コミュニティトップへ



■あの日あの時あの場所で……■

蒼木裕
【1335】【五代・真】【便利屋】
「ねえ、次の日記はカガミの番?」
「ああ、俺だな」


 此処は夢の世界。
 暗闇の包まれた世界に二人きりで漂っているのは少年二人。そんな彼らの最近の楽しみは『交換日記』。だが、交換日記と言っても、各々好き勝手に書き連ねて発表するというなんだか変な楽しみ方をしている。そのきっかけは「面白かったことは書き記した方が後で読み返した時に楽しいかもね」というスガタの無責任発言だ。
 ちなみに彼らの他に彼らの先輩にあたるフィギュアとミラーもこの交換日記に参加していたりする。その場合は彼らの住まいであるアンティーク調一軒屋で発表が行われるわけだが。


 さて、本日はカガミの番らしい。
 両手をそっと開き、空中からふわりとノートとペンを出現させる。
 開いたノートに書かれているのは彼の本質を現すかのように些か焦って綴られたような文字だ。カガミはスガタの背に己の背を寄りかからせ、それから大きな声で読み出した。


「○月○日、晴天、今日は――」
+ あの日あの時あの場所で…… +



■■■■



「ねえ、次の日記は誰の番?」
「次の日記は誰の番だー?」
「だぁれー……?」
「あ、僕っ!」


 三日月邸の和室でスガタ、カガミ、社、いよかんさんの三人と一匹はいつも通り和菓子とお茶を楽しんでいた。そんな彼らの最近の楽しみは『交換日記』。だが、交換日記と言っても、各々好き勝手に書き連ねて他の三人に発表するというなんだか変な楽しみ方をしている。そのきっかけは「面白かったことは書き記した方が後で読み返した時に楽しいかもね」というスガタの無責任発言だ。


 ちなみに本日は社の番らしい。
 彼女はよっこいせっと懐からノートを取り出す。それからばふんっと勢い良くノートを開いて、すでに書かれている文字を見下げた。
 彼女は皆の方を見る。それから大きな声で読み出した。


「三月二十九日、晴れ。今日はー……」



■■■■



「ど、何処だ此処……」


 俺、五代 真(ごだい・まこと)はざっかざっかと腰ほどまである草を掻き分けて歩く。
 確か自分は近道して街に出ようと思っていたはずだ。単純に公園の中に入って横切る……其れだけのはず、だった。だが、今のこの状態は何だ。自分が迷い込んでいるのはどう見ても鬱蒼と茂る森の中ではないか。本当に何処に迷い込んでしまったのだろう。背負ったリュックサックを抱え直して尚も進む。
 すると、草木が途切れた。


「お?」
「あ?」


 抜けた先に居たのは猫耳を生やした蒼い髪の女の子。
 年は十二くらいだろうか。彼女はきょとんっと真っ直ぐ自分を見ていた。その手になにやら草が握られている。雑草毟りでもしていたのだろうか、それとも薬草でも取っていたのだろうか。
 ああ、自分は本当に何処に来てしまったのだろうか。慌ててポケットから地図を取り出す。公園を抜けた先は確かオフィス街のはずだ。だが、目の前にあるのはオフィス街とは程遠い日本家屋らしき邸だ。


 仕方なく、此処は何処なのか女の子に訪ねようと足を一歩踏み出した途端。


「あんた得物ね?!」
「はぁ!?」
「迷ったんだよね!? 迷子なんだよね〜?」
「あ、ああ……多分」
「よっしゃ! お客ゲットー!!」
「え? え? な、何事だぁあ!?」
「にゃっはは〜ん! 三日月邸にようこそなんだよね〜っ!」


 ずりずりずり。
 俺は思いっきり手を捕まれ、そのまま引き摺られる。そしてそのまま三日月邸と呼ばれる建物の中に強制的に突っ込まれてしまった。



■■■■



「んー……こっちのおへやのおそーじ……おねがいしていー?」
「おう、構わないぜ。……うわっぷ!! 何々、此処どれだけ掃除してねーわけ!?」
「……のーこめんと?」
「……ま、まあ蜘蛛の巣が張ってないだけましか」


