■五月闇の辻■
緋烏 |
【0086】【シュライン・エマ】【翻訳家&幽霊作家+草間興信所事務員】 |
五月の闇。
シンと静まり返った暗闇で、葉ずれの音や動物の声がいやによく響く。
びくりを肩を震わせ、背後に人の気配を感じるも、誰もいない。
少しばかりホッとして踵を返し、また道を進もうとすると―――…
『――これじゃないわね』
後ろかすぅっと腕が伸び、首や顔を撫でて消えていった。
「―――と、いうことが頻繁に起こる辻らしい」
いつものように乗り気でないことは確かなのだが、背に腹は変えられないという他にも何かあるらしい。
聞けば自分もその辻を通った時に、その幽霊の手に遭遇したという。
望んでいるものと違うというなら望んでいるものを見つけた時どうなるのだろう。
想像するだけでゾッとする。
「…んでもって一応、その辺の住人とかに聞き込みしてみたところ…」
四月末から五月いっぱいまで毎日、そこを通る者の傍に出てくるらしく、怖くて夜は通れやしないと、皆口々に言い、何とかしてくれるなら商店街の方で謝礼を払ってくれるという話になった。
「――説得できるならそれでいいが、説得に応じない場合はそれ相応の手段にでることになる。どちらにせよ、協力してくれないか?」
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