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■■悪魔の指紋−黄泉部屋−■■

東圭真喜愛
【4471】【一色・千鳥】【小料理屋主人】
■悪魔の指紋−黄泉部屋−■

 ぴしゃりぴしゃりと とびらがあくよ
 よみへのとびらが みずおとたてて
 ほら いまにも あなたをむかえようとしているよ



 こんこん

 ノックの音に、草間武彦は咥え煙草に読んでいた新聞から顔を上げた。今は夕刻。ちょうど妹の零が買い物から帰ってくる頃だ。
 だが、鍵はかけていないはずだが───。
「零か? どうした?」
 新聞をデスクの上にぱさりと置き、立ち上がる。
 扉を開けると、果たしてそこには零が買い物袋をだらりとさげて立っていた。───どうも、様子が変だ。
 瞳は虚ろで、立ってはいるものの身体の全ての運動機能が弛緩しているように感じられる。
「零?」
 呼びかけると、抑揚のない声で「兄さん、お客様です」とかえってきた。
「お客様? また厄介ごとの依頼じゃないだろうな」
 すると、零と武彦の隙間に割り込むように、しかし優雅に───その女性は零の背後から移動してきた。
 長い黒髪の、美しい30台ほどの女性。
 紅をひいた唇以外たいして化粧もしていないのに、妖しいほどの魅力を感じさせた。
 しかし武彦とて、ただの男ではない。これでも百戦錬磨というほど「くさい依頼」をこなしてきている。かえって怪しんで、女性を見下ろした。
「何の御用ですか?」
 聞いた、途端。
 女性は、にっと赤い唇で微笑んだ。
「!!」
 武彦は、叫ぼうとした。身体の内部から外部から、味わったことのない圧力がかかってくる。
 たちまちのうちに、武彦の身体は叫ぼうとしたその格好のまま、固まった。
「うまく剥製になったな」
 女性は美しい声で、男のような言葉遣いをした。
「コレクションが増える。だがこれは餌だ。草間武彦の周囲にいる目障りな仲間共をつる、釣り餌───」
 零は何も言わない。玄関口に立ちすくんだままだ。一体何をされたのか。人間でない零に、一体誰がこんな風に出来るというのだ。
 武彦ならば分かっただろう。だがその武彦は今、剥製となって女性の突き出した掌にぽっかりと空いた穴の中に吸い込まれていくところだった。
「偲愛の結界も、あとどれほどもつものか───皆、私が用意した黄泉部屋(よみべや)へ行くのですよ」
 台詞の後半は、武彦の仲間のうち何人かは聞き知った声になった。
 それは、かつて「Angel Phantom」の総帥とうたわれた、
 神城聖(かみしろ あきら)のもの───。



 その日の夜のうちに、武彦の仲間達の元へ───夕方草間興信所で起きた一部始終を録画したビデオが届けられた。
 わざとのようにとられたそれは、
 明らかに───勝利を確信した者のしかけた、ゲームへの鍵、だった。
 


