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■……を求めて。■ |
蒼木裕 |
【1758】【シヴァ・サンサーラ】【死神】 |
「おや、いらっしゃい。今日は何をお求めですか? ……いえ、愚問でした。貴方の欲しいものはちゃんと僕には分かっております。では今すぐ持ってきますから其処に座ってお待ち下さい」
青年はそう言うと奥の部屋の方に引っ込んだ。
言われたとおり傍にあったイスに腰掛ける。すると奥から女の子がやってきてお茶を出してくれた。それを持ちながらあたりを見渡す。此処には本当に沢山の本が置いてあって、一体何処から集めたのか気になるところだ。
「お待たせいたしました。こちらが貴方のお求めのものですよ」
そういって青年が渡してきたのは……。
「では、貴方の『……』に行ってらっしゃい」
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+ ……を求めて。 +
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「おや、いらっしゃい。今日は何をお求めですか? ……いえ、愚問でした。貴方の欲しいものはちゃんと僕には分かっております。では今すぐ持ってきますから其処に座ってお待ち下さい」
青年……キョウはそう言うと奥の部屋の方に引っ込んだ。
言われたとおり傍にあったイスに腰掛ける。すると奥から女の子がやってきてお茶を出してくれた。私はそれを持ちながら辺りを見渡す。此処には本当に沢山の本が置いてあって、一体何処から集めたのか気になるところだ。
「お待たせいたしました。こちらが貴方のお求めのものですよ」
そういって青年が渡してきたのは花冠だった。
艶やかな花達で作り上げられた其れを眺め、私は顔をあげる。
「これ、は?」
「これが貴方のお求めのものですよ。そして今の貴方に必要な『モノ』」
「……これが、ですか」
「はい。そうです」
にっこりと青年が笑う。
そして。
「では、貴方の『過去』に行ってらっしゃい」
その言葉を最後に私は白い光に包まれるのを感じた。
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「ここは……」
私は瞼を開ける。
それから状況を把握するために辺りをゆっくりと見渡した。
「此処は、天界ですね……懐かしい」
記憶の中の其れと符号点が合う。
其処は花畑。色とりどりの花が咲いているその場所は見覚えがあった。そっと足を折り、一本の花を指先で折る。青年に渡された花冠と並べてみると同じ種類の花だった。
顔をあげれば其処には一人の女性。
驚く必要はない。これら全て自分が望んだ事柄。そう、私が今回頼もうとしていたのは、『亡き妻に逢う事』。叶えられた望みが今此処にある。花を踏むのはあまり良くないがそれでも歩み寄るために踏んでいく。
「ああ……このような処で貴女と再び会えるとは思いませんでした。この場所は貴女との思い出の場所ですからね」
手に持っていた冠を彼女の頭に捧げる。
軽く位置を変えて頭の中で一番落ち着く場所を探ってやる。そっと手を離すと彼女の頭の上にきちんと乗る。記憶の中の彼女そのままの姿に愛しさが一気に込み上げた。
だが、自分ははっと気が付いてしまう。
「……貴女は」
吐き出しそうになった言葉を止める。
手は拳を作り、身体の横に下ろされるばかり。首を左右に振って浮かんだ考えを散らそうとするが、そう簡単には消えてくれなかった。
もう一度彼女を見遣る。
やはりその瞳は……虚ろだった。
「貴女は、虚像ですね」
これは私が望んだもの。
これは私が求めたもの。
これは私が探しているもの。
「それでも私は、貴女に触れたいんです」
込めていた力を緩めて手を持ち上げ、そっと伸ばす。
彼女に今一度触れたい。彼女をもう一度この手で抱き締めたい。そして口付けをして、あの頃のように愛を交し合いたい。それだけが今の自分を作り上げている。渇望が収まらない。痛みを和らげてくれるのはたった一人だと知っているだけに、その『唯一』に焦がれ続けている。
「え……これを、私に?」
触れようとした瞬間、彼女の目がそう訴えた気がした。自分の中でそう伝わったのは何故だろうか。でも私は其れを掴み、持ち上げた。
それは花冠。
