■あの日あの時あの場所で……■
蒼木裕 |
【6334】【玄葉・汰壱】【小学生・陰陽侍】 |
「ねえ、次の日記はカガミの番?」
「ああ、俺だな」
此処は夢の世界。
暗闇の包まれた世界に二人きりで漂っているのは少年二人。そんな彼らの最近の楽しみは『交換日記』。だが、交換日記と言っても、各々好き勝手に書き連ねて発表するというなんだか変な楽しみ方をしている。そのきっかけは「面白かったことは書き記した方が後で読み返した時に楽しいかもね」というスガタの無責任発言だ。
ちなみに彼らの他に彼らの先輩にあたるフィギュアとミラーもこの交換日記に参加していたりする。その場合は彼らの住まいであるアンティーク調一軒屋で発表が行われるわけだが。
さて、本日はカガミの番らしい。
両手をそっと開き、空中からふわりとノートとペンを出現させる。
開いたノートに書かれているのは彼の本質を現すかのように些か焦って綴られたような文字だ。カガミはスガタの背に己の背を寄りかからせ、それから大きな声で読み出した。
「○月○日、晴天、今日は――」
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+ あの日あの時あの場所で…… +
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「ねえ、次の日記は誰の番〜?」
「次の日記は誰の番ですか?」
「ぼくじゃないー……!」
「あ、俺だ俺」
三日月邸の和室でスガタ、カガミ、社、いよかんさんの三人と一匹はいつも通り和菓子とお茶を楽しんでいた。そんな彼らの最近の楽しみは『交換日記』。だが、交換日記と言っても、各々好き勝手に書き連ねて他の三人に発表するというなんだか変な楽しみ方をしている。そのきっかけは「面白かったことは書き記した方が後で読み返した時に楽しいかもね」というスガタの無責任発言だ。
ちなみに本日はカガミの番らしい。
彼はよっこいせと交換日記を取り出し、ゆっくりノートを開けた。すでに文字が書き記されている紙の上に目を寄せ、それから彼は大きな声で読み出した。
「四月七日、雨。今日は……」
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「……雨だし」
俺は窓から外を見て呟く。
雨がざーざー降っている様子を見て溜息を吐いた。天気予報じゃ今日一日中雨だと言っていた。別に雨という天気に恨みはないが、憂鬱になってしまうのは否めない。俺は教材や筆記用具が入ったカバンを手に立ち上がる。靴の調子を確かめるために数回地面を蹴った。
それから傘を手にとって立ち上がり……。
「あーあ、学校なんか行きたくねぇ……。前に行った妙な家にまた行きた――――」
扉を開くと其処は異界でした。
「っ……こないだの家だ! どーやってここに!?」
数歩入ってあたりを見渡す。
間違いなく其処は以前訪れたことのある家だった。掃除した覚えのある廊下、雨は降っては居ないが洗濯物を干した覚えのある庭が見えてテンションがぐぐっとあがる。もう少し状況を確認しようと歩こうとすると、くいくいっと何かが足を引っ張った。
「ん?」
「……あ!」
「あ、あんた、いよかんさんだったな。お出迎えに来たのか?」
「こえがねー、したからー……えとえと、このあいだきたひと、だよねー? えとえと、なまえはたいちー!」
「覚えててくれたかー!」
足元に居たのは謎生物、いよかんさん。
俺がむぎゅーっと抱き上げると、彼? はちたちたと細い手足をバタつかせた。それからくっと廊下の向こうを見遣るので俺もその方向を見る。すると其処には……。
「「あ、玄葉汰壱」」
「フルネーム呼びかよ!!」
俺は思わず突っ込んでしまう。
声を揃えて俺の名を呼びながら現れたのは双子のようで双子じゃない、でも兄弟でもなんでもないと言い張る顔そっくりの男二人。名前はスガタとカガミ……だったかな。年は俺よりちょっと上。小学生と中学生の間っぽい感じ外見年齢。
彼らの後ろから同年代らしき女もやってくる。名前は確か三日月社。彼女は男二人を割るようにぴょこっと現れ、俺を見つめた。
「あややん、どしたのこんなところで」
「いや、玄関を開いたら此処に繋がってた」
「あっららーん★ で、その扉は何処の扉〜?」
「えっとそこ」
「あ、閉じちゃってる」
「……あ」
三日月邸の扉は開く度に変な場所に繋がる。
