コミュニティトップへ



■萌桜学園物語 --- 校長先生の七色の・・・ ---■

雨音響希
【5566】【菊坂・静】【高校生、「気狂い屋」】

 夢幻館の一室に集まった幽霊達が勝手に作った学校、萌桜学園・・・。
 ちなみに読み方は“ほうおう”であり、断じて“もえざくら”ではない。
 本日はその萌桜学園の入学式で・・・・・・・

「はぁぁぁぁぁ〜〜〜〜〜〜っ!!!!???」
 生徒会室(仮)と書かれた部屋から、大絶叫が聞こえて来た。
 その声の主は、萌桜学園の生徒会長(仮)である梶原 冬弥のもので・・・。
「おいもなっ!もう一度言ってみやがれ!」
「だぁかぁらぁ、校長先生のヅラがなくなっちゃったから、校長先生の挨拶が出来なくて、だからヅラを探して来てくださいって。」
「ヅラと挨拶にどんな関係があるんだよっ!!別にヅラなんてなくても喋れんだろーがよーっ!」
 冬弥の言葉に、片桐 もなが「知らないわよぉ。」と言って盛大な溜息をつく。
 もなに当り散らしたところでどうしようもない事は、冬弥にもよく分かってはいたのだが・・・。
「だぁぁぁっ!!別に校長の話なんてなくていーじゃねぇか。」
 自身の学校生活での苦い記憶を思い出したのか、半ば投げやりにそう言うと冬弥が椅子にふんぞり返った。
「駄目ですよ。何せここの学校の校長先生のお話は酷く評判で、人気があるんです。」
「・・・奏都・・・」
 生徒会会計(仮)の沖坂 奏都の登場に、冬弥は頭を抱えた。
 奏都がそうと言うのならば、そうなのだろう。
 つまりは、否が応でも校長に挨拶をしてもらわなくてはならないわけで・・・・・
「くっそ・・・。なんだってンなメンデー事を・・・。」
「しょうがないよぉ〜。冬弥ちゃんはここの“せーとかいちょー”さ・・・」
「不可抗力だ!大体なぁ、選挙も何もなしに勝手に決まってるってどう言う事だよ!そもそも、俺はここの生徒じゃねぇっ!!」
「いいえ、生徒ですよ。俺がこの間正式に入学手続きをしましたし。」
 ケロリと言ってのける奏都に、冬弥は更に脱力した。
 なんだって俺はこんな“不幸と言う星の下”に生まれてきたんだ・・・。
 と、ぶつくさと言っているが、そんな事を言ったところで生まれて来てしまったのは生まれて来てしまったのだ。
 19年も生きて来て、今更どうしようもない事だ。
「ちっ・・・。しゃぁねぇ。ヅラを探すか・・・」
「うんうん、流石生徒会長!」
「ルセー!で?もな、ヅラはどんなのなんだ?」
「別にフツーにそこらで売ってるやつだって。」
「ま、ヅラなんて学校にそうそうあるモンじゃねぇし、すぐに見つかるんじゃね〜?」
 もなと同じ、生徒会副会長(仮)の神埼 魅琴がそう言って、肩を竦める。
「だな・・・。」
「なんでもね、旅行先で千円で買ったもので・・・」
「安っ!」
「髪の毛1本1本に色がついててね。」
「ついてなきゃ駄目だろ・・・。」
「七色に染められてるんだって。」
 つまりは、七色のヅラってわけだねぇ。と、呑気に言うもなの顔を見詰めながら、冬弥は頭痛がしてきた。
 フツーのヅラで無い挙句、七色のヅラ・・・しかも千円・・・。
「な・・・なんでそんな特殊なものを失くすんだ!?」
「失くしたと言うより、ヅラが家出をしたんです。」
 奏都の言葉に、今度は眩暈がしてきた。
「ヅラが家出!?ヅラだろ!?」
「書置きには、ふさふさの髪の人の頭に乗りたい。と書いてありました。」
「それじゃぁヅラの意味がねぇじゃねぇかよっ!!!」
 そう叫ぶと、冬弥はヘナヘナとその場に腰を下ろした。
 何せ幽霊達の集まった学校、何せ夢幻館の一室・・・。
 全ては“仕方がない”で終わってしまうような環境下での出来事だ。
「・・・まずは手分けして校内で情報収集するか。」
「お、そうだ・・・。目安箱を設置したんだよな。」
 冬弥の言葉に魅琴が反応し、生徒会室の前に設置された箱をパカリと開けた。
 中には折りたたまれた1枚の白い紙が入っており―――――

