■犬も食わぬは…■
雨龍 一 |
【5074】【獅子・狛】【狛犬】 |
爽やかな風に運ばれ今日が始まった。
一日の始まりは軽い運動から始まる。
いつものように土供は愛犬ジャンクを連れ朝の散歩へと出かけた。
それはいつもと同じ光景だった…はずなのだが…
「あれは?」
それは散歩コース内にある神社であった。その境内に入りいつものお茶仲間である友人と会話を楽しむのが恒例だったのだが、何しろ雰囲気が違った。
境内に置かれるは二つの像。狛犬を象った石像がおかれている。異質な空気は像の中心から起こっているものであった。
そこにいるのは小さな犬が二匹…
「あ、土供。ちょうどいいところに来た…」
像の傍らから声が掛かった。すらりとした男が立っていた。
「あの二匹を鎮めてくれないか…」
そういうと、声をかけた人物は土供のほうへと倒れ込んできた。
倒れ込んできた男の名は犬塚優。この神社の神主であり、土供の茶飲み友達であった。今目の前にいる二匹…犬塚の飼い犬なのだが、その二匹が喧嘩してる。
しかし土供がそばに寄ろうにも像より先には進めなかった。
「ここには結界を張っている。結界の外にいればただの犬の喧嘩にしか見えないから…」
意識が回復した犬塚はそう土供に告げた。話によるとどうやら二匹の犬は普通の犬ではないとの事。犬同士だからといって仲介役を買ってでようとしたジャンクでさえも近寄れない。
「とにかく早く鎮めなければいけないんだ…この結界はもって3日。それが今のぼくの限界なんだ」
3日過ぎると何が起きるかわからない…とにかくこの二匹の喧嘩をとめることができる人物の心当たりを土供は探すことになった…
果たして3日以内に喧嘩をやめさせることができるのか…
結界が切れたとき…どんなことが起きるのか…
土供とジャンクは思いついた人物に連絡をとることにした。
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犬も喰わぬは……
爽やかな風に運ばれ今日が始まった。
一日の始まりは軽い運動から始まる。
いつものように土供は愛犬ジャンクを連れ朝の散歩へと出かけたのだ。
それはいつもと同じ光景だった…はずなのだが…
「あれは?」
それはある散歩コースの中にある神社であった。その境内に入りいつものお茶仲間である友人と会話を楽しむのが恒例だったのだが、何しろ雰囲気が違った。
境内に置かれるは二つの像。狛犬を象った石像がおかれている。異質な空気は像の中心から起こっているものであった。
そこにいるのは小さな犬が二匹…
「あ、土供。ちょうどいいところに来た…」
像の傍らから声が掛かった。すらりとした男が立っていた。
「あの二匹を鎮めてくれないか…」
そういうと、声をかけた人物は土供のほうへと倒れ込んできた。
倒れ込んできた男の名は犬塚優。この神社の神主であり、土供の茶飲み友達であった。今目の前にいる二匹…犬塚の飼い犬なのだが、その二匹が喧嘩してる。
しかし土供がそばに寄ろうにも像より先には進めなかった。
「ここには結界を張っている。結界の外にいればただの犬の喧嘩にしか見えないから…」
意識が回復した犬塚はそう土供に告げた。話によるとどうやら二匹の犬は普通の犬ではないとの事。犬同士だからといって仲介役を買ってでようとしたジャンクでさえも近寄れない。
「とにかく早く鎮めなければいけないんだ…この結界はもって3日。それが今のぼくの限界なんだ」
3日過ぎると何が起きるかわからない…とにかくこの二匹の喧嘩をとめることができる人物の心当たりを土供は探すことになった…
果たして3日以内に喧嘩をやめさせることができるのか…
結界が切れたとき…どんなことが起きるのか…
土供とジャンクは思いついた人物に連絡をとることにした。
******************
のんきに傘をかざして彼は歩いていた。
見た目は……ちょうど小学生ぐらいの上背である。傘はその体をすっぽりと覆いつくし、後姿からは、まるで傘が歩いているのではないかと見紛うほどだ。
その傘に音を立てて訪れる来訪者は今日はいない。
何せ清々しいほどの朝日が、今なお彼らのいるささやかな森林の中に金色の雨を散りばめているのだから……
********************
「くっそ……誰もつかまらないのか!!」
土供はあせっていた。犬塚の話では結界は3日間は大丈夫だといっている。しかし、それほど体力のない犬塚だけではやはり心許ない。見た目同様かなりの優男であると土供は感じていた。確かに土供に比べてみれば普通の男すらも頼りなく見えるであろう。この男、自分を基準として考えるという問題も持っていた。
「くぅん」
ジャンクはそんな土供を見てはがゆんでいた。手助けしたいけれども勝手に人型を取ることは外ではまずい。まぁ自分が人型をとった所で助けになるのか、そう聞かれたところ返答には困ってしまうが。
――― 誰か何とか出来ないかなぁ ―――
普通の犬であればジャンクほどの大型犬の前に言うことは聞くだろう。仮にも超がつくほどの体格のいい犬である。ましてこの近辺はジャンクの縄張りであった。しかし……
