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■【Memory】桜と嘘と…■

橘真斗
【1522】【門屋・将太郎】【臨床心理士】
 夢幻堂に新しいカレンダーが入ってきた。
 最近交流のある『記念日認定社』からの特別なカレンダーだ。
「鹿央様、お聞きしたいことが」
 そのカレンダーを張り替えようとした少女―樹―の手が止まる。カレンダーに刻まれた項目が気になったからのようだ。
「ん、どうしたんだい?」
 鹿央と呼ばれた人物は暖かな春だというのに半纏をまとい、少女の裏からひょいと顔を出して確認する。
「今は三月ですが、四月は何か変わった行事などあるのでしょうか?」
「四月のイベントといえば、エイプリルフールだろうねぇ」
「April Fool's Day…直訳すると四月愚か者の日となりますが、一体どういう日なのでしょう?」
 カタカタという音が聞こえてくるような動きで鹿央のほうを光のない瞳で見る。
「もともとはヨーロッパの新年が3月25日で、4月1日まで馬鹿騒ぎをしていたんだが、太陽暦を入れて1月1日が新年にかわったんだ。
 それに反発した民衆が『嘘の新年』として4月1日を祝ったことが始まりっていわれてるねぇ」 
「そうなのですか…」
「もっとも、今じゃ害のない嘘をついてもよい、という風習になっちまってるがねぇ」
 特に何も思うところがないのか、再びカレンダーに向き直って、交換する。
「嘘はいけないものと…本で学びました。そんな日を祝うというのは不自然です」
 ぽつりと樹はいった。鹿央はそんな樹を見て、にやりとする。
「文字だけの情報ではわからないもんだよ。お前はいま知識はあっても経験はない。せっかくだから花見でもして、『嘘』についていろんなやつから経験談を聞かせてもらおうか?」
 しばらく樹は静止し、その後ゆっくりと頷いた。
「料理の準備は任せたぞ、樹。今日は店閉めて花見だ」
「閉めても閉めなくても、人はあまり来ないので関係ないと思いますが…」
「余計なことはいわんでいい」
 鹿央は樹に軽くチョップをかますと、場所とりに店から駆け出していくのだった…。
「料理…花見の料理の本を探がさないといけませんね」

【Memory】桜と嘘と…

〜それは舞い散る桜のように〜

 春風が舞う。季節は四月…桜も満開に咲き乱れ、街に春の足音を落としていく。
そんな街の古書店から、からころと下駄を鳴らして人影が出てきた。
「えっと、戸締りよしと…料理もできました」
 和服の女性がメモを片手にこれからの行動を確認する。目だけをカタカタ動かして確認する様はロボットのようだった。手には御節でおなじみの重箱を風呂敷に包んで持っている。
「よう、嬢ちゃん。鹿央って兄ちゃんから花見の話しを聞いてさ、混ぜてもらえないか?」
 そんな彼女に眼鏡をかけた男、門屋将太郎ら他にも数人がコンビ二で手土産を買い込んで持ってきていた。
「分かりました…多少料理は大目にありますので、どうぞ…場所はここなのですが、私は場所がわかりませんので案内願えませんか?」
 鹿央のメモを和服女性の樹が門屋に手渡した。そのとき、門屋が樹の目を見て驚いた…。
(心が読めない…どういうことだ?)
「どうかされましたか?」
 色のない瞳で、門屋を見つめて首をくくくとかしげた。動きの硬さは容姿と共に日本人形を思わせた。
「いや、なんでもない…それじゃあ、いくか」
 門屋は笑顔で樹に答えて春風の吹く道を歩いていった。