『七色のヅラを音楽室で見た。隣の肖像画をじっと見ていた。何だかヅラの目が輝いていた。 音楽室の人』

「・・・隣の肖像画って・・・。音楽室の人って・・・。」
「それ以前に、なんで俺らがヅラ探してるって知ってんだよ。」
「や、そもそもヅラの目ってどこだよ・・・。」
 各自が疑問を口にする中で、生徒会会計でもあり夢幻館の支配人でもある奏都だけは冷静だった。
「とにかく、音楽室に行ってみませんか?」


   こうして彼らの奇妙なヅラ探しが始まる・・・・・・


萌桜学園物語 - - - 校長先生の七色の・・・ - - -



◇■◇


 「はぁ?なんか面白い事になってんねー。ってか、ヅラってフツー家出するモンなの?」
 桐生 暁の真っ当な言葉に、梶原 冬弥がひしっとその手を取った。
 「暁!俺は超久々にっつか、初めてお前を見直した!」
 「・・・冬弥ちゃんって俺の事スゲー誤解してるよね。」
 そんな失礼極まりない発言に、暁が半目になりながらそう言って・・・
 「ヅ・・・ヅラがなくなったとは大変です!!」
 シオン レ ハイが生徒会室の隅っこで、まるで人類の滅亡の危機が目前に迫っているかのような取り乱しようでそう言うと、どうしましょう!と言ってオロオロとしだした。
 無論、七色のヅラ1つが家出した程度で人類が滅亡するわけはないが・・・。
 「七色のカツラなんて、何だか凄く珍しいよね・・・。」
 菊坂 静がそう言って、夢幻館ってやっぱり何でもありなんだねと遠い目をしながら頷いた。
 妙な夢幻館のイメージをつけられてしまい、冬弥はなす術も無く頭を垂れた。
 「それにしてもさぁ、暁ちゃんは凄いキチっと制服着ててなんか意外だしぃ、シオンちゃんは・・・誰?って感じだしぃ・・・」
 「え!?ってか、シオンさんなの!?」
 やたら若くなっているシオンに向かって暁がそう言うと、肩やら頭やらをポンポンとたたいた。
 「そのようです・・・」
 「最後、静ちゃんは・・・。怖っ・・・!」
 「え?どこが??」
 片桐 もながそう言って、冬弥の背後に隠れてジっと静の様子を見詰める。
 キチっと着ている制服が、もなにとっては威圧感を覚えるらしい。
 「風紀委員?」
 神埼 魅琴が静の頭を叩きながらそう言い・・・
 「委員?って、別に僕は・・・」
 「あれ持ってたら最強じゃない!?えっと・・・えぇぇぇっと・・・」
 何かを思い出そうとしているらしいもなが、必死にシオンに助けを求めるが、残念ながら突拍子もない事を言い出すもなの脳内をわかる術は無く、シオンが暁に助けを求めるべく視線を向け、暁がどうしたら良いのだろうと冬弥に目を向け・・・こうして視線の連鎖は続いていくのだった。
 「あ!あれだ!鞭!」
 「もなさんそれ違うよっ!」
 「静をどんな道に引き入れようとしてんだ!」
 「風紀委員が鞭なんて持つんですか!?」
 静と魅琴が瞬時にツッコみ、シオンが驚いたような顔で冬弥を見る。
 「や、もなの脳内風紀委員は持ってるのかも知れないが、普通の風紀委員は持ってない・・・な。」
 「つか、持ってたら怖くない?遅刻とかしたらピシってやられるわけっしょ〜?」
 暁の言葉にシオンがその光景を思い描いたらしく、とたんに顔色が悪くなる。
 「あ・・・あの、私は・・・」
 「そんな顔しなくても、やりませんよ・・・。」
 オロオロと後ずさりをするシオンに苦笑を向けると、そっと小さく
 「人を叱るのは苦手・・・だから。」
 と困ったように呟いた。
 「皆さん意外性があってとても宜しいのですが、それよりもヅラを探さないと・・・。校長先生が拗ねてお家に帰っちゃいますよ。」
 沖坂 奏都がそう冷静に突っ込むと、左手首に巻かれた腕時計に視線を向けた。
 「そうだ・・・。ヅラ・・・どうすっか・・・?」
 「とりあえず音楽室に行った方が良いんじゃないかな?」
 「だな。」
 「それでは皆さん、行ってらっしゃいませ。」
 奏都が笑顔で手を振ると、生徒会室から一同を押し出してピシャンと扉を閉めた。
 ご丁寧に鍵までかけたらしく、カチャンと言う施錠音が虚しく廊下に響いた。
 「あ・・・あいつ、ヅラ探しを放棄しやがった・・・!」
 「仕方ないよ〜。だって、奏都さんだもん。」
 暁がそう言って、奏都さんは特別だからねと言葉を続ける。
 生徒会長(仮)である冬弥よりも格が上の生徒会会計(仮)
 ・・・むしろ、奏都が生徒会長になれば良い気がするが・・・
 「皆さん!は、早く行きましょう!」
 やたらワクワクした顔でシオンがそう言い、先頭を切って歩き始める。
 ――― 彼には1つの野望があったのだ・・・!!!


