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■人形博物館、見学■

伊吹護
【1252】【海原・みなも】【女学生】
 ぺこり。
 そんな音が聞こえたかと思うくらいに深く、目の前の少女は深く頭を下げた。
 いや、少女というのは少々失礼かもしれない。
 幼く見えるが、おそらく二十歳は越えていると思われる。
 染めていない艶のあるまっすぐな黒髪は額で切りそろえられて。
 切れ長の瞳に、よく言えば落ち着いた雰囲気を、悪く言えば地味な顔立ち。
 典型的な和風な面差し――だが、美人ではある。

「いらっしゃい、ませ――」
 顔を上げた彼女はか細い声でそう言うと、そのまま止まった。
 動き、どころか――表情さえも、そのまま時間が止まってしまったかのように身動ぎもしない。
 どれだけの時間だったろうか。
 数分間にも感じたが、実際は十数秒だったのかもしれない。
 薄暗い、しかも静寂に満ちたこの館では、過ぎる時間が妙に長く感じる。
 場が持たなくなる。
「ご見学、です……か?」
 唐突に。
 彼女は再び言葉を発した。
 無機的に唇を動かすと、またぴたりと静止する。
「五百円、です」
 どうも、会話がしづらい。
 こちらからも反応すればいいのだが、どうもテンポがつかめない。言葉が彼女の沈黙に吸い込まれてしまうような、そんな感覚。
 だけど、ここで物怖じして帰るわけにはいかない。
 今日の目的は、この『人形博物館』。
 怪しげな洋館『久々津館』内に設けられた小さな博物館だ。
 展覧してあるものは、からくり人形を中心とした、多種多様な人形。
 でも、それだけではない。
 この博物館、奇妙な噂が耐えない。
 それは、管理人をしているらしいこの炬と言う女性もしかり。
 展示物も、曰く付きのものばかりだという。
 入ったきり、戻ってこない者がいる、だとか。
 突然動き出した人形に襲われたとか。
 人間になりたがっている人形たちが、心の弱い人間を見つけて、入れ替わろうとしているだとか。
 その噂が根も葉もないものかどうか。
 それを調べるために来たのだから、こんなところで帰るわけにはいかないのだ。
 女性に硬貨を一枚手渡すと。
 薄暗い館の中、尚闇が濃く見えるその奥へ、一歩、足を踏み出す。

人形博物館、見学 〜生の反対は〜

●炬との出会い

 う、うーん。
 どうしたら、いいんだろう、ええと……。
 みなもは目の前の女性を前に、困惑していた。
 どうもテンポが狂ってしまう。
 なんというか、その。
 案内用のアナウンス放送に対して会話を成立させようとしているような、そんな空回り具合。
 だけど。
 せっかくここまで来て、物怖じして帰るわけにはいかない。
 迷って、迷った挙句だけれど。
 ちゃんと自分で決めて、来たのだから。
 ――最近、どうにも沈みがちだった。立て続けに色々なことがあって、自分に自信が持てなくなってる。まだ、13歳。中学生の身でこんなことを思うのは百万年早いんだろうけど、どうにも鬱に入ってしまうと浮かび上がれない。
 元々、真面目すぎるのだ。これも自分でも分かっているのに、どうにもできない。真っ直ぐに受け止めすぎちゃうんだろうか。しかもあまり相手に対して強く言うこともできないので、結局勝手に落ち込んだり、いじめられる対象になってしまう。自分の生い立ち、能力も、どこか負い目に感じるところもあるし。
 それで、とにかく何とかしたいと思って。
 『生きる』ということの再確認というか。ここに『いる』ことへの必然性を感じたいというか。
 そういう風に考えることすら、真面目に考えすぎなのかもしれないけど。
 そんな折に噂で聞いた、人形博物館。
 喋り、動く人形がいる、とか、行方不明になった人がいるだとか。
 そういったモノの、話を聞いてみたかった。
 何か得るものがあるんじゃないか。変われるんじゃないかと思って。
 そしてもし叶うなら、一日だけ、お人形さんと身体を変わって、人形としての生活を体験してみたかった。身勝手な願いだとは分かっているけど、ここなら何とかしてくれるかもしれないと思った。
 先に、家には連絡してある。もし何かあっても――何かなんてないほうがいいけど。
 さほど歳が変わらないようにも見える目の前の女性に、五百円を渡す。
「入り口、は……あちらに、なります」
 彼女は受け取った硬貨をちらりと確認すると、みなもから見て右手を指し示して、ただ一言だけ告げた。
 そのまま軽く一礼をして、背を向けてしまう。
 流れるような一連の動作には一切の無駄が感じられない。と同時に、言葉と同じようにつけいる隙も見えなかった。
「あのっ……!」
 でも、今度は負けなかった。彼女の持つオーラのようなものを打ち破るように声を掛ける。
 手を伸ばして、相手に触れようと、止めようとする。
「ここの噂っ、聞いてきて、それで、その……喋る人形とか、いるんですよね?」
 相手の雰囲気に飲み込まれないようにか、声が大きくなってしまった。館の中にみなもの声がこだまして、ゆっくりと消えていく。
 だがまたも、無言。
 こちらに、もう一度向き直っただけ。
 ひょっとして、見当外れなことを聞いたのかもしれない。噂はただの噂で、ここはいたって普通のところで――だとしたら、とんでもなく恥ずかしいことを言ったのでは。
 自分で分かるほどに顔が赤くなっていくのを感じた。
 それでも、無言。
 みなもの声の余韻が残っているかのように感じるほどの無音。
 と、ついと相手が動き出して。
 再び踵を返して、奥に消えていった。
 取り残されてしまったみなもは、伸ばした手の遣りどころもないまま。
「え、えーっと、見学、しようっと……」
 誰に言うでもなく、恥ずかしさを紛らわせるかのように呟いて。
 ゆっくりと、入口をくぐるのだった。

