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■【Memory】花嫁と幸せ…■

橘真斗
【1522】【門屋・将太郎】【臨床心理士】
 ある晴れた日の午後。日差しはまぶしく、風が心地いい。昼寝をするにはとてもいい日だ。
 少し焼けた瓦張りの屋根の上で昼寝をしている男に和服姿の少女がチラシを持って下から声をかけた。
「鹿央様、私宛に手紙が来たのですが…いかがいたしましょう?」
「樹宛に手紙だって?」
 屋根にかかったはしごを使ってしゅるしゅると降りてくる。
「樹が来たのは最近だから……ああ、これは手紙でも手紙じゃない。ダイレクトメールだ」
「ダイレクトメールですか」
 『疑問』という感情が欠落しているのか、樹はただ言葉を繰り返した。
「広告だな、新聞とかについている。あれが宛名つきで直接きているようなもんだ」
 鹿央は樹の『それ』が疑問であると思い答えた。
「ですが、私にはそのようなものが来るようなことはありません」
「ダイレクトメールは個人の主張は無視されるもんさ、中身見てみろ」

『結婚式場改装終了につき、イベントのお知らせ』

日ごろのご愛好を感謝しまして、ドレスの貸し出しなどを無料で行います。
結婚式の気分を味わうことができます。当日は式の予約はできませんのでご了承ください。
ジューンブライドの予行演習と思ってのご参加などお待ちしております

「ジューンブライド……」
「6月に結婚式をやると幸せになるっていう、いわゆるジンクスだな。日本風にいえば験(げん)担ぎだ」
 樹の呟きを逃さず、すぐに鹿央は説明をした。その顔は笑顔である。樹が興味を持ったのだから、素直に嬉しいのだ。
「樹が興味あるならいってみるか…店に張り紙な、一緒に参加するやつら募集ってことで」
「はい、鹿央様」
 無表情な彼女の返答にも今日は「楽しさ」が混ざっている気がした鹿央だった……。

【Memory】花嫁と幸せ…

 鹿央や樹が結婚式場につくと、すでに多くのカップルたちが嬌声を上げてイベントに来ていた。
特に女性人の盛り上がりがすさまじい。ドレスの試着が無料とあって、着せ替え人形みたいに色々な服を着ている。携帯で写真を新郎新婦ともども撮ってもらう姿も見られた。
 チャペルらしい純白で中世ヨーロッパを思わせるつくりをしている柱が目立ち、頭上からはステンドグラスから光が差し込んでいる。雲が流れていてステンドグラスがきらきらと光る。
「なぁ、樹(いつき)…俺ぁ帰っていいか?」
 そんな式場に入ったとたんに桃色な光景を見て、お腹いっぱいといいたげな表情になる。
鹿央は壊れた機械の様にゆっくりと顔を樹の方に向けて見つめた。
いつもの半纏にズーパン姿はかなり浮いている。
「いえ、ここでおいていかれても困ります」
 横にいて歩いていた樹は淡々と鹿央に顔を向けて答えた。着替えやすいように樹は水色のワンピースを着ていた。艶のある黒髪も多少持ち上げてまとめてあり、すらっとして透き通るような白い素肌がコラボレーションしていた。
「しかし、あれだな。和服じゃない樹も中々新鮮…きれいな足してるな」
「鹿央様、発言がエロオヤジのようです。 やめてください」-
 口元をにやとゆがめて笑うと、とげのあるハッキリとした否定が樹からされた。
「いや、だけど結構いい感じだな。」
 二人の間に顔を出しながら、よっと軽い挨拶で男が割り込んできた。門屋・将太郎(1522)だった。今日も仕事着である白衣をひるがえしていた。
「門屋様……いつぞやはお世話になりました」
 ゆっくりと答え。きっちりと決まった角度と速度で樹は礼をする。それを見た門屋の顔は複雑そうである。
「お、おう……まぁ、元気そうで何よりだな」
「門屋様も結婚体験を?」
 躊躇する門屋を見つめて樹は話を続けた。結婚の話題がでて、門屋はさらに躊躇する。
「いやいやいや、まだ結婚する気はないけど……気分を楽しむってのは悪くないからな」
「おやおやぁん、片思いされている男の言葉とは思えないな」
 面白い物を聞いたと呟いて、鹿央は口の端を緩ませて門屋を流し目で見つめる。
「あ、あいつは弟子だって!!」
「誰か候補がいらっしゃるのですか…」
「だから違ぁぁぁう!!」
 門屋の大きな声が広い式場に響きわたった。
 ギンッと周囲の人ににらまれ門屋は見る見る小さくなる。顔もだんだん赤くなり
「ははは、この場は退却するかっ」
「そうしましょう…」
 門屋をむんずを捕まえて樹と鹿央はその場を立ち去った。
 
