■おそらくはそれさえも平凡な日々■
西東慶三 |
【1376】【加地・葉霧】【ステキ諜報員A氏(自称)】 |
個性豊かすぎる教員と学生、異様なほど多くの組織が存在するクラブ活動、
そして、「自由な校風」の一言でそれらをほぼ野放しにしている学長・東郷十三郎。
この状況で、何事も起きない日などあるはずがない。
多少のトラブルや心霊現象は、すでにここでは日常茶飯事と化していた。
それらの騒動に学外の人間が巻き込まれることも、実は決して珍しいことではない。
この物語も、東郷大学ではほんの些細な日常の一コマに過ぎないのである……。
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ライターより
・シチュエーションノベルに近い形となりますので、以下のことにご注意下さい。
*シナリオ傾向はプレイングによって変動します。
*ノベルは基本的にPC別となります。
他のPCとご一緒に参加される場合は必ずその旨を明記して下さい。
*プレイングには結果まで書いて下さっても構いませんし、
結果はこちらに任せていただいても結構です。
*これはあくまでゲームノベルですので、プレイングの内容によっては
プレイングの一部がノベルに反映されない場合がございます。
あらかじめご了承下さい。
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それぞれの理由
〜 惨劇の理由 〜
張りつめた空気を切り裂き、紅色の刃が舞った。
血しぶきをあげて、IO2幹部の一人がその場に倒れる。
それを見てパニックに陥った残りの幹部達を、紅の刃の主――訃時(ふ・どき)は、何のためらいもなく一人また一人と切り伏せていった。
止めなかったのか。止められなかったのか。
それは、風野時音(かぜの・ときね)自身にもわからない。
そのいずれであったにせよ、彼が何もせずに、あるいは何もできずにいる間に、訃時は幹部たちのほとんどを斬殺し、ついには最高司令官を残すのみとなった。
「な……何だ、何なんだお前は!?」
半狂乱になって叫ぶ彼に、訃時はこう答える。
「『はじめまして、お父様』……それは貴方が一番ご存知でしょう?」
そんな彼女の顔には、この場にはきわめて不似合いな、まるで天使のような微笑みが浮かんでいた。
次の瞬間、彼女は表情一つ変えることなく、手にした刃を振り下ろした。
「何なんだよ、あいつは……さすがに、ヤバいんじゃねぇのか」
パワードスーツの中から、金山武満が絞り出すようにして声を出す。
これだけの大惨事になっても、一歩たりとも引かないのが男の度胸なら、相変わらずカメラを構え続けているのは、スクープへの、あるいはその報酬である単位への執念なのだろうか?
いずれにせよ、彼の構えているカメラのおかげで、この場における惨劇は、全て全世界に放送されているということになる。
これを目にした人々が、はたして何を思うかはわからないが――そんなことより、今はどうにかして訃時を止めなければなるまい。
時音が一歩前へ踏み出したのを察知してか、訃時がその刃を時音の方に向けた。
その一撃を、時音は自らの白き光刃と、歌姫から託された桜色の光刃で防ぎ止める。
「歌姫さんと武満さんは下がっていて下さい!」
訃時が一旦距離を取った隙に、巻き込まぬように二人を会議場の入り口付近まで下がらせた。
そんな時音を見つめ、微かな笑みを浮かべる訃時。
彼女と目が合った時、不意に、時音の脳裏をいくつもの思い出がよぎった。
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〜 想い続ける理由 〜
今の時音があるのは、彼を信じ、また助けてくれた多くの人によるところが大きい。
そんな人たちの中でも、特に彼にとって重要な人物の名前をあげるとするならば。
歌姫と。
加地葉霧(かじ・はきり)と。
そして、弓原詩織と。
この三人の名前は、間違いなくリストの筆頭に上がってしかるべき存在であった。
詩織と初めて会ったのは、まだ時音の両親が生きていた頃だった。
彼女は時音にとって、両親以外で唯一心を許せる存在だった。
時音たちがどこにいても、彼女はふらりと幻のように現れ、両親と何事か話していた。
今にして思えば、そんな彼女と未来世界で再び出会ったのも――さらに言うなら、両親が殺された日に加地が現れ、自分が未来に行くことになったのも、全ては必然だったのかもしれない。
自分と詩織との間には、疑いようもなく、それだけ強い絆があった。
彼女は、加地と一緒に自分に全てを教えてくれた。
とてもクールな反面、とても情熱家でもあった。
不思議な剣術を使う、綺麗な人だった。
そして……他人が怖くないということを、教えてくれた人だった。
それまでに時音が出会った「他人」と言えば、自分たちを「世界の代行」と名乗るような人殺しばかりで――もし詩織と出会っていなかったら、きっと時音は心の底から人間を嫌ったままでいただろう。
あらゆる意味で、彼女がいたからこそ、今の時音がある。
それだけは、はっきりと言い切れた。
彼女と過ごした日々のことは、全て覚えている。
例えば、彼女と一緒に暮らすことになった日のこと。
加地から聞いたところによると、彼女は「自分のことをなんと呼んでもらったらいいか」と、なんと二日間もいろいろ考えていたそうだ。
結局、彼女がどういう結論に至ったのか、あるいは結論は出なかったのか、それはわからない。
彼女がそのことを言い出す前に、時音が彼女のことを「姉さん」と呼んだからだ。
これまた後に加地から聞いた話だが、彼女はそのことをとても喜んでいたらしい。
「弟が帰ってきたの! 加地! 私の無くなっちゃった弟が帰ってきたよ!
