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■神の剣 最終章 3 決着■

滝照直樹
【1703】【御柳・紅麗】【死神】
 織田義明は決意した。
「影斬と、そして三滝の遺産に決着をつける」
 三滝の魔力残滓を追い、彼はあなたと進む。
 この先何があるのか分からない。
 ひょっとすると死を賭した戦いになる可能性もある。
 おそらく知識を持つ相手は元々内向的な性格だったのだろう。
 皆で力を合わせ、現象化を相手の中に封印することが適切であろうが、そうも行かない。

 三滝現象化を手に入れた人物。
 女性のようで男性の容姿を持つ。
 彼は何故に接触を図ったのか?
「僕は罪を犯した。罪は消えない。しかし、この力の有効な利用はあるのか?」
 現象化の対象が死ぬと、また靄のように漂う。
 現象化自体を滅ぼすすべはまず無い。
 義明に会ったのは、他ならぬ力の使い方を聞きたかっただけだった。
 しかし、三滝の力の本質は悪。それ故に拒否されたように思える。
「ならば、神の子を殺すべきなの? いや、それだとまた罪が増える」
 彼もまた、苦悩していた。

 
 エルハンド・ダークライツは義明を蓮の間に呼んだ。
「もし、三滝の継承者との問題、影斬の問題が解決すれば、私はここで待っている」
「先生……まさか?」
 義明は気を引き締める。
「そうだ、私の全ての力とおまえが完全に影斬になったとき、天空剣の最終試験がある。私を“倒せ”」
 全ての決着。
 神の力を神の剣を皆伝するときも近くなった。

 彼は人の選び、影斬となれるのか?
 また、彼の友人はそのときどうなるのか?
神の剣 最終章 3 決着

 織田義明は決意した。
「影斬と、そして三滝の遺産に決着をつける」
 三滝の魔力残滓を追い、彼はあなたと進む。
 この先何があるのか分からない。
 ひょっとすると死を賭した戦いになる可能性もある。
 おそらく知識を持つ相手は元々内向的な性格だったのだろう。
 皆で力を合わせ、現象化を相手の中に封印することが適切であろうが、そうは行かない。

 三滝現象化を手に入れた人物。
 女性のようで男性の容姿を持つ。
 彼は何故に接触を図ったのか?
「僕は罪を犯した。罪は消えない。しかし、この力の有効な利用はあるのか?」
 現象化の対象が死ぬと、また靄のように漂う。
 現象化自体を滅ぼすすべはまず無い。
 義明に会ったのは、他ならぬ力の使い方を聞きたかっただけだった。
 しかし、三滝の力の本質は悪。それ故に拒否されたように思える。
「ならば、神の子を殺すべきなの? いや、それだとまた罪が増える」
 彼もまた、苦悩していた。

 
 エルハンド・ダークライツは義明を蓮の間に呼んだ。
「もし、三滝の継承者との問題、影斬の問題が解決すれば、私はここで待っている」
「先生……まさか?」
 義明は気を引き締める。
「そうだ、私の全ての力とおまえが完全に影斬になったとき、天空剣の最終試験がある。私を“倒せ”」
 全ての決着。
 神の力を神の剣を皆伝するときも近くなった。

 彼は人の選び、影斬となれるのか?
 また、彼の友人はそのときどうなるのか?