■ライターより■
▲募集人数1〜3、4人。シリアス(切ない系?)依頼、になる予定です。「悪魔の指紋」という一話完結シリーズものの、最終章へ向けての第四弾です。シリーズものですが、今まで通り、1ノベルでその依頼の事件は完結、という形を取っていこうと思います。
東圭真喜愛の作品は基本的に暴力的プレイング及び下ネタ系は受け付けておりませんので、ご了承くださいませ(もしもの場合は、こちらのほうでアレンジさせて頂きますので御了承くださいませ)。
▲この「悪魔の指紋」というものについては、東圭初ノベルの作品でもありますが、それとは全く関係のない新しいものとしてサンプルに抜粋しましたので、ご了承くださいませ(白銀の姫シリーズでやろうとしていたことともまた別です)。
▲今回は参加して下さるPC様は、「郵便物として届いた、草間氏が剥製にされたビデオを見て」、どうにかして解決していただく形になります。軽い戦闘も入るかもしれませんが、それがメインではありませんので、御了承ください。また、今回参加くださる皆様は、「悪魔の指紋−孤児院404号室−」を参照の上、それの延長線上として考えて頂きたいと思います。
「どのように行動するか」「どのように解決するか」を簡単にでもお書きください。書いていらっしゃらない場合は、こちらで判断して書かせて頂くことになりますので、ご了承くださいませ。他、やってみたいこと等ありましたら、あまりに無茶な注文でなければ受付いたしますv
▲今回の一番の鍵は、とにかく「剥製にされたこと(その意味も考えてみるといいかもしれません)」、「前作に出てきた神城偲愛との関連」です。過去完結したシリーズ作、「Assasination Phantom」が個室にありますので、それをご参考頂ければもっと分かりやすいかもしれませんが、強制ではありませんのでご安心くださいませ。
異界(双翼龍宮−レビス−)URL:http://omc.terranetz.jp/creators_room/room_view.cgi?ROOMID=1058
▲また、窓が閉じていたりしましても、お友達と参加したいなどご希望がありましたら、プレイングに一言添えて頂ければ考慮しますので、皆さん是非ご参加ください☆
▲一部個別を考えてはおりますが、今回は最終章に向けて資料としても使えるようにするため、統一ノベルになる可能性もありますのでご了承ください。
▲プレイングは出来るだけ、キャラになりきって書いて頂けますよう、お願い致します<(_ _)>
■悪魔の指紋−黄泉部屋−■

 ぴしゃりぴしゃりと とびらがあくよ
 よみへのとびらが みずおとたてて
 ほら いまにも あなたをむかえようとしているよ



 こんこん

 ノックの音に、草間武彦は咥え煙草に読んでいた新聞から顔を上げた。今は夕刻。ちょうど妹の零が買い物から帰ってくる頃だ。
 だが、鍵はかけていないはずだが───。
「零か? どうした?」
 新聞をデスクの上にぱさりと置き、立ち上がる。
 扉を開けると、果たしてそこには零が買い物袋をだらりとさげて立っていた。───どうも、様子が変だ。
 瞳は虚ろで、立ってはいるものの身体の全ての運動機能が弛緩しているように感じられる。
「零?」
 呼びかけると、抑揚のない声で「兄さん、お客様です」とかえってきた。
「お客様? また厄介ごとの依頼じゃないだろうな」
 すると、零と武彦の隙間に割り込むように、しかし優雅に───その女性は零の背後から移動してきた。
 長い黒髪の、美しい30台ほどの女性。
 紅をひいた唇以外たいして化粧もしていないのに、妖しいほどの魅力を感じさせた。
 しかし武彦とて、ただの男ではない。これでも百戦錬磨というほど「くさい依頼」をこなしてきている。かえって怪しんで、女性を見下ろした。
「何の御用ですか?」
 聞いた、途端。
 女性は、にっと赤い唇で微笑んだ。
「!!」
 武彦は、叫ぼうとした。身体の内部から外部から、味わったことのない圧力がかかってくる。
 たちまちのうちに、武彦の身体は叫ぼうとしたその格好のまま、固まった。
「うまく剥製になったな」
 女性は美しい声で、男のような言葉遣いをした。
「コレクションが増える。だがこれは餌だ。草間武彦の周囲にいる目障りな仲間共をつる、釣り餌───」
 零は何も言わない。玄関口に立ちすくんだままだ。一体何をされたのか。人間でない零に、一体誰がこんな風に出来るというのだ。
 武彦ならば分かっただろう。だがその武彦は今、剥製となって女性の突き出した掌にぽっかりと空いた穴の中に吸い込まれていくところだった。
「偲愛の結界も、あとどれほどもつものか───皆、私が用意した黄泉部屋(よみべや)へ行くのですよ」
 台詞の後半は、武彦の仲間のうち何人かは聞き知った声になった。
 それは、かつて「Angel Phantom」の総帥とうたわれた、
 神城聖(かみしろ あきら)のもの───。



 その日の夜のうちに、武彦の仲間達の元へ───夕方草間興信所で起きた一部始終を録画したビデオが届けられた。
 わざとのようにとられたそれは、
 明らかに───勝利を確信した者のしかけた、ゲームへの鍵、だった。



■命(めい)は命、ならば復讐(みせしめ)は■
●命の鉢植え●

 どうして・───を・ころした・の?



