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■お子様と一緒!■

志摩
【6204】【續・羽椰】【高校生】
「あははははは! な、何やってたんですか! かっわいいな! 写真、写真とっておきましょう」
「うああああん、奈津が笑うううう」
「あいちゃん泣いちゃめー」
「お写真、お写真とるの? 我真ん中がいい!」
「よーき、押すな!」
 珍しく奈津ノ介が声をたてて笑っている。
 何故かと言うと倉に探し物に入ったはずの四人が五歳児くらいのちびっ子になって出てきたからだ。しかもうまく自分の力をコントロールできないらしく藍ノ介は狐の耳と尻尾、千両は猫の耳と尻尾、遙貴は背中に黒羽、南々夜は二本の角が装備されている。しかも性格もちょっと退行中。
「あーもう、僕がちゃんと治してあげますから皆さん邪魔にならないようどっかに遊びに行ってください。きっと退行の薬でも頭からかぶったんでしょう?」
「しろい粉かぶったよ」
「ななやが撒いたんだ、我は悪くない!」
「よーきちゃんが面白がってかけ、ぐすん」
「……いくらぺったんこで男でもおおっぴらに見せないでくださいね遙…あれ、姉さんだ」
「奈津が着せてー」
「…………手に余る大予感」
 とりあえずそのずるずるの服装をどうかしますか、と奈津ノ介は苦笑する。
「いやー奈津と一緒におるー!!」
 いつも見下ろす子を藍ノ介は見上げて涙目で言う。奈津ノ介は、ちょっとどうなのこの人とでも思っているんだろう笑顔が引きつっている。
 と、視線があった。
 にこりと、笑まれる。
「あの、よかったらこのお子様達の面倒、みてもらえませんか? 僕は薬を作らないといけなくて……」
 おもむろに面倒事を押し付けようとしている雰囲気。
 でもほっとくこともできない、かな。



お子様と一緒!