◆□◆


 「でさ、肖像画ってどの肖像画なわけ?」
 ズラリと並んだ肖像画を見詰めながら、暁が冬弥を振り返った。
 まさかこんなに肖像画が並んでいようとは・・・と言うか、音楽室にしては広くないかこの部屋?と、ブツブツ文句を言いつつ冬弥が肖像画を1つ1つ見て行き・・・途中でさっぱり分からないと言うように首を傾げると溜息をついた。
 「ふさふさの髪のヤツでしょー?でも、ベートーベンとかもヅラじゃんね?」
 「んー・・・ふさふさの人、いっぱいだよぉ〜??」
 「ってか、禿げてなくてもヅラの場合があるって事は、校長も実は・・・あー、駄目だ。ふさふさの髪の人の頭に乗りたいって理由で家出したんだし決定的だ。」
 校長は禿げていると断定すると、暁は苦笑した。
 「とりあえず、七色のカツラがここに来た事は間違いないんだよね?」
 「だと思うよぉ〜??目安箱に、チクリの手紙が入ってたからぁ〜。」
 「もな、チクリじゃない、チクリじゃない。」
 「それが真実だって保証は・・・」
 『無論、真実だ』
 突然不思議な響きの持つ声が聞こえ、一同は口を閉ざした。
 声のする方に視線を向け・・・
 目が動くベートーベン・・・そう言えば、そんな学校の怪談があったよなぁ・・・とか、思い出してみたり・・・
 「えぇぇぇぇぇ〜〜〜〜!!!ベートーベンちゃんって、そんなに薄いのに生きてるのぉぉぉ〜〜〜!!!???」
 もなが間違った驚き方をして、ベートーベンをずっこけさせた。
 ・・・ベートーベンだけでなくその場に居た全員と、果ては肖像画の皆様までずっこけさせた、その破壊力は凄まじいものだった。
 「な・・・何なんだこの学校は・・・」
 『幽霊が集まって出来た学校だからな、色々と、あるんだ』
 ベートーベンの隣の隣の隣の隣の隣の肖像画の人物がそう言って頷き
 『まぁ、不思議な空間だから仕方がないと思ってくれて構わない』
 先ほど発言した肖像画の隣の隣の隣の肖像画の人物がそう言って微笑み・・・
 「何だか凄まじい光景だね。」
 「私、夢に見てしまいそうですぅ・・・」
 静が困ったように微笑み、シオンが半泣き状態になりながら様子を窺っている。
 「とにかく、話が出来るなら早いよ。目安箱に手紙を入れたのは誰?」
 『私だ』
 ベートーベンがそう言って、隣の肖像画、バッハを指差した。
 『彼を熱心に見詰めていた』
 『いや、私だけでなくブラームスさんも見詰めていましたよ』