 零は、暫く待っても虚ろに立ったままだった。
 いたたまれないようにシュライン・エマが色々と資料からの情報収集をひっくり返しているのを、由良皐月(ゆら さつき)は見つめる。
 他にもセレスティ・カーニンガム、初瀬日和(はつせ ひより)、羽角悠宇(はすみ ゆう)、一色千鳥(いっしき ちどり)が興信所に集まってきていた。
 鍵は開けられたままだったので、そのまま入ってすぐに零の様子を見たのだが─── 一向に変わらないと分かった今、シュラインは「A.P.」時代からの今までの報告書等、気になる点を余すことなく探っているようだった。
「剥製にされた……というのは、まず動けなくする事が目的だと思います。多分……なんとかしようと乗り出してくる私達を痛めつける、それを手も足も出せない状態で見せ付ける事で、間接的に草間さんをも苦しめようというのでしょう。酷い事を考えるものです……」
 そう切り出す日和は、シュラインの気持ちを考えるとそんな悠長な事も言ってられない、と胸中思っていたがそれは口に出さず、憂うべきことを続けた。
「更には……私達や草間さんを誘き寄せてどうかする事で、偲愛君をも取り込むか弱らせるかしようとしているのではないでしょうか……」
 日和が言い終わったのを見計らったように、悠宇が口火を切る。
「まったくやる事がえげつない奴だ。今もあの嫌らしい笑いを浮かべて俺達の様子を伺ってるんじゃないか? 零までこんな目にあわせて……休ませてやりたいけど、動かすことも出来ないんだもんな……。
 それにしても、あいつが言ってた黄泉部屋ってのがひっかかるな。あいつの中に取り込まれるなんてぞっとしない……でも、偲愛はそれに対抗できるだけの力があるって事で───それは奴にとって思わぬ抵抗だった、とも考えられるよな───それに手こずったから偲愛を動揺させて弱らせる目的で草間さんや俺達にちょっかい出してきたとも考えられないかな」
 同意です、と千鳥がお茶のおかわりを飲みながら片手を挙げる。
「人の剥製をコレクションするなど、趣味が悪いと言う以前の問題ですね。復讐……などという安っぽいことではないでしょうねぇ。動機が見えれば、対処法も見えてくるかとは思いますが。零さんは未だに相手の術中に填っているようですし……彼女を元に戻せば、もう少し詳しく事情を聞くことが出来、更に草間さんを助けることも出来ましょう……そう思ったのですが、なかなかに一筋縄ではいきませんね」
「復讐だと思うわよ? 安っぽくてもそれが原因で殺人事件だって一般人の中でも起きるんだもの。それより、剥製といっても実際魂が抜かれているのかどうか……力や経験を抜かれることってあるのかな? 剥製については……ビデオの差出人に『ミツメ』とだけ書いてあったし、この『ミツメ』なる女性からなんとかするしかないんじゃないのかしら。草間さんには悪いけど、女性の正体と偲愛君だっけ、彼の状況把握を優先したい。その上で『ミツメ』になんとかさせるべきだと思うわ。他に当時の関係者はいない?」
 皐月が今までつらつらと考えていたことを一息に口にすると、紅茶を飲みつつゆっくりとその湯気を見つめていたセレスティが「イチさんがいますね」と呟くように言った。
「これは私の考えですが……剥製にするという事は、剥製のある場所まで辿り着かれても問題ないと考えていると思うのです。お相手の自信の表れだと思いますが。
 興信所から移動した手段から、一度でもその場に繋がる道をつくってあれば移動は簡単なのではないでしょうか。逆に安定しない存在だから容易なのでは、と。『探ってみた』ところ、どうやら痕跡は残っている───いえ、残しているようですし」
 カチャリ、と紅茶を置き、シュラインの意識も完全にこちらを向いたのを確認し、セレスティは続ける。
「神城氏というと、どうにも研究所を連想してしまいます。まだ何かあるのではないかと思うのです。草間さんを剥製にした能力は、偲愛君はもしかすると神城氏の能力をも自分のものにしているのであれば……草間さんの元へと道を繋げて頂く事が出来るのではないかと思うのです」
「危険だわ」
 投げたボールを即座に返すように、シュライン。
 それも予想していたように、セレスティは頷く。
「ええ。私もそう思います。彼の負担になるようなことをお願いするのは少し気が引けますし───何より、偲愛君を使うことになるのも神城氏の予想通りのような気がするのです」
 なるほど、と幾人かが頷く。
「セレスさんや千鳥さんが調べてくれたことから───武彦さんの魂も意識も、かけらもここには残っていない、のよね……? 優太くんがいた屋敷も神城氏の死亡地も偲愛くんが過去いた各施設や神城家で『ミツ』やそう読める漢字が入っている名前がいたかどうかとか……それから現在地と安否確認をしたかったのに、手がかりになりそうなものは何もないわ。
 もう……思い切って今までの経験からの推測で動いたほうがいいのかも」
 疲れたようにシュラインが行った時、興信所のチャイムが鳴った。
 ぴり、と一同の間に、零を抜かして緊張が走る。
 だがそれは、
「紫藤イチ(しどう・─)だ、開けてくれ!」
 という、シュラインと日和、悠宇、セレスティに聞き覚えのある声と乱暴にノックする音と共に、急いで扉が開けられた。