 俺ははたきを手に部屋の中に入る。
 埃が僅かに舞い上がり、鼻先を擽る。だが、此処でくしゃみをすればもっと埃が立ってしまう。布巾を口に巻き、頭の後ろできゅっと括る。そうしてぱたぱたとはたけば、埃がもっくもっく。
 そんな俺の足元にはいよかんさんという謎生物がいる。伊予柑六個分をむにゅーんっとくっつけた背の高い伊予柑生物だ。彼? の手にも小さなはたきが握られていて、ぱったぱったと埃を落としていた。


「ごだいもー……さいなんだねー……まいごになるなんてー」
「まあな。でもまあ、掃除洗濯とか雑用さえやれば宿代タダにしてやるって社ちゃん言ってくれたしな」
「いまー……くうかんとじちゃってるからー、かえれないもんねー」
「そーそー。だからこれくらいはしとかなきゃ。あ、これが終わったら夕食にするからな」
「ごはんー……!」


 両手を上げ、ぴょんこぴょんことじゃんぷをして喜ぶいよかんさん。
 だが、そんな動きをこの埃塗れの部屋ですれば……。


「げほがはうげぶし!! へーっくちゅーん!!」
「あーあ、思いっきり埃吸い込みやがったな……。ほーれ、外行って新鮮な空気吸って来ーい」
「ぁあーん!!」



■■■■



「あ、このご飯んまい。社が作るよりうまいんじゃねえ?」
「……かーがみん? 其れは暗に僕の料理は美味しくないって言っているのかなぁ?」
「お前はどうしてそう捻くれた考え方しかできねえんだよ!!」
「でも五代さんのご飯本当に美味しいですよね。米の炊き方一つにしても僕達が炊くよりも的確ですし。ね、いよかんさん」
「んむぅ……あむあむ、はっふぅーん。おいしー……!」
「あ、いよかんさん。ほっぺに米粒付けてるぞ?」
「あうー? とってとってー」


 夕食はスガタ、カガミ、社、いよかんさん、そして俺の五人で食べる。
 いよかんさんが米粒を取ってくれと真向かいの俺の方に顔を突き出してきた。くっくっと笑いながら手を伸ばして米粒を取ってやる。すると、勿体無いとばかりにいよかんさんはしゅばっと取ったばかりの米粒を勢い良く食った。
 そして再びイスに腰掛けてもっきゅもっきゅと咀嚼を再開させる。しかし、口が開かないのにどうしてモノが食べれるのだろうか。それとも食べるのが早くて口を開けているように見えないだけなのだろうか。うーむ、良く分からん。


 いよかんさんの針金口がもっきゅもっきゅと波打つ。
 其れが妙に幸せそうで俺も思わず顔が緩んでしまった。


「しかしお前、幸福そうに食べるな。こっちまでそういう気分になるぜ」
「しあわせー……!」
「食は人間の三大欲の一つですからね」
「ま、人間じゃねーけどな……」
「硬いこと言わないのー! 五代、ご飯お代わり!」


 社ちゃんが俺に茶碗を差し出す。
 隣に置いてある桶からご飯をよそって返してやると、嬉しそうに食べ始める。自分の作ったものをこうして笑顔で食べてもらえるのは本当に嬉しい。しかし彼女はこれで五杯目だ。何となくお腹は大丈夫なのだろうかと心配になる。
 しかし、がっつがっつと食う彼女を見て思わず。


「社ちゃんは大食いだなー」


 と、零してしまった。


「うぐッ……! お、乙女でも美味しい物には目がないのー!!」
「乙女って柄かよ……」
「てい! 菜箸クラッシュ!!」
「あだぁああ!!」


 こめかみに青筋を浮かべた社ちゃんが脇に置いてあった菜箸を勢い良く投げつける。
 その菜箸はぐさっとカガミの眉間に刺さった。ごろごろと床に寝転がって悶えている彼を見て、思わず顔の筋肉がひくひくと引き攣る。社ちゃんはにぃっこりと微笑んだまま、またしても。