●見学と、そして

 博物館の中は入口と同じように薄暗かったが、各所はさすがにライトアップされていて、浮かびあがるかのように人形たちが並べられていた。
 綺麗に掃除されているらしく埃などは見受けられないものの、それでもどこか黴臭いのは建物自体の古さからきているのだろう。不快なものではなく、博物館の雰囲気を増すのに一役かっているようでもある。
 しかし、これは――。
 噂が立つのも分かる気がした。
 薄暗さの中に、仄かにライトアップされて並ぶ、からくり人形、アンティークドール、傀儡。日本人形や、出自・国籍も良く分からない人形。それらが全てこちらを向いている様というのは、下手なお化け屋敷よりも怖いくらいだった。
 一人で来るんじゃなかったかも……。
 ちょっとだけ後悔しつつも。
 並べられている人形の精緻さや、何かしら曰くありげな表情や。単純に可愛いものもある。
 だんだんと、そういったものに引き込まれていく。
 不気味さも、気にならなくなっていって。
 当初の目的を忘れがちになりながら、順路通りに進んでいくと。
「こちらへ、どうぞ」
「ひゃぁっ」
 ほんの少しだけタイミングをずらして、二つの声が上がる。後半はみなもの声だ。
 等身大の人形だと思って顔を近づけたものが、実は先ほどの女性だったのだ。
 従業員用の通路でも通ってきたのだろうか。いつの間にか先回りしていたのか。
 彼女は順路を示す看板とは違う方向の扉に入るよう、指し示していた。
「……なんでしょうか?」
 不審げに聞くみなもに、返ってくるのはやはり無言。これ以上の会話は無駄だと諦めて、素直に扉へと向かう。ここでさらに突っ込まずに言うことを聞いてみてしまうのは、みなもの良いところであり、また弱いところでもあった。
 木製の、大きな扉。いつの時代のどんなものなのかは、みなもには分からない。が、細やかなな意匠が相当なものであるということは分かる。綺麗でそしてどこか圧迫感がある、唐草模様のような飾り。
 扉の前に立つと、勝手に扉が押し開かれていく。内側から誰かが引っ張っているのだろうか。
 導かれるように、一歩、歩を進める。
 すると。
 みなもの背後で、ゆっくりと、低く軋む音を立てて――扉が閉まった。
 ――閉じ込められた!?
 冷たい汗が背中を伝う。
 慌てて扉に手を掛けるが、びくともしない。
 どうしよう。
 思考が混乱する。
 どうすればいい?
 扉を叩く。押す、引く――だめだ。
「慌てなくても、こっちに出口もあるわよ」
 そんなところに。
 突然、声がした。
 おそるおそる、振り向く。
 そこには。
 淡い照明に照らされた中。
 先ほどの女性が立っていた。
「お、脅かさないでくださいっ……それとも、これもここの趣向なんです……え」
 気づく。
 違和感。
 何かが違う。
 ただ微動だにせずに立つその姿は変わらない。
 でも。
 その、感情を感じる喋り方。
 それに対して、おぼろげに見える彼女の姿の――無機質な質感。
 良く出来たマネキンのような、温かみの感じられない姿。顔。
 生を一切感じさせないそれは――等身大の人形だった。
 マネキン人形に近い。
 でも、ただ一つだけ。
 その瞳だけは燃えるように紅く、そして生々しい力を誇っていた。睨みつけられていると思うほどの強い眼差し。
「驚くのは分かるけど、落ち着いてくれないかな? って言っても普通は無理か……私は灯。ともしび、って書いて、あかりと読むの。見ての通り――人形よ」
 人形の口がゆっくりと上下する。ただそれも、機械的な動き。
 どこかにスピーカーでもあるんじゃないかと、あたりを見回してみる。
 暗いから、良くわからない。
「信じる、信じないは勝手。でもね貴方、喋る人形と話がしてみたかったんじゃないの? お望み通りの、喋る人形。かがり――貴方をここに連れてきたモノの、姉よ。あの子じゃ相手するにはちょっと物足りないだろうから、私が相手をしようかと思って……というかね、人間の話相手も欲しくて。ここにいる皆は、今、外の世間で何が起きているか知る術もないし」
