■Episode Pr-2:不思議な猫探し■
西東慶三 |
【0086】【シュライン・エマ】【翻訳家&幽霊作家+草間興信所事務員】 |
「ボクの猫を探してほしいんだ」
逃げ出したペットを探して欲しい、というのは、本来そう珍しい仕事ではない。
むしろ、草間興信所に来る依頼にしては、あまりにも真っ当すぎるとさえ言えるだろう。
だが、それも依頼人とペットによっては、いささか話が違ってくる。
今回の依頼人は、十歳ほどの金髪の少年――虹野輝晶(にじの・てるあき)だった。
かつて彼にひどい目に遭わされたことのある武彦としては、できれば関わり合いになりたくない相手なのだが、彼はそれでおとなしく引き下がってくれる相手ではない。
「もし、断ると言ったらどうする?」
武彦の問いに、少年は無邪気な笑みを浮かべてこう答える。
「そうだね。見つかるまで、かわりに探偵さんに猫になってもらおうかな」
ただの冗談、ではない。
実際、武彦は彼の依頼を断ろうとして、一度アオダイショウに変えられている。
今回も、武彦があくまで依頼を断ろうとすれば、本当に猫に変えられてしまわないとも限らない。
「……で、一体どんな猫なんだ」
やむなく武彦が話を聞く姿勢を見せると、少年は数枚の写真を取り出した。
「この子なんだけど」
それらの写真に写っていたのは……武彦の予想に反して、普通の黒猫だった。
よく見ると、首の所にきらきらと輝くリボンのようなものをつけている。
このリボンがほどけていなければ、きっと有力な手がかりになるだろう。
……と、武彦が安心したのもつかの間。
「この猫は、多重世界に生きる猫でね」
少年が、したり顔で今回の種明かしを始めた。
「なかなか存在が安定しないんだよね。
だから、いたと思った次の瞬間にはいなくなったり、いないと思ったら突然現れたり」
「そんなもの、一体どうやって捕まえるんだ」
武彦の問いに、輝晶は小さな籠を取り出しながらこう答える。
「この籠の中に入れておけば、少なくとも捕まえた分は逃げることはない。
だから、この猫の存在が安定するまで……つまり、この籠の中から見えなくなることがなくなるまで、見つけたのを片っ端から捕まえてほしいんだ」
どうやら、猫探しは猫探しでも「何匹いるかすらわからない、出たり消えたりする猫を全部捕まえる」というとんでもない仕事のようだ。
とはいえ、今さら「断る」などと言って、本当に猫にされてはかなわない。
武彦は一つ大きなため息をつくと、せめてもの悪あがきに一言こう言ってみた。
「引き受けてもいいが……高いぞ?」
すると。
「これで、前金分くらいにはなるかな?」
輝晶は、一枚の見慣れない紙幣のようなものを取り出した。
10000という数字と、下の方に書かれた「SINGAPORE」の文字は確認できるが、その価値まではとっさにはわからない。
首をかしげる武彦に、輝晶は楽しそうに笑った。
「10000シンガポールドル。日本円にしてだいたい60万円ちょっとくらいかな」
「そうか、60万か……60万だって!?」
この少年がただ者でないことを計算に入れても、さすがにここまでの額がぽんと出てくるとは予想外だった。
武彦が驚いている間に、輝晶はさらにこう続ける。
「無事に猫を捕まえてくれたら後金でさらに同じものをもう二枚。
こっちで使える形にするのは少し面倒かも知れないけど、それくらいの価値はあるよね?」
気がつくと、武彦は反射的に首を縦に振っていた。
−−−−−
ライターより
・シナリオ傾向は未定ですが、ドタバタコメディになる可能性が高いです。
・出たり消えたりする猫ですが、同時に実体化している数は常に一匹です。
つまり、籠の中に猫が見える間は、他の猫が出てくることはないのです。
・猫が実体化する場所及び順番にはある程度の法則性があります。
どうにかしてその法則を突き止められれば、発見はだいぶ容易になるでしょう。
・ちなみに、問題の猫の身体的能力はあくまで通常の猫と大差ありません。
・この依頼の受付予定人数は1〜6名です。
・この依頼の〆切は3月27日午前0時を予定しています。
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不思議な猫探し
〜 厄介な依頼人 〜
「ボクの猫を探してほしいんだ」
逃げ出したペットを探して欲しい、というのは、本来そう珍しい仕事ではない。