「電話する余裕もなかったから、直接来たぜ」
 シュラインが淹れたお茶を一気に飲み干して、イチ。彼もまた、「A.P.」にいた一人だったのだ、と皐月と千鳥は説明を受ける。
「イチくんの借りてるアパート先やバイト先にも連絡したけれど、どちらも引き払ってたっていうからひやっとしていたところよ」
 シュラインは、興信所に武彦が残していたメモの中からイチの連絡先を見つけ出し、既に手を打っていたのだが理由はそういうことで、ひたすらに連絡がくるのを待っていたのだ。
「悪い、ずっと逃げ回ってたモンだからな……でも俺も大した情報は持ってねェ。ちょっと前くらいから『ミツメ』って名前に扮した滅茶苦茶に『前希(サキ)』に似た女に命狙われてたしな、逃げるので精一杯だった」
「前希って……確か、『A.P.』の『後継者』、とかいう方でしたよね?」
 千鳥がおさらいをするように尋ねると、イチは頷く。
「あれは『乗っ取った』んだ、多分」
 イチは言う。

 乗っ取ったんだ───外からじわじわ固めるために、優太の本物の母親をいつからか殺して、自分がいつからか乗っ取ってたんだ───前希は、きっと……自分が死んだ後のことも考えて、それで───神城の総帥と手を組だ