だがそれは逆を言えば一度閉じてしまえば同じ場所に出る可能性は低い、ということだ。俺は前回それで一日お泊り状態になってしまったことを思い出す。もしかして今回もそうなってしまうのだろうか……。
「ま、来たなら歓迎するよーん? 丁度お茶会の最中だったしね〜!」
「え、お茶会の最中だったのか。邪魔して悪いな」
「気にしなくて大丈夫ですよ」
「気にしなくても大丈夫だぜ」
「「どうせお前も巻き込まれだし」」
二人が声を揃えてくすくす笑う。
相変わらず変な二人だなと思いながらも首を傾げる。すると、腕の中に居たいよかんさんが胸元の服を引っ張った。俺は視線を下げる。ほぼ同時に彼? は針金の様な目で微笑んできた。
「おちゃかいー、いっしょ、しよ?」
「え? いいのか?」
「ってなわけでお茶会においでおいで〜★」
社がさっさと先を歩いていく。
その後ろにスガタとカガミ、そして腕からぴょんっと抜け出したいよかんさんがついていく。俺はと言うと、学校をどうしようだとかうだうだ考えてた。だって一応小学生だし、就学義務あるわけだし……とうんうん唸る。
すると、いよかんさんがくるっと振り返り、手をぶんぶん振って俺を呼んだ。
「おいでー……!」
……もういいや、サボっちゃえ!
此処まで来たら一日ぐらい休んでも問題ないだろう。俺はカバンを手にだだっと勢い良く走る。すると社が「廊下は走るぁー!」と叱ってきた。
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「あ、今日の団子んまい。何処で手に入れたんだ?」
「あ、今日の団子美味しい。何処で手に入れました?」
「それ? この間のお客さんがおいてったのよー。結構美味いっしょー?」
「たいちー、おちゃどうぞー……?」
「さんきゅーっ」
いよかんさんの隣に座った俺はお茶の注がれた茶碗を受け取る。
熱い其れをふーふーと冷ましながら飲むと、団子の甘い味に丁度良いお茶特有の苦味が口内に入ってきた。それから団子をあむあむっと口の中に放り込んでいると、三人と一匹がこちらを見ていた。何となく気恥ずかしくなって苦笑する。すると皆が笑ってくれた。
「こうして楽しくお菓子を食べるのは初めてだ」
「んん? どして〜?」
「俺、一人っ子で鍵っ子だから、いつも一人でおやつを食べてるんだ。皆はいつもこうやって一緒に食べているのか? だとしたら羨ましいな……」
「んーんー、大抵かがみん達がこっちにきてのほほんしてるよ。こいつらの異界は何もないから遊びに行っても面白くないっしー?」
「ああいう空間だからこそ、<迷い人>の悩みが鮮明に反映されるんだよ」
「ああいう空間だからこそ、<迷い人>の悩みが鮮明に反映されるんですよ」
「「暮らしに不便にでも、其処には存在するだけの意味はちゃんとあるということで」」
ずずずーっと同じタイミングで正面に居る二人がお茶を飲む。
その様子がまるで鏡合わせに見えて、面白い。隣に居たいよかんさんが真ん中に置かれた団子の山に手を伸ばす。でも短くて届いていない。俺は一本ひょいっと取って彼? に渡してやった。
「ありがとー!」
「おう。零さず食べろよ?」
「ん、んぅ!」
「そういうお前もみたらし団子のたれを服に落としてんぞ」
「うげ……ッ!!」
「ほら、僕に貸して。こういうのはこうやって取れば染みにならないからね」
カガミが俺から団子を取って皿の上に置いた。
それからスガタが近くまで寄ってきて染み抜きしてくれる。甲斐甲斐しく世話を焼かれている状態におろおろしつつも、誰かが傍にいてくれる状況にほっとする。
慣れたと言っても一人きりで過ごす家はやっぱり何処か寂しい。いつも一人で食べるおやつは此処で食べているおやつより美味しくない。世の中には自分と同じ境遇の子供は多いってテレビのニュースで言っていたけど、それが救いになるわけでもない。
だったら、少しの間だけ甘えたい。
帰るまでの時間楽しく過ごしていたい。
「はい、綺麗になったよ。今度は落とさないように気をつけてね」
「あ、うん。サンキュ」
「ほれ、こっちの三色団子なら汚さないで食えるだろ」
「もう落とさねえよ!」
「たいち、たいち、あーん……!」
いよかんさんが三色団子を掴んで俺に向かって差し出してくれる。
一瞬出されている意味が分からなくてきょとんっと見返した。でもすぐに理解して俺はえへへっと笑う。それからあーんっと口を開いてぱっくんっと団子を食う。