むしろ、草間興信所に来る依頼にしては、あまりにも真っ当すぎるとさえ言えるだろう。
だが、それも依頼人とペットによっては、いささか話が違ってくる。
今回の依頼人は、十歳ほどの金髪の少年――虹野輝晶(にじの・てるあき)だった。
かつて彼にひどい目に遭わされたことのある武彦としては、できれば関わり合いになりたくない相手なのだが、彼はそれでおとなしく引き下がってくれる相手ではない。
「もし、断ると言ったらどうする?」
武彦の問いに、少年は無邪気な笑みを浮かべてこう答える。
「そうだね。見つかるまで、かわりに探偵さんに猫になってもらおうかな」
ただの冗談、ではない。
実際、武彦は彼の依頼を断ろうとして、一度アオダイショウに変えられている。
今回も、武彦があくまで依頼を断ろうとすれば、本当に猫に変えられてしまわないとも限らない。
「……で、一体どんな猫なんだ」
やむなく武彦が話を聞く姿勢を見せると、少年は数枚の写真を取り出した。
「この子なんだけど」
それらの写真に写っていたのは……武彦の予想に反して、普通の黒猫だった。
よく見ると、首の所にきらきらと輝くリボンのようなものをつけている。
このリボンがほどけていなければ、きっと有力な手がかりになるだろう。
……と、武彦が安心したのもつかの間。
「この猫は、多重世界に生きる猫でね」
少年が、したり顔で今回の種明かしを始めた。
「なかなか存在が安定しないんだよね。
だから、いたと思った次の瞬間にはいなくなったり、いないと思ったら突然現れたり」
「そんなもの、一体どうやって捕まえるんだ」
武彦の問いに、輝晶は小さな籠を取り出しながらこう答える。
「この籠の中に入れておけば、少なくとも捕まえた分は逃げることはない。
だから、この猫の存在が安定するまで……つまり、この籠の中から見えなくなることがなくなるまで、見つけたのを片っ端から捕まえてほしいんだ」
どうやら、猫探しは猫探しでも「何匹いるかすらわからない、出たり消えたりする猫を全部捕まえる」というとんでもない仕事のようだ。
とはいえ、今さら「断る」などと言って、本当に猫にされてはかなわない。
武彦は一つ大きなため息をつくと、せめてもの悪あがきに一言こう言ってみた。
「引き受けてもいいが……高いぞ?」
すると。
「これで、前金分くらいにはなるかな?」
輝晶は、一枚の見慣れない紙幣のようなものを取り出した。
10000という数字と、下の方に書かれた「SINGAPORE」の文字は確認できるが、その価値まではとっさにはわからない。
首をかしげる武彦に、輝晶は楽しそうに笑った。
「10000シンガポールドル。日本円にしてだいたい60万円ちょっとくらいかな」
「そうか、60万か……60万だって!?」
この少年がただ者でないことを計算に入れても、さすがにここまでの額がぽんと出てくるとは予想外だった。
武彦が驚いている間に、輝晶はさらにこう続ける。
「無事に猫を捕まえてくれたら後金でさらに同じものをもう二枚。
こっちで使える形にするのは少し面倒かも知れないけど、それくらいの価値はあるよね?」
気がつくと、武彦は反射的に首を縦に振っていた。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
〜 作戦会議 〜
武彦と輝晶から話を聞いて、シュライン・エマはこう呟いた。
「なんだか、シュレーディンガーの猫の話みたいね。こっちは箱じゃなく籠だけど」
同時にいろいろな状態にあることが考えられる猫、ということから連想したのだが、あまり今回の事件解決の参考になりそうな気はしない。
少なくとも、シュレーディンガーの猫は、箱の中からどこかへ行ってしまったりすることだけはないのだから。
そんなことを考えていると、今度は守崎啓斗(もりさき・けいと)が口を開く。
「で、その60万が逃げたってのは一体どこだ?」
60万。
これだけの大金が出てきたことには確かにシュラインも驚いたが、それにしてもこの発言はあんまりである。
「えーと、啓斗君?」
シュラインのツッコミに、啓斗にかわって弟の守崎北斗(もりさき・ほくと)がこう説明する。
「兄貴、話聞いた時からこんな調子でさ。
俺は別にそこまでうちの財政切羽詰ってねえと思うんだけど……っ!?」
しかし、その説明も、背後からの啓斗の拳によって中断させられる。