 ここにいる、皆。
 みんな?
 目が慣れてきたのか、周りの様子が見えてくる。
 無数の。
 瞳が。
 こちらを見ていた。
「……っ!」
 悲鳴が、声にならない。
 腰から力が抜けて、座り込んでしまう。
 ――ほら、やっぱり無理だ。
 ――だから言ったじゃないか。こんなに集まったらだめだって。
 ――でも、しばらくぶりの外の人なんだ、仕方ないし。
 びっしりと。
 大小、姿形もさまざまな人形たちが、みなもを取り囲んでいた。
「危害を加えるつもりはないわ。私たちは人に敵意はないし」
 正面に立つ、灯が言う。
 よくよく考えれば。
 元々の目的だったはず。人形たちと話してみたい。一日でいいから、代わってみたい。
 一度深く息を吸い込んで、ゆっくりと吐き出す。
 落ち着け、あたし。
 冷静になろう。自分自身の生い立ちや環境、能力に比べたらたいしたことじゃない。
 無理矢理に、微笑んでみる。そうすると、余裕を持って周りを見ることが出来た。
 さまざまな声はまだ止まない。だけど、それだけだ。
「もう、大丈夫。ちょっと驚いただけ」
 みなもの声に、周囲の声がぴたりと止んだ。
「それじゃ、改めて自己紹介しましょうか。ここにいる皆は私以外、長い年月の中で意識を持つに至った人形たちよ。私と炬だけは……そうではなくて、人工的に作られたモノだけれど」
 灯はそう言って、まずは自分のことを語り始めた。
 自分と炬――入り口のあの女性は、ここ久々津館の主人であるハロルドという男に作られたのだと。人工的に人間を作る実験の一つとして、人形に魂を吹き込むという方法によって作られたものであると。
 ただ実験はうまく行かず、最初に作られた灯は、魂は人のそれに近いものの体との繋がりが薄く、動くことができなかった。一方炬は、体との繋がりは確かになったものの、魂が不完全で感情を持つことが出来なかったのだという。
「皮肉なものだわ。どっちが足りなくても、生きているなんて言えはしないもの」
 自嘲気味につぶやく灯。
 生きている。
 その言葉が、重くのしかかる。
「でも、生きている、って何でしょうか。あたし、最近それが分からなくなってしまって。もちろん頭では分かってるんです、生きていることに意味なんかなくて、人生の目的は自分で探し出さなきゃいけないって。ただ……実感したいんです」
 突然変なことを言い出す小娘と思われたかもしれない。
 けれど、一旦口をついて出た言葉は止められなかった。
「それで、色々お話を聞きたくて。後、その……一日だけでいいから、入れ替わることって、できないんでしょうか。何か、あたしにとってきっかけになると思ってるんです。勝手な、話です、けど」
 ――なんだ、外の話が聞けると思ったのに。
 ――また、そういう人間か。
 ――なんでだろうね。好き好んで。
 再び、周囲の人形たちがざわめきだす。
 また?
 みなもの頭の中に浮かんだその疑問への回答をするかのように、灯の声が言葉を繋ぐ。
「そういう人間、これまでもいたのよ。人生に疲れた、もう何もしたくない、でも死にたくないって、人形になりたいってそう言ってくるのね――私からしたら、信じられない話だけど。どれだけ長い間、こうして縛られていることが、どういうことか。分からないのよね」
 ただそこだけ生気を発する燃える瞳が、一瞬だけ、憐れみの色を帯びたように見えた。
「とにかくまあ、そういう話なら仕方ないわ。相手するのは私たちじゃないほうがいいわね。本当に、残念、だけど……貴方いい子みたいだから、またここへ来て、話相手になってくれることを祈ってるわ――じゃ、後はよろしく、レティ」
 最後の呼びかけはみなもへのものではなく。
「了解。話はだいたい聞いてたわ……今度は、こっちへ。どうぞ」
 背後から突然、声がかかる。
 館に来て何度目だろう。狼狽して、振り向く。
 いつのまにか。
 そこには、緩くウェーブのかかった金髪と、そして碧眼の美女が手を差し伸べていた。
「私はレティシア・リュプリケ。普段は向かいで店をやってるんだけどね。貴方の話、もう少し聞かせてもらえるかしら」