 菊坂静の目と、鬢を朱に染めた、背に黒羽根のある少女の目がぱちくりと出会う。どちらとも無くにこりと笑いあい、静の視線は奈津ノ介へと向く。
「この女の子が遥貴さんって……」
「事実です」
 じっと腰をかがめてラッテ・リ・ソッチラが見詰めているのは狐の耳をぺそりとさせ、少し怯えているような涙目の少年。
「このちびっ子があの若造なの? 本当に、本当に!?」
「はい」
 おとなしくしているようでしていない、二本角、青いくせっけの髪の少年を見ながら小坂佑紀は奈津ノ介に顔を向ける。
「じゃあこっちは南々夜さん?」
「その通りです」
 苦笑しながら奈津ノ介が頷くと瞳をキラキラさせながら腕に子犬を抱いた芳賀百合子は残る一人、黒い猫耳と尻尾のある少年を見る。
「ということは千両さん!? えーえー、皆誰かの隠し子かと思ってたのに……なんだかちょっと残念……」
「隠し子って……でも、うん、かっわいいなこの子たち」
 視線を子供に合わせているのは續羽椰だ。にこにこと笑顔で遥貴の頭を撫でている。
「皆さん、蔵で探し物してて、どうやら退行の薬を盛大にかぶってしまったようで……」
「そのおかげで素敵なことになってたのね……! ウフフ、いいわ、素敵よ、素敵過ぎるわ、私の時代キターーーー!」
 ちょっとどころかとっても興奮気味のラッテに驚いて、藍ノ介は奈津ノ介の後ろに隠れるようにしながらこっそりとラッテを見上げる。
「さすがに一人で四人の面倒見ながら解毒薬を作るのは無理なので……この子たちお願いできませんか? 三日くらいの間なんですけど……あ、夜は僕がなんとかするのでいいんですけど昼間だけでも……」
 奈津ノ介の言葉に、佑紀と静は苦笑しながら大丈夫だと首を縦に振り、そしてラッテ、百合子、羽椰の三人はもちろんやるやる、と瞳をキラキラさせながら手伝うことをあらわす。
「うれしいです、お願いしますね。僕は二階で薬作ってきますから」
「や、奈津行っちゃやー!」
「お、親父殿……」
 うるっと涙を溜めて、耳を下げ、離れたくないと足に必死にしがみ付いている藍ノ介をどうしようか、と奈津ノ介は困る。
「藍ノ介さん……じゃ、なんか違和感あるね、藍ノ介くん、奈津さん困ってるから離れよう、ね?」
「そうよ、この私が遊んであげるわ!」
「や! 藍は奈津と一緒におるのだ!」
 藍ノ介はラッテを拒絶ししがみつく手に力が入る。ラッテは少々しょぼーんとするものの諦めず引き離しにかかる。それでも中々離れず、全員で藍ノ介を説得にかかっていた。
「僕、聞き分けの無い人は嫌いです」
「な、奈津さんそれ泣かせちゃうから……」
 にっこり笑顔でその言葉は駄目だから、と佑紀が即座にツッコミを入れる。そうですか、と奈津ノ介はいつものように藍ノ介に接しているようだ。
 奈津ノ介の言葉に当然、藍ノ介は目に溜めていた涙をぼろぼろ零しだす。
「奈津が泣かせたー」
「あははは、泣かせたー」
「あいのすけ、泣くな泣くな」
「うりゅ……」
 南々夜と遥貴に指差されながら泣かせたコールを受け奈津ノ介はたじろぐ。二人をなだめるのは羽椰と佑紀が担当し、そして泣いている藍ノ介は静とラッテ、百合子、そして千両が接していた。
「う……」
「あいのすけー泣くなー」
「そう、泣いてちゃ良いこと離れてっちゃうよ!」
「…………っ!?」
 百合子が藍ノ介を撫でる。それは藍ノ介も少し落ち着いた、という矢先のことだ。百合子の手から離れていた子犬が藍ノ介の尻尾をはむはむと甘噛みなどしてじゃれついている。
 じっとそれを藍ノ介は見て、尻尾をぱたりぱたりと動かして気をひいたりもしていた。視線はずっと子犬を追っている。
「シロ……わんこ」
「うん、シロだよ」
 もう心の方は子犬、シロに釘付けらしい奈津ノ介から手を放してシロの後を追ったりしている。
「……気が付かれないうちに行きます」
 奈津ノ介は五人にお子様な大人たちを任せて二階へと消えた。
 


 狐の耳と尻尾をぴこぴこさせ目の前の子犬に夢中の藍ノ介。
 二本角、遥貴とはしゃぎあう南々夜。
 背に黒羽根、南々夜とはしゃぎあう遥貴。
 そんな三人を見守る千両。
 四人のお子様のお世話、開始。



