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■呉家の夕食■

川岸満里亜
【6029】【広瀬・ファイリア】【家事手伝い(トラブルメーカー)】
 少女は調理場で佇んでいた。
 器具の名前は覚えた。
 使い方も一通り習った。
 だけれど、食材は多すぎる。
 一体、何をどう調理すれば、【食べ物】が出来るのかがわからない。
 教育係の苑香は、姉にナイショで友人の家に遊びにいってしまった。
 普段なら、家政婦が夕飯を作るのだけれど……。
 その家政婦は、急用で今日は来られないと連絡があった。
 水香がお腹を空かせて待っている。
 水香は自分の大切な“お母さん”だ。
 困り果てながら窓を見た少女は、人影を目にする。

 通りかかった貴方の頭上の窓が開く。
 窓から顔を出した金髪の少女が貴方に言った。
「食べ物の作り方、教えてください」
 教えてくれたら、お礼に出来上がった食べ物を差し上げます。……と。
『呉家の夕食〜お母さんの好きなもの〜』

 何から聞けばいいだろう。
 その場所は自分の家のキッチンよりずっと広い。
 材料も器具も倍以上ある。
 ちょっとしたパーティの準備もできそうだ。
「お母さんの好きな食べ物は何ですか?」
 呉家の台所で、広瀬・ファイリアは少女に訊ねた。
 先ほど、道を歩いていたファイリアは、突如水菜という少女に声をかけられたのだ。
「食べ物の作り方を教えてください」と。
 家政婦が突如お休みをとってしまい、お母さんである呉・水香の他、家には自分しかいない。
 お母さんは研究室にこもりきりである。
 水菜は“お母さん”に作られたゴーレムであり、料理の知識はまだなく、困っているという。
「お母さんは、プリンが好きだといっていました」
「んー、プリンは美味しいですけれど、デザートです。他には?」
「カレーをよく美味しいと言っています」
「カレーですね」
 ファイリアは材料を確認してみる。
 人参、玉葱、ジャガイモ。
 野菜は全部揃っている。
 肉は……。
 豚肉と牛肉があるが、両方カレー用ではない。
 迷った末、豚肉を使うことにした。
「では、ポークカレーにしましょ〜」
「はい、よろしくお願いいたします」
 ぺこりと水菜が頭を下げる。
 ファイリアはなんだか可愛い妹ができたみたいで、嬉しかった。
 水菜は常識を知らない。
 野菜を切ってと指示すれば、手で切ろうとするし、火をつけてと指示を出せば、コンロに鍋を置かずに火だけつけたり。
 その様は少し、自分に似ているとファイリアは思うのだった。
 トラブルメーカーといわれる自分も、周囲の人から見れば、こんな風に見えるのかな、と。
「水菜ちゃんも、きちんと覚えれば料理できるはずですー」
 ファイリアは一つ一つ丁寧に教えることにした。
 料理は作り手により、味が変わる。特にカレーは料理人の個性が現れる料理だ。
 戸棚の中には、カレー粉とルーの両方があったが、今回は簡単に仕上げるため、ルーを使うことにした。
 玉葱は剥いたことがあるらしく、手際よく水菜は剥いた。
「野菜は普段食べてる大きさに切ってくださいねー」
 包丁を持たせて、切り方を教える。
 水菜は教えたことを着実にこなす。
 ファイリアは鍋を用意し、油を入れた。
「カレーの時は、鍋に油を入れてから、火をつけるんです」
 火をつけて、水菜が切って洗った野菜を入れて炒める。
 途中で水菜と交代し、ファイリアは後ろから指示を出すことにする。
 いつもは、自分がこうして色々と習っているのにと、ファイリアは新鮮な気持ちだった。
 肉を入れて、水を入れ、灰汁の取り方も教えた。
「とっておきの隠し味を教えます」
「とっておきですか?」
「はい、美味しくするための秘密ですー」
 ファイリアはチョコレートを取り出して、ルーと共に鍋に入れ煮込む。
「コーヒーなんかでも、味が引き立つんですよ〜。あ、でも何でも入れればいいってことじゃなくてっ。馴れるまでは、隠し味はナシで作った方がいいかもです。今日だけ特別です」
「はい。今日だけ特別ですね」
 水菜はこくりと頷き、ファイリアに習って、カレーをかき混ぜる。
 じきに、美味しいカレーのにおいが調理場中に充満し、自然と水菜の顔に笑みが浮かんだ。
「凄いです。お母さんの好きなもの、できました」
「うんっ。でも、カレーはじっくり煮込んだ方が美味しいんです〜」
「煮込むって何ですか?」
 単純なことを聞かれても、苛立ちはしない。水菜の不思議そうな仕草が、可愛かった。
 ファイリアはお姉さんになった気分で、水菜に説明をしていく。
 カレーを煮込みながら、二人で、炊飯と皿の準備を始める。
 なんだか本当に、姉妹のようだった。
 ご飯が出来上がるまでの間、ファイリアは今日のカレーのレシピを書いてあげることにする。
 水菜が一人でもちゃんと読めるように、平仮名で、絵も入れて。慣れていないので、あまり綺麗ではなかったけれど、それでも、一生懸命書いた。自分を慕う可愛い妹の為に。
 手書きのレシピを渡すと、水菜は嬉しそうに微笑んで、大切そうにエプロンのポケットにしまった。
「ありがとうございます。ファイリアさん」
「ファイでいいよー」
「はい。ファイさん」
 カレーだけでは寂しいので、ほうれん草のおひたしを添える。
 福神漬けを用意して、今晩の夕食が完成した。
「そうだ、もう少し時間がありますよね!」
 ファイリアは冷蔵庫を開けてみる。

