■闇の羽根・桜書 T < 愛しき人 >■
雨音響希 |
【5566】【菊坂・静】【高校生、「気狂い屋」】 |
いつだって、過去は痛く
いつだって、過去を思えば胸が締め付けられる
輝かしい未来なんてもの、来なければ良い
未来なんてあるからこそ、独りの現実が辛いんだ
直ぐに終わってしまえば
今すぐ終わってしまえば
大好きだったあの人達の元に行けるならば・・・
あたしも、そっちに連れてって・・・・・・・・・
「それじゃぁ、あたし・・・もう行くね?」
「大丈夫なの?今度はもなの・・・・・・」
「平気。だって、あたしは現の守護者だよ?そんなにヤワじゃないよ。」
女の子特有の高い笑い声を洩らすと、左手首を押さえた。
「確かに、ね。ま・・・これで最後だし、頑張ってもらわないと困るかな?」
「うん。麗夜ちゃんは、何も気にせず待ってて。」
ひらひらと軽い調子で手を振ると、もなは駆け出して行った。
麗夜が開いた扉の向こうに広がっていたのは柔らかな幻に包まれた世界だった。
もなにせがまれて、麗夜が現の力を使って創り出した場所。
最初、その申し出を断ろうと思った。
夢幻の魔物がもなの兄である事は、とうに分かっていた事だった。
だからこそ・・・もなが、夢幻の魔物の居る場所が分かった時、その周囲に幻を創って欲しいと、もな達親子が組織に見つかる前、一番楽しかった日々を過ごしたあの家を創って欲しいと、そう頼まれた時、勿論麗夜は首を横に振った。
けれど、麗夜は直ぐにもなの真意に気がつくと、頷いた。
麗夜ももなと同じ気持ちがあったからこそ、もなの・・・残酷なまでに切実な思いを・・・受け入れようと、思ったのだ。
その真意には気付いていないふりをして、笑って、もなを見送ろうと・・・
その邪魔をする者を阻止しようと、そう思ったのだ。
自分も同じ気持ちだからこそ・・・・・・・・
「そっちに、連れて行って・・・」
目の前に横たわる静寂に向かってそう呟くと、麗夜は寂しげに微笑み・・・そして、すぐに表情を変えた。
きっと、誰かから連絡を受けた者がこの場所にいずれ来るだろう。
もなと夢幻の魔物がいる空間に行けるのは、麗夜の背後に佇むこの扉ただ1つ。
この扉が閉じている限り、もなと彼を邪魔する者はいない。
表情を引き締める。
唇を噛み、キっと玄関に視線を向ける。
そう・・・例えば彼が・・・この館の支配人であり、あの秘密の屋敷からずっと、現と夢に集められた者を監視し続けている彼ならば、この事態にいち早く気がついて応援を要請している可能性がある。
「もなの望むものを。例えソレが死であろうとも、俺は、司として・・・守護者を、もなの・・・意のままに・・・。」
* * * * * * *
夢幻館の支配人である奏都の切羽詰ったような声を聞きながら、急く心を抑える。
もなさんに・・・危険が迫っているんです。
今回の夢幻の魔物の力は強大で、きっともなさん1人では・・・
途切れた言葉の先に続くのは、絶望を含んだ言葉なのだろう。
巨大な門から続く、白い道を走りぬけ、両開きの扉を押し開ける。
蝶番の悲鳴が今日は一段と高く、絶叫と言っても過言ではないほどに大きな音を響かせる。
「やっぱり、来ると思った。」
冷たい声が響き、麗夜が声の響きと同じ色の瞳をこちらに向ける。
「そんなに急いで来るって事は、相当もなが心配なんだ?へぇ。凄い偽善だよね。あんたにもなの何が分かるんだよ。こんな短い付き合いの中で、あんたにもなの何が分かるって言うんだよ!分かったようなフリしてるだけだろ?ただ、陳腐な正義感や同情だけを盾に行動してるだけじゃないか。それを本当にもなが望んでいるとでも思うのかよ!?」
麗夜にしては強い声の調子でそう言うと、すっと背後にある扉を指差した。
「もなはこの先に居る。でも、俺は決してあんたを行かせはしない。扉を現で封印する。全てが終わるまで、あんたをこの中に行かせはしない。」
そう言った途端、扉を淡い色の靄が包んだ。
どこか不思議なその靄は、この館が発する雰囲気に似ていた。
現の守護のない者には如何する事も出来ないモノ・・・・・・・・