前は助けてあげれなかったけど今度は違う。私はお姉さんになれるんだ。やり直せるの!」
心配性で、生真面目で、意地っ張りで。
優しくて、誠実で、綺麗で、強かった。
彼女の目を盗んで、加地が時音に悪巧みの片棒を担がせたこともたびたびあった。
時音はいつも断り切れず……結局見つかり、捕まってはさんざんお説教をされた。
そんなこともあったが、それも含めて、あの頃はとても幸せだった。
そして、詩織も幸せそうだった。そう信じて疑わなかった。
けれども、今にして思えば。
彼女がそんな様子を見せていたのは、自分たちと一緒の時だけだった。
どうして、自分は何も気づけなかったのだろう?
彼女は――本当は、追いつめられていたのに。
気づけたはずの機会は、何度だってあった。
その最後のチャンスだったのが、恐らく、あの日だろう。
故郷の街が異能者狩りに襲われ、仲間も、友人も、皆が殺されたあの日。
そして――詩織が、訃時になったあの日。
いつものように、詩織が戦いに向かう。
その出発の直前に、彼女が突然こんな事を言い出したのだ。
「今度の任務が終わったら、歌姫ちゃんに会いに行かない?」
加地ならともかく、詩織が思いつきで物を言うのは珍しいことだった。
「加地にも内緒で二人で行くの。忘れてるのはまちがいない。
でも……ずっと会いたがってたじゃない」
そう話した彼女の顔は、なぜか真っ青だったことを覚えている。
「ね? そうしよう? その……向こうで暮したっていいんだよ?」
明らかに、あの時の彼女はどこか様子がおかしかった。
何かあったに違いない。そのことだけは、幼い時音にもよくわかった。
……にも関わらず。
時音には、どうしてやることもできなかった。
詩織は、確かに何も話してはくれなかった。
それでも、もし無理をして聞き出していれば。
あるいは、何かが変わっていたのではないだろうか――?
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〜 引き合う理由 〜
三本の光刃が、ぶつかり合って火花を散らす。
その光の向こうに、時音は訃時の――いや、変わり果てた姉の姿を見た。
彼の視線に気づいて、詩織は――訃時は、再び微笑み、まるで諭すような口調で話し始めた。
「ただ……ひたすらに思い出だけを守ろうとする貴方。
本当は死んでいる血だらけの哀れな子。だから私は貴方が愛しい」
両親も、詩織も、加地も、そして他の皆も――今は、思い出の中だけに生きている。
その人々を――その思い出を裏切れない。それがどうしたというのだ?
「死者の声が集い形になった私と死者への想いだけで戦う貴方。
ほら……? 私達はこんなにも似ている」
IO2の実験により、命を落とした異能者たち。
その無念の思いを利用して作り出された異常結界。
そして、その異常結界の化身である訃時。
確かに――似ていると言えば、似ているのかもしれない。
「貴方だけを信じた孤独な彼女の願いだけが理由じゃないの。
さあ……私を見て? 憎んで恨んで殺しに来て……!」
訃時は、やはり、詩織でもあった。
彼女が訃時の行動を決定していたわけではないとはいえ、訃時が時音に執着する理由の一部として、明らかに彼女の想いが介在していたのだ。
「貴方の心が私を潤すの。悼みのみで出来た心は私の痛みを消していくの」
訃時が、詩織が、時音を求める。
それに対して――時音はどうしたらいいのだろう? 何ができるのだろう?
時音の心に、微かな迷いが生まれる。
けれども、その迷いは訃時の次の一言ですぐに消え去った。
「貴方が死ねば次は歌姫さん。歌姫さんが死ねば次の誰か!」
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〜 戦い抜く理由 〜
時音は、故郷の街を――詩織を守れなかった。
それは決して――死んでも許されないこと。
だから、その罪を少しでも償うために――そのためだけに、生きようと思った。
それを果たして消えるのならば、それでも構わないと思っていた。
いや、正確には、そうなることを望んでさえいた。
そう、歌姫と再び出会うまでは。
彼女は時音と一緒に生きてくれると言った。
時音を必要としてくれた。
時音を愛してくれた。
その彼女を殺させたりしたら――死んでも償いきれぬほどの罪を、もう一度繰り返すことになる。
そして、それ以上に。
ただ、歌姫を失いたくなかった。
それが罪であろうとなかろうと、正しかろうとそうでなかろうと、そんなことは、もうどうでもよかった。
『自分が本当に守りたいと思うものを守れ』
加地にそう言われた時から、本当は答えは決まっていた。
自分が本当に守りたいものは、彼女をおいて他にない。
――迷う必要など、ない。
左手に握っていた桜色の光刃が、時音の身体に吸い込まれるように消えていく。
歌姫の加護を、自らの防御に――それも体内の防御に回し、訃時の魔力を一度受け止めて、自らの光刃に乗せて打ち返す。
危険な賭けではあるが、これ以外に力の差をひっくり返す方法を時音は思いつかなかった。
そして何より、時音は歌姫を、そして二人の誓いを信じていた。
お互いに死なないと、そして死なせないと誓った、あの時の誓いを。
だから。
負けられない。
負けはしない。
――いや、負けるはずがない!
