■魔女と姫君 閑話休題■
瀬戸太一 |
【4958】【浅海・紅珠】【小学生/海の魔女見習】 |
「…銀埜、リースは?」
「自室で寝ております。どうやらリックの一件以来、体調が思わしくない様子…やはり負担が大きいのでは」
「リースは魔力自体は高いはずなんだけど…。カリーナはそれ以上だもの。
あの子のキャパシティを超えてるのかもしれないわね」
「…早いうちに何とかしなければ、寝込む以上のことになるやもしれません」
「そうね…ほんとに、何でこんなことになっちゃったのかしら。
…でも、今は寝ててくれて好都合ってところかしら」
ルーリィはそう眉を寄せて呟き、ポケットから一通の封筒を取り出す。
「…届いたのですね」
「ええ、今朝。婆様に頼んで調べてもらった、カリーナの詳細よ。
銀埜、読んでみる?」
そう問いかけられた銀埜は、ゆっくりと首を振る。
「私よりも、まず読んで頂かなくてはならない方々がいらっしゃるでしょう」
「―…そうね」
迷惑かけちゃったものね。
ルーリィはそう呟き、ゆっくりと瞼を閉じた。
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魔女と姫君 閑話休題
「へえー、婆さまって、ルーリィのばーちゃん?」
「ええ。一応、魔女の村の長老の一人なのよね」
ルーリィは、店にやってきた客―…そして今回の一連の騒動に、前回巻き込まれてしまった紅珠と一緒に、
紅珠が手土産で持ってきた骨煎餅をぽりぽりやりながら頷いた。
「それにしても、このお煎餅おいしい。もしかして手作り?」
「へへ、秘密ー。やっぱさあ、問題ごとが起こったときはカルシウム摂取に限るわけよ。
イライラ防止にもなるし、思考力も取り戻せるし。なー?」
紅珠は、にや、と笑って骨煎餅を一本かじる。
前回の騒動で、めちゃくちゃになった自分の店を見て、思わず卒倒してしまったルーリィは、肩を丸めてぽりぽりやった。
「はあ。ほんと、情けないです」
がっくり。
紅珠は一転、あははっ、と笑い飛ばし、手を伸ばしてルーリィの肩をぽんぽん、と叩く。
「まあ、過ぎちゃったことだし? 仕方ねーって。次気をしっかり持てばいいんだしさ!」
「うーん…そうよね。そうなのよねえ」
ルーリィは12歳の紅珠に励まされ、弱々しい声で頷く。
「……紅珠さんの持ってきてくれたお煎餅食べて、カルシウム補給に努めることにするわ」
「うん! それがいーって。あとほら、緑茶もいいよ。煎餅には日本茶!」
「そうね、ああ美味しい。日本って美味しいものがたくさんで羨ましいわあ」
早速気を取り直したのか、紅珠が勧めてくれる緑茶をすすり、はぁ、と息を吐く。
そのばばくさい仕草に、紅珠は思わず噴出す。
「あはは! なんかばーちゃんじゃねえのに、ばーちゃんみたい!」
「あら、やだ。しゃっきりしなくちゃ」
ルーリィは首を振り、無理矢理背筋を伸ばす。
その仕草が面白かったのか、紅珠は笑いすぎてにじんだ涙を手でぬぐった。
「あー、へんなの。でもまあ、落ち着いたっしょ?」
ルーリィは紅珠の言葉に、思わず目を丸くした。そしてにっこり笑って頷く。
「ええ、ありがとう。おかげさまで、ね」
「そりゃ良かった! そんでさ、本題だけど」
そう紅珠が切り出して、ルーリィも姿勢を正す。
手をテーブルの上で組み、紅珠が続けるのを待った。
「俺の予想なんだけどさー。まず、恋愛絡みだと思うんだよね」
「へえ?」
ルーリィは首をかしげ、続く紅珠の言葉を誘った。
「ほら、略奪愛ってーの? 人間が嫌いだっつってたから、好きな人を人間の女に取られたとかさ」
「難しい言葉、知ってるのね。そうね…他には?」
「まあ、色々知識仕入れてるから? うーん、他にはさ、魔女が原因で振られたとか!