 3人が駆けてきたのはカフェテラスだった。休憩している人の数が多く、ウェイトレスやウェイターは忙しそうに出回っていた。ちょうどいいときだったのか、3人客が会計を終え、席が空いた。ちょうどいいと鹿央が席を取って、隣に樹(いつき)、樹の正面に門屋が座った。
白い椅子とテーブルであり、どちらも白塗りでカフェテラスの中央には天使の彫刻のある噴水が添えつけられていた。周囲をみれば色とりどりの花がカフェテラスの通路を作るように植えられている。
 西洋の屋敷の庭園さながらな風景だ。式場の売り物なのか「新装開店」の看板がでかでかと入り口に置かれてあったことを樹は思い出した。
 適当に注文を済ませて、待ち始める。日当たりのいい席で真昼の太陽が照らされている。
「そういえば、門屋様。前回も問答に付き合っていただきましたので、今回もよろしいでしょうか?」
「なんとなく、予想していたからな……いいぜ?」
 樹をじっと見つめてくる門屋。その瞳には樹自身の人形らしい顔が写っている。
「結婚とは幸せなのでしょうか? 不幸せなのでしょうか? 新聞を見ていますと離婚の話題も多く取り上げられているのになぜ結婚するのでしょう?」
 門屋の瞳に写る自分の姿を見ながら樹はぽつりぽつりと問いかけ始めた。
「幸か不幸かなんて言われてもなぁ。人それぞれだし。好きな人と一緒に生活するってのは、ある意味幸せなのかもな。独り身の俺には良くわからんが」
 見つめられて困ったのか門屋は横を向いて頭を掻きつつ答えた。
「では、なぜ結婚式をおこなうのでしょう?」
 首を傾げながらたずねてみた。疑問に思っている動作として表現しただけに過ぎない。
「俺に言わせれば、結婚式なんてもんは行わなくてもいい。好きな二人が一緒になるだけなのに、なんでお披露目するのかと……」
 そこまでいった門屋は急にビクッと立ち上がり周囲に謝りながら座りなおした。周囲が多少ざわつくがすぐに収まった。ただ、まだ2,3人の女性が門屋を見ている。
「おっと、これは花嫁の夢をぶち壊すような発言だな。要するに…これから人生を共に歩む二人を応援して欲しいって表現なんじゃないかな?」
「応援して欲しい表現…それが幸せなのですか」
 樹の返しに門屋はめがねをかけ直し、あごに手を持っていきながら軽く目を伏せる。
 そして、少したってから目を開けてゆっくり話し出す。
「カップルにすればそうなんじゃないかな?」
「では…門屋様にとっての幸せとはなんでしょう?」
「俺にとっての幸せねぇ…。こうして樹ちゃんと話をしたり、美味いもん食ったり、風呂上りのビールを飲んだ時とかだな」
 幸せについて聞かれて、また先ほどのように目を伏せて黙り込むが、今度は早かった。
「庶民的といいますか、手ごろな幸せなのですね」
「他にも幸せはあるだろうけど、俺は身近な幸せのほうが良い。夢見るのも、それに向って歩くのも幸せのひとつだけど、そういうのよりは『今すぐできる』幸せが好きだ」
 笑顔で最後を締めくくった。樹は軽く礼をして、表をあげると門屋がくすくすと笑い出した。鹿央も不思議そうにしていたが、樹のほうを見ると微笑みを浮かべる。
「何かおかしいのでしょうか?」
「おかしくはないが…アレだな」
「ああ、おかしくないがアレだねぇ」
 樹は二人を交互に見て首を傾げた。テーブルの上にある水の入ったグラスに写った樹の顔は微笑みを浮かべていたのだった…。

 今日、彼女は「微笑むこと」を覚えた。

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┏┫■■■■■■■■■登場人物表■■■■■■■■■┣┓
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┗━┛     ★PCゲームノベル★      ┗━┛
【PC名(ID)  /性別/年齢         /職業】
門屋・将太郎(1522)/男/28歳  /臨床心理士

鹿央・為(NPC3345)/無性別/???歳/古書店夢幻堂店主
樹(NPC3565)/女/18歳/古書店『夢幻堂』店員


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■         ライター通信          ■
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ギリギリですみません(汗)
今回も参加ありがとうございました!!
書式について少々勉強しましたので、多少違いがわかっていただけたらと思います。
門屋さんと樹の問答は中々楽しいです。
次回は7月あたりに受付するかと思いますので、またそのときにでも……
では、またよろしくお願いいたします(ぺこり)