 夕食を研究室に運ぼうとしたのだが、匂いに釣られて、水香の方からキッチンを訪れた。
 水香は自分と外見年齢がそう変わらない少女だった。水菜がお母さんといっていたので、40代くらいの女性をイメージしていたファイリアにはちょっと意外だった。
 事情を知った水香に礼を言われ、ファイリアも一緒に、食卓につくことになる。
 水菜が用意をしようとするが、良く分からないらしい。すぐに、ファイリアは水菜の側に寄り、カレーの盛り方を教える。
「なんか、苑香よりずっと水菜の教育係にあってそうよ、あなた」
 スプーンを持ちながら水香が言った。
「ファイはまだ、人に教えられるほどの知識はないです。皆から教わってばかりです」
 そんな自分でも、教えてあげられることもある。そんなことを知った一日であった。
 三人で食卓について、食事を始める。
「美味しい!」
 最初に言葉を漏らしたのは、水香であった。
 その言葉を聞いた途端、水菜は驚いたように、ファイリアを見て……笑った。その顔は嬉しいという気持ちを強く表していた。
「次は、水菜ちゃんが一人で作ってくれます。毎日でも食べれますよっ」
「ホント〜?」
 疑わし気に水菜を見る水香。
「頑張ります」
 そういった水菜は、ポケットに手を入れていた。ファイリアの渡したレシピに触れているのだろう。
 冷蔵庫には、とっておきのデザートが用意してあった。
 手作りプリンである。
 最初に水菜がお母さんの好きなものとしてあげたプリンを、急いで作ったのだ。
 まだちょっと温かいから、今晩は食べれないけれど、明日水香は喜んで食べてくれるだろう。
 プリンを水香に渡す水菜と、美味しそうに食べる水香を想像して、ファイリアは一人微笑んだ。

 少女が三人。
 見かけは普通の女の子。
 だけれど、それぞれ違う特技を持ち、違う生態の少女。
 その日は三人で、笑い合いながら。
 美味しく楽しい時間を過ごしたのだった。

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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号/PC名/性別/年齢/職業】

【6029/広瀬・ファイリア/女性/17歳/家事手伝い(トラブルメーカー)】

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■         ライター通信          ■
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 呉家の夕食にご参加ありがとうございました!
 ファイリアさんのお陰で、水菜はカレーライスを覚えることができたようです。
 あまり、常識を知らないところは、水菜とファイリアさんは似ていますね。
 水菜もファイリアさんのように、家事がこなせるようになるのでしょうか。
 またお目に留まった際には是非よろしくお願いいたします。