「例え今この中に行って、もなの命を救えたとして、それがどうした!?この先、何年も・・・何十年も、もなの命のある限り、ずっと・・・ずっと苛まれなくちゃならない!母親と兄を思い出す度、ずっとだ!その苦痛を分かるとは言わせない!現の守護者であったばっかりに、ささやかな幸せを手放さなくてはならなかった、もなの気持ちを!ずっと、自分が母親と兄を殺したんだと思っている、もなの気持ちを!分かるとは言わせない!」
麗夜の声は、既に涙を含んでいた。
震える声が忌々しいのか、美しい顔が歪む・・・けれど、歪んでも、未だにその美は損なわれない。
「本当の意味で、救える者しか・・・通さない。続く未来、もなが・・・過去を、負い目に思わなくても良いように・・・母親と兄を殺したのは、もなじゃないと・・・。・・・お願い・・・救って・・・」
強い言葉が掻き消える。
最後の言葉は確かに助けを求めていた。
・・・けれど、麗夜の向こうに見える扉は、未だに開く気配はなかった・・・・
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闇の羽根・桜書 T < 愛しき人 >
◇★◇
グっと強い視線を向ける麗夜を真正面から見詰めながら、菊坂 静は奏都からの電話を思い出していた。
切羽詰ったような声で、矢継ぎ早に言葉を紡ぐ奏都。
普段ならば口調はとても穏やかで丁寧なのに、その日は乱雑だった。
勿論、言葉が悪かったわけではない。接続がバラバラで、酷く混乱しているのだと言う事が窺い知れた。
「奏都さん・・・それ以上、言わなくて良いです・・・危ないのですね・・・?」
静はそう言うと、奏都の言葉を柔らかく止めた。
最後まで言わなくても、全ては分かっていると言うように・・・電話越しでは見えないけれど、静はその時確かに笑みを浮かべていた。
「――――――行きます・・・」
夢幻館までの道は遠く、どこか逸る心を前に、見慣れた道が別世界のように見えた。
続く道の先は知っていても、道が開ければ違う場所のような気がした。
そうしてついた夢幻館も、普段とは違った冷たい空気が流れていた。
ヒンヤリとした、独特の空気・・・
似合わないと、静は心底思った。
いつも賑やかで、騒がしくて・・・馬鹿馬鹿しい事も平気でやる。静よりも年上なのに、喧嘩ばかりして、それを仲裁するのに声を張り上げて・・・いつだって、笑い声が響いていて、とにかく・・・ここは、そう言う場所でなければならない。明るくて、華やかな場所でなくては・・・。
似合わない・・・こんな空気は、夢幻館には似合わない・・・!
もなの姿はなく、いつも出迎えてくれる住人達の姿は消えてしまっている。
今、静の目の前に居るのは滅多に会う事のない住人・・・美しくもどこか冷めた印象を受ける、現の司ただ1人だった。
「・・・麗夜さんも・・・もなさんを助けたいんだね・・・」
ややあってから、静は遠慮がちにそう言った。
麗夜が不機嫌そうな表情をして俯き、唇を少し噛んだのが見えた。
麗夜の言う“助ける”と奏都の言う“助ける”の違いは、静にもよく分かっていた。
そして・・・どちらも、相当の思いがあっての事だと言うのは、よく理解していた。
どちらの気持ちも分かる・・・それでも、麗夜の意見には賛成できなかった。
「麗夜さん。他に・・・助ける方法は・・・あるよ」
その言葉に、麗夜の瞳が見開かれる。
何を言い出すのだ?そんな表情で、ジっと静の顔を見詰めている。
そんなに見詰められると、少し困ってしまう・・・そう言う表情を浮かべ、静はそっと目を閉じた。
「もなさんのお兄さんを正気に戻し、彼はもなさんの事が大好きで、守ろうとして死んだんだって事実を言ってもらう・・・」
「・・・お前・・・」
「死ぬ前の、もなさんと別れた時の幻・・・それをお兄さんに見せるよ・・・」
「なっ・・・!!!」
「今まで使わなかったのは・・・過去を見せる幻術は繊細で、死神と半分しか混ざれてない僕だと、数秒目を合わせないと出来ないんだ」
“死神”の言葉に、麗夜が明らかな困惑の色を浮かべる。
けれどそれは、恐怖とはまた違った表情だった。