シュラインが以前聞いた話だと、確か守崎家の家計が大変なことになっている最大の原因は、確か毎月かなりの額になる食費だったはずだ。
そして、この二人のうち、大食漢なのは北斗の方であるはずだから――啓斗にしてみれば、財政難の元凶となっている張本人に「そこまで大変ではない」と言われたようなものであり、決して面白い話ではないだろう。
「すんませんわるかったです。俺が大黒柱の脛かじってますっ!」
あっさりとそのことを認める北斗。
まあ、この辺りはこの兄弟のいつものやりとりである。
一同が苦笑しつつその様子を見守っていると、我に返った啓斗が話を本題に戻した。
「それはさておき。安定するまで何十枚……じゃない、何十匹と出るわけか」
途中で若干妙なことを口走った気もするが、そこは無言の了解でさらっと流すのが大人の対応である。
「問題はそこなのよね。何匹くらいいるかわかればありがたいんだけど、虹野くんでもわからない?」
シュラインが輝晶に話を振ってみると、彼は少し考えてこう答えた。
「正確な数まではわからないけど、多分まだ四匹くらいなんじゃないかな?」
四匹という数は、思ったよりも少ないと言える。
だが、それ以上に問題なのは。
「ちょっと待て。今『まだ』って言ったか?」
北斗が素早くその点を指摘すると、輝晶は「何を当たり前のことを」と言うような顔をした。
「言ったよ? 表にいればいるだけ、増えるチャンスが出てくるからね」
どうやら、時間をかければかけるほど、仕事は大変になっていくらしい。
だとすれば、次に問題になるのは、その猫の増える速度である。
「参考までに、逃げられたのはいつ?」
「昨日の昼過ぎくらいかな?
逃げられてすぐに探偵さんに相談したんだけど……その時は多分まだ二匹くらいだったと思うよ?」
昨日二匹で、今日四匹。
ということは、だいたい一日放っておくと残っている猫が倍になるという計算になる。
「それなら、ますます急いで捕まえる必要があるな」
啓斗の言葉に、一同は大きく頷いた。
「この辺の地図と、問題の猫の写真。
とりあえずは、聞き込みで情報を集めてみるのがいいんじゃないかしら。
目撃時間や場所がわかれば、ある程度は猫の出現する法則を掴めるんじゃないかと思うんだけど」
コピーした地図と猫の写真をそれぞれに配りながら、シュラインはそう提案した。
それに対して、啓斗がある疑問を口にする。
「聞き込みか……しかし、聞き込みをすると言っても限度がある。
手に負える範囲を出てしまった猫がいた場合は?」
確かに、武彦や零、輝晶本人を含めても、捜索に割ける人手はせいぜい六人。
ある程度念入りに聞き込みするとなれば、捜索できる範囲はそう広くはならないだろう。
けれども、シュラインにはそれで十分に事足りるという確信があった。
「私は、その可能性は低いと思うわ。
いくら分裂していると言っても元は一匹、それぞれが相互に影響している可能性は高いわ。
だとしたら、広範囲に散らばっている可能性は低いんじゃない?」
「そう言われてみりゃ、そんな気もするな」
シュラインの言葉に、北斗も賛同する。
啓斗を含めた他の面々からも異論は出ず、とりあえず当面は手分けして情報収集を行うことになった。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
〜 途切れ途切れのフィルム 〜
シュラインと武彦、そして輝晶の三人がやってきたのは、とある公園だった。
「猫が逃げ出した場所はここなの?」
「うん。この公園で間違いないよ」
彼の話によると、友達の家に猫を連れて遊びに行った帰りに、公園のベンチで一休みしていたところ、たまたま籠の蓋が開いてしまったらしい。
「それなら、やはりこの周囲を重点的に探してみるべきね」
そう言ってはみたものの、公園の中にいる人の顔ぶれというのは、実は日によって結構違う。
三人で手分けしていろいろ聞いてはみたものの、公園の中ではあまり有効な証言は得られなかった。
公園の外に出ると、少しずつではあるが、目撃証言が集まりはじめた。
事前の予想通り、首につけていたリボンのおかげで、覚えていてくれた人も多いようだ。
それらの情報を地図に書き込みながら、シュラインはふとこんなことを考えた。
(映画のフィルムを、時間軸を無視してばらばらに繋げた様な状態かしら?