「最悪だな」
 悠宇が眉をしかめる。
 イチの無事を喜んでいる暇もない。
 総帥だけでなく、前希の助力もあるのならば。
「勝てる、んでしょうか……草間さんを、本当に……草間さん達を本当に……取り戻せる、んでしょうか……」
 青ざめて、日和。
 『彼ら』の恐ろしさは、身をもって知っていた。
「あの人達は私達の力も、手口も知っています。ですから……私達が傷つけられない相手───縁志さん達を連れてく、とかいやらしい手段に訴えることも平気でするのでしょう」
 いつの間にか、震えていた。悠宇が手を握ってくれたことで、それが分かった。いつもなら───逆なのに。何故だか、イチがいる時の悠宇は、いつもよりもおとなびて見える。
「……あいつ陰険だから、連れ去った縁志やらを差し向けてくるだろうけど、俺は手加減なんかしない。縁志達だって操られてたとしても、俺たちを傷つけることなんかよしとしないと思うからな」
 悠宇の言葉を受け継ぐように、千鳥が小首を傾ける。
「まずは何より、お二方を元に戻すことが最優先だと思います。偲愛さんは、今回草間さんを剥製にした方と『繋がっている』というより、彼に『繋がれている』といった状態と見ていいようですね。これを前提とするなら、偲愛さんを『解放』することが事件の解決に繋がるのかもしれません」
「でも、本当に……よく無事でいたわね、イチくん」
 シュラインが、何か色々と用意しながら少し安堵したようにため息をつく。イチは少し笑った。
「相手は多分『この状態』を待ってたんだと思う。すなわち、捨て駒になり得る『俺』と、目障りな『草間武彦とその仲間』がそろうのを。だから本気なんか出しちゃいなかったのさ、じゃなくちゃ俺は生き残ってねェよ」
「……聞けば聞くほど、今までの中でも一番腹の立つような相手ね。呆れるけど、それを何度も通り越した怒りだわ、これは」
 皐月がこめかみを押さえる。
 その気持ちは千鳥にも分かる。
 自分や皐月を抜かした彼らは、そんな相手によく『最期』まで戦い抜いたと感心する。
 なみなみならぬ精神的な打撃もあっただろう。それを『終わらせた』。
(なのに、蒸し返そうというんですからね)
 たかだか復讐などというもののために。
 怒りや呆れを通り越した、不思議な笑みが腹の底からわきあがってくるのを、千鳥は不思議に感じていた。
 とりあえずイチに例のビデオを見てもらい、「剥製」について判断してもらうことにした。
「ああ───これ、本当に身体ごと連れてかれたな。総帥の十八番だ、気に入らない奴は剥製にして飾っておく部屋が確かあったはずだ。でも屋敷が燃えて落ちたあの時にその部屋も崩れ落ちたはずだから───もしかしてあの瞬間、総帥が剥製達ごと『持っていった』のかも」
 イチの感想に、セレスティが引っかかる。
「持っていったとは……どこにですか?」
 まさか魂の世界、とかではあるまい。
 イチは、言った。
「『自分の身体の中に』。総帥は気に入ったものは『身体の中から繋がる部屋』においとくんだ」
 総帥はその剥製のある部屋のことを、こう呼んでいたらしい。

 命の鉢植え───と。

「……駄目元で、もう一度偲愛君のところに行ってみない? 状態も心配だし」
 皐月の声が震えているのは、恐怖からではない。怒りを抑えるためのものだった。
 こんな時に冷静さを崩せば、武彦も零も助けてはあげられないのだ。
「準備もできたし、行きましょうか」
 シュラインが言い、セレスティがステッキを持ち、千鳥が湯呑みを片付け、日和は悠宇と共に、イチが最後に立ち上がった。



