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■日々徒然■

志摩
【5686】【高野・クロ】【黒猫】
 雑貨屋銀屋。
 店は開いてます。商品もアクセサリーから服から最近は怪しげな薬までおいてある。
 店主は銀狐の妖怪だとか。
 店主以外にも他の妖怪が出たり入ったり。色々と面倒事もあったり飽きはなく。

 さて、そこで何をします?

 お客様次第です。
日々徒然 〜微笑ましい親子〜



 日々変わらない?
 日々変わっていく?
 微笑ましいもんやね
 そうやね―――



 とてとてと軽い足取り。その足は一軒の雑貨屋、銀屋の前で止まった。
 ちょこんと銀屋の入口、その前で礼儀正しく座る黒猫。
 戸をじぃっと見上げ、ここだろうかと場所を確認しているような、そんな雰囲気だった。尻尾をゆるりと揺らしながらその表情は楽しげ。
「ここで間違いないみたいや、おるかなあ……久しぶりやから楽しみやわ」
 尻尾をゆらゆらさせながら、高野クロは心躍らせる。
 ここに、昔一緒に遊んだことあるものが最近腰を落ち着かせたという噂を聞いてやってきたのだ。
 だけれども困ったことがひとつ。猫ではこの引き戸が開けられず、開くのを待つしかない。
「誰かこんやろか……こうゆう時だけは不便やわ」
 まぁ時間はあるし、ゆっくり待とう。そう思った矢先にふっと自分の姿を影が覆う。顔を上げて見上げると買い物帰りなんだろう、手に紙袋を抱えた青年が一人こちらを見ていた。銀色の髪が逆光できらきらと光っていた。優しげな藍色の瞳が見下ろしてくる。
「お店に御用ですか?」
「あら、なんやどこかで見たことある……」
「とりあえず、立ち話もなんですからどうぞ」
 からりと戸を開けて青年はクロを中へと通す。おおきに、とクロは言い一歩店の中へ。古いものの息づく雰囲気がなんとなく心地よい。
 くるっと一通りあたりを見上げ、見回してクロは青年の方を向いた。
「なかなか素敵なお店やね」
「ありがとうございます。奥にまだ人がいるんですけど気にせずどうぞ」
 そのまま奥へと進んでいくとそこには和室があった。とん、とそのままそこへ上がるとそこには見知った顔がいくつか。
 懐かしい顔にクロの足取りも心なしか速くなる。
 とん、と和室への段差も軽く一跳び。
「お邪魔するで? ここに千の字が腰を落ち着けたって噂を聞いてやって来たんやけど……ほんまみたいやね」
「お……もしかして……ああ、久しぶりだなぁ」
「千両、誰だ、誰なのだ」
 和室でゆっくり茶を飲んでいた千両は、クロの姿をみて嬉しそうに笑った。その正面に座っていた藍ノ介は誰かわからないと眉根を顰めていた。
「な……忘れているのか……」
「薄情者やねぇ、藍の字は。千の字は覚えとったのに……」
「え……あーあー! 久しいな、そうか、汝は」
「すみません、お知り合いなのはわかりましたけど……」
 と、後ろから口を挟んだ青年は苦笑している。そういえば自己紹介がまだだったな、とクロは思った。
「そうか、クロさんと最後に会ったのは奈津が生まれる前か」
 千両が呟いてその当時を思い出す。
 その様子を千両の膝で丸くなっていた猫が見上げ、そして人身へと姿を変えた。その視線はクロへと興味深げに注がれている。
「どうやら後ろの子は藍の字の子らしいね、うん、ちょっと似とるわ。さっきからずっと思ってたんよ」
「奈津ノ介と申します。似てますか、やっぱり」
「うちはクロや、高野のクロ、宜しゅうに」
 喉をゴロゴロとならしながらクロは言い、奈津ノ介に向けていた首を今度は千両の膝の上の子へと向けた。
「で、お前さんは?」
「俺は小判といいます。クロさん……クロおねーさんよろしくね!」
「ん、ちゃんと挨拶できてえらいぞ小判たん」
 わしゃわしゃと小判の頭を撫でる千両、そしてそれを嬉しそうに受け入れる小判をクロは微笑ましく見つめる。
「ああ、クロさん。小判は俺の子なんだ」
「千の字の息子なん!? へぇ……もっとよく顔を見せてくれへん?」
「うん!」
 クロは驚きつつ尻尾を揺らめかす。千両の膝から這い出て、小判はクロににこにこと笑顔を向ける。
「……ふぅん、可愛らしい子やな」
「そう思うか? そうだろう、そうなんだ、小判たんは可愛いんだ」
「ふふ、千の字は本当に好きなんやね、小判が」
「俺も千パパ大好きだよー」
「小判たん……!!」
 小判の言葉に嬉しそうに顔を綻ばせる千両。目尻は下がりまくっている。
「お前さんのそんな顔、初めてやわ」
 クロは苦笑交じりの声色で言って二人を見る。
 千両は膝の上の小判を始終撫でていて、それを小判も幸せそうに享受している。仲が良いのは一目瞭然。
 昔何度か一緒に遊んだり、悪さをしたものは立派に親の顔をしている。
 その姿が、懐かしいくいとおしくある。
「そういえば、他の面々はどないしとん? 千の字と藍の字の姿見れて嬉しいんやけど、どうせなら皆に会いたいわ」
「おー、南々夜も遥貴もちょくちょく顔を出すぞ。ま、気分次第みたいなやつらだからなぁ、今日来るかどうかは謎だ」
「そうなん、残念やわ」
 尻尾をぺしっと畳に落としてクロは心を表す。こうして二人に会えただけでも嬉しいことだが欲張ってしまう。
「でもまぁ、会える機会はまだあるやろからね。今日はよしとするわ。藍の字と千の字にこんな立派な子がおることもわかったんやし」
「小判は奈津のようにならないといいな、千両よ……」