 とりあえず当面の問題は服装。
 ずるずると裾を引きずりながら歩き回る姿は今にもこけそうだ。
「とりあえず今日は……よいしょ」
 と、羽椰は周りを走り回っていた南々夜を捕まえて器用に服をたくし上げていく。どこがどうなているのかわからないけれどもあっという間に裾を引きずることはなくなっていた。
「こうやってたくし上げとけばいいんじゃないか?」
「そうね、今から服……探しに行くとかもめんどくさいものね」
「じゃあ、服なんかは明日から用意ってことかな」
「ふふふ、持って来るわよ、着せ替えごっこよ……!」
「四人お揃いの服着たら可愛いだろうねー」
 それぞれがどんな服持ってこよう、とうきうきわくわくした様子だ。
 と、今まで遊びまわっていた遥貴と南々夜がてくてくと近づいてくる。
 どうしたのか、と視線は釘付けだ。
「御腹減ったー」
「我も、御腹すいたのだ」
「それじゃあ何か、私が作るわ。何がいい?」
「なんでもいー」
「我、お手伝いする!」
「俺もする」
 はいっと元気良く手を上げたのは遥貴。そしてなんだか、その調子のよさに心配になったのか千両も手伝うと言う。
「じゃあ、台所行ってくるわね」
「何かあったら叫べば行くから、こっちは安心していってらっしゃい」
「ええ、ありがとうね」
 行こう、と千両と遥貴の手をとって佑紀は奥へ。とことこと歩いていく姿を皆で見送る。
 三人いなくなり、和室は少し広くなる。
 まだ子犬と遊んでいる藍ノ介と、そんな藍ノ介の尻尾で遊ぶ南々夜が残される。
「どうします?」
「遊ぶしかないよね、うん」
「私は……明日の準備をするわ」
 鼻息も荒く、ラッテは拳を握って言う。
「お子様たちと今戯れられないのは悲しい……でも、でも明日満喫するためには今日この時間だけ削って……!」
 ふらりと苦悶しながら、ラッテは言う。
「や、そんなに苦悶しなくても……」
「私にとってはすることなんです! それでは明日!」
「また明日ー……なんか面白い人だなー」
 ラッテの姿を見送りながら、羽椰が言う。静も百合子もそうだね、と笑いあった。
 そんな和やかな雰囲気を破るように、叫び声。
 驚いて振り向くと、藍ノ介が泣いている。
 原因は、どうやら南々夜らしい。
「なーやがわんことったー」
「ボクもわんこと遊ぶだけー」
 ぎゅうっと子犬を引っ張り合うような感じに三人慌てる。それは、よろしくない。
「駄目、それは駄目だよ」
「そうそう、ほかの事……そうだ、お絵かきしよう、ね?」
「お絵かき? するっ」
 静の言葉に、ぱっと子犬を持っていた手を南々夜は離す。それと同時に今まで引っ張り合っていた反動で藍ノ介は後ろへとこけた。それは百合子がしっかりと、受け止め支えていた。
「危なかったね、大丈夫?」
「だ、大丈夫……ありがと……ぅ」
 何が起こったのか理解できていない藍ノ介は百合子を見上げて瞳をぱちくりとさせた。
 と、奥、台所の方からすさまじい声が響く。
 ばっと視線はそちらを向く。
「俺行ってくるよ」
 たたっと小走り気味に奥に走るのは羽椰だ。百合子は藍ノ介を、静は南々夜を相手にしているため動けない。
 視線でよろしくと伝えた。
 羽椰は台所で慰める二人をみて、何があったのか悟ったようで苦笑する。
「作るのやめて、俺と遊ぶ? それとも続ける?」
「……やめる!」
 ボウルを千両に押し付けて、遥貴は羽椰の足にしがみつく。
「じゃ、この子は俺がみるから……二人は続けて、な?」
「そうするわ、お願いね」
 佑紀と羽椰は目配せし合う。
 遥貴を抱き上げて、背中をぽんぽんと叩く。
 落ち着くまで少し、時間がかかりそうだった。
「何して遊ぶ?」
「このままがいい……」
 ぎゅーっとしがみつく遥貴にいいよ、と羽椰は笑う。
 庭を見ながらそのまま抱き上げていると、いつの間にか穏やかな吐息が聞こえてきた。
「あ……寝ちゃってる」
 暢気なものだな、と羽椰はくすくすと、起こさないように笑った。