●絶望の命●

 前回セレスティが配備しておいたボディーガード達に異常はない。だが、それだけでは安心は出来ない。
 何しろ「敵」はどんな所からでも、その気になれば偲愛だけを狙うことができるのだから。
「偲愛くん!」
「偲愛さん!」
 だから、シュラインと日和は、施設の中、前回同様いやに死臭の漂うそこの一室に偲愛を見つけたとき、本当にほっとして思わず声をかけた。
 ぼんやりとするように空を見つめていた偲愛の瞳が、彼女らを見る。怯えた色は、その中にない。こんな風になっても、「敵」と「味方」の区別はついている。それが───皐月には何故か、哀しかった。
(直接には拘らなかったけれど、受けた説明からすると……なんて哀しい運命背負った子。でも、それでも生きようって気がなくちゃ生き残らなかったのよね)
 皐月なりに、そう判断している。
「偲愛、俺が分かるか?」
 悠宇の隣から、イチがそっと車椅子の脇に座り込んで見上げる。
 茫洋とした、けれど純粋さを漂わせた黒曜石のような瞳が、同じ色の瞳を見下ろす。わずかに、微笑もうとした気配がして、イチはそれだけで充分だという風に抱きついた。
「……この施設のどこを探ろうとしても何も視えません。セレスティさんはどうですか?」
 千鳥が、自分と似たような能力を持つステッキに身を預けるようにしていた彼に尋ねると、肩をすくめた苦笑が返ってきた。
 ───同じ、なのだろう。
 こちらも苦笑を浮かべて、千鳥は考え込む。
 この施設───建物自体からも置いてあるものからも何も読み取れない、ということは。十中八九、総帥と前希からの妨害か、偲愛自身が防衛のために「バリア」を張っているのだろう。
 無理に読み取ろうとすると、此方の精神が危なくなる。
 シュラインは膝を折り、車椅子の偲愛と視線を合わせた。
「偲愛くん。乱安くんも縁志さんも貴方の安全を苦心したはずよ。必ず連れ帰るから気をしっかり持って、集中して……踏ん張って」
 その言葉のどれほどが、偲愛には分かっているのだろう。だが、目はそらさない。「まだ」、震えてもいない。
 それを確認し、シュラインは質問に移る。
「少し聞きたいんだけれど……貴方の総帥、聖氏で蒐集品子供部屋黄泉……仮死状態保管場所等の連想って……何か、ある?」
 どきっとしたようにイチと悠宇がシュラインを見る。その彼女がポケットの中、お守りとして持ってきた武彦の煙草やライターを汗ばんだ手で握り締めているのを、誰か感じ取っただろうか。
 ……偲愛には、感じられたのかもしれない。
 恐れるような色を見せた瞳が、ゆらゆらと視線を動かして、唇がわななくように開いた。
 ───「A.P.」に関係していた者達には懐かしい、声がした。
「……そうすい・の……からだ、ぶらっく・ほーる……どこにでも、つうじる・みち……よみ、にも……いのちのはちうえ、にも……
 そうすい、……みんな・をニンギョウに……」
「もういいわ、偲愛くん」
「偲愛、『降りてこい』!」
 喋っている間に車椅子ごと恐怖で浮き上がり始めた偲愛の手を、イチが握って力任せに床におろす。
「大丈夫よ、ありがとう……」
 シュラインは涙が出そうな気持ちで、ぎゅっと偲愛を抱きしめ───気休めだろうが、こちらも持ってきていた清水入りの霧吹きを手渡した。他にも袋の中には、清水やお神酒が入っている。本当に───気休めにすぎないの、だろうが───何もないよりは全然マシだ。
「身体がブラックホール……なんでも吸い込めて、どこにでも道が繋がってるのなら、あのビデオに写ってたのもその通りって思っていいのね」
 皐月が冷静に推理する。
「黄泉にも、って言ったよな」
 悠宇も考える。
「今までの『言葉遊び』からも考えると……色々と推測できそうですけれど、ね」
 千鳥が、一番始めに起きた「言葉遊び」の優太のことを思い出す。何故、彼の母親が乗っ取られたのか───彼はそれも気にかかっていた。
「嫌な予感が漂ってくるんだけど、この部屋の扉の向こうから」
 勘の良い皐月が、眉をひそめる。
 セレスティは半ば予想していたようだが、念のため窓から施設の庭、更にその外を見下ろす。
 ───人の気配は、ない。ボディーガードの姿すらも、いつの間にか。
「向こうからやってきましたか。この場所が神城氏にとっては『正解』だったようですね」
 ため息混じりにセレスティが呟き、悠宇が日和をかばうように立ち、イチが腰の日本刀を引き抜いた、
 その瞬間。