〜それは漂う雲のように〜

 その場所につくと半纏にジーパンという春らしくない格好をした男、鹿央が場所をとっていた。丘の上に立つ大きな桜。満開に咲き乱れ、暖かな桃色とさわやかな花の香りを届けてくれる。
「噂には聞いていたけど、いいところだな」
 まぶしそうに目を細め、辺りを眺める。若草が萌えていて、上は雲が漂っていた…自由に気ままに。
「さて、まぁ座って座って…ほら、樹。 酌してやれよ」
「はい」
 鹿央が上座に陣取りつつ座るように促し、樹は門屋たち来た客人たちに酌をしていく。
 これがまた不気味なほど正確で、茶運び人形かと思えるくらい決まった動作をまったく同じ感覚で行っていた。
(変な嬢ちゃんだな…)
 門屋がそう思っていると、樹は門屋の前に来て酌をした。酒を飲みたいところだが、しらふに話しをしたいのでウーロン茶を頼む。
「どうぞ」
 寸分狂わない動作で紙コップへ酌を終えて樹は鹿央の隣に動いた。
「とりあえず乾杯するぞ、乾杯!!」
「「「かんぱーい」」」
 紙コップをそれぞれ掲げて乾杯し、樹の料理やもってきたつまみなどを食べだす。
桜を見ながら料理を食べるのはいいものだった。
「いいねぇ、やっぱり花見は…」
 門屋もウーロン茶しか飲んでないが、ほろ酔い気分だった。雰囲気に酔ったとでもいうべきか、とにかく気分がいい。樹の料理も美味しい…けど、門屋には引っかかっていた。
完璧すぎることが…見本どおりというべきか、個人がないのだ。料理に…。心理カウンセラーをやっている性(さが)なのか、そういう細かいところの心の変化とかを探ってしまう。
 だが、この料理にはその探るべき心がないのだ。その事実は門屋を困惑させた。
そんなことを考えていると、鹿央が突然立ち上がった。
「まぁ、楽しんでいるところなんだが、ちょいと協力して欲しいことがある。まぁ、事前にちょろ〜っといったが、この樹に嘘について教えて欲しい。難しく考えずに酒の肴程度に会話しくれりゃいいからさ。」
 そして、皆で円を組その真ん中に樹を座らせた。樹は鹿央の顔を確認する。鹿央はそれに首を縦に振って答え、樹は質問を投げかけだした。
「それでは、今まで嘘をついたこと、つかれたことはありますか?」
 酒を飲んでいる皆は自分の体験談をなぜか時計回りに話していった。彼女と別れるときについたとか、他に男がいたことを隠していられたとか…どうも、色恋ごとの話しが多い。
 最後に回ってきたのは門屋だった。門屋はウーロン茶を一口のみ、自分の考えを話し出す。
「嘘か。ついたことの無い人間なんていないだろうな。嘘をつかざるを得ない場合もあるしな」
「つかざるを得ない嘘とはなんでしょう? 人を騙すことはいけないことであると、学びました」
「それも正しい。だが、世の中正しいことだけでは成り立たないものなんだよ」
 門屋は再びウーロン茶に口をつける。
「では、嘘をつくことがいいこととおっしゃるのでしょうか?」
 いつの間にやら樹と門屋が対面して、討議状態になっていた。周囲も二人を円で囲んで様子を見守るようになっていく。
「ついていい嘘がある…といったほうがいいな」
「ついて良かった嘘?」
 樹が疑問そうに首をかしげた。門屋は初めて見えた感情に驚きつつも、樹の質問に答えた。
「ついて良かったと思う嘘…か。俺の仕事は、嘘をつく場合もあるからな。でも、それは俺の元に来る患者を助けるためだ。『嘘も方便』って言葉があるだろ?」
「たしかに、あります…ですが、露見した場合のリスクが高いと思います。それを払ってでもつかなければだめなこともあると?」
「そうだな、そうしなければ救えないこともある。確かにその場限りかもしれないけど、ひと時の希望がその後を変えることだってあるんだ」
 樹の光のない不気味な瞳に見つめられながらも、門屋はその瞳を見つめ返して答えた。
 そして続ける。
「悪意の無い嘘なら必要だと俺は思う。誹謗中傷等の人を傷つける嘘は駄目だけど、心を軽くする、楽にするための嘘ならついてもかまわないだろう。」
「それでは、すべての言葉が嘘に…」
「でも、つきすぎは駄目だ。ほどほどにな」
「ほどほどですか」
「ほどほどだ」
 門屋は一息ついてウーロン茶を飲み干した。なぜか場がしんとしている。二人の話し合いに皆聞き入っていたようだ。その空気を鹿央が手拍子一つで断ち切った。
「はい、そこまで! 宴もたけなわこの辺で終わりにしようかぁ」
「そうですね、料理も飲み物ももうありませんし…今日は皆様ありがとうございました」
 樹も恭しく一礼をして立ち上がった。

〜それは沈む夕日のように〜

 始まりがあれば終わりもある。マナーとして後片付けは皆でやることにした。ゴミを整理して袋に詰める。気がつけば周囲に落ちていたゴミも拾い出してすっかり日が暮れてしまった。
 鹿央と一緒にゴミを片付けた門屋が鹿央に声をかけた。
「ありがとな、楽しかったよ。あのお嬢ちゃんに嘘のことがわかってもらえたかどうか、いささか不安だけど」
「多分、わかったんじゃないかな…まぁ、ここでの話しは樹にとっていい経験になったと思いたいねぇ」
「あの嬢ちゃんは何なんだ?」
 門屋は疑問に思っていた事を聞いた。夕日の中荷物をまとめて戻っていく樹を見つつ。
「樹は人形さ…それ以上でも、それ以下でもない…ま、細かいことは気にするなっと」
 飄々と鹿央は答えて、下駄を鳴らし樹の後をついていった。
 二人の影はだんだんと夕闇にまぎれて、そして消えていった…。

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┏┫■■■■■■■■■登場人物表■■■■■■■■■┣┓
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┗━┛     ★PCゲームノベル★      ┗━┛
【PC名(ID)  /性別/年齢         /職業】
門屋・将太郎(1522)/男/28歳  /臨床心理士

鹿央・為(NPC3345)/無性別/???歳/古書店夢幻堂店主
樹(NPC3565)/女/18歳/古書店『夢幻堂』店員


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■         ライター通信          ■
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遅くなってすみません。
無事完了いたしました(^^;;
花見らしく、大勢でいろいろやっている雰囲気を出してみようと試みたつもりですがどうでしょうか?
なかなか難しいです。まだまだ精進ですね。
感想や、突っ込み、リテイクは歓迎いたしますのでよろしくお願いします。
また、機会ありましたらよろしくお願いします。