■アイルフィードの瞳■
緋烏
【2470】【サクリファイス】【狂騎士】
  珍しくフォーサイトの冒険者ギルドからソーンにいるミュリエルの書斎にある魔導球へ通信が入っていた。
「おや、あちらから連絡をよこすなんて珍しいね。何か事件でもあったのだろうか」
 最高責任者である彼女に連絡が来る事自体由々しき問題の発生を意味している。
 あまり言い知らせではなさそうだと気鬱な表情をしながらも、ミュリエルは通信をONに切り替えた。
「冒険者ギルド魔導協会最高責任者ミュリエル=マグナスト=ソルエルだ。ニュクス=ブルーメ、マスター・レナルド=ワイズマン、ダーゼル=ダナサイト以上の三名を召集しなさい」
 フォーサイトで通信を行う場合ならいちいちこんなまどろっこしいことはしないのだが、如何せんここは聖獣界ソーン。
 勝手が違うのだ。
 ワンテンポ遅れてギルド側の通信があり、彼女が召集をかけた三名があちら側の魔導球の前に姿を出す。
『お忙しい所申し訳ありません、ミュリエル』
裏方の一切を取り仕切る統括者のニュクスが申し訳なさそうに頭を下げる。
「私に直接来るという事はよほどのことなのだろう。構わん、話せ」
ニュクスの隣にいた亜人種統括者のダーゼルが魔導球越しに縋らんばかりに詰め寄ってくる。
【用件は私から。ミュリエル、有翼人<アイルフィード>の長の片割れがそちらの世界に渡った模様。大至急彼を保護してフォーサイトへ送り返してください】
「…何だと?」
 有翼人…天使という存在やら悪魔という存在、そしてそれとは別の存在など、このソーンには多く存在しているが、事フォーサイトにとっての有翼人はそのどれとも違うのだ。
 有翼人<アイルフィード>…それはかつてフォーサイトの天空を支配していた翼ある種族。
 風と共に生き、生来より多大な魔力を有したフォーサイト上最高の生物だった。
 しかし、地上に暮らす人間とやがて戦を繰り広げ、人間が召喚した「魔物」の出現によってアイルフィードが自由に行き来できた「清浄な空気」は汚染され、今となっては遥か天空に座す、強力な結界の貼られた城だけしか彼らが生きられる場所はなくなってしまったのだった。

「『彼』が…クォーヴァディスがこちらに渡っただと?それが本当なら一大事だ。聖獣の加護あるソーンに暮らす者のように外は誰に対しても懐深いわけではない…もしアセシナート公国の息がかかった者に遭遇したならば…」
 彼自身がこちらに入れたというなら恐らく聖獣の加護はあるだろう。
 しかしそれでもこちらの空気が彼に合うのかすらも解らない。
 加護は加護。常にその身を守ってくれる存在ではない。

「委細承知した。こちらの知人達に協力してもらい、一刻も早く彼を見つけ出す」

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