それとも……むしろ、何本ものテープを、一台の機械で少しずつ再生している状態?)
「何のこと?」
不思議そうな顔で、輝晶がそう尋ねてくる。
考え事に集中するあまり、何か口に出してしまっていたのだろうか?
そんなはずはないのだが、と思いつつも、特に隠すようなことではないので正直に話してみる。
「ちょっと、問題の猫の状態について考えてたのよ」
すると、輝晶はその話に興味を示してきた。
「それは猫の側から見て? ボクたちの側から見て?」
「両方ね。重要なのは後者だけど」
年の割には頭もいいようだし、猫の飼い主でもある彼なら何か知っているかもしれない。
その期待に違わず、すらすらと答えが返ってきた。
「もともとは同じ猫だけど、分裂した猫は記憶を共有してはいないはずだよ。
だから、自分が実体化していない時間、その猫はどこにも存在してない。
きっと、その間の記憶がすっぽり抜け落ちたみたいになってるんじゃないかな?」
「映画のフィルムの例で行くなら……途中を大幅にカットしたような感じ?」
「それも、話の脈絡を無視して、ね。
テレビ番組をビデオやDVDに録画する時に、番組の途中で何度か録画をやめて、しばらくしてからまた録画を始める、ということを繰り返したような状態……かな?」
つまり、話をぶつ切りにして見せられているような状態、ということか。
猫の側がこの事態をどこまで理解しているのかはわからないが、少なくとも実体化した直後はある程度の混乱が見られる可能性が高い、ということになる。
「感じは掴めてきたわ。それじゃ、私たちの側から見ると?」
「さっきの例でいくなら、何本ものテープを少しずつ見ている状態に近いと思うよ。
ただ、切り替えるタイミングをこっちが選べるワケじゃないから、テレビを見ているけど、リモコンは他の誰かが持っている状態に近いかもね」
不意にチャンネルを変えられるように、不意に実体化している猫が切り替わる。
これはこれで厄介な話ではあるが、猫の行動パターンが掴めれば、ある程度「次にどうなるか」の予測はつけられそうだ。
新聞のテレビ欄をちゃんと見ておけば、少なくとも全く予期せぬ番組を見せられることはないのと同じように。
ともあれ、これだけわかれば、ある程度の対策はできそうだ。
「あとは、そのチャンネルの変わるタイミングが掴めればいいんだけど」
まあ、そこまでうまくはいくまい。
そう思いつつも、一応口に出してみる。
と。
「切り替わるタイミングまではわからないけど、だいたいどの猫も同じくらいの時間ずつ実体化してるんじゃないかな?
