■超能力心霊部 フォース・ファントム■
ともやいずみ |
【5698】【梧・北斗】【退魔師兼高校生】 |
放課後のファーストフード店。奈々子は無言で写真を見つめていた。
写っているのは自分と、もう一人の自分。
「……なんですかね、これは」
眉をひそめて言う奈々子に、正太郎は首を傾げてみせた。
「奈々子さんは一人っ子だったよね、たしか」
「ええ。双子という話は聞いたことがありません」
「でもこっちの奈々子ってさ」
奈々子の横に陣取っていた朱理が唐突に話に割り込む。
写真の右側に写っている奈々子を指差した。
「なんか、すっごく嫌味っぽく笑ってない?」
その言葉に正太郎が「そうかなあ」と小さく言う。
「奈々子さんてけっこう嫌味言うし……」
「薬師寺さんの私に対する気持ちはよーくわかりました」
冷ややかに言う奈々子は微笑んだが、目はちっとも笑っていない。朱理が「うわあ」と青ざめた。
帰り道。家への道でも奈々子は写真から手を離さない。正太郎からもらってきたのだ。
考えてみれば、正太郎と出会ったのも彼の写真に自分が写ったせいだ。
(因縁というか……)
この、もう一人の自分はなんなんだろうか?
考えていると、ふと陰が差した。
「こんにちわ、奈々子」
一瞬、朱理が来たのかと思ってしまった。朱理とは帰る方向が逆なので、それはないだろう。
だが、口調があまりにも彼女に似ていた。
怪訝そうにする奈々子は、逆光で相手の顔を見えない。
戸惑う奈々子はその背格好に見覚えがあることに気づいた。
「あなたは……!?」
どうして。
驚愕に目を見開く。
全く同じ制服を着込んだ奈々子が、いた。双子以上に似て、それでも奈々子本人とは表情が違う。
不敵すぎる。
呆然と立ち尽くす奈々子は、ごくりと唾を喉の奥に押しやったのだ――――。
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超能力心霊部 フォース・ファントム
ふんふんと鼻歌を歌いながら梧北斗は家への道を歩いていた。
今日も自分の体調は絶好調だったし、部活もスムーズに終わったし。いいことばっかりだ。
(こんなにいいこと尽くめだと、逆に後が怖いけどな)
まあ今は余計なことは考えないでおこう。
「あれ?」
ふと気づいて北斗はそちらを見遣る。
長い黒髪をなびかせて歩いているあの後ろ姿は一ノ瀬奈々子だ。
(あれって奈々子……だよな?)
姿勢をピシッとして歩く彼女は後ろ姿からも美人ぶりがわかる。
声をかけて振り向いてもらっても、決してがっくりしない……そんな美人である。
(どこの高校か訊いてなかったけど……いいとこ行ってそうだよなぁ……)
感心していた北斗は奈々子が足を止めたのに気づいた。
怪訝そうにしている北斗はちょっと背伸びをして奈々子が居る方向を見る。
奈々子のすぐ横に誰かが立っていた。
「え? あいつ、双子だったのか?」
そっくりの少女が、奈々子の隣に居るのだ。
鏡でもあるのかと北斗は一瞬思いそうになる。それほどその少女は奈々子に瓜二つなのだ。
声をかけようかと思っていた北斗は伸ばしかけた手を見遣り、苦笑した。
邪魔するのも悪いかもしれない。
きびすを返そうとする北斗は――――だが気になってしまって奈々子をもう一度見た。
(なんだ……?)
なにか、引っかかる。
(なんか…………もう一人は嫌な感じがする……)
自分の弓袋の中にある氷月を通して、北斗に何かを……まるで警告のような何かを伝えてくる。
今までの経験を思い出して北斗は弓袋から氷月を取り出した。
(朱理も正太郎も危険な目に遭ったんだ! 奈々子もそうかもしれない!)