「五代、お代わり!」


 と、茶碗を差し出してきたので、俺は大人しくご飯をよそうことにした。



■■■■



「いっだぁああ!!」
「よしよし、でも一応傷は浅いぞ?」
「あの馬鹿社……本気で突き刺してきやがって……」
「社ちゃんは怒らすと怖いねぇー」


 夜はカガミと一緒に風呂に入る。
 彼は菜箸クラッシュによって負傷した眉間を指先で撫でていた。お湯に触れると痛いらしく、カガミはぅーっと唸る。赤く腫れ上がったその場所を見て俺は苦笑してしまった。


「ほれ、百まで数えろよー」
「子供じゃねえってば」
「それでも身体が冷えてちゃ風呂で温まる意味がねえからな。ほれ、いーちにー」
「……さーん、しー」
「よしよし、いい子いい子」
「子供じゃねえってば」


 頭を撫でてやれば膨れ面が返って来る。
 カガミはぶくぶくと顔半分付ける様に身体を丸めた。その行動が子供らしいと思う起因になっているのだが、あえて口には出さない。やがてぶくぶく音に混じって聞こえてくる数字。ちゃんと大人しく百まで数を数えてる辺り、いい子だなーとこっそり思った。



■■■■



「あ、お風呂はどうでした? 布団は敷いておきましたからいつでも寝れますよ」
「お、悪いな。スガタ」
「いえいえ、社ちゃんって結構人使い荒いでしょう? 流石の五代さんでもお疲れでしょうし、それだったら早く寝たいだろうと思って」
「俺端っこー!!」


 宛がわれた部屋に戻ってみると、布団が三つ並べられていた。
 カガミが一番奥の布団にばっふんっと倒れこむ。そんな彼に対してスガタが「布団がぐちゃぐちゃになるから飛んじゃ駄目」と叱った。俺は頭に引っ掛けていたタオルをするっと引っ張る。今自分が着用しているのは大人用の浴衣。紺色の其れはサイズがぴったりだった。他の二人もお揃いの浴衣を着ているので、俺はふと修学旅行だとかそういう雰囲気を思い出す。
 真ん中の布団を有り難く頂くと、スガタとカガミに挟まれることになった。布団の上で胡坐を掻きながらタオルで再度頭をがしがし拭く。スガタがじぃっとこちらを見ていた。


「そうそう、今日は本当に美味しいご飯有難う御座いました」
「あー、結構自炊には自信があるんだよ。各地を点々としてるからねぇー。そうそう、お前は何か好きなものはあるか?」
「んー、……僕達はあんまりそういうのが必要じゃないからちょっとわかんないです」
「と、言うと?」
「本当はね、食べなくても問題のない生き物ってことです」


 困ったようにスガタが眉を寄せる。
 この世界には本当に不思議生き物がいるので、彼らが別に人間じゃなくても俺は吃驚しない。だが、食べなくても……と言われるとちょっぴり寂しい気がした。


「でも食べれるんだろう?」
「じゃなきゃ美味しいだなんて言いません」
「じゃあ、食え。美味しいもんがっつがっつ食え。んで食べることの幸せに浸りゃあいいじゃねえか。幸せがなきゃ、やっぱ寂しいだろ」
「その台詞……少し恥ずかしく有りません?」
「実は、ちょっと?」


 俺は指をCの形にしてウィンクをする。
 スガタは一瞬目を丸めた後……ふわっと笑った。俺はごろんっと敷き布団の上に寝転がる。掛け布団を手繰り寄せると丁度いい重みが身体に圧し掛かってくる。隣を見ればカガミは既にくかーっ! と眠っていた。スガタもまた横になる。俺は手を上に持ち上げた。


