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■封印の祭壇■ |
緒方 智 |
【2829】【ノエミ・ファレール】【異界職】 |
床に描かれた精緻な魔方陣。
その中心で青白い光に包まれた剣が浮かんでいた。
油の滴りそうな刃。優美な獅子と鷹をあしらった鍔は見る者の心を奪う。
レムは自ら生み出した剣に歩み寄ると、賢者からもらった霊薬を躊躇なく撒き散らす。
瞬間、青と赤の炎が巻き起こり、剣を焼き尽くさんばかりに覆い尽した。
が、それが消えた後には見事な波紋が刃身に刻み付けられていた。
「完成した・・・・これで、決着がつく。」
レムの呟きが誰に聞かれるともなく響いた。
「剣ができた。すぐにそっちに送る手配をする。」
レムの言葉に鏡面に映る少年が真剣な表情で頷くが、一抹の不安をよぎらせる。
ラスタ鉱山から始まった一連の事件。
裏で操る奴に感づかれているのだ。
へたに動くわけにはいかないことは少年にも分かっている。
だが、レムとてそれを見逃す訳ではない。
「手は打つ。これ以上……一族の名を汚す者は許しておけないからね。」
冷ややかに言い放ったレムの背後でゆらりと影が蠢いた。
「この包みをブルムに届けてもらえる?私の弟子がそこで待っている。そいつに渡してほしい。」
にこやかな笑みを称えてレムは頼むが、その瞳はどこか鋭かった。
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封印の祭壇〜清き水晶の絆
白銀の切先が閃き、血飛沫が舞う。
どうと倒れた魔物の後ろから別の魔物達は蜘蛛の子を散らすように森の奥へと姿を消す。
容赦なく襲い掛かる魔物の群れに防戦一方に追い込まれた三人はその華麗にして冷酷な一撃に思わず息を飲む。
剣についた血糊を払い、鞘に収めると少年はようやく彼らに顔を向けた。
「危険な依頼になる。それだけは覚悟しておいてもらえるわね。」
なじみとなった銀髪の彫金師・レディ・レムの鋭い視線に三人は無言で頷くと、細長い包みを受け取った。
―ブルムの町にいる弟子に完成した剣を渡して欲しい。
単純な言葉の羅列にすぎない依頼。
しかし、その旅路は困難極まりなかった。
明らかに正気を失った魔物たちが我先にとアレスディア、オーマ、ノエミの三人に襲い掛かってきたのだ。
不殺を誓っているオーマはもちろん、アレスディアとノエミも無闇に命を奪いたくはない。
ましてや、操られている哀れな魔物を殺すことなどできなかった。
攻撃をかわすと、アレスディアは素早く背後に回りこみ、剣の柄で強烈な打撃を加え、その意識を失わせる。
『キュア・スフィア』や魔法を駆使し魔物の動きを鈍らせ、アレスディアとオーマのサポートをしつつ、ミラースマッシュで攻撃を弾き返す。
二人に負けじとオーマは格闘技を駆使して魔物たちを次々と気絶させる。
だが、魔物数は減るどころかさらに増していく。
そのあまりの数に三人は辟易する。
なんとか攻撃をかわし、街道沿いにある宿場町に着いた時には疲弊しきっていた。
「凄まじいな…こいつは」
「今回も妨害が入るのだろうなと予想はしていた……これが最後の機会だと言わんばかりに。」
「ええ……それほどまでにこの剣が邪魔なのでしょうね。」
テーブルに置かれた包みを見つめ、三人は小さく息をつく。
詳しいことは聞かなかったが、前回の霊薬の件といい今回の事といい、敵は並大抵の相手ではない。
あれだけ大量の魔物を操り、霊薬や剣を奪おうとする者。
レディ・レムは何かを掴んでいるようだったが、何も言わなかった……いや、あえて何も言わずに依頼していた。
が、三人はそれ以上追求するつもりはなかった。
何か考えあってのことだろうし、何より彼女を信頼している。そして、レディ・レムも自分達を信頼してくれている。