ほら前回口喧嘩になったとき、化け物ー、っつってたじゃん? 口喧嘩に慣れてない奴って、
大概自分が言われて嫌なことを咄嗟に言っちゃうことが多いんだよね。
だから、振られたときに自分もそう言われたから、とか」
「成る程…ね」
ルーリィは小さく頷いて、何かを考えるように瞼を閉じた。
そして紅珠に尋ねる。
「何故恋愛絡みだと思ったの?」
紅珠は首を傾げ、うーん、と唸った。
「やっぱ、カリーナが”お姫様”拘ってるからかなあ? 特殊な理由があると思うんだよね。
そーいうことが絡んでなかったら、あんまりお姫様を持ち出さないじゃねーのかな」
「……そうね」
きっと言い出すまでに色々考えていたのだろう紅珠の説をじっくり聞き、ルーリィはもう一度頷いた。
そしてくす、と笑う。
「やっぱり、紅珠さんはただの小学生じゃないと思ってたわ」
「へ?」
突然変なことを言い出すルーリィに、紅珠は思わず目を丸くした。
「どしたの、いきなり」
「ううん、そう思っただけ。…正解はね。半分ぐらい当たりかしら」
え? と目を丸くする紅珠に笑いかけ、ルーリィは手紙を取り出して紅珠に見せた。
「ということで、婆さまからのお手紙よ。…読んでみる?」
その言葉と同時に手紙を差し出され、紅珠は迷わず受け取った。
そして、数分後。
手紙を開き、顔をくっつけていた紅珠が、ぼそ、と呟く
「……ルーリィ」
「うん?」
ルーリィが首をかしげると、ちら、と目を覗かせた紅珠が小さく言う。
「……これ、読めないんだけど」
「……あっ」
思わず口を開くルーリィ。そういえば手紙は魔女の村の文字で書かれていたのだ。
「ごめんなさい! と、とりあえず内容をかいつまんで話すわね」
紅珠から手紙を戻してもらい、苦笑を浮かべてルーリィは手紙に目を通す。
興味深そうな目をしている紅珠に、手紙の内容を語りだした。
「まずね。私の故郷である魔女の村は、大昔に三人の魔女が作ったの。
三人の創始者の名前は、アンクル、コーシア、カルカツィア。
大きな魔法を使うときに用いられる呪文にも入ってるわ」
「ふぅん?」
手紙の内容を話すかに見えたルーリィが、突然自分の村について語りだしたので、
紅珠は不思議に思いながらも相槌を打った。
だが続くルーリィの言葉を聞いて、思わず目を丸くする。
「そしてカリーナの本名は、カリーナ=ウィル=カルカツィア。
…つまりね、この創始者の一人である、カルカツィアと同一人物だったのね」
「……え、でも大昔の人だろ? そのカルなんかっての」
驚いて言う紅珠に、ルーリィは短く頷く。
「そこが問題なのよね。…カリーナ…つまりカルカツィアは、魂と肉体を分離出来たと聞くわ。
そして魂のほうは、今まで精神牢に入れられてた…ってわけ。
元々彼女は、精神に関与する魔法が得意だったらしいの。
でもカリーナの悪例を受けて、今の村じゃあそんな魔法を使える人はいないのだけれど」
「……はー、なんか凄い話になってきたよなあ」
紅珠はそう言って、椅子の背もたれにもたれた。
何百年前の創始者がまだ生き残ってて、そんでルーリィたちを狙ってる…?
まさかそんな、といいたいけれども、長寿という点において自分の祖母を考えてみると、妙に納得してしまう紅珠だった。
「あ。でもさ、前にカリーナの奴、”私の体が戻れば”とかいってたぜ?
