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■夜闇に鮮烈■

志摩
【5307】【施祇・刹利】【過剰付与師】
 人通りない裏路地。
 本当に偶然ばったり。
 お互い顔を見た瞬間は誰なのか思い出せなかったが、記憶が蘇る。
 あの月夜で出会った人。
 いきなり襲われる、という事は今はなさそう。

 けれども。
 甘かった。
 乱入者は突然いきなり。
 またも刃物を閃かせながら。



夜闇に鮮烈



「あ」
「あ」
 お互いは、お互いの顔を見て同じ声を重ねた。
 夜闇の中でも、間違えることはない。
 施祇 刹利は先日会った、お月見仲間を忘れていない。
 それは相手、凪風シハルも同じだったようだ。
「こんばんわ、今日は……三日月ですね」
「そうだね、またお月見する?」
「ええ、いいですよ」
 今日は穏やかな雰囲気で、戦う事もなさそうだと感じる。
 刹利はシハルの方へと歩み、どこでお月見をしようか、と柔らかく笑いかけた。
「どこでも、いいです」
 シハルは無表情に答えた。
 なんだか相変わらずだ、そんな印象を刹利は受けた。
「それじゃあどこかのビルの屋上にでも上がって……」
 そうですね、とシハルが頷いた時だった。
 頭上から風の流れを感じてふっと上を向く。
 視界に入るのは落ちてくる人。
 刹利はとっさに体が反応して下がる。それはシハルも同じのようで、とんと一歩後ろへ。
 それだけで落ちてくる、向かってくるものの刃先は避けられた。
 その刃先を向けてくる人物はきらきらと、シハルと対照的に金色の髪。そして右目を隠している。
「レキハ!」
「っ!」
 シハルが名前を呼んだ。刹利は知り合いなのかな、とのんきに思うが雰囲気はそれよりも険悪。
「シハル、逃げんなよっ!」
 振られる刀をシハルはどこからか、いつの間にか鎌を取り出しガキッと高く響く音を持って受け止めた。
「あの、ちょっと……戦うのやめない? よかったらキミもお月見とか一緒に……」
「レキハと一緒なんて嫌です」
「何言ってんのお前!」
 いがみ合う二人。
 止められないな、と刹利は感じるけれどもこのままずっと争わせるのは嫌だ。このまま戦えば、相打ちになる。
 二人の力が今現在拮抗していることからそう感じた。
 援護なんて、シハルは望んでいないはずだ。それにそんな事して勝っても後々シハルに恨まれるだけ。それは折角お月見仲間になったのに嫌だ。
「……ボクが勝てばいいか」
 たどり着いた結論、それはシンプルに一人勝ちして条件を出すということ。
 刹利は呟いて、そして二人に声をかける。
「あのさ、折角だから僕も混ぜてほしいな。それで、ボクが勝ったら、キミたち二人、どちらかがボクに勝たない限り争いは中止してほしいんだ。知り合いなら仲良くしたほうが良いと思うんだよね」
「刹利さん、また条件ですか!」
「うん、そうなるね。面白いでしょ、キミたちも楽しくなる……と思うし」
 キィンと互いの刃をはじいて、二人距離をとる。その真ん中のあたりに刹利。
 視線が交じり合う。
「……お前、そうか、この前シハルが失敗した施祇ってやつか」
「そうそう。キミは?」
 刹利はシハルがレキハ、と呼んでいた男に視線を向ける。彼は空海レキハと短く告げてそして鋭い眼光を向けてくる。
「で、のってくれるの? のってくれないの?」
「何で俺がそんなことしねーといけねーんだよ」
「いいですよ」
 双方ばらばらの言葉。刹利はシハルにはありがとう、と言った。そしてレキハには満面の笑みを向ける。
「条件飲まないと、山葵……それもボクが強化したもの持ってきて、食べさせるよ」
「わさ……わ、わかった、わかったからそれはやめろ」
「うん、わかってくれて、ありがとう」
 刹利は表情を緩めてレキハに答える。
 そしてふと思い出したように呟く。それは自分だけの独白で二人に届くことはない。
「……ん、あれ? この作戦もしかして……ボク勝っても損しかしない? ……気のせいかな? まぁいいや」
 刹利は先ほどの二人の刃の交し合いでおおよその戦闘範囲に見切りをつける。
 得物の長さ、と踏み込み一歩の距離がどうやら間合いらしい。それにつかまらず、うまく周りのものを利用すれば勝てるはずだ。
 刹利は思う。
 殺し合いをしたいんじゃない。
 ただ二人の諍いを止めたいだけ。
 なんだかすぐに解決するような深さではないとは思うけれどもそれでも。
「じゃあ始めよっか」
 軽やかに地を蹴りながら、刹利は言葉を発する。
 それと同時にレキハとシハルも戦闘態勢にすぐ戻る。
 瞳は鋭く強く、まっすぐあるのは三人とも変わらない。
 シハルとレキハは刹利が加わったと言っても双方意識しあって戦闘を続ける。
 薙いで払って、上から下からの応戦。
 けれどもそれは刹利にとっては好都合だった。
 二人の様子を見ながらいくつもの罠を張っていく。
 蜘蛛の巣や、瞬間強力接着剤を強化。傷つけることも無く終わらせようというやさしさがわかる。
「あらかた……これでいいかな、あとは誘導していって……」
 移動しながら罠を張る。ころっと足元に転がる石を二つ三つ拾い刹利は気を引き締めた。