それに答えるべく、今は一刻も早くブルムにいる彼女の弟子に剣を届けなくてならなかった。
宿場町を離れると同時に魔物の凄まじい攻撃が待ち構えていた。
新手の魔物だけでも厄介というのに、先日倒した魔物まで現れるものだから手に負えなかった。
「まずいな、数が多すぎる!」
「だからっていって殺れるわけねーだろ?!」
キュアウルフと呼ばれる狼型の亜種を数体なぎ払うが、さらに増す魔物にアレスディアが舌を打つとオーマがつかさず大声で叫び返す。
頭では分かっている。
本気で倒さなくてはこちらがやられると。
けれども操られているだけの―被害者ともいうべき存在の命を奪う事などできなかった。
こうして話している間にも魔物は攻撃を増していく。
「魔法で援護します!」
叫ぶと同時にノエミは完成させた魔法を解き放つ。
深紅に染まった魔物の瞳がさらに狂気を増す。
血に飢えたうなり声を上げ、魔物たちは三人に怯むことなく襲い掛かった。
「下がれ!そいつらを本当に助けたかったら手を出すな!」
涼やかな凛とした声が響く。
三人と魔物の間に一つの影が割って入る。
銀色の風が一瞬にして閃く。
わずかな鮮血が空に散り、どうと魔物は倒れ伏し、ぴくりとも動かなくなる。
「お久しぶりです。オーマ、アレスディア、ノエミ。」
「久しぶりじゃねーっ!!どういうつもりだ!」
見せ付けられた冷徹な技とは裏腹に明るい笑顔を向ける少年にオーマは怒りをにじませ、掴みかかる。
不快感を露にアレスディアは眉をしかめ、あまりに残忍な光景に目を伏せるノエミ。
現れた少年を彼らは知っていた。
彼こそ剣を渡す当人であり、レディ・レムの弟子であった。
出会った頃と変わらない笑顔をこぼす少年。
少年を知っているからこそ、この光景が許せなかった。
「別に殺してはいないよ。」
やれやれと肩を竦め、少年は目で倒した魔物をさす。
何を今更と、三人は魔物を見やると先ほどまで全く動かなかったはずの魔物の身体がかすかに動く。
驚愕し、思わず掴んだ手を外し、その光景を凝視する。
幽鬼のごとき漆黒のオーラが魔物の身体から立ち込め、小さく何かがはぜる音がした。
その瞬間、魔物の姿は大きく変貌を遂げ、アレスディアの腕に収まるほどの―子犬程度の大きさの動物となる。
小さく身体を震わせると彼らに怯えるように茂みへと姿を消す。
「これは……」
「説明してる暇なかったからね。首領っていうか、親玉の得意技が魔物を操るだけじゃない。無害な動物を魔物に変えて操ることもできるんだ。」
驚愕し言葉を失うノエミたちに少年は逃げ去った動物のいたあたりにかがみこむと、二つに割れた黒い石を拾い上げた。
「なんだ?その石は。」
「オプシディアンっていう鉱石だ。」
怪訝な表情を浮かべるオーマに少年は拳を握りしめると、石はあっけなく砕け散る。
「隠された能力や真の自分を解放させる力が秘められた石で、こいつが操る元凶。人に贈るとその人を操るっていう謂れもあるから決して贈ってはならない。逆に言うと……」
「魔物を操るには格好の道具と言うわけなのだな?」
「そういうこと。おまけに埋め込んだ場所まで遠隔操作できるから、この場合説明してる余裕なかった。」
驚かせて悪かったよ、と詫びる少年をアレスディア達はこれ以上とがめるつもりはなかった。
そういう事情があったならば、彼の判断はまさに最善の判断であり妥当なもの。
自分達だけでなく操られていた魔物―動物を救うにはそれしかなかった。
「ところで……なんで、お前がここにいるんだ?ブルムまであと2〜3日かかるのにな。」
納得して頷いていたオーマだったが、ふいに浮かんだ疑問を口にした。
レディ・レムの話では彼はブルムの町で待っているはず。
にも関わらず、どうしてこんな離れた街道にいるのか?