――― 阿雲も吽雲もいい加減にしてくれよ ―――
自分では解決できないことが今回わかっているだけにまさに土供同様歯がゆく感じていた。結界で静けさを装う本殿と携帯電話と必死ににらめっこしている土供とを見つつ、大きくため息をついた。
「しかたない、一回家に戻るぞ……」
そう後ろに控えるジャンクに声をかけつつ振り返ると……
「……」
ジャンクは撫でられていた。
撫でられている……というのはいささか語弊に感じるが、確かに撫でられている。
ナデナデ……
ナデナデ……
ナデナデ……
まるで、そのことが当然かのような雰囲気が辺りを包んでいた。
撫でているのは、どう見ても大きな傘であった……
「……か……傘?」
この男らしからなる声があたりに響き渡る。
そう、ジャンクを撫でているのは、傘……
奇妙な光景が、今まさに目の前に広がっているたのだった。
*****************
「あのぅ……それでは、この先の結界は……」
ジャンクが撫でられ始め10分くらい立ったころ、傘は突然に動いた。
それまで金縛りにあったかのごとく身動きの取れなかった土供は突然来た開放感にやや力を奪われ、その場に腰を下ろしてしまった。
傘……もとい、傘を差していたのは小学生ぐらいの少年であった。
彼は話すこともなく、ひたすらジャンクを撫でている。
しかし、傘から現れたのはその少年だけではなかった。
勘違いであってほしいと思いたくなるような……頭の上には……そう、柴犬の子供が鎮座していた……
少年と子犬……
この不思議な組み合わせは……大いに土供の頭を悩ませることとなった。
「はじめまして、ボク、狛と申します」
話し出したのは頭の犬。
少年は今だ手を止めることなくジャンクを撫で続ける。
「このお方は久那様といいます。どうぞお見知りおきを……」
「あ……あぁ……。俺の名前は土供だ。そいつがジャンク……」
つられるようにして名を名乗る……
「久那様はたいそうジャンクさんをお気に召したようですね。それにしても……本当にふかふかで……モコモコで……なんとも大きいお方なんでしょう……」
「……」
「ジャンク……気持ちいい……」
「あのぉ。土供さん」
「……な、なんだ……」
「失礼でなければ、お伺いしたいことがあるのですが……」
それは突然の始まり。
そして、なんとも得てし難い見方の現われだったのである。
土供は、何故この犬が話すのかをいささか疑問に持ちながらも話をしていった。
しかし彼から出た質問は、その疑問を打ち消すに充分の効果を持っていた。
でた質問は一つ。
何故目の前の境内は結界が張っているのか
ここには土地を守るべき狛犬の加護を感じるのに、何故結界が必要なのでしょう……そう彼は聞いてきた。
結界を感じるもの……
それはまさしく土供が探していた人材である。
今しがた探そうとして出鼻を取られてしまったがこれは思いもせぬ収穫と相成った。
「結界が必要かって……君たちにこの結界が感じられるんなら少し頼みたいことがあるのだが……」
「久那様もジャンクさんから離れませんし……このままではお互い身動きできませんしね。どうやら事情をお聞きしてみるのもよいかと思います」
決断を下したのは狛の方であった。
「それで……ボクは何をお手伝いすればよろしいのですか」
「話が早くて助かる……」
*******************
「はぅぅぅぅぅ……、こんなにすごいだなんてぇ……」
狛の前にはすさまじい光景が繰り広げられていた。
飛び交うのは法術の乱舞……
境内にある2本の柱にはそれぞれ狛犬化した犬が立っていた。
風は吹き荒れ、雷は横臥し、あたりのものを巻き上げている。
「こ、こんなに酷いなんてぇ……」
さっき聞いたのはなしであれば、もっと小規模に感じ取れた。
「ど、どうせなら、久那様がやってくれればいいのに……」
可の御仁、久那こと日向久那斗は相も変わらずジャンクにご執心の様子。
かくして、狛はたった一人で2匹の凶暴化した狛犬と対峙するになった。
「はぁぁぁ……、胃が痛い……」
先ほどまではしきりに彼は久那を説得していた。
その結果、この場まで場所を移動することができたのである。
しかしながら……
「僕……ジャンク……撫でる……」
けんかには興味ない……止めるなら自分でやれ……
無言の圧力である。
この話を聞いて決めたのは他ならぬ自分だ……しかし……
「久那様がジャンクさんから離れないからこういう話になったのに……」
いまさら嘆いても始まらない……
さすればすることは、一つである……
「ぼ、ボクで……止めてくれるかなぁ……」
とりあえずは説得を試みる、柴犬姿の狛であった。
*******************
「本当にありがとうございました」
犬塚は深々と頭を下げていた。
結界を解いた彼は体力も回復し、幾分顔色もよくなっていた。
「いやいや、本当に解決してくれると思っていなかったがな」
頼んだくせになんとも酷い言い分である。
「いえいえ、それほど大変では……」
そういいつつも、狛の顔はどこかしら疲れている様子である。