●生のありかた

 レティシアの後をついて、部屋の奥にある扉を抜けて、廊下を歩く。
 そこはもう公開していない場所なのだろう、今までとは違い人形が展示などされてはおらず、装飾の類もない。
 歩きながら、みなもは自分の迷いと願いとを語った。
「……一日だけ、か。それは難しいわね。あなた、ここの噂、聞いてきたのよね?」
 頷くみなもを確認して、レティシアは続ける。
「行方不明になったとか、それは本当よ。ただそれは全部、本人の願い。灯からも聞いたと思うけど、人形になりたい、そういう願いを叶えてあげてるの」
 ただし。
 そこから、声音が一段階、低く冷たく下がった。こちらを向き直る。
 相対する格好になった。
「それは後戻りの出来ない選択よ」
 言いながら立ち止まった彼女の奥で廊下は行き止まりとなり、先ほどとは違い質素な扉が立ち塞がっている。
「一度人形になったら、もう元に戻すことはできない。入れ替わりもできない。そんな覚悟まではないでしょう?」
 突き刺さるような宣告。
 もちろん、そんなつもりはない。一生、人形になって暮らすなんて。あくまで、自分の『生きる』ということを考えてみたいだけなのに。
 ぶんぶんと首を縦に振るみなもに、レティシアは相好を崩した。
「それでいいのよ。絶望するにはまだ早いし、達観するにもまだ早いわ、あなたは。でも、少しだけ、生きるってことを考えたいのなら、見せてあげる――この部屋よ。入ってみなさい」
 促される。脇に退いたレティシアをおそるおそる見上げながら、一歩、進む。扉に手を掛ける。
 ゆっくりと、扉を押し開けた。
 と、同時に。
 おぉぉぉおおぉおぉぉっ。
 低い音のうねりが。
 まるで津波のように、みなもを飲み込む。
 部屋の中から染み出てくる闇とともに、一気に襲い掛かってくる。
 それは泣き声でも、怒りでも、恨みでもなく。
 ただひたすらに意味を持たない叫び。
 無意味。無意義。無目的。
 虚無な絶望のみが、そこには満ちていた。
 先ほどと同じように、部屋の暗さに目が慣れてくると。
 これも同じように――無数の人形が、並んでいる。
 けれど満ちている空気は全く違う。
 光を帯びているが、生気のない瞳たち。
 確かに意識を帯びたモノたちの気配はそこにある。瞳に映る生々しさは先ほどの人形たち以上だ。しかし。
 力がない。いや、何もない。
 満ち満ちて流れくるそれは人の声ではあるのに、そこには何もない。
 恐怖よりも先に、不快感が胸の奥からこみ上げてくる。
 吐き気を感じて、うずくまる。
 ただひたすらに、終わりを待つ、絶望たる声たち。
 耳を塞ぐ。それでも、声は掌を越えて届く。
 音に混じって、言葉と成すのは。
 生きることに飽きた。終わりたい願望。
「やめてっ!」
 強く、叫ぶ。
 でも、音は止むことはない。
 急に、腕を引っ張られる。
 音を立てて、扉が閉まり。
 元の廊下に、戻ってきていた。
「今のが、人形になることを選んだ人間たちの部屋よ。いくつかある中でも、特にひどいところだけどね。でも、どれも皆一緒、最後は必ずあの部屋にたどり着くわ。生きることに飽きて人形になって――待っているのはより長い、深い絶望。ただただ時は過ぎる。動くことはない。食べる必要もない。ひたすらに、そこにあるだけ。死ぬことだけは嫌で永遠の時を望んだのに、必ず最後には――終わりを望むようになる。消えたい、と。そこまで言ったら、鴉のやつが現世との意識を絶つ作業をするんだけど、まあ中々厄介な話よ」