まあ、分裂した回数にもよるだろうけど」
驚いたことに、輝晶はこの問いに対する答えも持っていた。
「猫の持ってる時間は一定で、それを分裂するたびに半分に分けている……ということ?」
「多分ね」
これで、また少し作戦が立てやすくなった……が。
「それだけ知ってるなら、最初に教えてくれればよかったのに」
シュラインがそう言うと、輝晶は困ったように頭を掻いた。
「ごめーん。ボクもちょっと慌てててさ」
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
〜 捕獲作戦始動 〜
聞き込みを終えた頃には、すっかり夕方になっていた。
問題の猫が黒猫であることもあって、暗くなると探すのが大変になりそうな気もするが、そうやって一日おけば今度は八匹近くまで猫が増えることになる。
それを避けるためには、探せるうちに一匹でも多くの猫を確保しておくより他ない。
「調べた結果、おそらく現時点で存在する猫は五匹。
公園近くの団地に二匹、商店街とその近くの裏路地、少し離れた駅前に一匹ずつ、ってところね」
聞き込み調査の甲斐あって、猫のいると思われる区域はある程度絞り込めている。
あとは、いかにしてその中から猫を見つけ出し、籠に収めるか、だ。
「籠が一つしかないってのが、問題と言えば問題なんだよなぁ」
北斗がそうぼやいたが、その問題もすでにほぼ解決済みだ。
「一度消滅しても、次に実体化する時はそのすぐ近く、もしくは消滅したのと全く同じ場所に出現する可能性が高いみたい。
だから、なるべく徒歩で移動するようにすれば、仮に一度消えても、その場を動かなければ再度保護できる可能性は極めて高くなるわ」
これならば、あり合わせの籠でも猫を入れておくことが可能になり、作業効率は大幅に改善される。
もっとも、ちゃんと中が見えるようになっていなければ、いつ消滅したのかわからなくなってしまうという危険もあるが。
あとは、猫をいかにして発見し、保護するか、である。
「とりあえず、猫じゃらしでも持ってってみるか?」
北斗の提案は古典的な手段ではあるが、それなりの効果は期待できそうだ。
それに、シュラインもいくつか役立ちそうなものを用意している。
「マタタビスプレーも用意したわ。
それと……武彦さんも連れて行きましょう」
「何でそこで俺の名前が出てくるんだ?」
予期せず自分の名前が出てきたことに戸惑う武彦に、シュラインは笑いながらこう告げた。
「武彦さん、ずいぶん虹野くんに懐かれてるみたいだし。
ひょっとしたら、猫にも懐かれるんじゃないかと思って」
「……そういうものか?」
やはり、この理論には多少無理があるかもしれない。
が、いずれにせよ武彦も作業に協力しなければならないのは一緒なのだから、それはある意味どうでもいいことである。
そして残る啓斗はというと、どうやら輝晶に何事か頼んであったようだ。
「ところで、アレは持ってきてくれたか?」
「もちろんだよ」
そう答えて輝晶が取り出したのは、何やらいろいろ入った紙袋。
「何を持ってきてもらったの?」
シュラインが尋ねてみると、啓斗はやや自信ありげに種明かしをした。
「普段食べさせていた餌を持ってきてもらったんだ。
うまくすれば、これで集まってきてくれるかもしれない。
それに、こっちにはもう一つ切り札もあるしな」
こうして、一同は手分けして猫の保護に向かった。
一匹目は、捜索開始後間もなく団地内に出てきたところをシュラインが見つけ、シュライン・武彦組が確保。
駆けつけてきた輝晶と合流し、無事に籠の中に収めた。
二匹目は、商店街をうろうろしていたところを守崎兄弟が発見、速やかに確保。
しかし輝晶と合流する前に消滅してしまったため、北斗がその場に残って再度実体化するのを待つこととなった。
三匹目は、一人で捜索を続行していた啓斗が裏路地で発見。
安易に猫の餌やいりこ飯などを出したため、腹を空かせた野良猫の大群に襲撃されるというハプニングもあったが、どうにかこうにか保護することに成功し、輝晶の所へと連れ帰って籠に収めた。
四匹目は、再び団地に出てきたところを武彦が発見。
猫は武彦にはあまり懐いてくれなかったが、とりあえずマタタビスプレーでおとなしくさせて保護することに成功。
ところが、その直後に再び消えてしまったため、すぐに籠に収めることはできず。
その後、再び実体化した二匹目を北斗が再度保護し、輝晶と合流。
その十数分後にはシュラインたちが確保した四匹目も再び実体化し、四匹までは比較的簡単に保護することができた。
けれども、すでに辺りが暗くなっていることもあり、五匹目の捜索は難航した。
五人は籠を持って駅前に行き、籠の中から猫が消えた僅かな時間に辺りを探し回り、また、猫が消えていない時間を使って聞き込みを行ってもみたが、ついに見つけることはできず、その日の捜索は断念された。
一日経てば倍になるとしても、一匹の倍は所詮二匹である。
この調子なら、すぐに確保できる。
おそらく、誰もがそう思っていた。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
〜 思わぬ結末 〜
翌日。
駅前を中心に、朝から捜索が再開された。
ところが、猫が見つかる気配も、目撃証言もなく。
猫の足取りは、完全に途絶えてしまった。
ただ、籠から消える時間があることだけが、「猫が全て集まっていない」という事実を示しているのみである。
「……いねぇなぁ」
「ダメだ。こっちにもいない」
「目撃したという話すらないのは妙だな」
「どこに行ったのかしら」
「もう、この辺りにはいないのかなぁ……」
顔を見合わせ、ため息をつく五人。
彼らが顔をあげた時、視界に飛び込んできたのは……。
駅。
『まさか!?』
もし、猫が駅に迷い込み、何かの拍子に電車に乗り込んだとすれば?