 パァン───

 綺麗に扉が吹き飛ばされ、粉々に部屋の中に舞い散った。
 そこにいたのは、
 哀しいほどの三つの人影。その奥に、黒服に黒いヴェールつきの帽子を目深にかぶった女。

 ミツメ

<ねえ>
 ふと、
 全員の頭に声が流れ込んでくる。「A.P.」関係者の何人かには聞き覚えのある───それは、神城前希、かつて『後継者』だった者の声。
<どうして・ぼく・を・ころした・の───くすくすくす>

 くすくすくす ミツメ ミツメ  ねえ ミツメ くすくすくす

「さきをみつめて───いたのですよ、私は」
 ずっと、前からね。

 総帥の声が、黒服の女の紅を引いた唇から紡がれる。
<ねえ・どうして? どうして? 前をむいて、希望をとなづけられたぼくが
 愛を偲ばせて・と・なづけられた偲愛が
 どうして・こうなったの? どうして・偲愛は・ぼくを・ころした・の?>
「ぅ……あ、あぁ……!!!」
 偲愛ががたがたと震えている。力が暴走していないのは、恐らく───総帥と前希と目に見えぬ戦いをしているのだろう。
「さきをみつめて、ですか。それで貴方は何を得られましたか?」
 静かに、三つの影を呆然と見つめる一同の中で、冷水を最大の敵に浴びせるようなセレスティの声。
「これから、得るのです。偲愛を通じて。私は復活します。この三つの『コマ』を使って」
 ニヤリと口元が笑んだのが、合図か。
 三つの影が、動き出した。
 同じように、人形が動くように。
 操り人形のように、かくかくと。
 哀しいほどに、抑揚のない───まるで別人が中に入ってしまったかのように。
 同じ言葉を紡ぐ。
「おまえたちも・くる」
「むかえに・きた」
「わたしはおまえたちを・むかえに・きた」
 縁志と乱安と、そして───武彦が。
 シュラインが、かすかに悲鳴を上げた。
「シュラインさん……まだ望みはあります、草間さん、動いてますよ!」
 日和がぎゅっと抱きしめる。
 けれどシュラインは、青ざめた顔で瞳を滲ませて、言った。
「武彦さんの心音が───聞こえないわ……」
 その言葉に、全員がシュラインと武彦とを見比べる。
 本当に、剥製のまま───「中」も抜け殻にされ、操られているのか。
「ここは敵陣になったようですね、不利です」
 千鳥がちらりと偲愛を見た、その時。

 あ……あ・あぁぁ───!!

 偲愛が叫び、「敵」を抜かした一同を共にして建物を壊し、空へと浮かび上がった。
 瞬間移動。
 それが分かったのは、空に浮かび上がった次の瞬間に目の前の景色が変わっていた、時。

 そこは、
 小さな赤い屋根の小屋の中。
 必要最低限のものしか、置いていない───けれどどこか暖かさを思わせる、そこは。
「……偲愛君の本当のお母さんが、お父さんと暮らしていた場所───ですか」
 セレスティが千鳥と共に読み取る。
 恐らくは、それは偲愛の本能。
 「安全」な場所へと一時的にでも移動させたのだ───自分も、剥製でない「仲間」も共に。
「総帥とサキ、とやらにいつ見つかるか……それまでに何か対策を考えないと、ね」
 皐月の声に、状況に反してうららかに小鳥がさえずるのが聞こえる。
 こんなにも、哀しく───絶望に身を伏せてしまいたいのに。
 どこの森の中なのか、窓の外は森の緑に満ちていた。


