■おそらくはそれさえも平凡な日々■
西東慶三 |
【6334】【玄葉・汰壱】【小学生・陰陽侍】 |
個性豊かすぎる教員と学生、異様なほど多くの組織が存在するクラブ活動、
そして、「自由な校風」の一言でそれらをほぼ野放しにしている学長・東郷十三郎。
この状況で、何事も起きない日などあるはずがない。
多少のトラブルや心霊現象は、すでにここでは日常茶飯事と化していた。
それらの騒動に学外の人間が巻き込まれることも、実は決して珍しいことではない。
この物語も、東郷大学ではほんの些細な日常の一コマに過ぎないのである……。
−−−−−
ライターより
・シチュエーションノベルに近い形となりますので、以下のことにご注意下さい。
*シナリオ傾向はプレイングによって変動します。
*ノベルは基本的にPC別となります。
他のPCとご一緒に参加される場合は必ずその旨を明記して下さい。
*プレイングには結果まで書いて下さっても構いませんし、
結果はこちらに任せていただいても結構です。
*これはあくまでゲームノベルですので、プレイングの内容によっては
プレイングの一部がノベルに反映されない場合がございます。
あらかじめご了承下さい。
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陰陽侍と自称天才美少女呪術師
玄葉汰壱(くろば・たいち)は、「陰陽侍」である。
陰陽侍はそれぞれが優れた戦士であるが、その力を最大限に発揮するためには、陰陽一対、つまり相応しい異性のパートナーがいなければならないという特性があった。
そのため、男性の陰陽侍は十八歳になったら、陰の力を持つ女性を探さなければならない、ということになっている。
とはいえ、それは弱冠七歳の汰壱には、本来まだまだ関係ない話であるはずなのだが。
せっかちな性格の彼は、大きくなるまで十年以上も待ちきれず、暇を見ては「未来の嫁さん」探しにあちこちを駆け回っているのであった。
そんな彼が今回訪れたのが、東京郊外にある私立東郷大学である。
何かと妙な噂の多いこの大学になら、強い陰の力を持った、汰壱好みの女性もいるかもしれない――ということで、やってきてみたはいいものの。
東郷大学のキャンパスは、他の一般的な大学のそれと比べてもかなり広い部類に入る。
その上、当然そこにはかなりの人数の学生や教員がおり、そのうち約四割強が女性なのだから、探すと言ってもとても一筋縄ではいかない。
(思ったよりずっと広いなぁ……さて、どこから探そう?)
とりあえず、広場のど真ん中に彼のような子供がいても目立つので、素早く講義棟の隙間の小道に入り込む。
あとは……まあ、手近な建物から探していこう。
そんなことを考えながら、汰壱が歩いていると。
ちょうど角になっているところで、横合いから来た少女とぶつかってしまった。
「ご、ごめん!」
とっさに謝る汰壱に、少女はにっこりと微笑んだ。
「ん? 私は大丈夫。君の方こそ大丈夫だった?」
つやのある長い黒髪に、透き通るような白い肌。
美少女と呼んでいいレベルの容姿ではあるが、大学生としては明らかに幼い。
むしろ、見た目的には高校生どころか、中学生でも十分通用しそうな感じですらある。
そして、それ以上に気になったのは。
彼女には、明らかに何らかの力があった。
それが汰壱の探している「陰の力」なのかまではわからないが、とにかく魔力なり霊力なり、そういった力を持っているらしい。
(……ひょっとすると、この人が俺の未来の嫁さんかも!?)
まだそうと決まったわけではないが、その可能性はありそうだ。
幸い、彼女はこちらに好意的なようだし、ここはどうにかして仲良くなっておくべきだろう。
「俺、玄葉汰壱っていうんだ。姉ちゃんの名前は?」
「私は黒須宵子。よろしくね、汰壱くん?」
あくまで自然な感じで自己紹介して、まずは名前を聞き出す。
そこまではよかったが、宵子の次の一言はきわめて意外なものだった。
「でも、どうして汰壱くんみたいな子が、こんな危険なところに一人で来たの?」
「え? 危険って……ここって、大学じゃないの?」
汰壱の知る限りでは、大学というのはそう危険な場所ではない。
もちろん、大学の中にも危険な場所はあるだろうが――例えば、化学実験室であるとか、試合中のグラウンド周辺であるとか――少なくとも、こんな講義棟の脇が危険だとはとても思えない。
けれども、その考えが甘かったことを、汰壱はすぐに思い知らされた。
「一応、大学だけど……アレを見てもまだここが安全だと思う?」
そう言いながら、宵子が指さした先にあったのは――。
構内を暴走する装甲車と、それを追い回すパワードスーツ。
『そこの装甲車! 止まりなさい!』
『止まれと言われて止まるバカがいるかよ!』
そんなやりとりの後、不意に装甲車の背面が開き、中から得体の知れない化け物が姿を現す。
『お前らの相手はコイツで十分だ。あばよ!』
『せ、生物兵器の暴走を確認! 至急応援を乞う!!』
