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■惚れ薬 またたび■

志摩
【5566】【菊坂・静】【高校生、「気狂い屋」】
 何時の間にか朝だ。窓から入る光が眩しい。
「できた……微調整はまぁいいとして、とりあえずは……」
 誰かに飲んでもらわないと。
 奈津ノ介はどうしようかなぁ、とできたばかりの惚れ薬改Uを見る。
 今回は対となった薬を飲みあった二人が恋人の関係になってしまう仕様。
「……やっぱりお店に来るみなさんに協力してもらうしかないかな」
 そうしよう、と思い奈津ノ介は自室を出て階下へ。
 今日の店開けはこれから。
 誰かくるかなぁ、と楽しみだ。




惚れ薬 またたび




 今日もまったりゆったり、お茶タイム。
 もういつものことのように菊坂静は銀屋の和室でくつろいでいた。
 そんな時に、振られた話。
「え、惚れ薬? それって奈津さんと遥貴さんが飲めば一番良いんじゃない?」
「絶対、飲まない……」
「やだなぁ、完成したものを姉さんには飲んでもらう予定なんですよ」
「奈津、冗談に聞こえない」
 まったくこいつは、というような表情、半眼で遥貴は溜息を付きながら奈津ノ介を一瞥する。
「あ、でも面白そうだから僕、その薬ほしいなぁ……」
「いいですよ、まだいっぱいあるんで」
 ころん、と白い錠剤を二つ。
 静はそれをありがとう、と言って受け取った。
「あ、今日はお土産持ってきたんだよね。台所借りていいかな?」
「ありがとうございます、僕がしてきますよ」
「ううん、奈津さんたちは待ってて。いつもお茶だしてもらってるし」
 にっこりと、僕がやるからと静は言い、傍らにおいていた紙袋をもって立ち上がる。
 ちょっとした悪戯心が働いたのかもしれない。
 台所に立って、一枚の皿を出し、そこへお土産の和菓子を置く。
 そのうちの二つに、薬を仕込んで。
「うん、これでばっちり。楽しみだな……」
 ふふっと笑みが漏れる。きっとうまくいくだろうと思って。
「こっちを奈津さんと遥貴さんの方に向けて出せば……よし」
 にっこりと、笑顔を称えて戻ってきた静に怪しい……という視線を遥貴が投げつける。
 けれども気にしない。
「おいしそうな和菓子だよね、二人とも、お先にどうぞ」
 ことん、とちゃぶ台に皿を置いて差し出す。方向もばっちりだ。
「あ、我そっちの方がいい」
 と、ちょっと皿の向きを変えて遥貴が手にとったのは薬入りその一。そしてその二は静の方へ、向く。
 そしてじゃあ頂きますね、と奈津ノ介が手に取ったのは薬の入っていない方だ。
「静さんが持ってきたものですけど……どうぞ?」
「あ、うん」
 ここで食べないのは不自然すぎる。
 静はちょっと困った笑みを浮かべつつ和菓子を手に取った。
 そして一つ、息を呑む。
 ぱくりと和菓子を口に。そして喉へとそれが落ちていく。
「奈津さん……御免」
「え、何がですか?」