「今夜で……終わりだ!」
一声叫んで、今度は時音の側から仕掛ける。
彼の変貌ぶりに驚いたのか、訃時の反撃は若干正確性を欠いた。
いかに体内防御を固めているとはいえ、直撃を受ければひとたまりもない。
だが、かすらせるくらいならば、十二分に受けきれる。
時音の左腕から、全身に痛みが走る。
その痛みを――破壊の魔力を、時音は全て受けきり、逆に自らの力とした。
時音の白き光刃が、かすかに赤みを帯び、大きくその勢いを増す。
その光刃を、時音は力任せに振り下ろした。
あまりにも単調な一撃を、訃時はやすやすと受け止める。
これまでなら、つばぜり合いになっても消耗するのは時音の側だったが、今は違う。
ぶつかり合う光刃から放出される魔力を、時音は全て自分のものとし、彼の光刃はますますその力を増していく。
やがて、ついに時音が訃時を押し込む形となり、訃時は自らの不利を悟って大きく後退した。
その様子を、歌姫は会議場の片隅でずっと見守り続けていた。
どうか死なないでほしい。
そう祈りながら。
時音を、そして彼の温かさを失いたくない。
そう願いながら。
戦い続ける時音をじっと見つめて、少しでも彼の力になれるようにと、念を送り続けていた。
と。
『止めたまえ!』
不意に、どこからか加地の声が聞こえた。
気のせいではない。確かに、加地の声だった。
今や、形勢は完全に逆転した。
戦いを有利に進めているのは時音の方で、このままなら訃時が倒されるのはもう時間の問題だ。
それなのに――なんだろう? この胸騒ぎは?
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〜 異変の理由……? 〜
一方その頃。
なんだかんだで魔王を撃退し、警備隊もついでにさくっと殲滅した水野想司(みずの・そうじ)は、IO2本部内の強大な邪気に対抗すべく、近くの手頃な場所に巨大な狙撃銃を設置していた。
こんなこともあろうかと、前もって想司が配達を依頼しておいた代物である。
「これならこの距離からでもビシッと狙撃可能っ☆」
ところが、想司が実際にその狙撃銃の威力を試すよりも早く、事態は思わぬ方向に進行し始めた。
「凄い勢いで怨念が集まってるっ☆」
IO2本部の中心付近めがけて、どこからともなく大量の怨念が集まってきている。
魔力や霊感のない人間でも、よほど鈍感でない限りはその近くにいるだけで身体の不調を訴えたくなりそうなほどの強さだ。
「何か、大変なことが起こってるみたいだねっ♪」
やや紅色を帯びた光刃を構え、時音が訃時を睨みつける。
訃時の顔には、まだ微かな笑みが浮かんではいたが、それも今では心なしか弱々しく見えた。
この戦いを終わらせるべく、再び時音が動く。
――このままでは、大変なことになる!
不意に、歌姫の背筋に悪寒が走る。
その理由はわからない。
わからないが、気がつくと、歌姫はとっさに時音を止めようとしていた。
しかし、それより一瞬早く。
突然、会議室の床全体が、紅色に光った――。
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■ 登場人物(この物語に登場した人物の一覧) ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】
1219 / 風野・時音 / 男性 / 17 / 時空跳躍者
1136 / 訃・時 / 女性 / 999 / 未来世界を崩壊させた魔
1376 / 加地・葉霧 / 男性 / 36 / ステキ諜報員A氏(自称)
0424 / 水野・想司 / 男性 / 14 / 吸血鬼ハンター(埋葬騎士)
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■ ライター通信 ■
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撓場秀武です。
この度は私のゲームノベルにご参加下さいましてありがとうございました。
・このノベルの構成について
今回のノベルは、基本的に五つのパートで構成されています。
今回は一つの話を追う都合上、全パートを全PCに納品させて頂きました。
・個別通信(加地葉霧様)
今回はご参加ありがとうございました。
加地さんも、今回はほとんど名前だけの登場となってしまいましたが、こんな感じでよろしかったでしょうか?
なお、この場を借りて申し添えておきますが、基本的にノベルに参加していないPCの名前は明記できませんのでご了承下さいませ。
ともあれ、もし何かありましたら、ご遠慮なくお知らせいただけると幸いです。
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