「あ、いい匂いだと思ったら……」
 とんとん、と階段を下りてくる音。
 奈津ノ介だ。やっぱり少し、心配だったようだが全員が大人しくしているところをみて安心したらしい。
 お子様たちは現在、クッキーにご執心らしくもしゃもしゃと食べている。
「問題ありませんか?」
「大丈夫だよ、仲良しだから、ねー?」
 藍ノ介を膝に乗せて百合子が言う。仲良し、というのはどうやら子犬も一緒のようだ。
「しーくんとボクもなかよしー」
「うん、一緒にお絵かきしたんだよね」
 と、静はこれを描いたんだと絵を出す。片方が南々夜で、片方が静のものらしいがどちらも恐ろしく、破壊的なセンスだ。
「どっちがどっちか良くわかんないね、あはははは」
「わかんないね」
 羽椰と遥貴が言いながら笑う。
 静は確かに並べたらどっちがどっちだかわからないね、と苦笑した。
「……で、なんでそんなに爆笑するのかな? ふふふふっ……」
 静は羽椰と遥貴に真っ黒なオーラと笑顔を向ける。
 瞬間的に、二人は笑うのをやめて、縮こまる。
 佑紀はそんな様子にふっと微笑み、その隣で千両も楽しそうにしていた。
「あはは、夜は僕が見ます。なのでもう今日は大丈夫ですよ」
「あ、それなら明日、泊り込んでいいなら手伝うよ、早く薬作れるほうがいいよね」
「俺も大丈夫ー」
「そうなんですか? じゃあお願いしようかな……」
 そして初日は、奈津ノ介に後を任せ終了。
 でもまだ、あと二日、お子様たちのお世話は残っている。



 二日目。
 戸を開けるとそこはファッションショーだった。
 羽椰の目はかわいい子供服に身を包んだ四人に釘付けになる。
 四人の姿を見て、一瞬びっくりそして、表情を緩ませる。
「か……かわいい……っ! な、ちょ、これナイス!」
「わ、わかってくれるのね、あなた……!」
「もちろん!」
 二人は手をがしっと握り合う、それはもう同士とばかりに。
「あ、こっちも似合うんじゃないか? なぁ?」
「それを着せるならこれもこれも!」
「ああ、それいいよ、絶対いい!!」
 大はしゃぎのラッテと羽椰は、ファッションショーが気に入ったらしい遥貴と南々夜と一緒に遊ぶ。
 藍ノ介と千両は、二人で自主的に遊んでいたことは言うまでも無い。むしろ放って置かれてそれが楽しいらしい。
 そんなところに佑紀は現れ、ここにも大きな子供がいる、などと笑う。
 それにラッテと羽椰は楽しいからいいのだと声をそろえるのだった。
「まぁ……確かにそれぞれ楽しんでるみたいね」
 佑紀は藍ノ介と千両、二人と一緒にしりとりやら他にも色々と簡単な遊びをする。そんなことをしているうちに静も百合子も店にやってくる。
 二人とも一瞬、何事かと思うがすぐに状況を飲み込んだ。
「知り合いにね、四つ子ちゃんがいてね、昔着てた幼稚園の制服とか借りてきちゃった。おそろいって可愛いよね」」
「ええ、可愛いわ……私も見てみたいわ」
「またそれは素敵な……!」
「俺もみたいー!」
 決まり、と四人は服をはぐように脱がされて、そしてすぽっと幼稚園の制服を着せられる。そして頭にも幼稚園の黄色い帽子。
「似合う?」
「おそろいだねー」
「おそろい……」
「一緒ー」
 お揃いの服装。四人は互いを見合って、にへらと笑いあっていた。
 それがかわいらしい。
「うん、似合ってるね。あ、僕も持ってきたんだよ。ええと……」
 静はにこにこと微笑み、持ってきたものをがさごそとする。
 そこから出てきたのは着ぐるみのパジャマだ。
「皆の分もあるんだ。フリーサイズだからきっと大丈夫だよ」
 にこっと笑いながら静は広げてみせる。種類は熊やらウサギやら犬やら猫やら。他にもたくさんある。
「我はこれ!」
 そう言って最初に遥貴が抱え込んだのは白ウサギだ。
 次に南々夜が黒ウサギがいいと手に取る。
 千両と藍ノ介も少し迷いつつも、犬と猫を。
「お気に入りが決まってよかったね」
 静の言葉にこくこくと嬉しそうに彼らは頷く。
 と、ラッテがふふっと怪しい笑いを浮かべた。
「パジャマ、ということは就寝準備。お風呂ね、お風呂に入らなくちゃ駄目よね」
「ああ、確かにお風呂は入らなくちゃ駄目だなー。でもまだ夕方だぜ?」
「その辺は気にしないのよ!」
「ちっちゃい子って寝るの早いよね」
 百合子の言葉にそうよ、とラッテは頷く。
「私がお風呂に入れてあげるわね、ふふふ、うふふふふふ」
「我、お風呂入る! きれいきれいする!」
 たたーっと遥貴はラッテの元に寄って行こう、と言う。どうやら懐いてしまったようだ。
「ええ、お風呂にレッツゴーよ!」
 二人は仲良く手を取り合って、風呂場へと向かう。
 大丈夫かな、と少しだけ誰もが思っていた。