「・・・途中で攻撃されたらそれで失敗・・・それに、身体への負担も高くて、右手首の出血が止まらなくなるんだ・・・」
「もな状態・・・だな・・・」
「そう・・・だね。傍から見たら、本当に死を司る化物に見えるかもしれない」
「異なるものを体内に取り込んでいる者は、大抵そうだろう?」
「・・・身体は耐えられなくて、死ぬかもしれない・・・」
麗夜が、憐れみの視線を静に向けている。
なにか・・・とても弱く、痛々しいものを前にしたような、酷く優しく・・・けれど、微かな同情の混じった視線だった。
「でも・・・僕は、もなさんを助けたいから・・・覚悟してる」
「その覚悟は、どこから来るんだ?所詮もななんて、お前の人生におけるほんの少しの割合しか関わらないだろう?どうだって良いじゃないか!お前ともなは、そんな親密な関係じゃないだろ!?俺達みたいに、切り離せない仲じゃない!それなのに・・・」
「それでも、もなさんは僕の友達だよ」
「これだけの短い間しか関わってない人間に、命をくれてやる・・・お前のその考えがわからない」
きっと、麗夜には一生分からないことなのだろう。
彼は残酷で、冷たい。
けれどそれは、他人に対してのみだ。
身内には酷く優しく、きっと・・・その命すらも、安いと言って差し出すほどだろう。
だからこそ、係わりの薄い人間に対して、何かを与えると言う感覚が分からないのだ。
「もなさんは、僕の事を友達だって・・・言ってくれたから」
その姿を見て恐れても、友達だと言い切ったもなを、静は心から思っていた。
彼女が辛い目に遭っているならば、助けてあげたいと思う。悲しいことがあって泣いているならば、慰めてあげたいと思う。
死の淵に立っているならば、例え自らの命を引き換えにしても・・・救い出したいと思っている。
「友達だって、言い切って・・・くれたから・・・」
静は顔を上げると、真っ直ぐに麗夜の瞳を見詰め返した。
「だから、助けたいんだ」
「・・・お前を行かせるわけにはいかない」
「でも・・・」
「もしお前が中に入って・・・もし、死んだとして・・・」
麗夜はそこまで言うと、言葉を切った。
すぅっと、その場の気温が下がる。微かな怒りのオーラを感じ、静はまじまじと麗夜の顔を見詰めた。
しかし、その顔は能面のように無表情だった。
「もながそれで生きていけると思っているのか?自分のために人が死ぬことを恐れているもなの前で、そんな事言ってみろ!!・・・俺は、絶対にお前を許さない。絶対にだ・・・」
「麗夜・・・さん・・・?」
「もなの前では絶対に死ぬな。それが守れるなら・・・行け・・・」
そう言って、すっと扉を撫ぜると靄が掻き消えた。
麗夜の言った言葉の意味を、その心を・・・考えている暇はなかった。
事は一刻を争うのだから―――――
麗夜の脇をすり抜け、ドアノブに手をかける。
「約束は、守るよ」
「・・・もなの前で死ぬのは許さない。でも・・・俺は、お前に死んで欲しいとは思わない」
それは遠まわしであるけれども、麗夜が静の無事を祈っての言葉だった。
その言葉を背に、静は扉の中に入って行った・・・。
◆☆◆
扉の向こうはどこにでもありそうな質素な一戸建ての家だった。
小さな庭には赤い煉瓦で仕切られた花壇があり、物干し竿が1本立っているのが見える。
木の扉は薄く、銀色のドアノブを回せば簡単に開いた。
ガチャリと微かな音を立てて扉を開け・・・
玄関にはもなの靴が脱がれていた。
正面には短い廊下があり、突き当りと左手には部屋があるらしく、扉が閉まっている。
右手には階上へと続く階段があり、静は耳を澄ませた。
テレビの音に混じって、嬉しそうな少女の声が聞こえて来る。
「でね、もなね、今度お料理してみよっかなぁ〜って言ったのに、お母さんったら酷いんだよ〜!もなにお台所は使わせません!だって!」
どうやら声は奥の扉から聞こえてくるらしい。
静は少し迷った後で靴を脱ぐと廊下を歩いた。
ギシリと床が軋み、その音が不自然に大きく響く。
「ねぇ、お兄ちゃん!今度どこか行こ〜??もなね、パフェとか食べたいんだぁ〜」
ドアノブに手をかける。