  ねえ、───
       どうしてぼくをころしたの? ブンシンなのに───偲愛。


《完》
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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】
5696/由良・皐月 (ゆら・さつき)/女性/24歳/家事手伝
1883/セレスティ・カーニンガム (せれすてぃ・かーにんがむ)/男性/725歳/財閥総帥・占い師・水霊使い
0086/シュライン・エマ (しゅらいん・えま)/女性/26歳/翻訳家&幽霊作家+草間興信所事務員
3525/羽角・悠宇 (はすみ・ゆう)/男性/16歳/高校生
3524/初瀬・日和 (はつせ・ひより)/女性/16歳/高校生
4471/一色・千鳥 (いっしき・ちどり)/男性/26歳/小料理屋主人
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■         ライター通信          ■
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こんにちは、東圭真喜愛(とうこ まきと)です。
今回、ライターとしてこの物語を書かせていただきました。また、ゆっくりと自分のペースで(皆様に御迷惑のかからない程度に)活動をしていこうと思いますので、長い目で見てやってくださると嬉しいです。また、仕事状況や近況等たまにBBS等に書いたりしていますので、OMC用のHPがこちらからリンクされてもいますので、お暇がありましたら一度覗いてやってくださいねv大したものがあるわけでもないのですが;(笑)

さて今回ですが、「悪魔の指紋」という、一話完結タイプのシリーズものの第四弾です。だいぶ遅延してしまいまして、本当に申し訳ありません。しかも一話完結もののはずが……次の最終章に向けてこんな終わり方になってしまったことも兼ねてお詫び致します(汗)
どうにも今回は「情報編」とするしかないかもしれない、と、今までの情報不足さを、自分のノベルを読み返していて思っての判断でして───ブログなどに書いていた「悩んでいる分岐」とはこのことでした。
また、今回も情報が攪乱すると最終章にも繋がりませんので、皆様文章を統一してあります。
それでは、短いながらも皆様にコメントをさせて頂きますね。

■由良・皐月様:いつもご参加、有り難うございますv 今回はもう、人生に一度あるかないかの怒りに見舞われているかと思います。まだまだもどかしい展開ですが、宜しくお付き合いくださると嬉しいです。
■セレスティ・カーニンガム様:いつもご参加、有り難うございますv ご指摘どおり、偲愛に縋るような行為は総帥の思惑そのものだったわけですが、皆様がいて下さったおかげでなんとか一時的にでも脱出をしてくれました。今後どう繋げて下さるか、とても楽しみにしています。
■シュライン・エマ様:いつもご参加、有り難うございますv 今回一番つらいだろう、と思われた方ですが、大変心苦しいですがこの状況は次回までも持ち越しになります。どうぞ気力を保っていて下さい。
■羽角・悠宇様:いつもご参加、有り難うございますv イチがいると何故かいつの間にか少しおとなにもなるし子供にもなる、という悠宇さんが書けてよかったです。最終章に向けて、イチとの連携プレーもありですね。期待しています。
■初瀬・日和様:いつもご参加、有り難うございますv あの時の身体の痛みも心の痛みも一気に思い出したのではないかな、と思いまして、今回の日和さんは少し消極的になりました。そのかわり、あたりにもそのぶん気を配れたのだと思います。
■一色・千鳥様:いつもご参加、有り難うございますv 本当に安っぽい復讐だけでこれだけの犠牲がはらわれる、ということに千鳥さんがどう思われているかとても気になるところですが、次回のご活躍を期待しています。

「夢」と「命」、そして「愛情」はわたしの全ての作品のテーマと言っても過言ではありません。今回はその全てを入れ込む「前段階」とも言える、私にしては珍しいノベルとなりました。まあ最後があんな終わり方なので珍しいのは当たり前だと思いますが(汗)次回への鍵として提示しておきますと、今回の全体の章のタイトル(一番最初の「命(めい)は命〜とかいう奴です)がその一つとなっています。もっと重要なのはもちろん、今回の本文全体ですが。
次回「悪魔の指紋」第五話目(最終章)は、5月か6月あたりにUPする予定です。それまでに皆さん、対策など考えて下さると嬉しいです。

なにはともあれ、少しでも楽しんでいただけたなら幸いです。
これからも魂を込めて頑張って書いていきたいと思いますので、どうぞよろしくお願い致します<(_ _)>

それでは☆
2006/4/28 Makito Touko