疑問に思うのは至極当然のことだった。
「ブルムで待ってても変わんないからね。1日中魔物に襲われてたし、みんなも襲われてるって予想もついたからこっちから合流した。」
間に合ったから良かったよ、と笑う少年に釣られるように三人も今までの疲れも忘れて笑い声を上げた。
「目的の場所ってのはどの辺りだ?」
「もう少し先。あの岩場だよ。」
取り囲んでいた魔物たちの最後の一体を倒した少年にオーマは肩をまわしながら問いかける。
目の前に広がる荒野の先に見える岩場を指差しながら少年は息を整えた。
ブルムの町をさらに北上し、たどり着いたのが岩肌がむき出しとなった荒野。
ここが最終的な目的地だと少年は語った。
どんな意図があるのかは語らなかったが、ここが決戦の地になることをアレスディアは感じ取っていた。
受け取った剣を抜くどころか、その包みを解くこともなく少年はそれを背負い、目的の場所を目指している。
その姿にはただならぬものがあり、自然とアレスディアも気を引き締める。
整えられていない自然そのままの荒野にようやく踏み込んだ瞬間。
ごうと風がうなりを上げ、憎悪を孕んだ殺気が彼らの間を駆け、反射的にその場から離れる。
炸裂音と閃光。
立ち込めた砂煙が消えた後には大地が不自然に醜くえぐり取られていた。
「ようやくお出ましか。反逆者さん?」
「ちっ……あいつに似て、いー性格してやがるぜ。」
挑むように空を睨む少年。
その視線を追うと、大剣を肩に乗せた赤髪の男が浮かんでいた。
忌々しそうに舌をうち、すぅっと大地に下りてくる男にアレスディアは言い知れぬ重圧を感じた。
「なにもんだ?こいつ。」
オーマもそれを感じ取っているのか、声音が幾分堅い。
得体のしれない力にわずかばかり恐怖を覚える。
「レディ・レムの一族…神竜族の恥さらし。」
「何が恥さらしだ。『神』の名を持つ一族として当然のことだ。」
尊大に胸を張る男を少年だけでなくアレスディア達は睨みつける。
「ふざけるな!罪のない生物を操るわ、実験台にするわ……挙句に多くの異世界で無意味な争い引き起こして、何が『神』だ!!全竜族の名を汚しておいてよくも言えたな!!」
キッと剣を突きつける少年。
その言葉の激しさにアレスディアは驚愕すると共に男が引き起こした一端を知り、怒りを胸にたぎらせる。
短い言葉だが、この男がどんな非道を行ったのかは明白だった。
鋭い眼差しで構える剣を構えるアレスディアとノエミ。
複雑な色を走らせつつも、険しい表情で男を睨むオーマ。
「卑小な分際でほざいたな!!覚悟しやがれ!!」
彼らの行動を、いや、レムに力を貸したということが赤髪の男にとってすでに反抗だった。
異様な光の筋が立ち上らせた男の全身が盛り上がり、異形の姿へと変貌する。
深紅に染まった銀翼がはためき、オーマたちの身体を吹き飛ばさんばかりの烈風が貫く。
一瞬、全身が浮き上がった途端、禍々しい咆哮を上げた一頭の巨大な竜が炎を撒き散らし、無防備になった彼らを襲い掛かった。
「何という力なの……」
岩陰に身を隠し、その様子を窺っていたノエミはその強大な破壊力にしばし息を飲む。
反逆者とはいえ、さすがはレディ・レムの一族。身にまとう魔力はノエミのそれを遥かに上回っていた。
だが、ノエミやオーマには目もくれず竜はアレスディア、いや、アレスディアと共に行動している少年に憎悪をたぎらせ、炎を吐き散らしていた。
だからといって彼女達が安全というわけではない。
敵も二人の動きには目を光らせ、隙あらばその命を奪おうと窺っている。
―うかつに手は出せない。
狂気と殺戮に犯された瞳と全身から溢れ出る魔力にノエミの血がざわりとざわめいた。
途方もない力に全身の血が逆流を始め、何かが奥底から顔を覗かせる。
一瞬、目の前が真っ白になり、思わずノエミは片膝をつく。
気付くと剣を握る手が震え、透明な汗の雫が指の間を滑り落ちていく。
「くっ……!!」
我が身に起きつつある異変に沸き起こる異変を押し殺しながらも、ノエミの喉からは苦痛にも似た呻きがこぼれた。
不意に風が鳴り、けたたましい竜の咆哮が突如響き渡る。
