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■仮想東京RPG! 〜2.最強武器クエスト!〜■

愛宕山 ゆかり
【6029】【広瀬・ファイリア】【家事手伝い(トラブルメーカー)】
調査コードネーム:仮想東京RPG! 〜2.最強武器クエスト!〜
執筆ライター  :愛宕山 ゆかり
調査組織名   :界鏡現象〜異界〜
募集予定人数  :1人〜


------<オープニング>--------------------------------------

「モンスターども、またぞろ動き出しやがったぜ。ここに来る間にも何匹か片付けた」
龍神の化身たる大霊・輝也(おおち・かぐや)が、公園に入って来るなり、右手を左手にバシッと叩き付けた。
前回の事件の始まりとなった公園は、今は穏やかな風が過ぎ去るだけだ。
「前ほど、大っぴらじゃねーけどな。ヤツら、コソコソと何かを探してやがる」

異世界から来た冒険者、ジグ・サは、やはり、と頷いた。
「魔王の配下のモンスターは、『勇者の剣』を探しているのだろう。だが、奴らが『勇者』より早く『勇者の剣』を手に入れる事は有り得ない」
どういう事だ、と誰かが尋ねた。
「…『勇者の剣』は、実際に『勇者』が触れるまで、決して目覚める事は無い。勇者に見出されるまで、それは何の価値も無い『モノ』でしかないのだ…」
ジグ・サの言葉に、誰かが質問を返す。
「つまり、『勇者』本人でない限り、『勇者の剣』を見付ける事は絶対出来ない、という事?」
「そうだ」
きっぱりした答え。その場がざわついた。

「よっしゃ、手分けしてその『勇者の剣』とやらを探そうぜ。テメーらの中に勇者がいりゃ、手に入れられるはずだ」
輝也の言葉に頷きを返し、ふと、果たして「勇者の剣」というのはどういう形の物なのか、全く知らない事に気付いた。
剣というからには、TVゲームで御馴染みのああいう形状なのだろうか?

「最後に一つ」
ジグ・サが一同を見回した。
「名前こそ『勇者の剣』となっているが、実際には、手にした勇者に相応しい形状に変化するのだそうだ。だから、必ずしも剣の形ではないかも知れない…それどころか、武器に見えない物品かも知れんのだ」
「…武器に見えないもの? それでも、魔王を倒せるのか?」
「うむ。どのような形でも、威力に変わりは無いそうだ。その者に勇者に相応しい力を与え、魔王の魔力をことごとく退ける」

…自分に最も相応しい姿の、勇者の剣。

果たして…
自分の持つべき「勇者の剣」は、いかなる姿であろうか?


※ライターより:全三回の「仮想東京RPG!」シリーズの第二回目です。
前回参加されなかったPCの方も参加可能ですので、ふるってご参加下さい(ゲーム的には、前回の事件を人伝に聞き及んだとか、たまたまその場に居合わせた、といった処理になります)。

参加されるPCの方は、どういう形の「勇者の剣」が欲しいか、プレイングにお書き下さい。
外見は全くの自由です。
オープニング中にある通り、必ずしも武器の形をしていなくてもかまいません(フライパンでもサッカーボールでも、一振りの花の枝でもヨーヨーでも可です)。

また、手分けする事になりますので、二人のNPC、
@大霊・輝也(おおち・かぐや):女性、17歳。十一の頭を持つ龍神の化身。とにかく戦闘に長け、陽気で荒っぽい。
Aジグ・サ:男性、19歳。異世界のサムライ。魔王が元々いた異世界の出身で、そうした情報には詳しい。性格はクソ真面目、ちょっとズレている。
のどちらかと行動を共にすることになります。
どちらと行動を共にするかも明記下さい。
単独行動も可能ですが、もし戦闘に巻き込まれた際などには、不利となります。

自らに相応しい剣を求める、真の勇者の皆様を、NPCともどもお待ちしております。


------<申し込み前の注意事項>------------------------------

この商品の作成はライターが受注を開始してから20日以内に作成
される商品です。受け付け窓口は、ライターが受け付けを可能と考
える参加PCが集まり次第閉じる形になっています。
完成する商品は参加PC全員が同じ場合もありますし、1人1人が
違う場合もございます。これはライターの文章作成方法の違いから
出るものですので、あらかじめご了承ください。
仮想東京RPG! 〜2.最強武器クエスト!〜