逃げ去る装甲車、戦闘を開始する生物兵器とパワードスーツ、避難する一般の学生と、命知らずにも騒ぎのド真ん中に突っ込んでいく報道各部と野次馬連中。
どこをどう考えても、いわゆる一般的な「大学」のイメージとはかけ離れている。
「……ここ、本当に大学?」
汰壱が呆然とそう呟くと、宵子は苦笑しながら諭すようにこう言った。
「ね? 私が送っていってあげるから、こんな危ないところにいないで一緒に帰りましょ?」
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
そんなこんなで、結局汰壱は宵子と一緒にここを離れることになってしまった。
まあ、こんな危険なところにそうそう長居はしたくないし、宵子のことを知るにはいい機会でもある。
「はぐれたら危ないからね」
そう言いながら、宵子が汰壱の手を握ってくる。
きっと、恋人同士というよりは仲のいい姉弟といった感じに見えるのだろうが、これはこれで悪くない。
そんなことを考えつつ、汰壱は彼女にいくつか質問してみることにした。
「ねえ、さっきから気になってたんだけど、それって何の本?」
宵子は右手で汰壱の左手を握りながら、左脇には何やら大きな本を大事そうに抱えている。
見た目から結構古い本であることだけはわかるのだが、あいにく表紙に日本語が全く見受けられないため、何の本かまではさっぱりわからない。
その本が、さっきからずっと気になっていたのである。
「これ? お仕事に使う本、かな?」
曖昧な返事を返す宵子に、重ねてこう頼んでみる。
「そうなんだ? ね、ちょっと見せて?」
すると、宵子は意外とあっさりと承諾してくれた。
「別にいいけど……読める?」
そう言いながら、本の最初付近と中程、終わり近くの三カ所をぱらぱらとめくって見せてくれたのだが……結局、汰壱にわかったのは「この本が日本語で書かれていないこと」だけであった。
「……読めない」
汰壱が大げさに落ち込んでみせると、宵子は困ったような顔で説明を始めた。
「これは今研究中の呪術書で、ここの知り合いに頼んで取り寄せてもらったの」
なるほど、どうやら宵子はここの学生ではないらしい。
これで謎の一つは解けたが、今の彼女の言葉にはそのことよりももっと気になる内容が含まれていた。
「呪術書……ってことは、宵子姉ちゃんって呪術師なの?」
「うん。こう見えても、ちょっとしたものよ」
どうやら、彼女に「何らかの力がある」という汰壱の見立ては間違っていなかったようだ。
となれば、あとは実際にその力を見せてもらうだけである。
「じゃ、呪術使えるんだ? ねえ、実際にやって見せてよ」
ところが、宵子はすぐには首を縦に振らなかった。
「うーん……いいけど、見てわかりやすい術って、あんまりレパートリーにないのよね。
まさか汰壱くんにかけてみるわけにもいかないし……」
おそらく、彼女が得意とするのは遅効性の術や、間接攻撃系の術がほとんどなのだろう。
とはいえ、まさかそういった術しか使えない、というわけではあるまい。
「ねえねえ、見せて見せて〜」
汰壱がなおもかわいらしく頼みこむと、ついに宵子が折れた。
「汰壱くんがそこまで言うなら、とっておきのを見せてあげる。
さすがにここじゃ危ないから、ちょっとついてきてくれる?」
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
二人が向かったのは、東郷大学の片隅、明らかに隔離されたように建っている部室棟の一室であった。
ドアには、「黒魔術研究会」とおどろおどろしい文字で書かれた看板が掛けられている。
「私、一応ここの名誉会員なのよ。さ、入って」
そう言いながら中に入ると、棚に置かれていた様々な器具を取り出し、呪術書を見ながら手慣れた様子で床に魔法陣を描いていく。
その動きは流れるようにスムーズで、彼女が見かけによらず経験豊富な呪術師であることを物語っているように思われた。
問題は、一体彼女がこれから何をしようとしているのか、である。
「えーと、宵子姉ちゃん? これから何が始まるの?」
汰壱が質問すると、宵子は何でもないことのようにさらっとこう答える。
「ん? ちょっと悪魔でも呼んでみようと思って。これならわかりやすいでしょ?」
確かにわかりやすいことはわかりやすいが、悪魔の召喚はそれなりに高等な術である。
術式にミスがあってはならないことはもちろん、彼我の実力を十分考慮した上で召喚する悪魔を選ばないと、自分が呼び出した悪魔の餌食になってしまうこともある。
それを、ただ「わかりやすいから」という理由で、特に用事もないのにやってしまおうというのだから、これは相当自信があるのか、でなければよっぽど無謀かのどちらかである。
「それじゃ、始めるから。汰壱くんは私の後ろでおとなしくしててね」
「うん」
全ての準備を終え、汰壱が後ろに避難するのを見届けて、宵子が呪文を唱え始める。
呪文の詳細はよくわからないが、雰囲気はバッチリだ。
はたして、一体どんな悪魔が出てくるのだろう?
