■三日月の迷宮■
蒼木裕 |
【2778】【黒・冥月】【元暗殺者・現アルバイト探偵&用心棒】 |
■ とある男性Aの場合。
「あ、いらっしゃーい」
「お、暇人が来た」
「暇な方がまた迷い込んできましたね」
「……あ……ぎせーしゃー」
開かれた部屋の向こうに居たのは双子らしき少年達と猫耳の生えた少女に……しゃべるミカン!?
「……いよかーん」
「そうだよー、ミカンじゃなくて『いよかんさん』だよっ!」
「いや、そんな人の心読んでやんなよ」
「仕方ありませんよ。そういう世界なんですから」
びしっと突っ込みを入れる双子の片割れに苦笑するもう一人。
慌てて後ろを振り返るが其処にはもう扉はない。話の展開的に自分はどうやら『異世界』に迷いこんでしまったらしい。漫画じゃあるまいし、こんなことが日常に落ちてくるなんて誰が思うものか。
そんな自分を見て彼らはくすくすと含み笑いをする。そして声を揃えて言った。
「「「「じゃあ、かくれんぼ開始!」」」」
……なんつー無茶苦茶な設定だ。
「と、言うわけでお前が鬼だ。ちなみにルールは簡単。今から俺達がこの屋敷の中に隠れるから、三十分以内に見つけてタッチすること」
「四人全て見つければ貴方の勝ち。一人でも見つけられなかったり、時間が過ぎてしまったり、死にそうになってしまった場合は貴方の負けです」
「あのねー、かったらねー、すきなものあげるのー。でもねー、まけたらねー、ろうりょくぞーん」
「労力損、つまり骨折り損のくたびれもうけ〜! にゃははー!」
四人が好き勝手に『かくれんぼ』の説明をする。
自分は一体何が何やら分からない。しかし彼らはすでに各自準備体操なんかを始めてヤル気満々、逃げる気満々。
「じゃ、デジタル砂時計をあげるね。この砂が落ちきるまでが三十分で、此処に出ている数字が貴方のHPだから!」
え、ヒットポイント!?
「じゃ、開始ー!!」
その言葉を合図に三人は駆け出す。あっという間に姿を消した後には自分だけが取り残される。ふわりふわりと自分の真横に浮いているのは先ほど半ば強制的に渡されたデジタル砂時計とやら。
ふと、前を見ればとてとてと短い足を懸命に動かしているいよかんさんとやらの姿。そして彼? は不意にぴたっと足を止め、こちらを振り向かずに呟いた。
「……とびらをあけるときは……きをつけて……ね」
……え? 何でそんな意味深長!?
そうして消えた不思議生物いよかんさん。さんをつければいよかんさんさん。
……いや、混乱している場合じゃない。こうしている間にも砂時計の砂はさらさらと落ちて時間は過ぎてしまう。
強制的にわけもわからず始まったかくれんぼ。
さて、どこから探そう。
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+ 三日月の迷宮3 +
■■■■
その日の私は仕事の後のリフレッシュタイムのため大きめのバスタブに身を委ねていた。
適度に温まったお湯を身体に掛けながら腕を伸ばしたり、疲れた足を揉んだりしてそれはそれはのぉんびりと寛いでいたのだ。目を伏せ、ゆったりとリラックスした後、浴槽から立ち上がる。バスタオルを手に取り、簡単に水分を拭いた。
それからそのタオルを身体に巻きつけ、一歩浴場から踏み出す……が、何処か違和感。
「……そうか、今日もか」
はぁああああああああ。
盛大な溜息を吐きながら正面を見遣る。普段ならば其処は脱衣所だ。だが、今は違う。目の前にあるのは畳みの敷かれた和室。其処に置かれているのは丸い卓袱台。そして囲むように座っているのは二人の少年と一人の少女、そして一匹の背の高い伊予柑生物。
彼らは私の突然の訪問に特に驚くことはなかった。
「あ、ひまじんー」
「相変わらずだな、クダモノ」
ぴっと針金の先に丸をつけただけの手が私を指差す。
微笑みながらぐわしっと相手の頭部を掴み取ってやれば、ちたぱたたー! と手足を懸命に動かして逃げようとする。辺りを再度見渡し、其れが見覚えのある景色であることに再度長い息を吐く。バスタオルを羽織っているとはいえ、自身の姿は裸体に近い。きちんとタオルでお湯を拭き取ったとはいえ肌を撫でる空気が体温を奪っていく。
濡れた髪の毛に指を食い込ませ、そのままオールバック状態に掻き揚げる。
それから指をびしっと突き付け……。