一人より大勢で食べるおやつの方が何倍も美味しい。今日は此処に来れて良かったなと、心から思った。
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「今日はありがとう。落ち込んでたけど、少し元気出てきた。そろそろ帰るよ」
「にゃっははーん、それは良かったね〜★」
「んじゃ空間を開いてやんねーとなー」
「そうだね。空間を開いてあげないと」
スガタとカガミの二人が立ち上がり、ひゅるんっと輪を描くように指を動かした。
すると其処には俺の家が見える。雨もちゃんとざーざーと降っていた。向こう側が俺の生きる世界。此処はちょっとした夢の世界。カバンを手に立ち上がった俺は開かれた空間の前に立つ。
「つか前回こうやって開いてくれたら俺、此処に泊まらなくて済んだんじゃ……」
「「過ぎたことは気にしないこと。おーけー?」」
「……お、オッケー」
にっこりと威圧するように笑いかけられ、言葉を止める。
それからふぅっと一度深呼吸した。
「んじゃ、本当にありがとう。今度来る時は、皆の好きなお菓子持ってくるからなー」
「なになに、持ってきてくれんのんー!? じゃあボクは具なし茶碗蒸しー!!」
「それ、おやつじゃないー……」
「細かいこと気にすると、いよかんさん。あんたを食べちゃうわよ?」
「ぐなしちゃわんむしぷりーぃいずぅうう!!」
あーんあーん! と涙を零しながら訴えかけてくるいよかんさん。
そんな彼の頭をとむとむ撫でた後、俺はぴょんっと飛ぶように空間を潜った。
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「はい、これにてめでたしめでたしっとな」
カガミの発表に対してスガタはぱちぱちと拍手をする。
最後の団子今までを取り合っていた社といよかんさんはその音に気が付いてこちらをはっと見た。そんな一人と一匹に対してカガミは盛大なため息を吐く。
「お前らちゃんと聞いてたか?」
「聞いてた聞いてた! と言うわけでこれはボクのね!」
「ああーん!!」
「…………お前らなぁー……」
「まあまあ。でも汰壱君が元気出てよかったじゃない。ね?」
「まあな」
ノートを畳んでカガミも茶を啜る。
スガタは交換日記を掴んでぺらぺらっと捲った。随分書き溜まった自分達の日々。その中にはちゃんと汰壱と過ごした日々が書き込まれている。
「寂しくなったらここに来れば良い」
「もしかしたら此処が寂しい人を呼んでしまうかも?」
「来たなら俺達は歓迎する」
「そして、僕達も楽しませて」
「「ほら、望めば三日月邸はいつだって開かれている」」
今日も明日もこれからも、きっと。
くすくすくす。
二人分の声が室内を満たす。それから彼らは人差し指をつんっと突合せ、同じ様に笑った。
……終。
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■ 登場人物(この物語に登場した人物の一覧) ■
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【6334 / 玄葉・汰壱 (くろば・たいち) / 男 / 7歳 / 小学生・陰陽侍】
【NPC / スガタ / 男 / ?? / 案内人】
【NPC / カガミ / 男 / ?? / 案内人】
【共有化NPC / いよかんさん / ? / ?? / いよかん(果物)】
【共有化NPC / 三日月・社(みかづき・やしろ) / 女 / ?? / 三日月邸管理人】
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■ ライター通信 ■
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こんにちは、再び発注有難う御座いますv
もしかしてカバンはランドセルの方が良かったのかなと思っている、小学時代はカバンだった蒼木です(汗)ランドセルでしたら申し訳御座いません; 何は兎も角、三人と一匹とのお茶会如何でしたか? 何となく彼はスガタカガミにとっては弟、いよかんさんにとっては兄のような感じで書いておりますv
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