 『確かに、私も見られていましたが、他にも・・・』
 そう言って、ブラームスが数名の名前をあげた。
 シオンがポケットからメモ帳とペンを取り出して熱心に名前を書き込み、該当する肖像画を見てはうんうん唸ってメモに何かを書き込んでいる。
 「ねーねーシオンちゃん、5とか9とかってなぁにぃ?」
 もなが背伸びをしながらシオンの手元を覗き込み、可愛らしく小首を傾げると目を丸くした。
 「評価です!」
 キッパリとそう言うと、シオンが他の面々に視線を向けた。
 「肖像画の髪型のヅラを作って、皆さんで被ってヅラさんをおびき寄せたらどうでしょう・・・!」
 「・・・は?」
 シオンの名案に向かって、何を言っているのか分からないと言う表情を返す冬弥。
 勿論、肖像画の髪型のヅラを用意して、ヅラをおびき寄せると言うのは中々のアイディアだと思うが・・・
 「どうして俺らが被るんだ?」
 「えー、良いじゃん。すげー名案だと思うよ??」
 暁がそう言って、校長にも被せたらどうかなぁと言いつつニヤリと悪戯っぽい笑顔を浮かべた。
 「冬弥さんの頭・・・髪の毛は細いけどフサフサだよね。そのままでも大丈夫じゃないかな?」
 にっこりと静が微笑んで、冬弥の腕をガシっと掴んだ。
 「あとあと、“ふさふさの髪の会”と言った感じのチラシやポスターを作り、学校中に貼ったり配ったりすれば、もしかしたらヅラさんが見て来てくれるかも知れませんっ!」
 「ナイスアイディアだよシオンちゃん!良いじゃん!ふさふさの髪の会!」
 「とりあえず、校長先生にお話聞いといた方が良いんじゃん?質問したい事とかあるしぃ〜。」
 暁の言葉に、それじゃぁまずは校長室だ!と言ってもなが歩き出し・・・
 「あ、そだ。ヅラ作ってもらわないと。」
 携帯電話をポケットから取り出すと、どこかへ電話を掛け始めた。
 「もしもし、片桐ですけれどもぉ、いつもお世話になってます〜!今から萌桜の音楽室に来て、肖像画のヅラを作ってくーださい!大至急お願いしますねぇ〜!」
 可愛らしくそう言ってピっと終話ボタンを押した。
 「・・・も・・・もなさん、今のって・・・」
 「ヅラ作ってる会社の人ぉ〜」
 「もなさんの髪は実はヅラだったんですか!?」
 いつもお世話になってます〜!のフレーズを聞いて、シオンはそう思ったらしい。
 「あは♪んなわけないじゃぁん〜!」
 もなが可愛らしく笑い・・・ビシ!っと、シオンの背中を思いっきり叩いた・・・。