《あやかし荘》
 織田義明がエルハンドと会話している間、義明と関わってきた者達はそれぞれ、自分の思いにふけっていた。そして結論が出たようだ。
「そろそろ、終わるのですね」
 天薙撫子。
 彼女はエルハンドとはかなり前から、義明とは神格暴走者事件から長い間にかけて共に歩んできた。今では、彼女と義明は恋人同士であり、未来をともに進むべき人となって支え合っている。いま、まさに義明の道が決まる事なのだろう。まえは、弟のように親しみを感じていた。今はそれ以上の愛を与えたい。徐々に成長する少年と、ずっと愛し続けると誓っている。
 もっとも、『力』についての考え方は、二人とも違うかもしれない。しかし義明はあのとき言ったのだ。
 三滝を滅ぼしたあと、癒えていない身体で。あの言葉を。
「思い出してください。義明君」
 と、あやかし荘の玄関で待っていた。
「撫子、待った?」
 義明が歩いてきた。
「どうでした?」
「決着がついたら……せんせーの試練が待ってる」
「……そうなんですね」
 と、暗い顔になる撫子。
「……大丈夫だ。撫子。俺は全て克服して見せるから」
「義明君」
 二人は、長谷神社に向かう。
 撫子は、彼に言うべき事があった。
「心配です」
 と、彼女は言う。
「それは大丈夫さ。ああ、大丈夫」
 張りつめた気をまとう義明が言う。
「三滝についても、影斬についても私は心配です。わたくしは考えました。わたくしも、天位の威力におそれていました」
 撫子は今までのことを話し始めた。
「撫子……。そうだよな……共鳴を起こすのもあるだろう……でも、それでも俺に関わっていたら……ごめん」
 義明は謝るが撫子は首を振る。
「義明君の所為じゃないです。それは、わたくし自身の弱さが、天位という力に脅威を感じた事で、作り上げた擬似的な存在だったのです。純粋に力は力です。既に持っている権能は使う者の意志により決定されます。故に、わたくしたち神格保持者の持つ力は、意志を持たない純粋なエネルギーなのです」
 一息ついて続ける。
「なので、わたくしは義明君が三滝の継承者と出会ってから倒れたとき思いました。そして、三滝の継承者もそれに戸惑っているのでしょう。彼は力を授かった側ですが、それを使いこなせずに、驚異に思っているに違い有りません」
 と、不安そうに語った。
 義明は、撫子を見て、抱きしめた。
「義明君?」
 撫子は驚いた。
「ありがとう撫子。俺頑張るから。必ず……」
 二人は、抱きしめ有ったまましばらく動かなかった。
 と、雪が少し降ってくる。


《長谷神社》
 長谷神社で待っているのは、黒崎狼と橘穂乃香だった。
「おまえは館で留守番だ」
「え? 狼……そんな。穂乃香も義明さんと……力はないけど……」
「だめだ。俺は、まあ余り関わりないんだけど、紅麗が面倒を起こすとか有りそうだし。それに……」
「それに?」
「待っている奴がいれば帰ってこれるってもんだ。俺は必ず戻ってくるさ。もちろん義明はもちろん俺や皆も」
 と、言いながら頷く狼。
「館には戻らないから?」
 穂乃香は言う
「おいおい」
 狼は困った顔をしたが、彼女の意図を理解した。
「館で待っても、さみしいから。ここで待ってる。それなら良いでしょ? 多分、義明さん達が戻るのはここだから」
 穂乃香はにっこり微笑んだ
「それなら良いよ。俺もちゃんと戻って来るから」
 と、狼は言い、穂乃香の頭をなでた。
「狼……」
「大丈夫だから。ああ、義明は大丈夫だ。それは確信している。だから、そういう顔をするな」
「狼!」
 穂乃香は狼に抱きついて泣いた。
 狼は彼女の髪の毛をなでて、額にキスをする。
 穂乃香は泣きやんで、きょとんとした。
「約束だ」
「はい」
 穂乃香は何が起こったのか分からないが、なにか恥ずかしいし嬉しい気分になって頬を赤らめた。

 遠くの方で、茜はその風景を見ており、茜はくすくす笑っていた。二人は気づいていないようである。
「お似合いなんだよね。かわいいなぁ」
 と、仲良しの二人をほほえましく見ている。
「覗きは感心しませんが……。わたくしは穂乃香様に親しみを覚えます」
 自分とリンクした人物にしか見えない静香が、風の音とともに茜に言った。
「まあ、私たちは、ここを守って……そして皆の帰りを待っている。それだけしかできない」
 すでに、彼女も取り残された感じで悲しかった。
 今まで、慕っていた幼なじみ。彼が変わる。自分も変わったが、戦うモノと守るモノの違い。役目は果たそう。ならば、穂乃香とともに帰りを待つ。それがよいのだ、とまだ幼い長谷家継承者は思ったのであった。