 まだ座り込んだままのみなもに、レティシアはなおも言葉をあびせかける。
「――生の反対はなんだと思う? それは死ではなくて、生きていないことよ。いつか来る死があるからこそ、生は意味がある。ここに今こうしていているだけでね。意味を求めてないで、楽しんだり、苦しんだり。時間を使ってもがけばいいのよ。生きることに飽きない限りは、沈むのもまた、それなりに生きている証拠よ。それさえも捨てたら――いつかああなる」
 さあ、立って。
 一転して優しい声を掛けるレティシアに手を引かれて、ゆっくりと立ち上がる。まだ、耳鳴りとなって声は続いている。
「でもね、元から人形でしかないさっきのあの子たちは、前向きよ。時間間隔も違うのかしらね。最初から死を意識したことがないからか、彼らはまた違う時の中を生きてる。それでも、自由に動けて、そして終わりという張り合いがあって生きてる人間を、彼らは羨ましいと思ってる。話相手はいつでも不足してるのよ」
 こっちを向いて。
「これで懲りたかもしれないけど、もし良かったらまた来てちょうだい。今度は、さっきの子達の話し相手にね。これをあげるわ。これがあれば、ここへ入るの、フリーパスになるから」
 そう言って、手に何かを掴ませる。
 小さな、木でできたマリオネット人形だった。
 幸運のお守りにもなってるからね、大事にしてあげて。
 そうしたらその人形も、いつか自分の意思を持つようになるかもしれないし。
 今日は疲れたでしょうから、帰るといいわ。入り口まで送るから。
 みなもは、レティシアに肩を抱かれるようにして久々津館を出た。
 既に、陽が傾いていた。
 綺麗な夕焼けだった。
 これからつぼみをつけようとする木々も。
 普段なんとも思わないつぎはぎだらけのアスファルトの道も、いつもの町並みも。
 なんだか、色鮮やかに見えた。
 暗い館の、あの一番奥の、絶望に比べたら。



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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号/PC名/性別/年齢/職業】

【1252/海原・みなも/女性/13歳/中学生】

【NPC/炬(カガリ)/女性/23歳/人形博物館管理人】
【NPC/灯(アカリ)/女性/60歳/人形博物館管理人】
【NPC/レティシア・リュプリケ/女性/24歳/アンティークドールショップ経営】

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■         ライター通信          ■
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 初めまして。伊吹護と申します。
 発注ありがとうございました。
 実は、OMCに登録して、初めてのお客様になります。
 個室を登録し、発注開始してほどない受注に、本人が一番驚いております。
 生きることを考える、ということでそれに対する返答として書いたつもりですが、いかがだったでしょうか。楽しんでいただければ幸いです。
 今回のお話で、レティシア、炬、灯とは知人レベルになっています。
 館関連で、さらに依頼系かPCゲームノベルの導入を増やす計画はあります。
 よろしければ、これからもぜひともよろしくお願いします。