オーマの銃口から放たれる閃光と紫煙によって視力を奪われ、鋭く舞うアレスディアの白刃を浴びて苦しむ竜の姿がノエミの目に映る。
攻守の取れた戦法だが、致命的なダメージを与えてるものではない。
このままではただ消耗するだけで、負けは明らかだ。
「守らなくては……私はその為に剣を手にしているのだから!!」
叫んだ瞬間、身体の内で何かが強く脈打ち、ノエミの自我を喰らい尽くさんばかりの衝撃が襲い掛かる。
血が沸騰し、強烈な魔力が全てを突き破らんばかりに燃え上がった。
「ノエミ!!」
自分を呼ぶ少年の叫びが遠くから聞こえた瞬間、ノエミは意識を手放した。
その場に倒れ伏したノエミに駆け寄ろうとした少年は一瞬足を止め、目の前で起こった光景に息を飲み―舌を打った。
ノエミの身体から幽鬼の如く巨大な狼―幻狼が唸りをあげ、少年の頭上を飛び越え、竜に挑みかかっていく。
幻狼の周辺が天からの一撃を受けたように、不自然にめり込み、応戦していたアレスディアとオーマもその影響を受け、うずくまってしまう。
意識を失ったノエミを抱きかかえ、少年は二人の下へと急ぐ。
唸りと怒号が入り混じった二体の獣の咆哮を耳にしながら、自らのうかつさを呪った。
反逆者とはいえ相手は神竜族。強すぎる思いを持つノエミはその影響を受け、聖獣の力を暴走をさせたのだ。
極限までに高まった魔力の塊があの狼の幻影となり、竜に攻撃を仕掛けたのである。
その力は一目瞭然だが、このままではノエミが危険に陥ってしまう。
竜の意識が幻狼に向いている今が好機だった。
ノエミを突き出した岩にもたれかからせると、素早く動きを封じられたアレスディアとオーマの肩を掴み、過重力のない領域に引きずり出した。
「大丈夫だね、二人とも。」
緊迫を含めた少年の声にアレスディアとオーマははっと見上げる。
柔らかな蒼い光を帯びた銀の刃が日の下で輝く。
唸りと怒号が入り混じった二体の獣の咆哮が響く中、少年は背負って来た包みを解き、一振りの剣を抜き放つ。
賢者より授かりし霊薬とレディ・レムの魔力を込められ完成した霊剣がようやく目を覚ましたのだ。
「事情は後で話す。動きが止まってるのがチャンスだしね……ノエミのこと任せた。」
わずかに意識が戻ったノエミは霊剣を片手に駆け出す少年の背を見送る。
剣からあふれ出す清冽な魔力が全身を苛む苦痛を和らげていく。
アレスディアが問う暇も与えず、少年は重力に逆らうように暴れ狂う竜の背を駆け上がると躊躇うことなくその額に霊剣を突き立てた。
青白い光が周囲を照らし、三人は固く目を閉じた。
「ご苦労様、無事終わったようね。」
エルザード近郊の森に抱かれた館に戻ってきた彼らをレディ・レムは穏やかな表情を浮かべて出迎えた。
蒼い光がブルムの天を照らした、と聞いた時、複雑な思いが去来したが、それでも全てが終わったことにレムは安堵を禁じえなかった。
「何とか終わったよ……こっちはね。」
意味深な弟子の一言に一瞬表情を引き攣らせるが、瞬時に霧散させるところはさすがレディ・レムというところだろうか。
もう少しばかり嫌味も言ってやりたかったようだが、それ以上口答えもせず少年はオーマと共に意識のないノエミを奥の部屋と運ぶ。
柔らかな革のソファーに身を沈め、少年は全身を襲う疲れから一歩も動けなくなりそうな感覚に陥る。
全くレムの頼みはやっかいだと改めて思いながらも、未だ眠り続けるノエミにもあきれを覚えていた。
光が終息した後、その場に広がったのは想像通りの光景。
「これは……」
「竜としての力をこの水晶の中に封じ込めた。本体は元の世界に強制送還されてるから殺してはないよ。」
呆然とするオーマに少年は苦笑混じりに応える。
反逆者とはいえ無用に命を奪うことは一族の意に反する。だが、犯した罪はあまりにも深い。
そして下されたのは、竜としての力を取り上げ、一から全てをやり直させるという罰。
ある種、哀れでもあったが、少年には当然の報いに思えた。
ふいに小さな声が響き、少年達は慌てて岩にもたれかかるノエミに駆け寄った。
医者でもあるオーマはノエミの脈を取り、簡単な診断をすると安堵の色を浮かべる。
ひどく消耗してはいるが命に別状はない。