 

「あれ、どうしたんですか? 大丈夫ですか?」
「ん、のぼせただけみたいよ」
 階段を降りてきた奈津ノ介の目に最初に入ったのは、和室で寝ているラッテの姿だった。
 どうやら長湯しすぎてのぼせている様子。
「そうなんですか……あ、今日の夕飯すごいですね」
 いつものちゃぶ台には、さまざまなおかずが並んでいる。
 普段の倍以上のそれに奈津ノ介は少し驚いているようだ。
 着ぐるみなお子様たちはえへんとそれぞれが胸を張っている。
 その意味を、佑紀は代弁する。
「皆が手伝ってくれたから、ね?」
「そうそう、まぁ……ちょっと謎な物体もあったりするけど」
「み、見た目が悪いだけで味はおいしいです! 多分!」
 にやりと羽椰は笑いながら百合子の方を見る。羽椰が謎の物体と評したものは百合子作の料理らしい。
 食べてからのお楽しみだね、とそれに静も加わった。
「奈津、奈津もこれ着るのだ」
「え?」
 と、服を引っ張られ、藍ノ介に差し出されたのは犬の着ぐるみパジャマだ。
「皆おそろいで着てるから奈津さんも着ようよ!」
 百合子はにこっと笑って言う。
 そして全員から、暗に着ろとの無言の圧力。もちろん逆らえるわけは無い。
「はい、着ますね」
 受け取った服をそのまますぽっと着る。
「似合います?」
「うん、似合うね」
 静は全員分用意してよかった、と笑う。
「そうだ、写真、写真をとろう。せっかくだから皆で!」
 ぽん、と百合子は手を叩き提案する。
 いつもは見上げるばかりの彼らを膝に乗せて写真を撮ろうというのだ。
「いいですね、僕も想い出に撮りたいなって思ってたんです」
 ちゃぶ台を囲んでハイチーズとかしゃりと一枚。
「あ、ラッテのねーちゃんも起きてー」
 ぺしぺしとラッテの頬を遥貴が叩く。
 それに反応して、ラッテは瞳を開けた。
「うふふ、お風呂を一緒にお子様の柔肌が……あら?」
「しっかり! もうお風呂は終わってるの」
「そんな……! 私としたことがうっかり!!」
 がーんと気落ちするラッテをいい子いい子と遥貴は慰める。
「写真を……ラッテさんも一緒に」
「そうそう、景気よくぱしゃっとな!」
「奈津さん、ちゃんと焼き増ししてね!」
「あ、僕にもお願いします」
「はい、ちゃんと皆さん全員分しますね」
 こうして和やかに、夜は更けていく。



