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■CallingU 「小噺・病」■

ともやいずみ
【5698】【梧・北斗】【退魔師兼高校生】
 こんな時期に風邪をひいてしまうなんて。
 誰か看病をしてくれないだろうか……?
CallingU 「小噺・病」



「最近風邪が流行っているようなので、皆さん気をつけるようにー」
 担任がそう言いながら教室を出ていく。
 梧北斗は頬杖をついていた手を離し、それから大きく両腕を伸ばした。
「あー、やっと終わったー」
 せっかく早く帰れる日なのだから、長い話は聞きたくない。担任の話が短くて良かった、本当に。

 学校帰りの道で北斗は「ん?」と眉をひそめる。
 自動販売機の前に立っているのは遠逆欠月だ。
 こんな時間に会えるなんてと、北斗は心が弾む。
「おーい、か……」
 片手を挙げて声をあげた北斗は欠月の様子がおかしいのに気付いた。
 はあ、と溜息を吐く欠月はゆらゆらと揺れる指先を見てイライラしたような顔つきでいる。
(なにやってんだ、あいつ……)
 欠月は揺れる右手を左手でおさえて固定してから、自動販売機のボタンを押した。
 出てきた缶を取り出すのに屈むが、がくんと膝をつく始末。
(ど、どうしたんだ……? なんかすごく怖い光景を見た気がするぞ……)
 なんとなく青くなる北斗だったが、ふいにさっきの担任の言葉を思い出す。
(風邪……?)
 まさか。
 でも。
 北斗は欠月に駆け寄る。
「おい、大丈夫か? 具合悪そうだぞ?」
 北斗の声に目を見開き、欠月は視線をあげる。その視線に北斗は「うっ」と思って頬を赤らめた。
「な、なんだよ……なんでそんなじっと見るんだ?」
「……具合悪そうとか、言うから」
「だってなんか……」
「いや、大丈夫。ちょっと働き過ぎなだけだよ」
 欠月は缶を取り出して立ち上がると、にっこり微笑する。
 北斗はむっ、と顔をしかめた。
(嘘だな)
 働き過ぎなのは本当かもしれないが、それにしてはさっき見た動作はおかしいだろ、どう見ても。
「そんな嘘が通じると思ってんのか……?」
「え? 疲労だよ、単なる」
「だからおまえの笑顔は胡散臭いんだって!」
「失礼なこと言わないでよ。笑顔のほうが誰だって気分いいでしょ?」
「……体調悪い時にそんな笑顔すると怖いからやめろ……」
 ほんとに。
 欠月はじっと北斗を見てから何かに気付いたようにハッとした。
「もしかしてこれが噂の『病気』ってやつ!?」
「えー! おまえ今さら気付いたのかーっ!?」
 遅!
 欠月は口を手で覆い、ふるふると頭を左右に振ってみせる。なんだか芝居がかっていた。
「だって……ほら、ボクって物凄く健康なんだよね! 自慢だけどこれ!」
「……お、おまえほんとにイイ性格してるよな……」
「そうか……。うん、じゃあ病気なんだこれ! ありがと! じゃあ!」
「ってどこへ行くんだおまえは」
 がし、と欠月の手を掴む北斗である。
 む、と欠月が目を細めるがすぐににんまり笑った。
「帰るんだよ。帰って寝るの。いけない?」
「え? あ、いや……それならいいんだけど……」
「当たり前じゃないか。病気なんだから」
「……………………」
 どうにも信用できない。
 北斗はじとっと欠月を見ていた。欠月は笑顔のままだ。
