■鴉の濡羽色■
志摩 |
【5307】【施祇・刹利】【過剰付与師】 |
「こんにちは」
ふと、背中から声がかかる。
振り向くと、そこにはにっこりと笑顔を浮かべた男。
年齢がわからない、若さがある。けれども雰囲気は落ち着き、心を読む隙を与えさせない。
「僕の教え子が、お世話になっているみたいで、少しお話できますか?」
教え子とは誰だろう。
男は目を開けて、こちらを見る。
その瞳は金と銀。
なんとなく、空海レキハと凪風シハルを思い出す。
「僕は片成シメイ。レキハとシハル、二人が僕の教え子です」
男は、シメイはとらえどころのない笑みで、言った。
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鴉の濡羽色
背中からかかった声。
振り向くとそこにいるのは真っ黒い、鴉の濡羽色のような印象の人だった。
彼は、自分は凪風シハルと空海レキハの先生だと言う。
その佇まい、その雰囲気。
施祇刹利は思う。
「間違いない……」
言葉にすることで刹利は確信はさらに明確なものとなる。。
どうしたのか、といった風にじっと違いの双眸で見つめられ、刹利は口を開く。
「……ボクの知らない人だ……」
「…………初めて会いましたからね」
幾らかの間。
はっと自分を取り戻して片成シメイは笑いながら言った。
「今、お暇ですか? 少し……お話がしたいんですけど」
「今? うん、大丈夫だけど」
「ありがとうございます。じゃあ……近くの公園で」
すっと、ついてきてくださいとシメイは刹利に背を向ける。
夜闇の中、だけれどもそれよりもっと彼自身が黒い。
刹利はゆっくりと、だけれどもつかず離れず一定の距離を保って彼の後をついて行く。
何故だかそれ以上近づいてはいけないような、そんな感覚。
と、いつの間にか公園の中にいる。そこまで歩いていた記憶は緩く、明確ではない。
ぼうっと灯りが柔らかくあたりを照らしていた。
「施祇……刹利さん。あなた、二人をどう思いますか?」
「どうって……どう?」
「シハルが好きだ嫌いだ、レキハが好きだ嫌いだ。そんな感じでかまいません」
にこりと笑まれる。それは少し無機質で違和感を感じる笑みだった。
「ボクが思ってること……そうだなぁ……」
刹利は少し考える。
シハルとレキハ、その姿を思い出しながら。
「あなたは……シハルの方が仲が良いみたいですね」
「シハルさん……そうだね。なんだか、風船みたいに気付くとどこかいっちゃいそうな人……あと持ち手の部分が剃刀で、捕まえにくそうですよね。それに美人でお月見に付き合ってくれるいい人です」
そうですか、とシメイは言う。
「シハルは……いい子ですからね。ちょっと気まぐれなところもありますけど」
「うん、そういうとこわかるかな。レキハさんは、なんていうか……うーん……亭主関白なつもりがいつの間にか逆になってるタイプ……しかも本人、気付いてなさそうな感じで。あと、山葵が苦手?」
「亭主関白なつもりがいつの間にか……確かに、そんな感じですね。山葵は……山葵は嫌いだったのかなあの子」
くすっとおかしいな、とシメイは笑む。声を押し殺して我慢するように笑っていた。
「二人に悪い感情は、ないようですね」
「……そう、なるかなぁ。先生なんだから、シメイさんもそうなんだよね?」
「僕?」
刹利の言葉にシメイは笑むばかりだ。どうやら答えようという気はないらしい。
「僕にとって二人は教え子以外の何でもない。でもきっと君よりは二人の事を知っている。だから忠告もしておきたくて」
「忠告……ですか?」
ふっと、シメイの視線が冷たいものになったのを刹利は感じる。
それは鋭くて、なんだかとても居心地を悪くする。
「そう、これ以上、あの子達に関わらないでほしいんです。もう会わないって約束してもらえませんか? 会っても、親しくなどしないと」
「約束……ですか。そうだなぁ……二人が、仲直りしたら考えます」
シハルとレキハ、二人を思い浮かべて刹利は少し笑う。
その表情は柔らかな、感じだ。
「仲直り……それは、どうでしょうね」
「できると思うんだけどな……それに、どっちかがボクに勝つまでは、シハルさんもレキハさんも戦わないって約束してもらったから。ボクはが負けるまで会うことになって命狙われて……あれ?」
「そういえば、そんな事も言ってましたね……うん、そうか、そうでした。約束を破るのは良くない」
刹利は自分の意思もなんとなくまとまらないまま、シメイの言葉を聞く。彼は何か自分の中で結論を出したかのようだった。
「二人と会うのは、楽しいですか?」
「楽しいかって言われると……うん、そうなのかな、そうかもしれないです。シメイさんはボクと二人と、関わってほしくない……みたいですね」