------<オープニング>--------------------------------------

「勇者」にしか探し出せない「勇者の剣」を探し出すべく、行動を開始する、勇者候補たち。

一方、魔王の配下たちも「勇者の剣」を探し出そうと策動していた…。

------------------------------------------------------------


「輝也ちゃーん! ジグちゃーん! 久々ですぅー!」
広瀬・ファイリア(ひろせ・ふぁいりあ)は、公園の一角に見覚えのある人影を見付けてブンブンと手を振った。

「おー! 待ったぜー!」
「そちらが、兄上か?」
応えて手を振ったのは、大きな木の木陰にいた二人組だ。金色の龍の目を持つ大霊・輝也(おおち・かぐや)、そして異世界から来たサムライ、ジグ・サ。
前回、命懸けの冒険を共にした彼らは、言わばファイリアの冒険仲間、「パーティメンバー」と言える存在だ。

「電話で言った通り、お兄ちゃん連れて来たですぅー!」
ファイリアが腕を組んで引っ張って来たのは、額に巻いたバンダナが印象的な、若狼のような精悍さを備えた少年だった。
阿佐人・悠輔(あざと・ゆうすけ)、ファイリアにとっては「兄」であり、それ以上に大事な存在でもある。

「妹から話は聞いてる…あんたらがこの間、妹と一緒にバケモノを倒してくれた人たちだな? 俺はこいつの兄で、阿佐人・悠輔(あざと・ゆうすけ)だ。妹と共に戦ってくれた事、礼を言いたい」
悠輔が挨拶し、握手を求めた。
輝也、次いでジグがその手を握り返す。
「いや、前の時は、こっちこそ助かったぜ。アタシは大霊輝也。正体は龍なんだが、一応、東京を守るために戦ってる」
「ジグ・サと申す。魔王の元いた、こちらの世界から見れば『異世界』より参った」
見慣れない異世界の武装を纏うジグを見て、悠輔は「異世界からの来訪者」の存在を実感したようだ。
同時に…
三年前、まさに「異世界」に取り込まれた街で地獄以上の目に遭った、彼の表情に緊張の色が走る。
気付いたファイリアは、さり気なく悠輔の腕に手を沿え、力付けるように叩いた。

「あ、そーだ! 聞いて下さい〜! ここに来る途中、またヘンなのが出たですぅ」
ファイリアは色白な頬をぷんと膨らませて話し始めた。
「お兄ちゃんと二人で追っかけて、捕まえようとしたです。でも、あっと言う間に逃げられちゃって…。お兄ちゃんは、人間に危害を加える様子は今のところ無いから、ほっとけって言ったですけど、ちょっと悔しかったですぅ」
単に個人的に悔しい、というだけでなく、敵側の意図が掴めないのがファイリアには不快だった。
第一、今危害を加えなくても、前の事件の時には人間を襲いまくっていたのだ。再び襲い始めないという保証が、一体何処にあるだろう?

「…やっぱりか。アタシもさっき出くわして、二、三体片付けたけどな。どうも、ありゃァ何かを探ってる雰囲気だな…」
悠輔の「少人数で何かを探しているようだった」という旨の補足説明を受け、輝也がそう漏らした。
「でも…探すって、あの人たちは何を探してるです? ファイや輝也ちゃんやジグちゃんじゃないですよね?」
ファイリアは首を傾げた。
モンスター召喚の拠点を潰してくれた相手を、報復すべく探し回るというなら分かるが、今回見かけたモンスターたちはファイリアの姿を見るや、そそくさと逃げたのだ。報復をあさってに吹き飛ばす程、火急の用事があるらしい。

「…恐らくは、『勇者の剣』を探しているのだろうな」
ジグの言葉に、ファイリアは大きな目をパチクリさせた。
「『勇者の剣』って、勇者の人にしか扱えないっていう、ジグちゃんが探してた武器ですか?」
「そうだ。魔王を倒せる唯一の武器だからな。当然『勇者』の手に渡らないように、自らの手元に置こうとしているのだ。私が元いた世界でも、魔王の配下はそれを探していた。もっとも、どうやっても魔王には見付けられる訳も無いのだが…」
「? どういう事だ?」
悠輔が問う。
「『勇者の剣』は、最初から武器として存在する訳ではないのだ」
ジグが、自分の世界の概念を、この世界のそれに慎重に置き換えながら、説明し始める。
「それを所有するに相応しい『勇者』が手にした時、初めてその力に目覚め、その勇者に相応しい形をとる。それまでは、大した価値も無い、ごく平凡な物品として眠っているのだそうだ」
「相応しい形? その『勇者の剣』というのは、剣じゃないのか?」
悠輔の疑問に、ジグは首を振った。
「剣、と呼ばれてはいるが、必ずしも剣の姿をしている訳ではない。それどころか、武器に見えない形かも知れないのだ…」