◇■◇


 校長室に入ると、クールビューティーと言った雰囲気の秘書のお姉さんが深々と頭を下げた。
 「生徒会長の梶原 冬弥様に生徒会副会長の片桐 もな様、神埼 魅琴様に、新入生の桐生 暁様、菊坂 静様、シオン レ ハイ様。ただ今校長の井田はヅラがなくなったと言うショッキングな出来事に遭遇し、まことに意気消沈しており、まともな会話すら出来ないような状況に陥っております。折角のご足労のところ、大変心苦しくは御座いますがなにとぞご理解、ご協力を宜しくお願いいたします。」
 モールス信号のような抑揚のない言葉に、一同は話し半ばにして意味の理解が出来なくなった。
 どこで切ったら良いのか分からないほどにつながった言葉は、意味を成さないようにさえ思え・・・
 「とりあえず、校長先生に会いたいんだけど・・・」
 魅琴の言葉に、ギン!と黒目グリグリの目を光らせた。
 「生徒会副会長の神埼 魅琴様。ただ今のわたくしの話を理解しておられない様子ですので、僭越ながらもう一度申し上げさせていただきますが、現在校長の井田はヅラが・・・」
 再び長々と続きそうになるモールス語を遮ると、冬弥が言葉を紡いだ。
 「そのヅラに関してちょっと聞きたい事があって来たんだけど・・・」
 「そうですか。そのような御用事でしたら、こちらへどうぞ。」
 モールス秘書(仮名)の導きにしたがって、校長室の奥にひっそりと置かれているデスクの前、豪華な革張りのソファーに座るように促されると一同はその場に腰を下ろした。
 ガラス張りのテーブルの上に、華奢な取っ手のついたカップが並べられ、その中に熱い紅茶が注がれる。
 香りだけでも分かる値段の高さに、シオンが思わず手を合わせた。
 丸い大きな缶を開け、甘いクッキーの香りが校長室を包んだ時・・・
 「で?校長は?」
 冬弥がそう言ってモールス秘書(仮名)の顔を上目使いで見詰めた。
 「?既にいらっしゃいますが?」
 そう言ってモールス秘書(仮名)が指差す先は誰も座っていない豪華なデスク・・・。
 もしかして幽霊学校の校長なだけに、姿は視えないのか?
 だったらヅラなんて必要ないじゃん!つか、だったらヅラも視えないわけで、探しようが―――
 そう思った一同の前に姿を現したのは、指人形・・・。
 ウサギの指人形の下から伸びるのは1本の人差し指・・・。
 「校長の井田はただ今ヅラがないために人前に姿を現すのが恥ずかしい様子で、代理に指人形の“うさ子”さんに皆様の質問に答えさせていただきたいと、そう言っておりました。」
 ヤバイよ・・・どう考えても変な学校だよココ・・・。
 そもそも、幽霊達が作った学校って時点でおかしいとは思ってたんだけど・・・
 そんな空気を全く読めないうさ子さんが、急におかしな甲高い声で喋り出した。
 『井田さんの七色のヅラを探してほしいウサ!』
 ―――ちなみに、うさぎは“ウサ”とは鳴かないのだが・・・
 「お・・・俺、校長先生のお話とっても楽しみにしてるんです!」
 勇気を持って暁がそううさ子に声をかけ・・・途端にうさ子が奇妙なダンスを繰り広げ始めた。
 『嬉し恥ずかしウサ!って言ってるウサ!』
 校長まで妙なうさ語を話すのだろうか・・・?
 刹那、一同の背筋に冷たいものが流れた。
 「ま・・・まず・・・。そこらで売ってるって、それはどこのそこらなんですか?・・・どこに旅行したわけ?」
 『企業秘密ウサ!』
 「あと、本当にヅラに目とかついてんですか?」
 『知らんウサ!』
 「てゆーか、そのヅラの見た目ってフツーにヅラ?」
 『それはそうウサ!』
 なんら要領を得ない会話に、暁が深い溜息をついた。
 「校長先生もさ、ヅラ被って・・・そうすれば、ふさふさ髪の頭に乗りたいってゆーヅラの要望も叶えられるってもんで、ヅラも校長先生の頭に戻ってくるかも・・・。」
 「校長先生は誰が良いですか!?シューベルトさんですか!?それともベートーベンさんですか!?」
 『話が見えないって言っているウサ!』
 それはアンタだ・・・。
 瞬時にツッコもうとした言葉を飲み込むと、冬弥がチラリともなに視線を向けた。
 「で?ヅラ、本当に用意できるのか?」
 「うん!多分もう用意されてるはずだよぉ。あとぉ、シオンちゃんの言ってたポスターとかも貼ってくれたはずだよぉ。さっき、メールで言っといたからぁ〜。」
 随分とVIP待遇を受けているらしいもな。
 「もなさんは凄いです!」
 わけのわからないもなの素性にそこはかとない不安を感じて視線を背ける面々とは違い、シオンだけが羨望の眼差しでもなを見詰めては手を叩いていた。・・・校長もこっそりともなに羨望の眼差しを送っていたと言うのは、モールス秘書(仮名)しか知る由もなかったのだが・・・。