彼女が今までこの花畑で編み上げていたものだ。出来上がったばかりの其れを見下ろす。艶やかな色彩が眩しい贈り物が其処にあった。
「……昔、貴女は私に教えてくれましたね。ここの花畑の花は何種類も生えているように見えて、でも実は一種類なのだと。それを知った時、私は思わず花達を見比べてしまいました。……これ、被ってみても宜しいでしょうか?」
彼女は頷くことはなかった。
だが、頷いたと私は感じ取る。彼女の心がそう言っていると……信じたかったのかもしれない。
花冠を頭に被ると、自分達はお揃いの格好になった。其れが嬉しくて自然と微笑が溢れる。そっと彼女の隣に腰を下ろすと、大体同じ高さの視線になった。
正面から見る自分。真横を向くように顔を向けている妻。
懐かしさが、胸を満たした。
「照れくさいですね」
「……」
「どうしてって……ほら、やっぱり貴女から頂くものですから」
「……」
「似合ってますか? ……ああ、そうですか。よかったです」
言葉はない。
決して彼女から零されることはない。
でも私は読み取ることが出来る。彼女が何を思っているのか。何を感じているのか……全部、記憶そのままに。
「……ねえ、私は忘れませんよ」
「……」
「ええ、ええ。覚えてます。貴方の言葉。貴方の声。貴方の教えてくれた事柄。全部、この心が記憶しています」
「……」
「ですから私は……ッ」
勢い良く手を真横に伸ばし、彼女を求める。
強く強く、抱き締めるために手を伸ばした。
「『貴女』を必ず、見つけてみせます……っ!!」
抱き締めた彼女の体温は覚えている形そのまま。
腕の中に収まった妻が胸にそっと手を当てて自分に寄り添っている。私は彼女の頬に手を触れ、そしてゆっくりと顔を持ち上げた。
触れる唇の温かさもそのまま。
だが、決して彼女から伝えられる声はなかった。
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「お帰りなさい。どうでしたか?」
キョウが声を掛ける。
私は瞬きを数度繰り返してから周りを見た。そこはもうすでに花畑ではなく、屋敷の一室。目の前には青年と少女がいて、自分を見つめていた。それを確認してからそっと手の中を見遣る。
其処には、『花冠』。
「本当にありがとうございました」
お礼を言って頭を下げる。
黒髪がさらりと肌を撫でながら零れた。手の中に残った花冠を慈しむように撫でる。だが、それはぼろり……と崩れた。
「枯れてしまいましたね」
「いえ、これは此れで良いんです」
ぼろりぼろり。
花が枯れて手の中から落ちていく。
「ほんの少しでしたが、最愛の妻に出会えて嬉しかったです。本当に有難う御座いました」
「貴方の心が満たされたなら僕も嬉しいですよ」
枯れた花冠をそれでも愛しく思った。
両手で冠を掴みながら額まで持ち上げる。崩れていく花達は役目を終えたと満足したのだろう。涙が零れそうになって一度目頭に手の甲を当てる。涙は瞼の奥で収まったのか、溢れることはなかった。
愛してる。
愛してる。
「本当に…………有難う、御座い……、ます」
あの人に逢わせてくれて。
あの人に触れさせてくれて。
愛してる。
彼女の声が耳を掠る。
「何度言っても、足りないくらい」
―――― 愛してると、また貴女に言いたい。
……Fin
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■ 登場人物(この物語に登場した人物の一覧) ■
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【1758/シヴァ・サンサーラ/男性/27歳(実年齢666歳)/死神】
【NPC / キョウ / 男 / ?? / 案内人】
【NPC / ケイ / 女 / ?? / 案内人】
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■ ライター通信 ■
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こんにちは、蒼木裕です。
ゲーノベに発注有難う御座いました★らぶいプレイングは大好きですので、嬉々として書かせて頂きましたが如何なものでしょうか? シヴァ様の妻への愛がちゃんと表現出来ていることを心から祈らせて頂きます!!
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