 三日目。
 とうとう薬の出来上がる日。
 その日は朝早くから、騒いでいた。
 朝から元気なお子様たちは枕投げに勤しんでいる。
 全員銀屋に泊り込み、和室のちゃぶ台を片付けて、布団をしいて雑魚寝のようなそうでないような。
 疲れていたのか眠りにつくのは早かったので夜は何事もなく終わった。
 その分、朝に回ってきたらしい。
「えーい! あはははは!」
「ぶっ……うりゅ……いたぁぁぁぁい」
「こら、よーき!」
「我悪くないもーん、ねー」
 千両に怒られ、遥貴は静の後ろに隠れる。
「まぁ……ほどほ……」
「あははははは」
 静の言葉をさえぎるようにばふっと顔面に枕が飛ぶ。
 不覚にもそれが避けられなかったのが悔しい。投げたのは南々夜だ。
「南々夜くん……」
「楽しそう……私もやっちゃおう」
 そしてその様子を見ていた百合子は枕を掴み投げる。それは南々夜にばふっと命中。
 朝っぱらから枕投げが開始される。
「お子様と遊ぶのもまた一興……私も」
 と、ラッテも参戦。もちろん静もやられたままでいるわけがなく。
 枕が空を飛び始める。
「…………何してるのかしら……」
 と、静かな声が響き渡る。
 台所で朝食準備をしていた佑紀、そしてその手伝いをしていた羽椰。
 誰もが動きを止めて、ぽとりと枕が落ちた。
「朝ご飯作ってくるから布団片付けておいてねって言ったわよね」
 にこりと佑紀が浮かべた笑みは無言の怒り。
 びくりと、お子様たちは身を震わせる。
 そしてごめんなさい、と謝りいそいそと片付けを始める。
 それでいいのよ、とその様子を見守る佑紀の後ろで羽椰は面白そうに笑っていた。
 しっかりとちゃぶ台を定位置に戻し、朝食準備も終わったところ、奈津ノ介がにこにこ笑顔でやってくる。
 奈津ノ介は徹夜で解毒剤を作っていたようだ。
「できましたよ、薬」
「わー奈津さんお疲れ様!」
「とうとう完成してしまったのね……お子様たちとお別れなんて……くっ……!」
「ラッテのねーちゃん、我はおっきくなってもすきだからだいじょうぶ!」
「ありがとう……!」
 ぎゅっとラッテと遥貴は抱きしめあう。
「朝食終わってからにしましょうか、ご飯冷めちゃいます」
 その意見には皆同意だ。
 談笑しながらの朝食。それぞれお子様たちと最後の交流を。
 羽椰はにこにこと、全員を見る。
 楽しそうであれば、それが自分にとっても楽しく嬉しくある。
「思い残すことは無いですか?」
「ないね、楽しかったし可愛かったし」
「そうですか」
 羽椰と奈津ノ介はにこにこ笑いあう。
 もう少しだけ、もう少しだけこのままでと思いながら。