◆□◆


 ヅラを被った面々が体育館に集まって、大人しくその時を待っていた。
 シオンのヅラは、一番目立つもので・・・ふさふさとしたそれは、顔すらも埋もれてしまいそうになっていた。
 「なぁ、俺・・・こんな恥ずかしい経験初めてなんだが。」
 「大丈夫だ、お前は存在そのものが恥ずかしいヤツだからな。」
 「・・・それはお前だろ?魅琴?」
 会長と副会長のそんな台詞に、美少女副会長が「お口にチャック!」と言って、可愛らしい仕草をした。
 ・・・これは、見るものが見たならばメロメロになってしまいそうだ・・・が、残念ながらここにいる面々はそのような趣味はない。
 実年齢云々はともかく、見た目は小学生だ。
 「でも、本当に来るかな・・・ヅラ・・・」
 「来ますよ!」
 暁の呟きに、シオンが力強く頷いた。
 「あれ?なんか、動いた・・・??」
 静が廊下の方を指差しながら首を捻った時だった。
 何か凄まじくグロテスクな色をした物体がこちらに向かって走って来た。
 煌びやかなソレは七色で・・・シオンの頭へとダイブすると、カッポリとはまった。
 「七色のヅラ!?」
 「うわ・・・キショイ・・・」
 冬弥が嫌なものを見たと言うように目を背け、魅琴が顔を顰めた。
 「や・・・やりましたぁぁぁっ!!!」
 シオンがそう言って、ヅラをガシっと掴むと嬉しげにクルクルとその場で回った。
 見ればヅラには手も足も、目までついており・・・ちょっと不気味なそれを頭に乗せる勇気はない。
 これを被って毎日生活している校長は、なんと言うか・・・
 チラリと校長の方に視線を向けると、モールス秘書(仮名)の背後に隠れて頭だけを突き出している。
 「校長先生!今です!ヅラさんをどれだけ必要としているか、訴えかけるのです!!」
 シオンの言葉に校長が意を決したように言葉を紡ぎ
 『も・・・戻ってきてほしいヅラ!』
 「校長、語尾を間違っておりますが・・・」
 モールス秘書(仮名)の指摘を受けた校長が恥ずかしそうに身を縮こまらせ・・・
 ヅラがシオンの頭からポンと抜けると、校長の頭にスッポリと乗った。
 「えぇぇぇぇぇ〜〜〜〜〜!!!???」
 有り得ないと言うように声を上げる暁と、驚いたような表情で固まる静。
 冬弥と魅琴が頭に手を当てて天井を仰ぎ―――
 「良かったです!校長先生の思いがヅラさんに伝わったんですね!」
 「やったね!シオンちゃん!」
 シオンともなだけが、手を合わせて喜んでいた。
 「さて、これで入学式が始められますね。皆さんご苦労様でした。」
 そんな声と共に奏都が体育館へと入って来て・・・見ればその背後には沢山の生徒の姿が見えた。
 「校長、そろそろ式を始めましょう。随分とくだらな・・・緊急の用事で時間をロスしてしまいましたが・・・」
 やっぱりモールス秘書(仮名)もくだらないと思ってたんだなと、シオンともな以外が顔を見合わせて微笑み―――
 「でもま、無事に式も出来るんだし、いーんじゃね?」
 「そうだね、僕もその意見には賛成だな。」
 「ここの校長の話は有名だって聞くしな。」
 「・・・校長の顔も見れるってわけか。」
 そうこうしているうちに、奏都がテキパキと生徒達に指示を出し、式の会場作りを済ませると問題なく式は始まった。
 校歌斉唱に、学年主任からのお祝いの言葉・・・そして・・・
 壇上に上がった校長の姿を見て、一同は開いた口が塞がらなかった。
 ちょこんとマイクの前に姿を現した、うさぎのぬいぐるみ・・・!!!そしてその向こうには校長の七色のヅラ頭が光っている。
 指人形よりは大きくなったのだが、しかし・・・ヅラがないと大騒ぎするような事ではない気がする。
 別に、帽子でも被っていれば良い話で―――
 『皆さん、ご入学おめでとうなのだ!これで挨拶を終わるのだ!』
 「な・・・な・・・何なんだこれは!?・・・奏都!!!???」
 「あれ?俺、言ってませんでした?校長先生の挨拶は、一言挨拶と言って凄く有名で、人気があるんです。」
 ・・・確かに、だ。
 大抵の校長先生は話が長いと言うイメージが定着している。そんな中、これだけ話の短い校長先生がいれば、人気にもなるだろうが・・・。
 「俺達の苦労って・・・」
 「ま、いーんじゃん?だってさ・・・皆、楽しそうだし。」
 苦悩する冬弥の肩をポンと叩くと、暁が生徒達を指差し・・・
 「無事に式も終わりましたし、良いんじゃないですか?」
 静がにっこりと微笑むと、背伸びをした。
 「えぇ。ヅラさんも幸せそうですし・・・」
 シオンののほほんとした言葉に思わず吹き出すと、冬弥がそっと「それもそうだな・・・」と言って、小さく笑みを零した。