《蓮也、紅麗》
 御影蓮也と御柳紅麗は、三滝継承者を捜していた。紅麗は既に死神化をしている。
「残滓をたどれば何とかなる」
「ああ、早めに出会えばいいけどな」
 と、においをかぐようなそぶりを見せる紅麗と、あたりを見渡している蓮也。
 相手の顔を見ているのは紅麗だけだ。
「俺はとっとと、屠っておきたいんだけど……」
 紅麗は腕を鳴らす。
「それは反対だ。蘇生されてから、猪突猛進になってないか?」
 睨み付ける蓮也。
「いや、だって、俺はさ、戦ってなんぼの人間だから」
「それは最終的な手段だって、俺は悩みを持っている奴とは余り戦いたくない。有効利用できるか分からない力を手持ちぶさたに持っている奴ならなおさらだ」
「あんたの言うことに従うよ。しかし厄介なことが青これば俺は動くぜ?」
 と、蓮也は今でも動きたい気分で言った。
「それはかまわないが、いいか? おまえがまた死んだら、悲しむ人が多いって事を頭の中にたたき込んでおけよ?」
 と、蓮也は死神を睨んだ。
「むちゃしないって、まったく。また記憶を戻すために殴られちゃかなわない」
「今度は茜にハリセンでやってもらうから。茜なら嬉々としてやってくれるだろう」
「うわ! それも勘弁してくれ!」
 と、冗句とはほど遠い会話をしながらも二人は捜す。
「やはり、ここに居るのか」
 二人はある地点で足を止めた。
 三滝との最後の決着をつけるにふさわしい場所。
 今は工事中になっているが、人の出入りはない。簡単に中に入れそうな寂れたところ。
 かつて、まだ三滝が健在だったときの決着の場所であった、墓場に、継承者がたたずんでいた。
 相手は泣いているように見える。迷っているようにも見える。行き場が無く、さすらう人。蓮也も紅麗も“彼”が義明と同じように悩み苦しんでいるのだと感じずにいられなかった。
 “彼”は振り向いた。
「二人で来たの?」
 と、言う。既に感知はされていたようだ。
「ああ、ただおまえが居るか、探していた。話し合いで決着をつけたいというなら義明を呼ぶ」
 と、蓮也が答える。
 今にも飛び出したい気持ちを抑えている紅麗。
「それは助かるよ。ただ、その死神を何とかして欲しい」
「……ち、殺気を感じ取れるまで操っているのか」
「まあ、そうなるのかな? 僕は罪を犯した」
「どんな罪だ?」
 紅麗が訊く。
「高校生グループを三滝の力で殺したってことだな。いじめか何かが原因で」
 蓮也が確認するように尋ねた。
「ああ」
 肯定する三滝現象化により力を得た継承者。
「それについても、全ては義明と会ってからだ。それでいいか?」
 蓮也が再度尋ねる。
「かまわない。経緯は違うとしても、力で悩んでいるのは同じだろうから……」
 “彼”は頷いた。
 蓮也は急いで、義明達にメールを打つのであった。


《決着1》
 義明、狼にメールが届く。
「義明なら分かる。三滝と最後の戦いをした墓場だ」
 と、メールの内容だった。
「そこにいるのか……。帰巣本能というモノだろうか?」
 義明は思った。
 現象化自体に意志はない。しかし憑依した時点で何か大元の性格が現れることがある。おそらくそれだろう。“彼”は一番わかりやすい場所に導いているようだ。
 その墓は既に工事がなされており、見る影もないという。ほとんど壊し尽くした場所を復興させるにはかなり時間がかかるモノだ。
「急ぎますか?」
 撫子が訊く。
「狼が場所を知らない。長谷神社で待っているはずだ。だから、狼とともに行こう」
 義明は答えた。
 撫子は頷くだけ。
「紅麗が、余計なことしなきゃ良いのだけどね」
 義明は苦笑する。
 しかし、途中でめまいを起こし、倒れそうになる。
「義明君!」
 撫子が彼を支えた。
 ――私をどうするか? 義明
 ――うるさい! 黙ってろ! 俺の“弱さ”め! “何か”め!
 ――弱さか? それだけではないだろう?
 義明と、影斬の駆け引きが精神の中で続いている。
「いこう、撫子。わ……お……俺は……大丈夫だ」
 と、頭を横に振って、影斬の声を振り払おうとする。
「義明君……無茶をしては行けません」
「……しかし前に進まなきゃ……前に……」
 撫子は彼が苦しんでいる姿に悲しむ。
「だから、まだ……」
 しかし知っても今は無駄と理解した。
 彼は頑固なのだ。
 彼は万能ではない。戦いって何かを得るしかないのだろうか?