 ひゅん、と二人のほうに石を投げる。もちろんただ石を投げたのではなく、それに殺気を乗せて。
 それを連続で行う。
 シハルもレキハも殺気には敏感なようで、同じタイミングで刹利の方を向いた。そしてその石をすべて避けるように数歩ずつ下がっていく。
「石なんかじゃ殺られねーし! つーかやる気あんのかよお前!」
「やる気はあるけど……まぁ、そのうちわかるよ」
「そのうち……?」
 レキハは何を言っているんだ、と表情を歪ませる。だけれどもシハルは何か引っかかりを感じたらしく眉を一瞬ひそめた。
 二人の立ち位置が罠の一歩手前となる。
 足元には瞬間接着剤の罠。手の辺り、そのまま下がれば蜘蛛の巣がある。
 ぱっと見は普通のものだ。よく見てもわかりはしない。
 いくつか用意された罠のひとつにうまくはまってくれればそれで良い。
 刹利はうまくいくように、と思いながら石を投げた。
「二人が一生懸命なのにボクが一人勝ち……漁夫の利は卑怯な気がするけど、気にしない、ことにする」
 自分の意思を確認するように言って刹利は早く鋭く石を投げた。
 それをレキハは避けたのだが、シハルはそれを鎌ではじいた。
「あ、シハルさんはじいちゃった……けどまぁ、いいや」
 シハルとレキハは動こう、とした。
 けれども動けない。
「!」
「なんだこれ!」
 レキハの足は地にくっつき離れない、シハルの鎌は蜘蛛の巣に絡み動かすことはできない。
 シハルは鎌を引っ張ってみるものの、離れないとわかると手を離し諦めたようだった。
「……これが刹利さんの狙いだったんですね」
「うん、ほら、もう戦えないよね」
「動けなくても間合いにいるからやれんだよ!」
 まだ戦いを続行しようとするレキハは刀を振り上げた。けれどもそれも、強化した蜘蛛の巣に絡み固定されてしまう。
「なっ……!? こんなとこまで罠張りやがって……!」
「はい、ボクの勝ち、だね。二人はこれからどっちかがボクを倒すまで喧嘩しちゃ駄目だからね」
「くっそ……おいシハル! さっさとやれよなお前!」
「レキハに指図されるのは嫌です。また負けてしまいましたね」
 シハルはため息をひとつ、もうやる気もなくなったという風だった。
 彼女は刹利の方を向く。その表情は無表情なのだけれどもどこかやわらかい。
「お月見しに行きましょう。最初の予定通りに」
「うん、いいよ。でもレキハさんを置いていくわけには……」
「大丈夫です、そのうち自分でどうにかしますよ」
「そうなの? じゃあいいかな」
 のんびりと二人でそんな会話をする。もちろんレキハにも聞こえている。
「な、置いていくのかよ! てめぇらゼッテー今日のこと忘れねぇからな!」
「そんな間抜けな格好で言われても……」
「そうだね」
「うっ!!」
 行きましょうか、とシハルは言っててくてくと歩き始める。
 刹利は大丈夫かな、と何度かレキハを振り返りつつその後ろをついていった。
「あのビルの屋上でよさそうですね」
「うん、いいね」
 これからのお月見の予定を二人で楽しく立てる。
 とりあえず場所は決まった。あとはコンビニにでも入って菓子や飲み物の調達だ。何にしよう、とちょっとばかりそれも楽しみ。
 そんな二人の後ろ、置いてきたレキハの叫びが木霊する。
「覚えてろよ!!」
「あれって悪者の言葉だよね」
「そうですね。レキハ、馬鹿だから」
「あはは、そうなんだ。賑やかな人だね」
 刹利は軽く笑い、空を見上げる。
 出会ったときと同じようにきれいな月。その淡い月光の下、刹利とシハルは並んで歩いた。



 施祇 刹利と、凪風シハル、そして空海レキハ。
 今の関係は、相変わらずお月見仲間、一方的ライバル視?
 刹利はこれから狙われるリスクを背負うけれどもそれがどう転がるかわからない。
 次に出会う時、この関係がどうなっているのかは、まだ誰も知らない。
 知るわけが、無い。



<END>



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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号/PC名/性別/年齢/職業】

【5307/施祇・刹利/男性/18歳/過剰付与師】


【NPC/凪風シハル/女性/18歳/何でも屋】
【NPC/空海レキハ/男性/18歳/何でも屋】

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■         ライター通信          ■
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 施祇・刹利さま

 今回は無限関係性ニ話目、夜闇に鮮烈に参加いただきありがとうございました。ライターの志摩です。
 刹利さま自身わかっているようなわかっていないようなプレイングに私も楽しんで書かせていただきました!シハルはともかくレキハはこれから向かってくると思います…!
 次にシハル、レキハと出あったとき、またこれも刹利さま次第でございます。でも三話目はこの二人出てきません!(ぉぃ
 ではでは、またお会いできれば嬉しく思います!