嬉しそうな声に胸を痛める。
きっと静が入って行ったならば、もなは残酷な現実を目の当たりにするのだろう。
夢のようなこの一時を、壊してしまう・・・それでも・・・
ドアノブを右に回し、扉を開ける。
刹那、静の目には確かに・・・この家が一番幸せだった日の光景が見えた。
ソファーの上に乗って、楽しそうに会話をするもなとその兄。
台所では母親が忙しく食事を作っており――――――
けれどその幻も直ぐに掻き消えた。
ソファーの上に座っているのは、もなと夢幻の魔物・・・
今回の夢幻の魔物は、普通の人間となんら変わりのないものだった。
女性めいた顔は美しく、もなを思わせるような瞳は無邪気な色を宿している。
静の登場に、もなと彼の視線がこちらに集まった。
もなが酷く驚いたような顔で静を見詰め・・・・・・・・
「誰・・・?」
その声は怯えているかのようだった。
瞳は限りなく澄んだ色をしているにも拘らず、どこか濁って見えた。
もう、その瞳に、心に、静は・・・静だけではなく、夢幻館の住人達も・・・映りこんではいなかった。
一緒に逝きたいと願っている兄の姿しか見えていないと言った瞳だった。
「お兄ちゃんのお友達?」
もなが隣に座る夢幻の魔物を見詰め、その服の裾をギュっと握る。
静はもなの前にすっとしゃがみ込むと、瞳を見詰めた。
幸い夢幻の魔物はまだ動き出す気配はなく、じっと静ともなの動向を観察している。
「もなさん・・・御免ね?」
「・・・な・・・に・・・?」
「何も気付けなくて、もなさんの願いを邪魔して・・・」
「言わないで・・・」
「・・・たくさん傷つけて・・・御免・・・」
「いや・・・!」
静はすっと立ち上がると、夢幻の魔物の瞳を見つめた。
全ての意識を集中し、幻を―――――――
「だめぇぇぇっ!!!」
何かを察したもなが、静の腕を掴み・・・けれど、それは普段のもなの力とは比にならないほどに弱々しいものだった。
体格相応の力は、静の力よりも格段に弱い。
それでも、必死に腕を取る。
「だめ・・・それ以上は駄目・・・!いや・・・やだぁっ・・・!」
まるで駄々っ子のようにもながそう言って、何も出来ない自分の無力さに目を潤ませる。
だんだんと静の意識は朦朧としてきていた。
右手が痛み、そこから血が滴り落ちているのが分かる。
・・・意識が・・・闇に沈む・・・
その瞬間に、もなが夢幻の魔物を強制的に送り返すべく、左手を高く頭上に掲げた。
突然の突風に静の体が飛ばされ、したたかに腰を床に打ち付ける。
ゆっくりと目を開ければ、そこにいたはずの夢幻の魔物の姿はなく、先ほどまで静が立っていた場所にもなが佇んでいた。
左手首からの出血は酷く、静の流した血と床の上で混じり合っている・・・。
こちらに背を向けていたもなが振り向き、静はその表情に言葉を失った。
瞳は鋭い狂気を含んでおり、口の端は僅かに上がっている。
まるで何かに憑かれてしまったかのような表情は、もなではない別人にさえ見えた。
「・・・もな・・・さん・・・?」
「静ちゃん、約束してくれる?」
ゆっくりとした足取りで静の直ぐ目の前に立つと、すっとしゃがみ込んだ。
顔をグイっと近づけ、ジっと静の瞳を覗きこむ・・・それに、微かな恐怖を覚えたのは言うまでもなかった。
「なに・・・を・・・?」
「静ちゃん、絶対に・・・あたしより先に死なないでね」
「もなさん・・・?」
「もし、あたしより先に死のうとしたなら・・・許さないから」
最後の声は酷く低く、少女の出せる音域とは思えないほどだった。
もなが静の手を取り、小指と小指を絡ませる。
静はなす術もなくもなに従い・・・
「約束よ、静」
にっこりと、残酷な笑みを最後に・・・ブツリと、意識が途切れた・・・
◇★◇
静が意識を取り戻した時、直ぐ隣には麗夜の姿があった。
額には濡れタオルが乗せられ、きっと静が目を覚ますまでの間付っきりで看病していたのだろう。
「麗夜さん・・・」
「気がついた?」
優しい笑顔は心落ち着けるものがあった。
そして・・・その笑顔にダブルのは、もなの“アノ”笑顔だった・・・
アレは本当にもなだったのだろうか・・・?