 長谷神社に着いたとき、穂乃香が駆け寄って、義明に抱きついた。
「義明さん!」
「穂乃香ちゃん」
 義明は抱きしめてあげた。
 じぃっと見る少女に、義明優しくほほえみかける。
「大丈夫だから、待っててね?」
「はい。まっています。撫子さんも狼も、紅麗さんも蓮也さんも……無事に帰ってくることを」
 穂乃香が悲しそうな瞳を潤ませて、義明と撫子、そして狼を見た。
「大丈夫ですよ。穂乃香様」
「はい」
 撫子は穂乃香の頭をなでた。
 穂乃香はにこりと笑った。
「よし、狼、撫子。行こう」
 義明が狼と撫子を見て言う。
「ああ、紅麗が暴走する前にけりをつけないと」

 3人が去った後、穂乃香と茜はじっとその場で立っていたが、
「茜さん、お願いがあります」
「? なに?」
 穂乃香をだっこして、尋ねる茜。
「お料理教えてくれませんか?」
「いいよ」
 微笑む茜。
「かわいいなぁ。妹にしたいぐらいに可愛いよう」
 と、まるで心配していないかのような元気振りである。
 しかし、穂乃香も分かっている。彼女はそう振る舞うことが良いのだと。
「よしちゃんグルメだから。しっかり勉強しないとだめだよ?」
「はい」
 二人は母屋の方に向かった。

 墓場にたどり着く。
 タクシーなどを使っての移動だったために早くついた。
「待ったぞ。とは言ってもこんな山奥じゃ仕方ないか」
「またせた。すまん」
 と、簡単に言って、義明は“彼”を見る。
「まっていたよ。しかし、かなり窶れているね?」
 “彼”は言った。
「まあ、キミも同じだ。何も食ってないんだろう?」
「そうだね。食わなくても生きていける手段があるといえばあるけど、それだと人間止めなきゃ行けないし」
 と、“彼”はため息をついた。
 そして、体を震わしながら……
「織田義明とその友達さん……僕の悩みを聞いてくれ」
 と、今にも泣きそうな声で言った。
 その、行動にどれだけ皆は驚愕しただろう。
「力におぼれず、それを押しとどめていると言うことか?」
 紅麗が聞いた。
 彼は既に死神化しており、斬る準備に入っている。それは何故か。
 “彼”の魔力がかなり強力であり、腐敗と堕落を生んでいると本能で察知しているからだ。理性を保っているのかどうか危うい“彼”は行動が危ないと感ずれば、飛び出すのである。義明が倒れた理由はそれにあると紅麗は思っている。
 蓮也もそう感じているが、実際は義明の心身が限界と言うことも要因と思っている。今流れている容器や魔力程度なら昔の義明でも耐えていたはずだ。なにしろ、人間としている自分が耐えることが出来るからだ。
 もちろん今は安定している天薙撫子もこの容器の気持ち悪さに耐える事が出来る。ただ、狼をのぞく4人にとっては、余り感じたくない魔力なのだが。それでも冷静に対処できるものだ。
「話を聞きましょう。しかし、少し待ってください」
 と、撫子は妖斬鋼糸にて、墓場に決壊を張る。
 すると、多少の魔力が薄れた。
「? これは?」
 身が軽くなった“彼”は驚く。
「まだ余り力を使い切れてないようですね。そのまま自分の意志だけでは抑えきれなくなっているのでしょう?」
「ああ、そうだよ。ぼ、ぼくは分からなくなったんだ!」
 と、叫び声のように、迷った子犬が助けを求めるように……。“彼”叫んだ。
 前に人を殺していること。その前には自殺しようとしたことなど。絶望にいたのだ。