「ええと、『勇者の剣』は『勇者』の人が触るまで、ずーっと眠ってるですか? じゃあ、『勇者』の人じゃないと『勇者の剣』はぜぇえ〜っ…たいに、見付けられないって事、なんじゃないですか?」
ことん、と首を傾げたまま、ファイリアが言った。ジグが頷く。
「そういう事だ。勇者でない者がいくら探しても、見付かるはずも無い…」
「? じゃあ、あのモンスターどもは、完全に無駄骨なんじゃないのか?」
腑に落ちない、という表情の悠輔に、更にジグが言葉を重ねた。
「いや。恐らく、どこかにいる勇者が、偶然『勇者の剣』を目覚めさせてしまうのを待っているのかも知れん。勇者が真の力に目覚める前に、勇者の剣を取り上げ、始末しよう、ぐらいは考えているだろうな…」

ファイリアは、悠輔と顔を見合わせた。不安が漣のように、それぞれの瞳の中に走る。
「…そもそも…『勇者』とは何だ? ファイリアは、勇者なのか?」
悠輔が、異世界から来た男、そして難しい表情で何事か考えている輝也を見た。

「…正直、私にも分からんのだ。私の世界に伝えられている『勇者』とは、『魔王』を倒す力を神より与えられた存在だ、とされているだけでな…。それ以上の具体的な事柄は、全く説明されていない。ただ単に強ければ良い、という訳でもないようなのだが…」
文献に当たれるだけ当たったのだがな、と言って唇を噛む。

ファイリアは、何事か言いかけて、口を噤んだ。
前の事件の時、自分は、勇者と言われた。
無論、あの時は苦戦していた魔王の手下モンスターを自分の力であっさり退ける事が出来た故に、というのもあろう。

だが。
本当に勇者なのか? 自分は…
 
『…勇者の人は、普通の生き物でなくてもいい、ですか?』

ファイリアは、言うまでも無く魔法生物…所謂「ホムンクルス」と呼ばれる存在だ。
あくまで「人工生命体」であって、自然の生き物、という訳では無い。
今までは、取り立てて意識した事もなかった。
いや、意識しないよう、無意識の内に努めていたのか。無論、兄である悠輔を始め、周囲に理解ある――と言うか、そんな事など気にしない――人々が多かったのも幸いしただろう。

だが、かつてはその出自のせいで、研究施設らしき場所に監禁されていた事すらある。
彼女を監禁した相手が結局何者だったのか、はっきり分かる訳ではない。
が、「彼女が存在するだけで危険」という判断を下す一団がいた、という事は、紛れも無い事実だ。

今の今まで、気にした事も無かったが…
自分は、そんなに「危険な」生き物なのだろうか?

ならば。
「勇者」など、とんでもなくはないか。
なれるのだろうか、「勇者」などに。
そもそも、自分が何者なのかも、良くは分からないのに。


「…ま、兎に角、だ。あんたらのどっちかが勇者なら、どちらかに見付けられるはずだ。手分けして探そうぜ」
輝也は腕組みし、ファイリアと悠輔を交互に見る。
「二手に分かれようぜ。あんたらは、アタシかジグかどっちかを相棒に選ぶ。多分、見付かった途端に襲って来るってパターンになりそーだしな」
「それが良かろう。単独行動は危険だ」
ジグが頷く。

ふと。
まるで何かに突かれたように、ファイリアが前に出た。

「ファイ、ジグちゃんと行くです」

彼女のその言葉に、悠輔が微かに意外そうな顔をしたのを、誰が気付いただろうか。
「ん? そっか、じゃ、そっちのニイちゃんはアタシとだな。うっし、行くか。兎に角、アンタが何か拘ってる事に関係するらしーから、気が向いた方に進んでくれや」
ぽん、と悠輔の肩を叩いて、輝也は彼を促した。
並んで公園を出る時、彼がちらりと振り向くのを、ファイリアは気付かなかった。別の物事に、彼女の心は引き付けられている。