氷月を握りしめて北斗は二人の奈々子の元へと駆け出す。
「奈々子!」
呼ぶと二人が一斉にこちらを見遣った。少しだけビクッとしてしまう北斗であったが、それで逃げるわけにはいかない。
右の奈々子も、左の奈々子も……奈々子だ。
(う、うわ……っ、近くで見ると本当にそっくりだな……)
「双子だったのか?」
怪訝そうに訊くと二人の少女はすぐに否定する。
「違います! 本物は私です! あちらは偽者!」
「なにを言うんですか! あなたこそ偽者じゃないの! 本物は私です!」
どちらも自分を本物だと主張し、相手を偽者だと言う……これではどちらが偽者かなんてわからない。
「うえ……えっと……」
少し戸惑い気味に二人を交互に見る北斗。
外見はそっくり。どこかに違いなどない。
(見た目からどっちが本物かなんて、わかるかよ)
眉をひそめていた北斗は右側の奈々子のほうを向く。
「本物はコッチだ!」
きっぱりと言い放つと、左側の奈々子が眉を吊り上げた。
「なにを言うんですか! 本物は私です!」
「いや、たぶんコッチだ。なんだかおまえ、嫌な感じっつーか……なんだろう。よくわかんねーけど、奈々子じゃない感じがする」
うまく説明できないために、たどたどしく言う北斗。
右側の奈々子の手を引っ張って自分の後ろに庇う。
「大丈夫だ。俺の後ろに隠れてろ……。な?」
肩越しに笑いかけると奈々子はこくんと頷いた。彼女はひどく不安そうだ。
対峙している奈々子はじっと北斗を見ていたが、ふいにニヤっと笑う。
「よくわかったわね。確かに私は偽者よ」
「正解したんだ。なんかご褒美くれてもバチは当たらないぜ?」
「ふふっ。人外には慣れてる……ということね」
偽者は長い髪を後ろに払い、不敵な笑みを浮かべたまま言った。
「いつでも攻撃に移れるようにしているのね。でも惜しいわね。弓ではこの距離はまずいわ」
「そうかな?」
「自信があるのは悪いことじゃないわ、坊や。でも私相手には通じない」
「そういうのはやってみなくちゃわからない」
引く気がない北斗を見て、彼女は嘆息する。
「やれやれ。私が用があるのはそちらのお嬢さんだけなのに」
「奈々子になんの用だ」
攻撃寸前と言わんばかりの北斗に彼女は微笑んだ。奈々子の顔なのに、笑みがいやに大人っぽい。
彼女はひた、と奈々子を見た。
「私はドッペルゲンガー。死を告げる前兆」
「なんだと!?」
ぎょっとする北斗は思わず弓を握る手に力を込める。
奈々子を殺すつもりなら容赦をする気はない。
(ドッペルゲンガーってあれだよな……。えっと……自分そっくりのヤツが目の前に現れたら死ぬとかいう……。魂の半分とか、いろんなこと言われてたような……)
そんなハッキリしないヤツが敵とは……。
「わ、私を殺しにきたんですか!?」
北斗の後ろから奈々子が相手を睨みつけるように言う。
ドッペルゲンガーは小さく笑った。
「私は死のニオイがするところにはどこにでも現れるの。私は単なる『警告』でもある」
「どういうことだ……?」
「姿なんて、どうでもいいのよ」
そう言うと彼女は朱理の姿へと変身する。一瞬のことで、北斗と奈々子は仰天した。
紺色のセーラー服姿の朱理。誰が見ても本物だと思うことだろう。
「この姿のほうがお気に召すかしら? 私はあなたたちの記憶を映しているだけ。あなたたちの望む人の姿になってあげる」
「目的はなんですか!」
奈々子が北斗を押し退けるように前に出た。北斗は「うぉっ」と驚く。
「からかいに来たんですか!? だとしたら悪趣味です!」
「そんなに怒らないで欲しいわ、奈々子」
ドッペルゲンガーが悪びれもせずに朱理の顔で微笑んだ。それに対して奈々子が異常なほど怒りに顔を染める。
「朱理の姿をやめてください!」
「わりと気に入ってるの、この子。強い死のニオイがするんだもの」
「なにを……?」
「あなたもそうよ、奈々子ちゃん。この子の側にいるとろくなことにならないわ」
愕然とする奈々子。北斗は弓を構えて矢の狙いを定める。
「――おまえの目的はなんだ、ドッペルゲンガー」
「私は『警告』だと言ったわ。からかいに来た、と思ってもらって結構よ」
「それが本当だという証拠があるのか?」
「ないわね。私を攻撃できるのかしら、北斗ちゃん」
「ちゃ……『ちゃん』付けで呼ぶな!」
鳥肌を立てて言う北斗に、彼女はくすくすと笑う。なんだか調子の狂う敵だ。
本当に敵かどうか怪しい……。だがなんだろう。北斗の勘では…………この女は敵のはずなのだ。
「あなたもとても強い『死』のニオイがしてる……あなた自身からではないけど」
「はあ?」
「奈々子も北斗も、どちらも関係者が強い『死』のニオイをさせているのね。…………美味しそう」
ぽつりと呟いた彼女は唇を舌でぺろりと舐めた。朱理の顔でしているのに、やけに妖艶に見える。
奈々子が嫌がるのも当然だ。北斗も、朱理の顔でそういう行為はして欲しくない。
(俺の関係者……? 誰だ? 朱理か?)