 義明は彼の姿を見て……自分と重ねることができた。もし、支えてくれる人がいなかったら自分もこうなって、神格暴走者の道を進み破滅していただろうと。
「落ち着くんだ……」
 と、義明が言う。
 しかし、身体がついてこれないのか、その場で倒れそうになった。
「余り苦しむな。俺が言っても何だけど……三滝の知識はそのまま残る。しかし、現象化を“殺せるか”は俺には分からない。出来ることは、天空剣封の技にて現象化もろとも封印する方法しか思いつかない」
 と、蓮也が言う。
 義明は跪きながらも彼の言葉に頷いた。
「もっとも俺はそこまでの技量はなく、結局は義明か、撫子さんに頼むわけになるけど。結構それも痛いぞ?」
 蓮也が続けて言った。
 狼が、義明を支え、“彼”の元に近づく。
「なあ、あんた。俺も一応訳ありなモンだけど、蓮也や義明は手をさしのべてくれている。力を抜け。そして、どうしたいか言ってくれ」
 と、狼は言った。
「ぼ、ぼくは……現象化を止めたい。それだけだ……もう僕の肉体は崩壊する精神は残るけど……」
「何!? どういう事だ?!」
 狼と蓮也は驚いた。
「現象化は……素質のあるモノに取り憑きやすい。狼のように先祖返りや既に神秘の使い手には取り憑かない。しかし、“素質”のある人には入り込むんだ。彼はそれを理解したんだろう」
 義明が苦しみながらに言った。
「なぜ? キミは苦しんでいるの?」
 継承者は義明に訊いた。
「中にいる影斬が、キミを殺そうとしている。俺はそれをしたくない」
「何故?!」
 その場にいる者全員が驚いた。


《幕間:じょうずなかれーのつくりかた》
「カレーが簡単だね」
 茜はエプロンを用意して、穂乃香につけてあげた。
「野菜をぶつ切りにして、肉も煮込みやすくしておく。炒めて煮込んでカレーのスパイスを入れてできあがり♪ だから」
「そうなんですか?」
「そうだよ〜。 穂乃香ちゃんは辛いのがだめだと思うので甘口で行きましょう♪」
 茜の声は明るい。
 何となく穂乃香も楽しくなってくる。
「はい、穂乃香、野菜を切りたいです」
「気をつけてねぇ。左手はこうやって添えて。指は丸めて。こう斜めに切るの」
 と、茜は穂乃香に切り方を教えていく。
「タマネギは気をつけてね、涙が出るから……しばらく水に浸しておくの」
 皮をむいたタマネギを、水を張ったボールに入れる。
「すごいですの」
 悪戦苦闘する穂乃香だが、何とかジャガイモを切り終えた。
 炒めて、水を入れて煮込みハーブを入れて、20分ぐらいおく。
 茜は、カレールーを数種類用意していた。
「? 一つだけじゃないのですか?」
「えっとね、メーカーさんによってはスパイスの配分が違うの。えっと、紅茶などで言うと葉っぱの種類は同じでも、生産地が違うとか、あるでしょ?」
「はい」
「それに似たようなものなの。上手く混ぜるとおいしくなるんだよ」
 と、茜は穂乃香にルーのひとかけらを渡した。
 鍋の火を止める。
「溶かしてみて?」
「はい」
 と、穂乃香はルーを溶かし始める。これがなかなか難儀な作業だが、穂乃香は楽しくなってきた。
「全部やっても良いですか?」
「いいよ♪」
 と、混ぜている間、穂乃香は頑張った。多少服や顔にカレーが付いてしまったが、彼女にとって貴重な体験になった。
「しばらく煮込んで寝かせると。おいしくなるのです♪」
 と、穂乃香の顔についたカレーを取ってあげる茜。
「ありがとうございます」
 にこりと微笑む穂乃香であった。
 あとは、皆が帰ってくるのを待つだけだ。
 しかし、穂乃香は知らない。まだ義明に試練があるということを。

《決着2》
「抑止権利を行使するつもりなのか!?」
 紅麗が叫ぶ。
「義明君!?」
「過去に俺……、わ……私を、重傷までさせた三滝の力をそのまま放っておく訳にいかない。それは、止めろ……影斬、既にその三滝尚恭は死んだんだ。……かといって現象化自体を“殺す”好機なのだぞ……」
 人格が入れ替わりで要領を得ない会話になってきている。
「やべ! 何とかならないか!?」
 狼が義明を支えながらにして、押さえている。
「はやく、決断するんだ! 三滝の継承者!」
 蓮也が叫んだ。
「……僕は、僕は人を殺している! ならば こ……」
「バカ野郎!」
 紅麗が飛び込んで三滝の継承者を殴りつけた。
「あのな! あんたの家族とか今までどういう生活していたかかわかんねぇけどよ! 簡単に死にたいとか殺してくれって言うモンじゃない!」
 息を切らす紅麗。
 後ろから蓮也が彼を羽交い締めする。
「落ち着け! 今の彼は義明と同じように心が乱れている! きっかけで大変なことになったらどうするんだ!?」
 しかし、紅麗は止まらない。殴らないが、叫ぶ。
「俺は一度死んで皆に迷惑をかけた! まだおまえは二度までも迷惑をかける気か!? まだおまえを慕っている人がいるかもしれないじゃないか!」
 と。
 沈黙が訪れる。
「……」
 “彼”は泣いた。
 それと同じくして雨が降る。
「現象化から授かった知識はそのまま残る。しかしそれを除去する方法は一応ある。その力を役に立てるか、全くなくすかは君次第だ」
 と、義明と蓮也が同時に言った。
「!? みてください!」
 継承者の身体から黒い靄みたいなモノが現れる。
「アレが現象化!? アレが逃げると厄介なことに!」
 狼が叫んだ。
「撫子! 彼をかばって! 急げ!」
「はい!」
 義明が叫び、撫子が飛び出す。
 紅麗は、刀を手に現象化を斬ろうとするが、空を斬るのみ。
「ちぃ! 役にたたねぇ!」
「アレが霧散化する道をふさぐ!」
 蓮也が妖斬鋼糸と、具現化させた小太刀にて空間を遮断する。
「天空剣・封結界・空之城!」