「はい、じゃあ薬まきますよー離れて離れて」
 ぼふっと大きなシーツ四枚。
 お子様たちはそれをかぶりどきどきと上を見上げる。
 いよいよ元に戻るときなのだ。
「えい」
 ざぁっとその薬を奈津ノ介が撒く。
 と、同時にもくもくとその薬が煙のように立ち上がる。
「けほっ、これ俺たちが吸い込んでも大丈夫なのか?」
「あ、それは大丈夫ですよ。僕たちには何も影響ないです」
 もくもくと立ち上がる白の中に人影。
 それはお子様サイズではなくて大人サイズ。
「あははは、煙い煙いー」
「ちょ、南々夜暴れるな!」
「ぎゃあああああ、どこ触ってる藍ノ介えええええ」
「さ、触ってないぞないぞおおおお!!!」
 大人たちの叫びは、お子様の時以上に騒がしい。
「あーなんか……」
「うん、この感じだね」
「千両さんはお子様でも今でもかわらないのね」
「私のお子様……幼児たち……!」
「あはは、いつもこんなんなんだ! おっもしろいなー」
 薬が舞うのが落ち着いてくると、そこんいは微妙な表情の大人たち。
 お子様の時のことはしっかり覚えているようだ。
「あーあ、また見上げるようになっちゃった、残念」
「百合子、残念とは何だ、残念とは!」
「お子様の時は可愛かったのに偉そうね、若造」
「わかっ……」
 恨むわ、というような表情でラッテは藍ノ介を見る。
 と、静が一人、何だか様子のおかしい遥貴に気が付く。
「どうしたの、遥貴さん」
「あ、いや……」
「よーきちゃんはねー、女の子になっちゃったんだよー」
「女の子……? え?」
 あはは、と笑いながら南々夜は言う。そして全員視線は遥貴にもちろん向く。
「や、そんな風に見るな、見るな……!」
「あと五歳若ければ幼女美少女二度おいしいだったのに……」
「な、目が本気だぞラッテ!」
 びくびくと遥貴はし、千両の後ろに隠れる。
 千両はもう疲れた、といった感じだ。
「あはは、無事に戻れたということでよーし!」
「そうだな」
「うむ」
「我は戻れてない!」
 女であることが嫌だ、というように遥貴は声を上げる。
「なんでそんなに嫌なの? いいじゃないの」
「駄目だ、色々と駄目なんだ、駄目なんだ!」
「女も楽しいから駄目じゃないって、なー」
 佑紀と羽椰と、二人は頷きあう。それでもやはり、遥貴は納得しない。
「奈津、戻せ、我を男に戻せ」
「やだなぁ、僕がそんなことするわけないのわかってるくせに」
「うっ……!」
 にこにこ笑顔の奈津ノ介とたじたじの遥貴。
「あ、俺なんとなく理由わかったかも」
「私もなんとなく……」
「え、何? 何なの?」
「男女の仲関係ね」
「そうそう、奈津さん頑張って」
 皆に言われ、かぁぁぁっと遥貴の顔は紅くなる。いつものペースもままならない状態だ。
「まぁまぁ、遥貴を苛めるのもそのへんにしといてやってくれ、な?」
「そ、そうだ! 我を苛めて後で倍返しだぞ!」
「よーきちゃん強がりー」
 千両がその場を収めに入る。入るのだけれども横槍がもちろん入ってくる。
「皆遊んでくれてありがとーね、ボク楽しかったよー」
「わしも……ちょっと楽しかった。ありがとうな」
「うん、忘れていた感覚だったな」
「…………感謝はしてる」
 大人たちは笑う。
 世話をしたものも笑う。
 これで無事に、終わり。



 と、思うのはまだ早くて。
 この後大人たちは撮られていた写真にあたふたとすることになる。



<END>



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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号/PC名/性別/年齢/職業】

【5566/菊坂・静/男性/15歳/高校生、「気狂い屋」】
【5884/小坂・佑紀/女性/15歳/高校一年生】
【5976/芳賀・百合子/女性/15歳/中学生兼神事の巫女】
【5980/ラッテ・リ・ソッチラ/女性/999歳/存在しない73柱目の悪魔】
【6204/續・羽椰/女性/17歳/高校生】
(整理番号順)


【NPC/藍ノ介/男性/897歳/雑貨屋居候】
【NPC/南々夜/男性/799歳/なんでも屋】
【NPC/千両/無性別/789歳/流れ猫】
【NPC/遙貴/両性/888歳/観察者】
【NPC/奈津ノ介/男性/332歳/雑貨屋店主】

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■         ライター通信          ■
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 ライターの志摩です。今回もありがとうございました!
 お子様のお相手お疲れ様です!お子様たちどうなんでしょうね、大人の方がどうだって感じもしますが!(…
 そしてとうとう遥貴が女子になりました…!奈津と遥貴と、これからきっと壮絶な追いかけっこが始まることでしょう……(他人事)非常に楽しみです…!

 續・羽椰さま

 銀屋でははじめまして、ありがとうございました!可愛いものにキュンする姿をうまく出せれていればと思っております!可愛いものは可愛いですよね、ハイ、ウフフ。羽椰さまらしさが出ていればと思っています!
 ではまたお会いできれば嬉しく思います!