 じわりじわりと身体の奥が、心の奥が熱くなる。
 かぁっと顔が熱くなって、鼓動は早くなる。
 不思議な、不思議な感覚。
 とくんとくんと、しみこんでいく様な。


「あ、静」
「はい?」
「口の端、ついてる」
 ふいっと細い指で拭われ、静はありがとうと柔らかく笑う。
 そのまま手をとって指を絡めてじゃれ合う。
「……あの、どうしたんですか……?」
 静と遥貴、二人を不安そうに見詰める奈津ノ介はたまらなくなって声を出す。
 その声に、二人ともどうしたのかといった視線を返すだけで。
「やだなぁ、恋人同士がこうやってじゃれるのは良くあることだよ、奈津さん」
「そうだぞ、我と静なのだから当然だろう?」
「はい? ……あ、あぁ……静さん……」
 思い当たるのは、あの惚れ薬。和菓子に仕込んだのか、と奈津ノ介は溜息を付く。
「でも、そうとわかってても……抑えれるかどうか……」
「どうかしたの? 奈津さん」
 にっこりと。
 そう嫌味なほどににっこりと。
 奈津さんが遥貴さんを好きなのは知ってますけど、この人は僕のものなんです。
 そんな挑発的な笑顔だった。
 それに奈津ノ介もにこりと、笑い返す。
「なんでもありません」
 ばちばちっと、二人の背後にそれぞれ龍と虎が薄っすらと、見えるような気がする。
「静、奈津を構ってないで我を構え、な?」
 するっと後ろから手が回されてきゅ、と優しく静を後ろから抱きしめる遥貴。その密着度は高い。
 奈津ノ介のそれは駄目、というような視線を受けつつも悠々とその腕を静は握る。
「僕、膝枕してほしいなぁ」
「うん、いいぞ」
「ありがとう」
 するっと離れる間際、静は遥貴の鬢にそっと唇で触れる。
「恥ずかしいやつだな、静」
「でもそんな僕が好きなんでしょう?」
「そう言われると反論できないなぁ……」
 苦笑しながら遥貴は自分の膝をとんとん、と叩く。
 と、そこにじとーっとした視線。
「羨ましいの、奈津さん?」
「奈津は子供の頃にいっぱいしただろう?」
「羨ましいですね、ええとっても羨ましいですね。子供のときじゃなくて今してほしいんですよ姉さん」
 にっこり皆笑顔なのだけれども、一部の雰囲気は相変わらず、だ。
 奈津ノ介の視線は、目は笑っているのに厳しい。
 でもそんなことお構いなしに静はごろんと遥貴の膝に頭を預ける。
 ふわりと、頭をなぜられる感覚に心地が良いと静は目を閉じる。
 するっと時々なでてくる頬も気持ち良い。
 その手を掴もうとするのだけれども、いつも逃げられる。
「なんで、逃げるの?」
「掴まったら面白くない」
 ぺたりと、両手で静の頬を挟み、少し照れた表情。
 こんな表情はみたことがない。
 静もふわりと笑む。そしてまた包み込むようにその手の上に自分の手を重ねる。
「何?」
「何でもない」
「あのー僕を無視するかのように二人の世界を作るのはちょっと……」
「え、だって恋人同士だからしょうがないよ」
「うん、そう」
 ぱっと静は身体を起こし、そして今度は自分が遥貴の頬へと手を添えて顔を近づける。
 急接近。
 遥貴はやめろと苦笑しながら逃げようとするけれども静はやめない。
 それに奈津ノ介はとうとう我慢ならなくなったのか立ち上がった。
 と、同時に、ぱちりと心の中で、自分の中で何かがはじける感覚。
「あ」
「う」
 急接近のまま、どちらともなく生ぬるい笑みを浮かべて離れる。
 両者とも顔をあわせようとしない。
「……なんでそんなに女慣れしているんだ静……」
「あはははは」
 乾いた笑い声、その質問には答えられませんといった笑顔で静かは目線を横にそらす。
「あ、薬切れました? というか静さん、僕らに仕込もうとしましたね」
 にっこりと、本当に嬉しそうな笑顔で奈津ノ介が言う。それに、本当に嬉しそうと思いながら静は言葉を返した。
「うん、失敗しちゃったけどね。遥貴さんがお皿回すから……」
「…………もう静の出すものも安心して口にできない……」
 誰からともなく、ぷっと息が漏れて笑い出す。
 はらはらドキドキの一時。
 この人とは、遥貴とは、きっとこんな未来、ありえない。
 だからこそ。



 このひと時は、ずっとずっと残っていく。
 惚れ薬の力でも。
 一時の恋人同士は変わらない。




<END>




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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号/PC名/性別/年齢/職業】

【5566/菊坂・静/男性/15歳/高校生、「気狂い屋」】


【NPC/遙貴/両性/888歳/観察者】
【NPC/奈津ノ介/男性/332歳/雑貨屋店主】

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■         ライター通信          ■
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 菊坂・静さま

 いつも有難うございます、惚れ薬またたびにご参加、ありがとうございましたー!
 途中で志摩が暴走しかけ、とっても危なかったです(…)これは、これは静さまなの!?でも楽しい…!と…ウフフさせていただきましたっ!楽しんでいただければ幸いですーv
 ではではまたどこかでお会いできれば嬉しく思います!