「それは僕が捻くれて育った問題児のような言い草ですね、親父殿」
 にっこりと奈津ノ介が笑って言う。その言葉に藍ノ介は視線を外して逃げているようだ。
「奈津さんは立派だよー。俺も奈津さんや千パパみたいな立派な妖怪になるんだ!」
「小判たん……! パパ応援してるよ! 一番応援してるからね!」
「ええ目標やね、頑張りや。ほんま、千の字は小判が大好きなんやね。小判も千の字が大好きなんやろうけど、微笑ましいわ。昔のお前さんからは想像できん姿やものね」
 最後に会ったときよりも、雰囲気は穏やかで丸くなっている。それはきっとこの小判のおかげなんだろう。最初はやはり少し驚いたのだけれども慣れてきた。
 何より小判たん、と呼ぶのがとても意外で。
「小判君と千両さんは仲が良いですからね。あ、クロさん何か飲まれます? お客さんなのに何も構わないで……すみません」
「かまへんよ、でも……そやね、牛乳以外ならなんでも」
「奈津、酒だ、酒がいい」
 奈津ノ介がクロに聞くのに便乗し、藍ノ介が言う。だがそれはクロにとっても嬉しいことだった。期待して尻尾が無意識のうちに揺れる。
「まだ昼間ですけど……いいか」
「お酒でるん? あら嬉しいわ」
 ちょっと待っててください、と奈津ノ介は言い奥へと消える。と、その背を見送って視線を戻すとじーっと小判から視線を受けていた。
 クロは少し、小判との距離を詰めた。
「どないしたん?」
「えへへ、クロおねーさんの毛並み綺麗だなーって思って」
「そうやろか? そう言ってもらえると嬉しいわ」
「小判たんの毛並みも綺麗だよ、パパはそれも自慢だ」
 クロと小判の話ににこにこと千両は入ってくる。
 本当に親馬鹿だ、とクロは思いつつにこっと笑い相槌を打つ。
「ふふ、親子ってやっぱりええね。うちも……ちょっと思い出したわ」
「えへへ、親子はいーよ。俺千パパ大好きだもーん。皆も好きだけど一番は千パパなんだー」
「小判たん……! パパも、パパもだからね……!」
 千両は小判を抱えあげて膝の上に乗せる。そしてぎゅっと抱いて頭をぽんぽんと嬉しそうにまた軽く撫でている。
「ふふ、小判に千の字以上に好きな人ができたら大変やろなぁ」
「ク、クロさん、それは言わないでほしいっ……!」
「まぁまだ先のこと……やったらええね。小判、そんな人ができたらうちにもちゃんと教えてな」
「うん、ちゃんとクロおねーさんにも言うよ!」
「まぁ、その時は慰めてやるからな千両」
 まだ先、未来に起こるであろうことを今から想像して千両はしょぼーんとしている。身体は大きいのにその様子は小さく見えた。
「うちも一緒に慰めてあげないかんね」
「そ、その心だけでいい……うう、想像したくない……ありえない……」
 と、和室に戻ってきた奈津ノ介は一人しょぼんとしている千両と、それを見て楽しんでいるかのようなクロと藍ノ介、そして千両を慰める小判という構図になんとなく何があったかを察する。
「千両さんに小判君関係の事で何か言ったんですね。お酒、持ってきましたよ」
「ふふ、その通りや。お前さんは聡い子やね。ああ、お酒の良い匂いがするわ」
 ひく、と鼻を動かしてかすかに香る酒、日本酒の匂いがクロの鼻腔をくすぐった。
 目の前に置かれた盃にとくとくと注がれるのをクロは見守る。そして他の面々にも盃が回るのを待った。小判と奈津ノ介の手には湯飲みだった。
「乾杯でもしよかね。千の字と小判の親子愛にでも」
「ありがとうございます、クロおねーさん!」
「クロさん……!」
 クロはふふっと笑みを浮かべると乾杯、と言う。
 盃を持つことはできないから首を落とし酒に口をつける。
 噂を耳にして、再会して、そして彼らの今を知って。
 それはクロにとって小さなことか大きなことか。
 けれども今一緒に過ごす時間が楽しいことには、変わりない。




 微笑ましいもんやね
 そうやね―――
 きっと二人ならいつまでもそのままやろね



<END>



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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号/PC名/性別/年齢/職業】

【5686/高野・クロ/女性/681歳/黒猫】

【NPC/千両/無性別/789歳/流れ猫】
【NPC/小判/男性/10歳/猫】
【NPC/奈津ノ介/男性/332歳/雑貨屋店主】
【NPC/藍ノ介/男性/897歳/雑貨屋居候】

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■         ライター通信          ■
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 高野・クロさま

 はじめまして、ライターの志摩です。此度はご指名くださりありがとうございましたー!
 にゃんこさん…!ときめきウフフアハハしながら書かせていただきました!銀屋御来訪有難うございます!クロさまらしさが出せていれば良いなと思っております。というか関西弁に自信がありません!(白状した!)えせ関西弁でご容赦いただければと思います(…
 にゃんこ同士、千両と小判の親子中心に楽しく過ごして頂ければ幸いです。
 それではまたご縁があってお会いできれば嬉しいです!