまで、人形にたいして興味なさそうだった桐鳳が、少しばかり弾んだ声音で人形たちのほうに目を向けた。
「こんにちは」
 最初は驚きこそしたものの、まあ、このマンションはこんなものだし。
 とっとと順応したシュラインが、笑顔で人形たちに挨拶をする。続けて自己紹介をした零と、興味本位に近づいてきた桐鳳と。3人に向けて会釈をしたのち、お雛様は撫子のほうを見、嬉しそうに瞳を細めた。
「お初にお目にかかる。……そちらは、以前にも会ったな」
「え?」
「小さかったし、覚えていないかもしれませんね。我らの主の友人のお孫さん、でしょう?」
「わたくしも覚えていますわぁ」
「何度かお会いしましたわよね」
 言われてみれば、覚えがあるような気もする……けど、あの当事は動いていなかったような。
 撫子の疑問に気付いたのか、人形たちはクスクスと楽しげに顔を見合わせて笑いあった。
「普通、人形は動かないでしょう?」
「だから動かないでいたのね」
 お内裏様の言葉にシュラインが頷くと、お雛様が頷いた。
「うむ。今回は主の許可をいただいたゆえ、存分に動けるのじゃ」
 告げてから、お雛様はまだ開いていない箱に目を向ける。
「おぬしらもとっとと出て来い。囃子がないとつまらぬではないか」
「あ!」
「そういえば、三段雛だって言ってたものね」
 ごそりと箱が動いて、蓋が開く。
 5つの箱がそれぞれ開いて、中から出てきたのは太鼓やら笛やらを持った五人囃子だ。
「それじゃ、お雛様の席を作りましょうか」
 準備ができる前に勝手に出てこられたものだから、まだひな壇をまったく用意していなかった。
 ぽん、と手を叩いて告げたシュラインの言葉に、撫子も人形に気をとられてすっかり忘れていたことに気がついた。
「用意できるまでもう少し待っていてくださいね」
 告げた撫子にお雛様たちは頷いて、そうして、お雛様の席が作られる。


 集った人たちとお雛様と。
 パーティは賑やかに始まるのであった。


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   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  
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整理番号|PC名|性別|年齢|職業

0328|天薙・撫子   |女|18|大学生(巫女):天位覚醒者
0086|シュライン・エマ|女|26|翻訳家&幽霊作家+草間興信所事務員

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         ライター通信          
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こんにちは。日向 葵です。

当初はパーティの予定だったのですが、思ったより人が集まらず、これでパーティ本番は少々寂しいだろうということで、始まる直前までの話とさせていただきました。
……力不足でごめんなさい(汗)

>シュラインさん
草間一家(笑)は大変楽しく書かせていただきました。
書きながら、なんだか娘の家族サービスについてくる父親みたいだなあ、武彦さん――なんて思ってみたり。
NPCたちをお誘いくださり、ありがとうございました

>撫子さん
雛人形さんとお知り合いだったということで、存分にその辺書かせていただきました(笑)
いつもいつも、大家のじーさんにお酒とお土産の差し入れ、ありがとうございます。
じーさん普段は茶を飲んでおりますが、酒も大好きなのできっと喜んでいることでしょう。


ひな祭りノベル、ご参加ありがとうございました。
また機会がありましたら、その時はどうぞよろしくお願いします。