「全然帰ってこないから心配して見に行ったら、どっちも倒れててビックリしたよ」
「そうだ・・・もなさんは・・・もなさんは大丈夫だったの!?」
「平気だよ。暫くすれば目が覚める」
「そっか・・・良かった・・・」
安堵する静の頭をポンと叩くと、麗夜が目を閉じた。
「生きてて良かったよ」
「・・・心配してくれて・・・有難う・・・」
「いや・・・。いーんだ」
軽く首を振った後で、麗夜が不意に目を細めた。
それから暫くの間、何かを考え込むように視線を宙に彷徨わせた後で、意を決したように静の瞳と合わせた。
「静、もう・・・この館には来るな」
「麗夜さん・・・?」
「別に意地悪で言ってるんじゃない」
「どうして!?」
「この館の持つ事実は、お前には耐えられないと・・・そう思うからだ」
この館の持つ事実とは・・・?
静の瞳に芽生えた微かな疑問に、麗夜が寂しそうな笑顔を浮かべた。
「お前はこの館の人間と親しくなりすぎた。よりによって・・・あの2人と・・・」
あの2人とは、誰なのだろうか・・・?
必死に考える。この館の中で、一番静と仲の良い・・・2人・・・
「この館が持つ事実は、残酷なんだ。・・・現実は、残酷なんだ・・・」
「・・・もなさんと・・・魅琴さんに・・・何があるの・・・?」
「聞かないほうが良い。どっちも、好きなら尚更・・・な」
「麗夜さん!2人に、何があるの・・・!?」
「・・・この館には、もなに関係する人物が居るんだ。・・・もなの過去に関わる人物だ」
「もなさんの過去・・・?」
「もなの母親と兄を殺した人間がいる」
「え・・・?」
―――――それが、魅琴だと言うのだろうか・・・!?
静の目の前に魅琴の姿が過ぎる。
そんな酷い事をする人には思えない。もなの・・・兄と母親を殺すような人には・・・
けれど、現実はそれ以上に残酷だったと言う事を、静は痛感した・・・。
「そして同時に、もなの実の兄貴もいるんだ。実の、血の繋がった兄貴が・・・な」
目の前にあった確かなものが・・・今まさに、崩れようとしていた。
決して疑うことのなかった確固たるモノが、グラリと・・・音を立てて揺らいだのだ。
「もなの母親と兄貴を殺した人間と、実の兄は、同一人物だ・・・」
麗夜がゆっくりと息を吸い込み、一呼吸置いた後で言葉を紡いだ。
「神崎 魅琴だ・・・・・」
信じられないと言う気持ちと、信じたくないと言う気持ちが混じり合う。
どちらも静にとっては大切な人で、大好きな人で・・・・・・・
それゆえに、静は目の前が真っ暗に染まった気がした――――――
「もう、この館に来てはいけないよ・・・?」
≪ E N D ≫
◇★◇★◇★ 登場人物 ★◇★◇★◇
【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】
5566 / 菊坂 静 / 男性 / 15歳 / 高校生、「気狂い屋」
NPC / 片桐 もな
NPC / 夢宮 麗夜
◆☆◆☆◆☆ ライター通信 ☆◆☆◆☆◆
この度は『闇の羽根・桜書 T < 愛しき人 >』にご参加いただきましてまことに有難う御座いました。
そして、いつもいつもお世話になっております。(ペコリ)
衝撃的な事実が幾つか出てきましたが、如何でしたでしょうか?
途中でもなが怖くなっておりますが、一応アレももなの性格の一部・・・です。
今回でもなの章は終わりになります。
全てにご参加いただきまして、まことに有難う御座いました!
それでは、またどこかでお逢いいたしました時はよろしくお願いいたします。
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