「さて…ファイリア殿。全ては、貴殿次第。どちらへ行かれる? 何か拘っているものがあれば、それを探すのも良いな」
悠輔と輝也から少し遅れて公園を出たファイリアとジグは、あてどなく歩き出す。
「…う…ん、ジグちゃん、ファイ、実は訊きたい事が、あるです…」
珍しくもじもじした様子のファイリアに、ジグは怪訝さを覚えたようだ。
「…どうされたのだ? 訊きたい事とは?」

「ジグちゃん。異世界から来たですよね? きっと、ジグちゃんの世界にも、こっちの世界みたいに色んな人がいたんじゃないですか?」
思い切ったように、ファイリアは話し出す。ジグにはまだ、話の筋が見えない。
「…まぁ、確かに種族そのものは、こちらの世界より多いかも知れぬが…それが、どうかされたのか?」
「ジグちゃんの世界には…ホムンクルスはいたですか? ファイみたいな」
思わず、ジグの足が止まる。
「貴殿のような、とは…? どういう意味だ、貴殿はこの世界で創造されたのではないのか?」
ファイリアは振り返った。
「ファイ、生まれたのはこの世界でないです…どこだか分からない…別の世界みたい、です」
「みたい…? もしや、こちらに来る以前の記憶を失っておられるか?」
ぶんぶんと頭を振ると、ファイリアの銀髪が乱れて散る。
「そういうのとも、ちょっと違うです…」

ファイリアは、順序立てて自分の記憶をジグに話し出した。
三年前、阿佐人悠輔が住む街が丸ごと異世界に飛ばされ、そこで彼、そしてその仲間たちの前に、培養液の中で眠った状態で呼び出された事。
結局、街が元の世界に戻った時、生き残ったのは、悠輔本人、そして彼女だけだったのだ。

「…なるほど…異世界に飛ばされた街へ、更に別の異世界から召喚された…か。奇妙な話だ…」
再び歩き出しながら、ジグは首を傾げる。
「しかし、兄上に…悠輔殿に起こされた時、すぐに意思の疎通は出来たのだろう? とするなら、他の知的生命体と意思を交わす程度の知識は、既にお持ちだった事となるな…」
もし、作られてすぐに呼び出されたなら、殆ど赤ん坊のような状態になるはず、とジグは付け加えた。

「ジグちゃんの世界には、ファイみたいな人はいなかったですか? あの事件の後、ずっと考えてたです。ファイの生まれた世界は、ジグちゃんの世界なんじゃないかって…」
真剣な目で見詰められ、ジグハ再び足を止めて考え込んだ。
周囲は、いつしかオフィス街を抜けて隣接する住宅街へ。まるで時代が二周りも違うかのような、古い赴きの家がちらちらと視界に入る。
「…私も、以前お会いした時から不思議に思っていた事がある…」
「?」
目で、ファイリアはその先を促した。
「失礼ながら、貴殿はまるで『魔法生物』らしくない…。あまりにも、振る舞いが自然で『人間的』なのだ。私も、向こうの世界でホムンクルスと会った事はあるが、大抵、行動や言動が、自然の生き物に比べ不自然だった」
さもなくば。
見た目が人間離れしていた、とジグは言う。
「しかし…貴殿を見ていると、ホムンクルスだという事を容易に忘れてしまう。人造生命体の利点を持ちながら、あまりにも情緒豊かだ。もしや、素体のあるタイプのホムンクルスではあるまいか?」

聞いた事の無い言葉に、ファイリアは目を瞬かせた。
「…そ、たい…? どういう意味です?」
「大まかに言えば、『特定のベースになった人物』が存在するタイプのホムンクルス、という事だ。高い能力を持った人間の血肉を素(もと)にして、更に高度な魔法処理を施して、魔法生物として完成させる…。非常に高度な魔法で、出来る魔術師は限られているが」
その内容が彼女の内面に染み込むまでに、少しの時間を要した。

「…ファイは、そうやって作られた、ですか…?」

…自分は、誰か別の人間を元に造られたのか?
だから、他のホムンクルスたちと違って、自分の感情や意思に疑問を抱いたりしないのだろうか。
元になった、知らない誰かと同じように考えているから? 造られているのにも気付かぬ程、「完璧に造られて」いるから…なのだろうか。