そう思うと、自然と見ている汰壱まで緊張してきた。
が。
次の瞬間、なにやら大量の煙が発生し……魔法陣の真ん中から現れたのは、悪魔というより不定形っぽい妙な魔物であった。
「ええっと……失敗しちゃったみたいね」
やはり、単なる召喚失敗らしい。
おおかた途中のどこかにミスがあって、全然意図しない魔物を呼び出してしまった、というところだろう。
「まあ、でも、何かは出たからよし、ということに……ならない?」
確かに「何か」が出たのは事実だが、その「何か」もあまり制御できているようには見えないし、そこまで才能のある呪術師というわけでもないのかもしれない。
汰壱がそんなことを考えている間に、どうやら魔物の方が我に返ったらしい。
「……宵子姉ちゃん。アレ、なんだかやばくないか?」
部屋の中にいるのは魔物を除けば汰壱と宵子のみ。
魔物が敵対的であれば――そして、その可能性はかなり高い――今すぐにでも襲ってきそうな状況である。
「ちょっと暴走しちゃってる感じもするけど……逃げちゃおっか?」
宵子はそう言っているが、今ここで逃げ出せば、暴走した魔物を野放しにすることになる。
この大学ならわりとどうにでもなりそうな気もするが、万一ということを考えると、それはできない。
やむなく、汰壱は呪術で野太刀を作り出し、一気に魔物を両断すべく斬りかかった。
その一撃を、しかし、魔物はおろし金のような腕(?)でがっしりと受け止める。
ただの召喚失敗で出てきた魔物にしては――強い!
ある時はさすまたのように、またある時はペンチのように。
ぐねぐねと変形しながら矢継ぎ早に打ちかかってくる魔物に、さすがの汰壱も一歩後ずさる。
すると、それを彼の危機と見て取って、宵子が何かを始めようとした。
その動きを、魔物が見逃すはずもない。
「危ないっ!」
宵子を狙った魔物の一撃。
汰壱はそれを防ぎ止めようとしたが間に合わず、僅かに軌道を変えたに留まった。
魔物の腕が宵子の胸元をかすめ、その衝撃で彼女のつけていた銀のペンダントの鎖が切れる。
と、次の瞬間。
魔力の奔流が、黒い稲妻と化して部屋中に満ちた。
それから、どれくらい経ったのだろう?
「大丈夫かい? しっかりしな」
気を失っていた汰壱を揺り起こしたのは……なんと、人の言葉を話す黒猫だった。
「ね、猫が喋った!?」
「どうやら、まだ少しばかり混乱してるみたいだね。
アタシがただの猫かどうかくらい、アンタならわかるだろ」
なるほど、言われてみればこの黒猫からは結構な魔力を感じる。
「アタシは黒須ウメ。まぁ宵子の後見人ってとこさ」
黒猫はそう名乗ると、隣ですやすやと寝息を立てている宵子の方を見ながら、ぽつりぽつりと話し始めた。
「この子も力はすごいんだが、それだけに制御する技術が追いついてなくてね。
まして、召喚系の術なんかほとんどやったこともないのに……よっぽどアンタにいいとこを見せたかったんだろうね」
言われてみれば、「見てわかりやすい術はレパートリーにない」と、彼女自身も言っていた気がする。
そこを曲げて無理に頼んだのは、今にして思えば悪いことをしたかもしれない。
汰壱が反省していると、黒猫はそれに気づいてけらけらと笑った。
「ま、それだけアンタのことを気に入った、ってことだろうね。
いつもここにいるとは限らないけど、よかったらまた会いに来てやってくれるかい」
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その後。
程なくして目を覚ました宵子に連れられて、汰壱は東郷大学を後にした。
「今回は何事もなかった……とは言いがたいけど、とにかく、もうこんな危ないところに来ちゃダメよ?」
宵子はそう言って苦笑したが、今のところ、ここに来る以外に彼女に会う術はない。
「でも、俺、また宵子姉ちゃんに会いたい」
汰壱がそう言うと、宵子は少し意外そうな顔をした後で、嬉しそうに笑った。
「そう言ってもらえて嬉しいな。
けど、ここはやっぱり危ないから、次からは私の家に遊びに来てくれる?」
「え、いいの?」
「もちろん。汰壱くんなら大歓迎よ」
ともあれ、彼女で決まりというわけではないが、とりあえず脈はあるようである。
(今度は、わかりづらくてもいいから、得意な術でも見せてもらおうかな)
そんなことを考えながら、汰壱は家路についたのだった。
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■ 登場人物(この物語に登場した人物の一覧) ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】
6334 / 玄葉・汰壱 / 男性 / 7 / 小学生・陰陽侍
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■ ライター通信 ■
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撓場秀武です。
この度は私のゲームノベルにご参加下さいましてありがとうございました。
さて、今回のお話ですが、こんな感じでよろしかったでしょうか?
もし何かありましたら、ご遠慮なくお知らせいただけると幸いです。
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