 ――抜かった。

 と、現象化の意志が言った。
「のけぇ! 紅麗!」
 と、翼を広げ“獣”が突き進む。
「微妙だけど! 食らえ!」
 と、靄にさわる狼。

 ――な、なにいい!

 “万物”に“死”を与える狼の能力。
 それが今、与えられてハッキリとした存在として半実体化している。

「ばかな! 私は“生き返った”というのか!?」
 驚く現象化。
「0に何も掛けても0。なら死でも生でも「マイナス」でも「プラス」でも加えれば、一応“存在”する!」
 狼は獣から元に戻り、息を切らした。かなり力を使ったようだ。
「これでとどめだ! 三滝! 永遠にされ!」
 紅麗と影斬が靄を“斬った”。
 本当の断末魔が聞こえた。


 義明との精神のなかでは……。
 ――では、私の存在は何であろう?
 ――何であるか義明は答えられるか?
「思い出した」
 ――ほう? なんだね?
「『力の限り、人として共に生きていこう』と決めていたんだ。そうだ。俺はまだ人で居る。キミがどうか関係ない。影斬としての名前を得たとしても俺は織田義明だ。」
 ――そうだ。忘れていたのはそれだけではあるまい。
「人の闇を斬る。心を癒す。そのために俺は人で居る。人の心を持つ神として居ると。人としての寿命が尽きるまで」
 ――そういうことだ。さて問おう。
 ――私を受け入れるか?
「受け入れよう。影斬。そしてこれから俺は影斬として生きる。しかし、俺は織田義明なんだ」


 義明は、靄を斬ったと同時に、神格の光が爆発する。
 しかし、それは人を傷つけるモノではなく、癒すモノだった。また闇を消滅させる光だった。
「新技……“無想の一振り”」
 天空剣ではなく、彼自身の力の現れの技。
 今はもう現象化は居なくなった。
 ただ、影斬は言う。
「三滝の現象化本体はなくなったとしても、多分かけらが有るだろう」
 と。
「大丈夫ですか? 義明君」
「大丈夫。撫子。心配かけた。皆ありがとう」
 と、影斬は笑った。
 彼の気が安定している。
 大丈夫か? と、狼達が訊く。
「ああ、だから大丈夫。私はもう大丈夫だ」
 と。

 “彼”は気を失っている。
 三滝の力がいきなり抜けたこともある。そのため疲弊しているのだ。
「真筆界としての力は十分にあるってことなんだな? 命に別状はないとなると」
 と、蓮也が影斬に訊いた。
「しかし、知識は残っている。彼がそれを使うかは彼自身だ。もっとも力が無い分持っていても意味のないモノだが」
「?」
「既に神秘に使うエネルギーが空なんです」
 “彼”が目を覚まし言った。
「蓮也さん、教えてください。僕はこの記憶をなくしたい」
 と、訊く。
「IO2に行けば何とかなるだろう。ただ、その後どうなるか俺も分からない」
「完全記憶抹消を選ぶと、今までのことは分からなくなります。もっとも、あなたは神秘の世界にいない方が良いと思うなら、その方が良いでしょう」
 と、撫子が言った。
「なら、僕はそこに行く。三滝の記憶が知っているから自分一人で……」
 と、“彼”は言った。
 こうして、三滝との決着は済んだ。もう“彼”は彼らの前に現れることはないだろう。