「それにしても……」
「……すみません……」
視界の片隅には3匹の犬とじゃれあう久那斗の姿があった。
おもにいじられているのはジャンクであるようだが……
「……君も大変なんだな……」
「……はい……」
喧嘩は最初は収まらなかった。
何せ、説得をしてきたのは小さな柴犬、化身化して姿、形が大きく変わった2匹にとっては相手ではなかったのだ。
しかも2匹は柱の上に陣取っているのに対し、狛は下から声をかける……それしかできなかったのである。それでは説得できるはずもない。
仕方なしにひたすらジャンクを撫でているだけの久那斗に頼んでみるものの、まったく動こうとする気配がないというか、興味すらないといったしだいである。
そんなんだからあなたは……ですから喧嘩が終われば……様々に理由を話しても、
「ジャンク……気持ちいい……」
これである。
「久那様が本気出してくだされば早かったのですがね……」
そう嘆きつつ目の前に出されたミルクをおいしそうに頂く。
「そんなにあの子、すごいのか……」
「ええ、すごいです」
「まぁ、僕は助かったけれどもね……」
助かった……確かにそうなのだろう……
犬塚にとっては助かったのかもしれない……
結果、久那斗が行ったことは一つであった。
狛に散々突かれて久那斗は少し考え、ある決断を下したのだ。
「……」
無言で争いの中に歩いていく久那斗。
一同は唖然とその姿を見守っていたが……
「犬さん、犬さん」
…………
彼はひたすら狛犬たちの中を駆け巡り……
そして……転んだ。
そんな彼を慌ててくわえて引きずってきたのはもちろん狛である。
続いてお小言もはじめたのだがそれは置いといて……
「……」
その後に彼は唐突に何を思ったか手を広げた。
「結界……強化……」
そう、彼のしたことは、この結界強化に他ならなかった。
狛に言わせると、斜め45度視点に考えられては解決にもならない……とのことである。
「それにしても狛君も狛犬だったなんて……なるほど、年期が違うよね」
微笑みながら手にしたお茶を飲む犬塚に対しこまは少しはにかむ様にして答えた。
「いえいえ、そんなことないです」
喧嘩の終わりの到来は狛が本来の姿に戻ったことがきっかけだった。
説得だけでは無理だと判断した久那斗が狛を本来の姿……狛犬に戻したのである。
その前にすこーしだけ久那斗が神力とやらを放ったらしいのだが、ジャンクに気を取られすぎ、不発に終わった。
結果、化身化した狛の姿は喧嘩していた2匹よりも大きく、そして神々しかった。
突然現れた先輩株に当たる狛に、さらに一睨みをされすっかり繊維消失と相成ったわけである。
「それにしても……はぁ、あいつららしいというか、なんと言うか……」
土供は深々と溜め息を付いた。
その傍らでは犬塚が笑っている。
「まったく、犬も食わぬというが……本人たちがやってはなぁ……」
犬をも食わぬはといったのはなんとやら……
夫婦喧嘩とはまぁなんとも……
所詮男女の中はいつの時代も、どんな立場も変わらぬものとはうまくいったものである。
しかしながら犬がやるとなると……
なんとも人騒がせな騒動だった……笑うしかないだろう。
皆それを聞いたとき、やはりという言葉ではなくため息が溢れたのも至極単純なものである。
ようは想像通り……なんともまぁ人騒がせな……
「それにしても……」
そういった土供は園庭の隅にいる集団を見ていった。
「ジャンク……偉い我慢してるなぁ……」
撫でられ始めてからすでに3時間あまり……
ジャンクはひたすら耐えていたのだった。
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■ 登場人物(この物語に登場した人物の一覧) ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】
4929 / 日向・久那斗(ひゅうが・くなと)/ 男 / 999歳 / 旅人の道導
5074 / 獅子・狛 (しし・こま) / 男 / 351歳 / 狛犬
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■ ライター通信 ■
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はじめまして。この度は「犬をも喰わぬ」に参加、ありがとうございました。
そして長らくお待たせすることとなり、すみませんでした。
病気・怪我、突然来てしまってはなんとも立ちうちできないのがすごく悔しい日々です。
なるべくプレイを忠実にと思いましたが、どうも狛君の動きが活発になってしまい、久那斗さまには始終ジャンクをそばで撫でているといった次第になりました。
お気づきの点がありましたなら、お知らせください。
それではこの辺で……失礼いたします。
また、お会いできることをお祈りして……
written by 雨龍 一
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