「クダモノ、髪を拭くタオルを持って来い」
「あわ、あわー、はぁいー……!」
「そっちのは服を用意しろ」
「ああ、丁度此処に貴方に似合いそうな服がありますよ、どうぞ。下着は中に折り畳んであるようです」
「……まあ、下着もあるならいい。さて、そこの女の子は冷たい飲物だ」
「あっはっは! 此処にはお茶しかないない〜★」
「そうか、まあそれでいい。さてカガミ。お前は……とりあえず殴らせろ」
「なんで!?」
拳を振り上げてにっこり。
この私の素敵な笑顔に圧倒されたのか、ひぃっと青褪めるカガミ少年。別に裸体を曝す事自体は恥ずかしくはない。だが、女の素肌はやはり恋人などではない限りは見せたくないものだ。何処となく矛盾した怒りだが、やはりムカつくものはムカつく。額に青筋を立てつつ笑みは崩さないでいると、わたわたとカガミは逃げた。
遅れてクダモノもといいよかんさんがタオルを持ってきたので其れで髪を拭いた。
後ろを向いてろと命令した後、素早く服を着替える。
渡された時には気づかなかったが、それは自分の愛用しているスーツに良く似ていた。いや、むしろ同じものかもしれない。
ボタンを留めながら此処に来た理由を考える。
いや、そんなもの一つしか浮かばなかった。くるりと振り返り、もう良いぞと声を掛ける。丁度茶が差し出されたので腰に手を当てながら一気にぐびっと飲もうとして……あまりの熱さに、舌を火傷しかけた。
慌てて口を離す自分をじぃーっと見ている視線に気が付き、ごほんっと咳払いをして誤魔化す。
「さて、始めようか」
「あれれれ? 説明すっとばし〜?」
「どうせ前回と同じなのだろう? だったら構わん」
「じゃあ、頑張って下さいね」
「まあ、適度に頑張れ」
「ああ、そうだな、頑張らないとな。裸まで見られて『もし』負ける様な事があれば何をしてしまうか自分でも判らない。なぁ?」
ニィ……っと口端を引き上げ、底冷えするような声を吐き出す。
それから両手を組み合わせ、そのままボキボキ……っと指の関節を鳴らす。そのあまりの音の不気味さにいよかんさんとカガミが、びっくぅっと背筋を凍らせていた。
少女がぴっとデジタル時計を取り出し、そのまま空中に浮かべる。
最後に三人と一匹が顔を見合わせ、一度うんっと頷きあった後腕を天井の方に高らかに持ち上げて叫んだ。
「「「「じゃあ、かくれんぼ開始ーー!」」」」
■■■■■
今までの傾向上、このかくれんぼが一筋縄じゃいかないことくらい分かっていた。
初回のあの時も、前回のあの時も、あれやこれやでこちらが素敵な事柄に見舞われていたことなど、重々分かっていたとも。分かって、分かっていた……が。
「今日は露出デーの厄日かぁあああ!!」
ああ、それでも叫ばずにはいられない。
現在、私の身体はみにみにさいず。
とはいっても、いわゆる漫画とかで言われるデフォルメではない。手足は丸みを帯びていて、身体は腹の方が出っ張っている。まあ、本当にちみっこい……つまり、幼児だ。別に体型については文句を言うつもりはない。幼い子供なんてこんなもんだ。ただ一つ問題があるとすれば、服だ。
「う、うう……折角出させたのにこれでは着れん」
ずるずると必死にズボンの裾を掴んで歩く。
仕方なく下は脱ぎ捨て、上着を出来るだけ下方に引き伸ばす。更に言えばぶかぶかのシャツは袖から手が出ない。不便だと苛立ちながら裾を何度か折り返した。殆ど凹凸のない胸にブラは必要ないか、と服とともに脱ぎ捨てる。
何だか幼児趣味の危ない奴に好かれそうな格好だなと思いつつ、遠い場所に視線を飛せば、デジタル時計が視界の端で見えた。これではいかんと首を振り、時間を見遣る。まだ始まったばかりなので時間もHPも大量に残っていた。
「さぁって今日は暴れたい気分だ……奴らは何処に隠れたかなー?」
ふっふっふっふっふ。
裸足のためフローリングの上を歩けばぺたぺたと音が鳴る。本当はかつかつと勢いよく歩きたいところなのだが、何分幼児なのでちみちみとしか歩けない。辺りを見渡しながら置かれている箱や籠の中をてきぱきと探していく。
あいつらのことだ、どこに隠れていてもおかしくない。例え箱が自分の手のひらサイズであっても、だ。
ごそ。
何かが移動する。
もぞもぞ。
何かが這いずるような音がする。
ちたたたたっ。
何かが駆け回ってる。
しゅたたん!