「……おまえ、今の嘘だろ」
 はっきりと北斗が言い放った。
「失礼な。ほんとだよ」
「いや、半分はほんとだろうけど……半分は嘘だろ」
「…………」
 欠月は不思議そうに北斗を見遣る。無表情で、感情の浮かばない瞳で。
「……キミ、ほんとに不思議なこと言うね。変わってるって言われない?」
 その闇の瞳が恐ろしくて北斗はすぐに反応できなかった。
 だって、欠月が急に笑顔を消して、深い井戸の底のような眼をするから――。
「し、失礼なのはおまえもだろっ。俺はフツーだ」
 観察するようにじっと見てくる欠月はふいに柔らかく微笑した。
「さっきのは正解。ちょっと見回って帰ろうと思ったからさ。でもちゃんと帰って寝るから」
「いや、でもおまえほんとに顔色悪いんだぞ……?」
「えー? そう? よくわかんないけどなー」
「鏡でもあればわかるんだろうけど」
「かがみ?」
 欠月はまたそこで笑顔を消す。視線を少し伏せて不敵な笑みを浮かべた。
「やだな。自分の顔見たって、いい男だなって思うだけなんだけど」
「お、おまえ本気で嫌味ったらしいヤツだな……! おまえが美形だってことは俺だって知ってるわい!」
 そうじゃなくて。
「ほんとに顔色悪いんだぞ?」
「へー……」
 ぼんやりする欠月は頭を軽く振る。
「ほ、ほらみろ! 熱が出てるんじゃないのか!?」
「……熱が出ると意識がぼんやりしてしまうってのは、本当なんだね。いいこと知ったよ」
「バカ! 早くしないと……っ」
 がくん、と欠月の身体から力が抜けてその場に座り込んでしまう。
 うわー! と北斗が大声をあげた。
「かっ、欠月ーっ!? だ、だだ大丈夫かっ???」
「…………おかしい。力が入らないや」
 ここまできてもワケがわからないように呟く欠月である。
 北斗は欠月を引っ張って背負い、歩き出す。やはりこいつも男なのだ。……重い。
(見かけは女みたいに華奢なくせに……)
 だらんとした欠月の腕が揺れる。
「北斗くんに背負われるなんて……屈辱だ」
 ぶつぶつ文句を言う欠月に北斗は嘆息した。具合が悪くてもこいつは本当に口が減らない。
「そう思うんなら、早く治せよな」
「…………治るよ。どうせすぐに」
 小さく囁いた欠月は「はあー……」と長く息を吐き出す。それは呆れではなく、深呼吸のためだ。
「ところでどこ向かってんの……?」
「俺の家だけど」
「…………やだな。ボクは男なんだけど。連れ込んでもいいことないよ」
「バカヤロー! 俺だって男は嫌だ! そうじゃなくて顔色良くなるまで休ませてやるってことだ」
「……いいよ。言い訳しなくて。女の子を連れ込む練習台なら任せて。うん……相手が病気だとけっこう成り行きで連れこめること間違いない」
「誰が練習台だっ!」
「……ちがうの? じゃ、男が好きなのか……参ったな。襲われたら容赦しないから」
「お、おまえ……意識が朦朧としてるくせによく喋るな……」
 顔を引きつらせる北斗は、ぼんやりして地面を見ている欠月に気付き、肩から力を抜いた。
 欠月の身体は本当に力が入っていない。だから余計に重く感じるのだ。
(ほんとは結構苦しいんじゃないのか……?)
 だが欠月は辛そうではない。
(こ、こいつ……実は物凄い強情では……)
 うーんと悩みつつ、北斗は自宅まで欠月を背負って帰ったのである。