「施祇さんが、二人にとって良い刺激になるのかそうでないのか、よくわかってないですから。もし良い刺激なら何も口出しはしません」
それはどこか含みのある言い方だ。
シメイにとって刹利は二人にとって良い刺激、と思われていないような、そんな感じを受ける。
「二人が仲良くしてくれれば、ボクは関わらなくても大丈夫。ちょっと寂しいけど。ちょっと協力してくださると嬉しいのですけど……例えばいがみ合う原因とか」
「いがみ合う原因ですか?」
「うん、目が何か関係あるのかな、とかちょっと思ったりしてます。金と銀の……」
ふっと視線が合う。
シメイの目もまた金と銀だ。
刹利はじっとその目を、見詰める。
「ああ、これは、関係あるような無いような。あの子達は互いに互いを嫉妬しあっているんです」
「嫉妬……」
「はい」
嫉妬、という答え。
「最初は些細な事から。でも二人は、ある時互いに互いを意識したんです、僕が見る限りでは。その切欠が何かまでは、知らないし、僕は聞こうとは思いません」
「そうですか……じゃあ、今度会ったら聞いてみる……聞いてみようと思います。先生には言えなくても、ボクに言えることはあるかもしれないし」
「ええ、答えるかどうかわかりませんが、そうしてみてください。確かに僕より年も近いし話安いでしょう」
にこりと笑まれる。張り付いたような笑み。
その笑みの違和感を感じながらも刹利は笑い返す。そうですね、と言いながら。
「いつ会えるかわからないけど……」
「案外、すぐに会えるかも知れませんよ。色々と走り回ってる子たちですから」
「走り回ってる……? 何してるんだろう……」
「ああ、そうだ。二人には、僕と会ったことは内緒にしておいて貰えますか? きっと会った事を知ったらちょっと揉めそうなので」
「揉めるんですか? 何でだろ……でも、シメイさんが困るみたいだからそうします」
有難うございます、と静かな言葉。
心がこもっているのかそうでないのか、感じることが出来ない。
「……二人にとって、僕にとって、施祇さんが良い人であるよう願っていますよ」
「えっと……そうなるように心がけます」
良い人、の意味がよくわからないけれども、良い刺激を二人に与える人、であればいいのだと思う。
それはシメイも言っていたことだ。
「お話できて楽しかったですよ。またどこかでお会いできれば良いですね」
「はい、またどこかで……」
どこかってどこだろう。
そんなことを思いながら刹利は夜の闇の中に帰っていくシメイを見送る。
シハルとレキハ、二人の先生に会えたことはちょっと嬉しい。
そして二人についても、少しだけわかったような気がする。
「仲違えのままは、悲しいからね」
刹利はそう呟いて空を仰ぐ。
今日もまた、お月見によさそうな月が空に浮かんでいた。
施祇刹利。
凪風シハル、空海レキハ。
そして片成シメイ。
美人なお月見仲間の良い人、一方的ライバル視をしてくる山葵が駄目な人。
そしてその二人の先生。
シハルとレキハの仲直りを願いつつ、良い刺激になろうと思いつつ。
ここがきっと第一歩。
踏み込む、踏み込まないはまた、次に持ち越し。
次に出会う時の関係は?
それはまだ、わからない。
<END>
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■ 登場人物(この物語に登場した人物の一覧) ■
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【整理番号/PC名/性別/年齢/職業】
【5307/施祇・刹利/男性/18歳/過剰付与師】
【NPC/形成シメイ/男性/36歳/元何でも屋】
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■ ライター通信 ■
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施祇・刹利さま
今回は無限関係性三話目、鴉の濡羽色に参加いただきありがとうございました。ライターの志摩です。
おちゃめさーん!と志摩自身がときめきを感じつつ書かせていただきました。とても楽しかったです。
二人の先生登場、ということで、何考えてるのかわからない人が出てまいりました。先生のペースが刹利さまペースで少し乱れていたと思われます…!
またこれから、次からどーんと踏み込みの一歩です。どう転ぶか、また刹利さま次第でございます!
ではでは、またお会いできれば嬉しく思います!
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