何が走っているような気配がする。
―――― いる。絶対に三人と一匹はここにいる。
「そこだぁ……ぁああ!?」
びしぃっと指をさし、そちらへと駆け出す。
だが、子供は如何せん頭が重い生き物だ。勢い余ってしまい、足がもつれそのままどべしーん!! とすっ転ぶ。普段なら取れるはずの簡単な受身も取れず、間抜けな格好で床に転がってしまった。
「いた、いたたたた……」
「あ、あわー、あわー!!」
「おお、クダモノ。自ら捕まりにきたか。いや、むしろ私を起こ……」
「あわー……っ!!」
何処からか出現したいよかんさんを睨む。
彼? は未だ起き上がっていない私の後ろに回り込むと、シャツを思いっきり引っ張る。何だ? と怪訝な顔で見やれば、「ああ」と息が漏れた。シャツが捲れ上がり、生足が露出、下着の方はゴムのおかげでかろうじて引っかかっている。
……半分ほど尻が見えているのは、まあ、下着のサイズのせいとして。
伊予柑生物はこの状況を何とかしようと肌を隠すために服を下げているらしい。
が、私はむくっと起き上がり、ぱんぱんっと埃を払う。それから緩んだ下着を端の方で結わえて調節した後、目の前にたっているいよかんさんににっこぉおおっと微笑みかけた。
そして。
「セクハラだぞ、クダモノっー!!」
「うげぶっ……!?」
そのまま思いっきり蹴り飛ばした。
一匹を捕獲した私は、ゆるぅりと辺りを見やる。其処にいるであろう他の三人に向けて、笑顔を更に深めた。こうなったら自分の姿など構っていられない。むしろ時間と体力が尽きるまで付き合ってやろうじゃないか。
子供らしくないオーラをゆらりと背中に宿しながら私は神経を集中させる。やがて動き出した子供達の気配を見つけ、大きく息を吸った。
「さぁーって、ショータイムだ。閲覧料は高いぞぉ?」
そんな自分の足元では、足の形がくっついたいよかんさんがぴくぴくと痙攣していた。
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かくれんぼ終了。
ちまん。
戻ってきた居間では二人と一匹が肩身狭そうに正座している。その様子に満足しつつ、私は元通り成人になった自分の身体を確かめた。何処か可笑しい場所はないか、不都合はないか、腕を持ち上げて身体を捻る。特に問題はないと確認した後、再度目の前の少年達を見下ろした。
少女のみがどこか余裕の表情でお茶を啜っている。
「さぁって、今日は私の勝ちだ。そうだな……四人とも丸一日私に絶対服従してもらおうか。つまり、下僕だ」
「下僕かよ!」
「下僕ですか」
「うわぁーん、まけたー……っ!」
「はっはっは! 流石に今回は私も本気でいかせて貰ったぞ」
「今までは本気じゃなかったのか」
「煩い」
「あべふッ!!」
其処にあった茶碗をカガミに向けて投げつける。
眉間にまっすぐぶち当たったそれはスピードを止めぬまま壁の方に転がっていった。顎に手を当てながらしばし考えに耽る。一方彼らは何を命令されるのか怯えているのが良く分かった。
ところが、ふとちょっとした違和感。
何故か今まで少女のいた場所に、かくれんぼを一緒に楽しんでいた伊予柑生物とはまた別の伊予柑生物がちまんっと正座しているのだ。しかも何かを手に持って。
「ん? 少女は何処に行った?」
「あわわ、これー……!」
「ああ、手紙か。何々……『それをあわせて四人としてこき使っていいから。内訳は言われてないから数が合えば問題ないでしょ、おーるおっけーでしょう〜、にゃっはっは〜♪』」
「社の奴逃げやがったな!?」
「わー、社ちゃんったら見事な逃げっぷり」
「あわー……」
私自身も少女の見事な逃走っぷりに思わず感心してしまう。
目の前には少年二人、そして謎生物二匹。
「さぁって……何をしてもらおうか」
手紙から顔を持ち上げ、それらに視線を与える。そうして浮かべた笑みは決して温かいものではなく、冷えたものだったが。
二人と二匹が身を寄せ合って必死に自分達の無事を祈っているのが、少し面白かった。
……Fin
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■ 登場人物(この物語に登場した人物の一覧) ■
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【2778 / 黒・冥月 (ヘイ・ミンユェ) / 女 / 20歳 / 元暗殺者・現アルバイト探偵&用心棒】
【NPC / スガタ / 男 / ?? / 案内人】
【NPC / カガミ / 男 / ?? / 案内人】
【共有化NPC / いよかんさん / ? / ?? / いよかん(果物)】
【共有化NPC / 三日月・社(みかづき・やしろ) / 女 / ?? / 三日月邸管理人】
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■ ライター通信 ■
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こんにちは、三度目の挑戦有難う御座いました。
今回は商品概要上、描写が無理な点がありましたので指定されていたシチュエーションの部分が変更されておりますがご理解下さい。でもギリギリラインでこう、捏ね繰り回して書かせていただきましたが、どうでしょう?(笑)
そして見事クリアでおめでとう御座います!! 下僕として色々妄想してやってくださいませv(本当に何をさせられるのでしょうか、ちょっと気になるところです/笑)
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