「…一歩間違えば、邪術の類になってしまう上に、魔法としても極めて高度だ。従って、それを行える魔術師は、私の世界でも限られている、が…」
「でも、ファイみたいな人を作れる魔法使いさんは、いるですね!?」
殆ど飛びつくようにして、ファイリアはジグに詰め寄った。

望みがある。
自分がどこから来たか、を知る機会があるかも知れない。
ジグの世界に行けば。

「…特定出来るような情報があれば良いのだが…例えば、悠輔殿の前に召喚される以前の記憶が手掛かりになるやも知れぬ。どこにいたとか、特定の誰かの顔を覚えているとか…」
ファイリアは、ジグの言葉に何かを揺すぶられた。深い深い場所にそっと沈めていた何かを、そろそろと引き上げる。

「…ファイは、小さい時に、森の中で暮らしていた事しか記憶が無いです…」
ぽつりぽつりと、悠輔ぐらいにしか話した事の無い記憶が、言葉になってこぼれ落ちる。
「でも…そこがどこにあったのかは、全く分からないです…」

思い出す…
銀色の朝靄に彩られた緑の木々、涼やかで清浄な植物の匂い、高い位置にある枝葉の間から差し込む光の細帯、森の生き物たちの動きが引き起こす、微かな物音。

あれは、どこだったのだろう?
視点が今よりずっと低くて、自分が幼い子供であった事が分かる。
深い緑の鎧戸のような巨木の連なりに、の外の世界があるなんて、当時は意識に上らせることすらせず…。

「小さい頃…? 貴殿には子供時代があった、という事か?」
意外そうなジグの叫びの意味が、ファイリアには分からなかった。
「多分、そうだと思うです。視線がうんと低くて、周りのものがみんな大きくて…。どうしたです?」
「いや…普通は、ホムンクルスに子供時代など存在しないはずだが…。特定の目的のために創造されるのだから、最初から成体として造る。何故、育てる手間をわざわざ掛けて子供のホムンクルスを?」

まるで、全く理解出来ない異国の言葉でも聞かされたかのように、ファイリアはぽかんとし、その場に立ち竦んだ。

…言われてみれば、確かにその通りだ。
ファイリアに限らず、人工生命体と言われる存在は、創造した魔術師や錬金術師にとっては、一種の使い魔のようなものだ。当然、すぐには使えない幼体の状態で誕生させるなど、まず有り得ない。

ならば。
自分のこの記憶は何なのだろう。
偽りの記憶とは思えない。
悠輔と出会う前の記憶は、まるで濃い靄の中にあるかのようにまるで輪郭が掴めないのに、あの森の記憶だけは異様に鮮明なのだ。空気の匂い、朝靄が肌を撫でる感触までもが克明に思い出せる。

「…今までの、貴殿の話を聞いて、思い出した事がある。私の世界にいる、とある魔法使い…大魔女と呼ばれた女性なのだが…ホムンクルスの創造を、得意としていると聞く…」
ファイリアは、弾かれるように顔を上げた。ジグの紅い瞳と目が合う。何かを思い出そうとするかのように、その目は鋭い。
「その人は? どんな人ですか!? ジグちゃんは会った事があるです!?」
ジグははっきりと頷く。
「一度だけ、力をお借りした事がある。『銀の森の魔女』と、一般には言われる方だ。森の形をとる、ご自身だけの特別な空間を造り上げて、そこに一人で住んでおられる」
「…銀の、森…?」

朝靄。
陽が差すと銀色に光り輝く大気、濡れた木々の枝葉。
銀色の鱗のようにチラチラ輝く、泉と小川。
全てが銀色に輝いていた、あの森の名は、何と言った?

「その魔女の名は、ザリーナ。私の世界が魔神によって創造された頃から生きておられる、と聞く…」
ジグの紅い目は、ファイリアの銀色の髪に留まった。
「…単なる偶然かも知れないが…貴殿の、その銀色の髪…大魔女ザリーナと同じ色合いだ…」
はっとしたように、ファイリアは自らの髪の毛に手をやった。
「…実は、ザリーナ殿に頼まれていたのだが…何年か前、ザリーナ殿が特別に造り上げた強力なホムンクルスが一体、何者かの手によって連れ去られ、行方不明になったのだそうだ」
「行方、不明…?」
「ザリーナ殿の話では、異世界に連れ去られた可能性があると…向こうの世界では、探知出来ないらしい。もし、異世界に行くような事があれば、探してくれないか、と言われていてな」