◇■◇


 「魅琴さん?」
 学校帰り、ふと体育館の前を通り過ぎようとした時だった。
 見慣れた背中に声をかけ―――
 「お、静?今帰りか?」
 「そうだけど、魅琴さんは?こんなところで何してるの?」
 「や・・・別に。何となく、学校が・・・久しぶりだなと思ってな・・・。」
 寂しそうな横顔を見て、何かを言おうとしたが、言葉は出てこなかった。
 かける言葉が見つからないまま、静が視線を落とし・・・
 「あ、そうだ・・・。」
 「ん?」
 「この間、魅琴さんに悪い事したなって・・・。謝りたくて。」
 「この間?」
 何の事だ?
 眉根を寄せながら首を傾げる魅琴。
 「夢幻館のホールの・・・奥の部屋に入っちゃって・・・」
 「あぁ、アレか。」
 「幾ら人工呼吸だって言っても、僕なんかと・・・嫌だったよね・・・。」
 視線を落とす。
 あの日以来、どこか真っ直ぐ魅琴の目を見れない自分がいて・・・まるで避けているようで、嫌だった。
 「お前は?」
 「え?」
 「お前のがヤだったんじゃねぇか?」
 「別に僕は・・・。あのくらいで、魅琴さんの事、嫌いになんてならないよ。嫌だったら・・・あの時抵抗してる。」
 「そっか。」
 普段とは違う雰囲気を纏った魅琴に、静は口を閉ざした。
 大人っぽく儚い雰囲気・・・不用意に言葉を紡げば、魅琴の心に触れてしまいそうで・・・。
 「なぁ、静。1個訊いても良いか?」
 「何?」
 「あの時、俺・・・お前の事、助けられたのか?」
 真っ直ぐな瞳を受けて、静は夢現のまま頷いていた。
 けれどそれは決して軽い気持ちでの肯定ではなかった。
 事実、あの時・・・魅琴には助けられたから・・・。
 「そっか・・・。なら、良かった・・・。」
 ポンと静の髪を撫ぜる魅琴。
 どこか寂し気な色を秘めた瞳に、どうしてだろう・・・このまま魅琴を一人にしてはいけない気がした。
 「ね、魅琴さん。一緒に帰らない?」
 「・・・・・・そう・・・・・・だな・・・・・。」
 高い位置に取り付けられた窓から差し込んでくる夕陽。
 オレンジに染め上げられる、木の床。
 夢幻館の一室だと言うのに・・・まるで、外にあるかのような世界はどこか虚ろで美しかった。
 校庭を歩く。
 並ぶ影が、長く伸びる・・・。



 ――――――そんな、萌桜学園の1日・・・・・・



               ≪END≫

 
 ◇★◇★◇★  登場人物  ★◇★◇★◇

 【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】


  4782/ 桐生  暁  /男性/17歳/学生アルバイト・トランスメンバー・劇団員


  5566/ 菊坂  静  /男性/15歳/高校生、「気狂い屋」


  3356/シオン レ ハイ/男性/42歳/紳士きどりの内職人+高校生?+α


 ◆☆◆☆◆☆  ライター通信  ☆◆☆◆☆◆

 この度は『萌桜学園物語 - - - 校長先生の七色の・・・ - - - 』にご参加いただきましてまことに有難う御座いました。
 そして、いつもいつもお世話になっております。(ペコリ)
 全体的にお馬鹿なお話でしたが、如何でしたでしょうか・・・?
 萌桜は個性豊かな人々が沢山おります。
 モールス秘書(仮名)にウサ語を繰る校長に・・・そして生徒会の面々が夢幻館の住人達・・・。
 静様には最後、魅琴とほんの少し寂し気な会話を繰り広げていただきました。
 微妙な距離と、どこか切ない雰囲気を描けていればと思います。


  それでは、またどこかでお逢いいたしました時はよろしくお願いいたします。