充分に休養すればよくなるとの言葉にほっとした少年だったが申し訳なさと安堵の入り混じった表情を浮かべたノエミの言葉に声を失った。
「気が付いたか?ノエミ。安心して……全部終わったから」
「そうですか…あなたや…皆…様が…無事…で、良かっ…た…」
長い沈黙が流れ―三人は顔を見合わせた後、再び深い眠りに付いたノエミを横目に大きくため息をこぼした。
人の心配をするのもほどほどにしろと言ってやりたくなったが、敢えて口にはしなかった。
気付くと、白亜に染め上げられた天井と窓越しに抜けるような蒼天が見えた。
一瞬、ノエミは自分の置かれた状況が分からず混乱する。
戦いが終わってからの記憶がひどくあいまいで、よく分からない。
清潔な白い掛け布と肌触りの良い枕が心地いい。
周囲を確かめようと上半身を起こした途端、あちこちが悲鳴を上げ、ノエミは苦痛に眉をしかめた。
「気付いたようね、ノエミ。」
「レディ・レム様……では、ここは……」
穏やかな笑みを浮かべるレムの姿を見て、ノエミはようやくここがどこであるのかを理解し、顔を赤くした。
「気にしなくていい。事情はあの弟子から聞いた。」
やれやれと肩を落とし、レムはベットの傍らにある椅子に腰掛け、小さく息をつく。
人を護りたいという意思が強いことは知っていたがまさか自らの聖獣を暴走させてしまうとは信じがたいことだった。
小生意気な弟子には予想内のことだったらしいが、それでも驚きを禁じえなかったようで必要以上のことは口にせず広間へ出て行った。
「ノエミ、貴女の責任感の強さは認める。」
ため息と共に吐き出された厳しい声音にノエミは思わず首をすくめる。
まるで悪戯が見つかって叱られている子供のようで、思わず笑みがこぼれかけるのを堪えて、レムは言い聞かせた。
「だが、ここまでくると考えものだ。何の為に力があり、仲間がいる?全てを一人で背負い込むな。己の力に溺れれば、世界の輪を乱し、自ら破滅を招く。今回の奴のようにね……」
封じ込められた同族の姿を想像し、レムはわずかばかり顔をしかめ、苦笑いをこぼす。
「まぁ、ノエミは力に溺れはしないだろうが、もっと気を楽にしなさい。でなければ、為そうとすることも果たせなくなる。」
分かったね?と念を押され、ノエミは力なく頷く。
瞬間、レムは堪えきれなくなったように噴き出し、背を向けた。
「叱られた子供みたいな、というよりもそのものみたいな顔をするな。」
軽やかな笑い声を立てて背を向けるレムの言葉にノエミは顔を真っ赤に染める。
心からの忠告だったが、最後の最後でからかわれてしまい、恥ずかしくてたまらなかった。
(女王様…きっと私が悩んでいることもお見通しなのでしょうね)
剣を捧げる主の待つ故郷を思いながらノエミは窓から水晶のように澄み切った蒼天を見上げた。
FIN
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■ 登場人物(この物語に登場した人物の一覧) ■
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【2829:ノエミ・ファレール:女性:16歳:異界職】
【1953:オーマ・シュヴァルツ:男性:39歳:医者兼ヴァンサー(ガンナー)腹黒副業有り】
【2919:アレスディア・ヴォルフリート:女性:18歳:ルーンアームナイト】
【NPC:レディ・レム】
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■ ライター通信 ■
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こんにちは、緒方智です。
毎回遅くなって大変申し訳なく思いますが、封印の祭壇お届けいたします。
今回連作の最後ということもありまして、かなり字数オーバーしております。
それぞれの見せ場を出し、練り上げてみましたがいかがでしたでしょうか?
お楽しみいただければ幸いです。
また機会がありましたらよろしくお願いいたします。
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