ザリーナ。


ザリーナ。


その名は、ファイリアの記憶の表面を撫で、どこか深みを揺すぶった。
あの森には、自分の他に誰がいた?
ほんの幼児だった自分が、一人で生きていたとは思えない。誰かが、いたはずだ。

だが…
思い出せない…。

本当に、自分は…


「最近では滅多に無いが、かつてはザリーナ殿も、弟子を取っていた事があるそうだ。当然、その方々にも魔法技術は受け継がれているはず。その方たちの可能性もあるが…もしや、と…」

…こういう時に、どういう感情を抱けば良いのだろう?
恐らくは生まれて初めて、ファイリアは自分の感情というものに戸惑った。

ザリーナという、その魔女が自分の生みの親なのか。
それとも、その弟子の誰かなのか。
手掛かりには、違いない。喜べば良いのだろうか?
それとも、怒れば良い? 戸惑うだけで良いのだろうか?

…確かめる術が、今は、無い。


ふと。
何かが、肌を撫でた。

銀色の、霧。

「!? 何だ…これは、『銀の森』の…?」
まるで銀糸を使った薄物を幾重にも重ねたような霧に呑み込まれ、ファイリアは咄嗟にジグに駆け寄った。細い指で籠手の上から腕を掴む。
「ジグちゃん? 銀の森って…?」
「見覚えがある。これは、銀の森の結界を成す霧にそっくりだ。あの時は、これを抜けると…」

最後の一言が終わらぬ間に、ファイリアは弾丸のように飛び出した。輝く風のように、銀の霧を後に引きながら奥に進む。
「待たれよ、ファイリア殿! 落ち着け、これは銀の森そのものではない!! 罠かも知れぬ!!」
翼を広げ、霧を掻き分けつつ、ジグは後を追った。

『身体能力の高さは知っていたが…尋常ではないな、何かに呼ばれているのか…?』

内心で舌を巻きつつ、追いついたジグがファイリアに手を伸ばした。
その瞬間。

「…あ…れ?」
不意に、視界が開けた。
ファイリアは思わず立ち止まる。
「? ここは…銀の森? いや…」
そんなはずはない、とジグは首を振った。
いくら魔力に満ちた「銀の森」でも、異世界にまで繋がるとは考えられない。自分が属していた世界では、森の入口はどこにでも現れることで有名だったが。

「!! 待たれよ、ファイリア殿!」
ふらふらと歩き出したファイリアを、慌てて追いかける。
「…見たことあるです…この森…は…」
しっとりした枝葉が、差し込む光で銀細工のように輝いている。

あらゆる場所に、聖なる銀の祝福が宿る、こここそが、銀の森なのだろうか。

「…この道、知ってる、です…」
見えない糸に操られるように、ファイリアは森の小道を進んだ。獣道にしか見えない、細くささやかな道。ジグ一人なら、見落としたかも知れない。
「…ファイリア殿…?」
「この先に、泉があって…よくそこで遊んで…」
うわ言のような、ファイリアの言葉。
「…泉? …!?」

目の前が開けた。

巨木に抱かれるような、銀色の岩から澄んだ水が湧き出ている。
それは下の浅い窪みに溜まり、まるで水盤のような円形の泉を成していた。
その水面もまた、銀の色。

「?」
ファイリアは、手を伸ばした。
浅いが冷たい水に手を差し込むと、何かが指先に当たる。引き上げたそれは…

「これ…銀のリング…武器…?」
それは一見すると、何かの遊具か、或いは特殊な踊りに使うような、二本一組の銀の輪だ。
直径は、二十センチ程であろうか。
ただの銀ではなく、所謂神聖銀、ミスリルに近いものかも知れない。うっすらと青みがかった光を帯びていた。
よく見ると、繊細な線で表面に魔術的な紋様を彫り込んであるのが分かる。見る者が見れば、魔法の品だと分かるだろう。

「…思い出したです」
「? 何を、だ? ファイリア殿」
「ファイ、小さい頃に、ここで遊んでいてこのリングを落としたです」

それは、幼い頃の微かな記憶。
大好きな人から、身を守る武器であり、同時にお守りとして渡された、魔力を帯びたリングだった。
その人がどんな人だか、まるで思い出せない。なのに、大好きだったと、はっきり覚えているのも奇妙だった。

そのリングは無論、幼いファイリアの携帯の邪魔にならないように、ベルトで腰に吊り下げられていた、のだが。
泉に入って跳ね回る内、吊ったベルトの留め金が外れて、それは泉の底に落ちた。