《師匠》
 直接長谷神社に向かわず……影斬達はあやかし荘にやってきた。
「どうしてこっちに?」
 狼が訊いた。
「最後の試練がある。私は既に影斬になったが、まだ残されたことがある」
 と、影斬が答えた。
 口調が変わっていることに違和感を覚える4人。
「織田義明だろ?」
「そうだね。でも、神としては影斬だ。どっちでも良いわけだが」
 苦笑する。
「簡単に言えば、あれか? 吹っ切れたって事か? それならOK、OK」
 楽観的に紅麗が言う。
 しかし彼は悔しがっている。あえてそれは口に出さない。今の義明が彼にとって遠くの存在に見えるからだ。
「来たか」
 あやかし荘の門の前に、天空剣の師範が立っていた。
 エルハンド・ダークライツ。異世界から来た神にして神の剣の伝授者。
「では、最終試練だ。織田義明……いや、影斬」
「はい、師匠」
 と、簡易異界が展開される。
「まってください!」
 撫子が叫んだ。
「俺も、立ち会いに!」
 蓮也もエルハンドに言う。
「いいだろう。しかし、これは仕合だ」
 紅麗と狼は、その場に残ることにした。
「ハッキリ言って、俺たちは天空剣門下生じゃないのでまっておくわ」
 と。
 4人が消えた後、紅麗と狼は、緊張が解けてその場でへたり込んだ。
「はあ……おっつかねぇ。かなわねぇなぁ」
 紅麗はつぶやきにはほど遠い大きな声で呟いた
「なに、おまえはその程度が良いんだよ。つーか、俺との勝負はまだだぜ?」
 狼が苦笑していった。

「天空剣究極奥義・天魔断絶を完全に使えるし。さらに闇を斬ることにさせた光明滅影をおまえは持っている。しかし、抑止権利の剣を身につけていない。天空剣はその基礎にすぎなかった」
 と、エルハンドは言う。
「もっとも、抑止の技はかなり違う。私は世界の法則をねじ曲げることが可能な技だ。おまえ自身の権能を表した、技で私の剣を受け止めてみろ」
 と、彼は愛剣を抜く。
 影斬は、神格具現剣“水晶”を抜いた。
「頑張ってください……義明君」
「……師匠の力は絶大だ……」
 見守るしかない撫子と蓮也の二人。しかししっかり二人の勝負を見ている。

 使い魔がちょこんと座って……
 一声鳴いた。それが合図であった。

 ――“世界を切り裂く!”
 ――“無想の一振り!”
 お互い降るのは同時。しかし強い光で状況が見えない。
 只分かるのは、意志を持って世界をねじ曲げる剣より、無想による一振りの威力が強かったのだ。
 義明の、否、影斬の権能は光と無想。純粋な心のことのようだ。
 その力は強く、簡易異界が崩壊した。

 光がはれると、エルハンドの愛剣・パラマンディウムは折れていた。
「よくやった。これで私の役目は終わった」
「師匠」
「エルハンド様!」
「師匠!」
 3人は駆け寄る。
 エルハンドはその場で跪いた。
「な、何が起こったんだ?」
 その場で待っていた、紅麗と狼は目を丸くしていた。

 長谷神社。
「全てが終わった。よしちゃんの戦いが全て……」
 と、茜が呟いた。
「終わったのですか?」
 と、穂乃香は首をかしげた。

4話に続く


■登場人物
【0328 天薙・撫子 18 女 大学生・巫女・天位覚醒者】
【0405 橘・穂乃香 10 女 「常花の館」の主】
【1614 黒崎・狼 16 男 流浪の少年(『逸品堂』の居候)】
【1703 御柳・紅麗 16 男 不良高校生&死神【護魂十三隊十席】】
【2276 御影・蓮也 18 男 大学生 概念操者】

■ライター通信
 滝照直樹です。
『神の剣 最終章 3 決着』に参加してくださりありがとうございます。
 見事に皆さんの力で義明や三滝の問題を解決に導いてくださいました。本当にありがとうございます。
 あと、残すところ一話です。エルハンドに対して何か言いたいことや、それからのことを4話で書いてください。

 では、またお会いしましょう♪
 滝照直樹拝
 20060307