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■真昼の月■

志摩
【5307】【施祇・刹利】【過剰付与師】
 とん、と肩と肩がぶつかる。
 ぱっとその相手を見るとあの暗殺屋の一人。
 何か突っかかってくるかな、と思うが様子がおかしい。
 心ここに在らず、そんな様子だ。
 ふらふらと人ごみの中を進んでいく。
 放っておこうか、それとも追いかけようか。
 どうしよう。



真昼の月



 あれ、と思う。
 視界にひらめいたのは銀色。
 そしてとん、と肩が触れ合う。
 施祇刹利はその相手を視線で追う。
 本当はもっと早くに声をかけようと思ったのだけれども、そういう雰囲気ではなかった。
 肩が触れ合った瞬間、自分がいることに気が付いてくれるかな、と思ったのだけれどもそんな様子はない。
 凪風シハルは、刹利にぶつかったことに気付かず、そのままふらふらと雑踏の中を進んでいく。
「……危なそう……」
 ちらっと見えた表情は、ぼろぼろで、きっと人に見られたくないものだと思う。
 けれども、放っておけるわけがない。
 刹利は彼女のあとを付いていく。
 人の波はうまく避けているようだけれども、ほかの事に対しては気が向かないようだった。
 と、彼女が進んでいく先、信号は現在、青色がちかちかと点滅している。
 そしてシハルの足が止まる気配はない。
 刹利は、危ないと思うよりも早く、身体が動いていた。
 雑踏をすばやく掻き分けてシハルの腕を掴む。
「危ないよ、シハルさん」
「え……あ……こんにちは……」
 声色は弱弱しく、頼りない。
「どうしたん……ですか?」
「それは……シハルさんの方だよ」
 刹利はじーっとシハルを見る。目の周りが腫れて泣いた後というのは一目瞭然。
 このまま雑踏を歩かせるわけにはいけないと思い刹利はぐいっとシハルの手を引いて人ごみから抜ける。
「あの……」
「いいから、ちょっとこっち」
 少し薄暗い路地に、二人は入る。
「落ち込んでるよね……?」
「そう……見えます……よね、やっぱり……」
「理由を話してくれるかくれないかはともかく、落ち込んでるって事はこうされたいとかこうしたいという事があるって事だよね?」
 刹利はシハルの顔を覗き込みつつ問う。
 シハルはぱちくりと一度目を瞬き、そして困ったように力なく笑う。
「こうされたい、はわからないけど……こうしたい、はあると思います」
「なら、落ち込んだ後はそれに向かって走るしか無いんじゃないかな? それが無理なことでも、無理とか無茶っていうのは動いて変わるかもしれないしね」
「動いて……変わる……」
 そうそう、と刹利は頷きながら、シハルを慰める。慰めになっているのか少し自信がないのだけれども、それでも何かしら彼女に良いように働いていると感じる。
「目標が高いのは良いことだと思うよ。ボクなんか、どんどん無茶な目標になっていってるよ」
「無茶な目標……ですか?」
 うん、と刹利は頷く。その表情は少し照れているような、困っているような。
「……シハルさんとレキハさんの仲直り、とか考えてたのに、それが中間地点になりそう……」
「まだ先が、あるの……?」
「最終目標ってこと? んー……と、二人のお師匠様関連になるのかなー? まだ、あやふやだけど」
 だからそれがどんなことか答えられないや、と刹利は言って笑う。
 シハルはそうですか、と言葉を返した。
「いつか……それがわかったら教えてください。私も……ちゃんと決めます」
「うん、なので……まずは二人の諍いの原因を教えてくれると嬉しいな〜、教えてくれ無いなら……ボクも二人のお師匠様に弟子入り志願しに行く、そうすればきっとわかると思うし」
「や、駄目です、先生の弟子になっちゃ……刹利さんとは争いたくないから……」
「ボクは……争わないよ?」
「でも、駄目です」
「じゃあ……教えてくれるんだよね?」
 シハルは言葉を詰まらせる。言いたくないことに無理強いはしない、けれども試しに問うのは悪いことではないはずだ。
 刹利はシハルが答えをくれることを待っている。
「……私の目……隠してるのは、見えないからなんです。で、そうしたのがレキハで……だから、恨んでます、嫌い」
 見せてあげます、とシハルは眼帯をとる。そこには金色の瞳がある。傷も無く、確かにそこにある。
 本当に見えていないのか、と思うほど普通に存在していた。
「もうこれ以上は言いませんよ」
 外した眼帯をささっとまたつけて、シハルはそっぽを向く。
 恥ずかしがっているのか、視線を合わせようとはしない。
「仲直りは……絶対に無理?」
「はい」
「でもしてもらうよ」
「しません」
 そんな風に言わないでほしいな、と刹利はシハルに言う。
 諦めてしまうのは簡単だけれどもそうしたくない。
「……ありがとう……ございます」
「ん、何が?」
 細い細い、聞き取れるのがやっとの声が聞こえた。
 シハルは何が、と言われてどう答えたら良いものかと困っているようだ。
「色々と……言ってくれてありがとうございます。ちょっとだけ、元気になれそうです」
「お礼言われるようなことしてないよ、ほっとけなかっただけ。赤信号は……ちゃんと止まらなくちゃ駄目だよ」
「あ、気をつけます……」
 照れつつ、シハルは返す。刹利はもう大丈夫みたいと安心する。
 本当に大丈夫、いつものシハルに戻ったというわけではないけれども、それでも安心できる。
「それじゃあ……またどこかで」
「うん、またどこかでね」
 ひらひらと手を振って、雑踏に消えていくシハルを刹利は見送る。
 なんとなくだけれども、自分のやるべきことも見えてきたような、気がした。



 施祇刹利。
 凪風シハル、空海レキハ。
 そして片成シメイ。
 レキハよりも、シメイよりも。
 刹利とシハルの関係の方が深く、濃く。
 最初の出会いから少しずつ、近くなるソレ。
 これが刹利にとって良いことか、悪いことか。
 やるべきことが、みつかったのかどうか。
 次にシハルと出会う時。
 出会う時の二人の関係は?
 それはまだ、わからない。
 それはまだ、作っていくもの。



<END>



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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号/PC名/性別/年齢/職業】

【5307/施祇・刹利/男性/18歳/過剰付与師】

【NPC/凪風シハル/女性/18歳/何でも屋】

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■         ライター通信          ■
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 施祇・刹利さま

 無限関係性四話目、真昼の月に参加いただきありがとうございました。ライターの志摩です。
 折り返し地点でございます…!刹利さまはシハルルートに入られた模様で…!でもまだどう転ぶかわかりませんね、私も楽しみでございます…!!あと半分、シハルを宜しくお願いします…!
 ではでは、またお会いできれば嬉しく思います!