ドッペルゲンガーの言動だと、そう考えられる。
両親が死んでいる朱理からは強い死のニオイがしていても不思議ではない。
「『死』は『死』を呼ぶ……。朱理ちゃんはとても強い生命力の輝きをしているけど……私はあなたのほうが好きよ」
奈々子に向けてにっこり微笑むドッペルゲンガー。奈々子は嫌悪の表情を浮かべて北斗の後ろに隠れた。
「綺麗な綺麗な魂……。強い、けれども純粋な色。素敵ね」
「…………朱理だってそうです」
「あの子は違うわ。あの子は深い深い闇の色をしているの。あなたの真反対」
え、と思ったのは北斗だけではない。奈々子もそのようだ。
ドッペルゲンガーは続ける。
「北斗ちゃんも綺麗ね。とても強い魂だわ。綺麗で、とても攻撃的。男の子はこうでなくてはね」
「それはどうも」
褒められているようなので、一応礼を言う。奈々子に睨まれたが、気にしないことにした。
「私が好きなのはあなたたちみたいに真っ直ぐな魂。朱理ちゃんのようなタイプは好きじゃない」
「……俺たちの魂を狩りにでも来たのか」
そうとしか思えない。
奈々子を獲物として狙いをつけたのだ。きっとそうだ。
「………………そのつもりだったけど、あなたが邪魔をしたのよ」
今度こそはっきりとドッペルゲンガーはそう言った。からかいに来た、というのはやはり嘘だったのだ。
「どうした。さっき言ってたことと違うじゃないか」
「邪魔が入ったからよ。まあいいわ。チャンスは今回だけじゃない……。またの時は、よろしくね」
ウィンクするドッペルゲンガーはすっ、とその場から消え失せる。
なんだったんだと疑問符を浮かべて弓を降ろす北斗。
「あれぇ? なにしてんの?」
二人の後ろからそんな声が聞こえた。
振り向くと、帰りらしい朱理と正太郎が立っている。
「道の真ん中に突っ立って……。車に轢かれても知らないぞ」
にやにやしながら言う朱理の横で正太郎が苦笑した。
呆然としていた北斗と奈々子は、互いの顔を見合わせる。
邪魔、というのはもしかして……。
(朱理……か? もしかして)
北斗に加えて朱理まで現れたら、確かにドッペルゲンガーとしては分が悪いのかもしれない。
「た、助かったって言うのかな、これも」
「さ……さあ?」
複雑な笑みを浮かべている北斗と奈々子の会話に、朱理と正太郎は疑問符を浮かべている。
奈々子はやっと安堵して肩から力を抜くと、北斗に頭をさげた。
「ありがとうございました」
「えっ!? あ、いや……! 結局、俺はなんにもしてないしっ」
慌ててしまう北斗。
奈々子は頭をあげるとにっこり微笑んだ。
「いえ、助かりました。一人では、きっとオロオロしていたと思いますから」
「そ、そうか?」
「はい。それに、私が本物だとすぐに見抜いてくれました」
照れるべきか困るべきか微妙な表情になる北斗に、朱理と正太郎は不思議そうな目を向けている。
その視線に気づいて北斗はなぜか焦った。
「な、なんだその目は! 言いたいことあるなら言えよ!」
「いや……あたいらにはサッパリだからさぁ……」
「なんでもないんです。痴漢されそうだった私を、梧さんが助けてくれたんですよ」
咄嗟の嘘にしてはいい感じだ。「そうそう」と頷く北斗。
「なーんだ。つまんないのー」
「そんなこと言ったら失礼だよ、朱理さん」
二人のやり取りに北斗と奈々子は苦笑してみせた。
いつかまた現れるかもしれない。だが今は、今だけは無事であったことを喜ぶべきだろう――。
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■ 登場人物(この物語に登場した人物の一覧) ■
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PC
【5698/梧・北斗(あおぎり・ほくと)/男/17/退魔師兼高校生】
NPC
【高見沢・朱理(たかみざわ・あかり)/女/16/高校生】
【一ノ瀬・奈々子(いちのせ・ななこ)/女/16/高校生】
【薬師寺・正太郎(やくしじ・しょうたろう)/男/16/高校生】
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■ ライター通信 ■
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ご参加ありがとうございます、梧様。ライターのともやいずみです。
奈々子のお話で全てが揃いましたが、いかがでしたでしょうか?
今回はありがとうございました! 楽しんで読んでいただけたら嬉しいです!
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