「んじゃ、おやすみー」
「はい、おやすみなさい」


 紐をくいっと引いて照明を落とし目を伏せれば、俺もあっという間に夢の世界に落ちた。



■■■■



「今日の分の薪割りはやっただろー、それから掃除も完璧。朝飯も……うん、よしっ!」


 朝一番に起きた俺は指を折りながら物事を確認をした後、ぱんっと両手を叩き合わせる。
 目の前にはサラダ、目玉焼き、トーストと簡単なものではあるが、自分が作った朝食が並んでいた。その出来上がりの様子に満足してうんうんと頷く。俺は足元に置いてあったリュックサックを手に取る。
 それからくるっと振り向くと。


「五代……帰るんだ」
「あや、社ちゃん」
「……ま、仕方ないよね! あ、朝食有難う〜っ!!」


 一瞬寂しそうな顔をしたかと思えば、次の瞬間には満面の笑顔でお礼を言う社ちゃんに俺はちょっと照れてしまう。
 ぽりぽりと頬を指でかいていると、「ご飯美味しそうだね」と彼女が言った。俺はポケットの中から手紙を取り出し、彼女に手渡す。社ちゃんは其れを受け取ると、きょとんと丸い目を持ち上げてくる。そんな相手の頭をぽんぽんっと撫でてやると、複雑そうな顔をされてしまった。


「じゃ、俺もう行くから。他の三人……じゃねえ、二人と一匹によろしくな」
「あ、うん! 今はもう空間開いているから戻れるけど、そっちの世界でも迷子になっちゃだめだよ〜!!」
「そりゃあな。じゃあ俺もう行くわ。社ちゃん、あんまりカガミ虐めてやんなよ?」
「あ、そりゃ無理な話なんだよね〜! あいつ弄られ性質だから!」
「はっはっは!」


 俺はリュックを背負い、三日月邸を後にする。
 最初と同じでがっさがっさと草木を掻き分けて歩く。やがて見えたのはオフィス街。其処まで歩いて俺はやっと自分があの空間から抜けたことを知った。



■■■■



「そんなわけで五代は帰っちゃいましたーとさ」


 社が日記を読み終え、顔を持ち上げる。
 すると、聞いていた二人と一匹がぷっくぅと頬を膨らませているではないか。


「ぶー!! なんでなんで、内緒で帰っちまったんだよー!」
「そうですよね。お見送りくらいさせてくれたって良いのに……」
「ごだいのばかぁー……」


 どうやら一気に寂しくなったらしい。
 社もまたふぅーと溜息を吐いた。だが、はっと気が付くと日記をぱららっと捲る。挟んでおいた手紙を見つけると、素早く広げる。其処には五代らしい力強い字でこう書かれていた。


『ありがとな、社ちゃん。世話になった』


 しんみり。
 三人と一匹の間に静かな空気が流れる。だが、行き成り社は自身の顔をバンっと叩いた。その行動に吃驚したのは他の二人と一匹。どうしたんだ? と心配そうに見つめていると社はいつもの笑顔を浮かべた。そして窓をばっと開くと、大声で叫んだ。


「今度来たらもっとこき使ってやるんだからね〜! 覚悟しておきなさいよー!!」


 ふぅ。
 叫んですっきりしたのか、社の表情は晴れ晴れとしていた。スガタとカガミ、そしていよかんさんも互いに顔を見合わせる。
 また次も逢えますように。
 三人と一匹は密かに同じ気持ちで笑顔を浮かべた。



……どっとはらい☆





□■■■■■■□■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
□■■■■■■□■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
【1335 / 五代・真 (ごだい・まこと) / 男 / 20歳 / バックパッカー】

【NPC / スガタ / 男 / ?? / 案内人】
【NPC / カガミ / 男 / ?? / 案内人】
【共有化NPC / いよかんさん / ? / ?? / いよかん(果物)】
【共有化NPC / 三日月・社(みかづき・やしろ) / 女 / ?? / 三日月邸管理人】
□■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
■         ライター通信          ■
□■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■□

 こんにちは、いつも発注有難う御座いますv
 今回はNPC達と思いっきり絡んで頂きまして嬉しく思いますっ。温かい物語になったと思いますので、読んで心がほっこりして頂けたなら幸いですv