適当なところで実体化が解け、電車がいなくなった後で実体化したとすれば?
あるいは、再び電車が来ている時に電車の中に実体化し、どこまでも行ってしまったとすれば?
その上、時間が経てば経つだけ増え、増えれば増えるほど一匹が実体化している時間も短くなる。
こうなってしまうと、とてもではないが追跡できたものではない。
結局、主に守崎兄弟などがその後も捜索を続けたが、結局「電車の中で猫を見た」という報告が数件あっただけで、最後の一匹が――もっとも、すでに一匹ではなくなっている可能性が高いが――見つかることはついになかった。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
〜 その後 〜
「ふぅん」
ゴーストネットの掲示板に書き込まれていたある記事を見て、輝晶――「プリズム」は小さく微笑んだ。
その記事によると、東北地方にあるいくつかの駅に、このごろ黒猫の幽霊が出るようになったらしい。
首にリボンを付けたその猫は、駅のホームや改札付近に突然現れては、幻のように消えていくという。
「そこそこ楽しめたし、そろそろ迎えに行こうかな」
ぽつりとそう呟いて……それから、ふと草間興信所の面々のことを思い出した。
今回も暇つぶしとしてはなかなか楽しめたのだから、感謝の気持ちくらいは送っておいても損はないだろう。
もちろん、彼なりの方法で、だが。
それから数日後。
草間興信所に、一通の書留郵便が届いた。
差出人は、虹野輝晶となっている。
武彦が中を開けてみると、手紙と二枚の紙幣が出てきた。
『猫を全部捕まえてくれなかったので、成功報酬はなしです。
……というのも悪いので、少しですがお礼を送ります』
「……あいつめ」
苦笑しながら、同封されてきた紙幣を手に取ってみる。
紙幣にはやはり「10000」という数字が印刷されていたが、国名はシンガポールではなくルーマニアとなっていた。
「これまた珍しいものを……で、一体これはいくらなんだ?」
その後、ルーマニアの通貨・レイの相場を知った武彦が盛大にズッコケたことは言うまでもない。
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■ 登場人物(この物語に登場した人物の一覧) ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】
0086 / シュライン・エマ / 女性 / 26 / 翻訳家&幽霊作家+草間興信所事務員
0554 / 守崎・啓斗 / 男性 / 17 / 高校生(忍)
0568 / 守崎・北斗 / 男性 / 17 / 高校生(忍)
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■ ライター通信 ■
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撓場秀武です。
この度は私のゲームノベルにご参加下さいましてありがとうございました。
・このノベルの構成について
このノベルは全部で六つのパートで構成されております。
そのうち、三つめのパートにつきましては、シュラインさんのみ違ったものになっておりますので、もしよろしければもう一つのパターンにも目を通してみていただけると幸いです。
・個別通信(シュライン・エマ様)
今回はご参加ありがとうございました。
シュラインさんには、今回も捜査の中心的役割を果たしていただきましたが、いかがでしたでしょうか?
前回同様、最後の一匹が見つからないのはお約束ということで。
ともあれ、もし何かありましたら、ご遠慮なくお知らせいただけると幸いです。
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