「ファイ、拾い上げようとした、です…その後…その、あと…」

記憶は、そこで途切れている。
そうだ。
森の記憶は、それが最後だった。

自分は…その後、一体どうなったのか。

その後から、悠輔に出会うまでの記憶が、すっぽり抜けている。
まるで、意図的に封印でもされたかのように。

ファイリアは、迷う事無く、それを拾い上げ、腕に通した。
あの頃は物凄く大きく思えたが、今は丁度良い大きさに感じる。

それを身に着けた瞬間。
何かがファイリアの全身を走りぬけた。

単なる衝撃とも、魔力の流れとも違う、不可思議な何か。
細胞全てに火が点いたようにも感じられるのに、不快さや苦痛は無い。

声もなく、その静かな衝撃に耐えていたファイリアは、忽然と悟った。

これこそが…「勇者の剣」だ。

あの泉に落とした、あのリングそのものではないのかも知れない。
だが。
「勇者の剣」は、この姿でファイリアを待っていた。
彼女に見出される、そのために。


「ファイリア殿? それは?」
何が起こっているのか、全く把握出来ないでいるジグが呼びかけた。
「…ジグちゃん。見付けたですよ」
振り返り、にっこりと花のように――全くいつもの彼女のように、ファイリアは微笑んだ。
「な…?」
「勇者の剣です。ファイの、無くした武器のカッコしてました!」
笑みが濃くなり、ファイリアはほっそりした両の腕に通した状態の、そのリングを見せた。銀の光に青みの強い反射で、魔術的な紋様が浮き上がる。

「それが、勇者の剣…? まことなのか…舞でもするための輪に見えるが…?」
知識としては知っていても、いざ目の前にすると衝撃なのだろう。
ジグが唖然とする前で、ファイリアはくるりと向きを変えた。
「…ここは、『勇者の剣』が造り上げた擬似空間です。銀の森そのものではなく、ファイのイメージを引き出すためのもの。だから、もうすぐ消えてしまうです」
さっぱりした、同時に何か深くに決意を秘めた表情で、ファイリアは思い出のあるはずの泉を後にする。これだけ思い出せれば、今は十分だ。

『それに、それより先に、しなくちゃいけない事が、あるです』

ふと、悠輔と輝也はどうしているだろうと気になった。
悠輔もまた、勇者なのだろうか?
勇者の剣は見付けただろうか?
彼ほど勇者に相応しい人間はいないと、ファイリア個人としては思うのだが。

歩く内に、霧が再びファイリアとジグを包んだ。

幕を引いたようにそれが流れ、そして視界が開けた。

そこに見えたもの、は。



「…オメーら!? そこで何してんだ? 向こうに行ったんじゃなかったのかよ!?」
「貴殿らこそ、何故ここに戻っておられる!?」

ほぼ同時に、輝也とジグが叫んでいた。
彼らが出くわしたのは、スタート地点の公園。
それぞれ、反対側の入口から入ってきた格好になる。

「…お兄ちゃん? 聞いて下さ〜い! ファイ、見付けたですよ〜!!」
「お前もか? 俺も見付けた。忘れてた、過去の中にあったよ」
兄妹は、まるで全て知っているかのような、穏やかな笑みを交わした。
ファイリアの両腕にはリングが、悠輔の手には手袋が、それぞれ装備されている。

これこそが…彼らの「勇者の剣」。

ある意味、外ではなく、彼らの内なる部分から拾い上げた、彼ら自身と連動した剣だ。


「…しかし…ファイのは…チャクラム(戦輪)みてーなヤツかぁ。何かえらい高度っぽい武器だな」
「…悠輔殿は、手袋、か。よく似合う…何か縁のようなものがあるのだろうな…」
互いの相棒の「勇者の剣」の意外さに、感心していた輝也とジグだったが、ふと、同じ事を考えた。
ファイリア、悠輔の手元を交互に見る。

「…でもさ、どーやって魔王チャンとやらをブン殴るんだろーな? 刃とか棘とか、付いてるようには見えねーな…」
「うむ…それは、さっきから気になっていたのだが…」

見た目は武器でなくとも、武器として使用出来る。
そのはずだが、輝也は勿論、異世界出身のジグにさえ、その使用方法が分からない。

「…もうすぐ、分かる事になりそうだぜ?」
悠輔が、珍しく悪戯っぽい調子で言った。
「やっぱり、悪いヒトが来たですよ〜」
まるで怪談で友達を怖がらせるような調子で、ファイリアが声を潜める。
「…って、んあっ!?」
「やっぱり、嗅ぎ付けおったか!」