 よりにもよって、こんな日に家族全員がいないとは。
(ちくしょー! お粥とかどうやって作ればいいんだー!)
 のわああ、と床に突っ伏す北斗はキッとして顔をあげた。
(俺がやるしかないっ! そうだ。人間、頑張れば大抵のことはできるはず!)
 たぶん。
 どたどたと台所に駆け込み、冷蔵庫を開けた。
 なにがあるかと視線を素早くあちこちへ移動させる。
(りんごりんご……確かりんごはいいんだよな。栄養たくさんあるし)
 自分も風邪になった時にリンゴを食べていた記憶があった。
 引き出しまで開けて探す北斗はリンゴを1個見つけてとりあえずニオイを嗅いでみる。見かけもいいし、大丈夫だろう。
(えっと、これでどうすりゃいいんだ? 切ればいいのか?)
 なにで?
 そう考えて視線を流しに遣る。
 なにって、そりゃ包丁だよな。
(って自分にツッコミ入れてどうする、俺)
 次はお粥だ。

 奮闘する北斗をちら、と見遣ってソファに横になっていた欠月は目を細める。
 あーだこーだと言いながらなにやら騒がしい北斗。
 は、と小さく息を吐いて欠月はだらんとしている腕を持ち上げた。
 それを見つめて、小さく呟く。だが小さすぎて聞き取れはしない。
 欠月は北斗によってかけられた毛布を見遣り、今度は正真正銘の溜息をついた。
「なんでボクにここまでするかな……」
 呆れというよりは侮蔑に近い囁きだ。
「とりあえずほら、えっと、お粥っぽいもの……」
 へへへと妙な笑いをしながら北斗が皿にお粥を入れてやってくる。
 欠月はわざとらしく大仰に嘆息した。
「なにが『ぽい』だよ」
「い、いや、味見はしたし……たぶん大丈夫?」
「なぜ疑問系なの」
 しかもなぜ目を逸らすのかと欠月は見てくる。
「だ、だってお粥とか作ったことねーんだもん」
「…………なるほど。キミはボクに殺意があったのか」
「おいっ、なんでそうなるんだっ」
「じゃあ実験台か。やはりそういうことか」
「死なないっての! 味見したって言ってんだろ!」
 病人でも欠月はまったくもって可愛くない。
(熱があるんならもっとダルそうに甘えりゃいいのに……)
 それを想像してずどーんと北斗は青ざめて落ち込んだ。き、気色悪い。
 悪ふざけをしている最中なら許せる行為も、本気だとしたら途端におぞましいものに変身だ。
(欠月が甘える……? う、うえええー……マジ怖い)
「……なにその吐き気を堪えてるような顔は」
「え? あ、えと、なんでもない。ほら、食え」
 青い顔のまま皿とスプーンを差し出す北斗。
 起き上がった欠月はちょっと考え込む。
「病人食は不味いってきくから……不味くてもキミを責めたりしないよ」
「〜っ! 一言多い! 黙って食え!」
「はいはい。いただきます」
 皿を受け取って欠月はスプーンを口に運ぶ。かたかたと腕が震えていた。
 北斗はそれを見て心配そうに顔をしかめる。
「大丈夫か? おまえ、見かけより熱高くなってるんじゃ……」
「これは仕事疲れ。筋肉痛」
「……もっとうまい嘘を言えよ」
 ほんとに強情だ。
 欠月はゆっくりとお粥を食べていく。文句を言わないことから、北斗は安心した。
 食べ終えて、欠月は再び横になる。
「じゃあ……体調が少し戻るまで横にさせてもらうよ」
「ああ」
 あとでリンゴすってやろう、と北斗は笑顔になった。
 欠月の手を見遣り、ぎゅ、と握る。欠月はぎょっとして北斗を見遣った。
「な、なにしてんの……男の手なんて握る趣味あったっけ?」
「そうじゃねーよ!
 ったく、相変わらず冷たい手だな。…………ほら、熱あるとけっこう弱気になるもんだろ? こうやってると安心しねー?」
「安心……? ボクは己の貞操が危険だということをひしひし感じてて怖いよ」
 こんな時までソレか。
 北斗はなんとか堪える。
「今日だけでもゆっくり休め。いいな」
 欠月は「ふうっ」と息を吐き出すと目を閉じた。
「手を握るのは構わないけど、移っても知らないからね」

「ふえっくしょ!」
 次の日、くしゃみをして鼻をすする北斗の姿が学校で目撃され、その翌日彼は熱を出したとか。



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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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PC
【5698/梧・北斗(あおぎり・ほくと)/男/17/退魔師兼高校生】

NPC
【遠逆・欠月(とおさか・かづき)/男/17/退魔士】

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■         ライター通信          ■
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 ご参加ありがとうございます、梧様。ライターのともやいずみです。
 欠月の看病、いかがでしたでしょうか?
 少しでも楽しんで読んでいただければ幸いです。

 今回は本当にありがとうございました! 書かせていただき、大感謝です!