もしかして村にまだカリーナの体―…」
紅珠の問いに、ルーリィは短く首を振る。
「存在しないわ、この世の何処にも。きっと彼女は分かってないんじゃないかしら。
自分の肉体がもう滅んでしまっているってこと」
「…じゃあ、半分幽霊ってこと?」
紅珠はゾッとした。魔女で、姫君で、幽霊? 一体何なんだよ、カリーナってのは。
「まあ、魂だけっていう意味ではそうかもしれないわね。
…それでね、紅珠さんの説が半分あたりっていったのは、ここからのことよ」
ルーリィはそう前置きして、また語り始める。
曰く、カリーナ=カルカツィアは、村を作った当初はまだまともだったという。
だが人間の男に恋をして、村から出て行ってしまった。
その当時はまだ、魔女―…異質なものに対しての迫害は凄まじいものだったので、
他の人間に見つかって殺害されてしまった―…。
「……じゃあ、やっぱり幽霊じゃん!」
話を聞き終わった紅珠は、がたん、と立ち上がって両腕を抱えた。
どーしよう、幽霊に悪口言っちゃった! 崇りとかありませんよーに。
「ま、大丈夫よ。…多分」
「うわ、多分っていった!」
どーしようどーしよう、そう連呼して頭を抱える紅珠を慰めるようにルーリィが言う。
「多分じゃなくって、大丈夫よ。ほら、今はリースに憑依してなきゃ動けないみたいだし」
「…そう? リースじゃ大丈夫かなあ?」
「大丈夫大丈夫! だってリースだもの」
何が大丈夫かは知らないが、そうやって元気付けあう二人だった。
やがて気を取り直した紅珠は、改めてルーリィに尋ねた。
「じゃあもしかしてさ、カリーナの奴、その殺されたときに姫君に―…?」
「…かもしれないわね。自分の体がまだあるって思い込んでるのもそれが原因かもしれないわ。
自分が殺されたってことに気づいていないのかも」
そう言って、はぁ、とため息を吐くルーリィ。
…まさか自分のご先祖様が、自分を狙うことになるとは。
「…なら、お姫様ぶってんのは、カリーナ自身の希望だったりしてな。
だってお姫様だったら、”王子”の仲間に迫害されて殺されるなんてことねーもんな」
「……そうね」
そういう意味で言えば、カリーナも被害者のうちの一人であるかもしれない。
…だが、だからといって放っておけるわけでもない。
「そんでさ、何で童話の世界に取り込んでるわけ? あとこの前貰った羊皮紙とかさー」
「ああ…それなんだけど」
ルーリィは紅珠の問いに、申し訳なさそうに肩をすくめた。
「肝心のそれが、まだ分からないのよね。カリーナの正体ぐらいしかわからなくて、
彼女が何を企んでるのかが、さっぱりなの」
そう言うルーリィに、一旦は肩透かしを食らった紅珠だったが、ぶんぶんと首を振って思い返した。
そしてルーリィを元気付けるように拳を固める。
「でもさ、正体が分かったんだから、これからも何とかやりようがあるって!
俺も具体的な悪口いってやれるもん」
ふふん、と自信満々で胸を張る紅珠。とりあえず幽霊云々のことは考えないようにしたようだ。
「……そーよね、さすが海の魔女」
「へへん。よーっし、そうと決まったら、悪口のバリエーション考えとこ!
今度こそ言い負かしてやるんだー」
そう言って、鼻息荒く意気込む紅珠だった。
ルーリィはそんな紅珠を頼もしく見つめながら、どうかカリーナの余波が
この少女にも降りかからないように、と心の中で祈っていた。
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▼ 登場人物 * この物語に登場した人物の一覧
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【整理番号|PC名|性別|年齢|職業】
【4958|浅海・紅珠|女性|12歳|小学生/海の魔女見習】
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▼ ライター通信
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こんにちは、いつもお世話になっております!
今回の閑話休題に参加頂き、ありがとうございました。
中身的には短いものとなっておりますが、
これからの連作において、プレイングや紅珠さんの思考の役に立てますように、と
そういう意味をこめて書かせて頂きました。
また連作のほうでお会い出来ましたら、
是非今回の話を活用して頂けたらな、と思います。
それでは、またお会いできることを祈って。
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