咄嗟に振り返った輝也とジグの目の前に、巨大な空間の歪みがあった。

そこから飛び出したのは…
まるで背中に森を背負っているような、全身に植物を絡みつかせた巨大狼。
そして、宙に浮くマントを纏った死骸のような、奇怪なモンスターだ。

「…ファイとお兄ちゃんの、内面の『畏れ』を利用したつもりですか? 無駄ですよっ!」
ファイリアが「勇者の剣」たる、銀のリングを放った。
空中に浮かび上がったそれは、表面から銀色の魔力の刃を吹き上げた。
それは丁度、複雑な形の魔方陣にも似ている。
回転しながら飛来した二本一組の刃は、化け物狼の首を瞬時に落とし、もう一本が残った胴体を魚よろしく開きにした。

「…お前みたいな半端な魔物に、この約束の証はどうこう出来ないぜ」
悠輔が、無造作に拳を振る。勇者の剣たる手袋がその力を増幅した。
当たらないと思われたそれは、まるで金に彩られた蒼白く燃える拳のような、巨大なエネルギー体に増幅された。
あたかも、神が天界より下した手の如く。
それは死骸を直撃し、霊的な炎で燃え上がらせた。

「お帰りは、あちらですぅー!」
「お前の居場所は、この世界には存在しない…」

ファイリアのリングが、彼女の描いた魔方陣の力を増幅した。異界へ続くゲートが、狼を呑み込み。
まるでカーテンを払うかのように振られた悠輔の手に押されたように、空間の歪みが死骸をどこかに持ち去った。

後は、水面のような、静かな空間が残るのみ。



「…結局、アタシとジグが何もしてねーっつーのは、禁句な」
ちょっとイジケながら、輝也が呟いた。
「…まぁ…仕方なかろう…」
ジグもちょっぴり寂しそうだ。

勇者となった兄妹は、顔を見合わせて笑った。

勇者になった、その事よりも。
もっと大切な、置き忘れた宝物を、時の向こうから拾い上げる事が出来たのが嬉しい。

この思いがあれば。

「「魔王なんか、怖くない」」

偶然声が重なり、兄妹は再び笑いあった。



 <終>



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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

PC
【6029/広瀬・ファイリア(ひろせ・ふぁいりあ)/女性/17歳/家事手伝い(トラブルメーカー)】
【5973/阿佐人・悠輔(あざと・ゆうすけ)/男性/17歳/高校生】

NPC
【NPC3819/大霊・輝也(おおち・かぐや)/女性/17歳/東京の守護者】
【NPC3827/ジグ・サ(じぐ・さ)/男性/19歳/異世界のサムライ】


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■         ライター通信          ■
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こんにちは、ライターの愛宕山ゆかりです。
「仮想東京RPG! 〜2.最強武器クエスト!〜」に、第一回から引き続いてのご参加、誠に有り難うございました。
記念品として「異界のコイン(オリハルコン)」(←最後のモンスターが落としたものです)と、無論「勇者の剣」を進呈いたします。
これでファイリアちゃんは、一緒に参加された悠輔くんと共に、正式な勇者となられました!
後は魔王を倒すだけ!(笑)

さて、ファイリアちゃんの「勇者の剣」であるリングに関して、色々と勝手な付属設定を作ってしまいました。
今回、おや、と思ったのは、ホムンクルスであるはずのファイリアちゃんに、どうも子供時代があったらしい、という事でした。恐らく、量産型(?)ではなく、何か特別なホムンクルスとして生み出されたのかな、と勝手に想像させていただきました。
作中の大魔女にして「銀の森の魔女」ザリーナは、別の分野で前々から構想を練っていたキャラクターだったのですが、こちらでは多少ファイリアちゃんと絡めてみました。
このキャラクターが、本当にファイリアちゃんの産みの親かは…ファイリアちゃん次第、という事で(笑)。

最終回「仮想東京RPG! 〜3.最終決戦!〜」(仮)は、六月末くらいにはお目見えさせたいと思っております。もし、よろしければご参加下さい。

では、またお会い出来る日を楽しみにしております。

愛宕山ゆかり 拝