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■Crossing■

ともやいずみ
【5566】【菊坂・静】【高校生、「気狂い屋」】
 これは日常。
 その人にとっては些細なこと。
 その人にとっては大事なこと。
 そんな日常。
Crossing ―彼と彼の一幕―



「え? いいんですか?」
 驚いたように菊坂静は言った。
 ベッドの上の遠逆欠月は頷く。
「買い物に付き合うくらいなら平気だよ」
「で、でも……日曜だから人も多いですけど」
 まだ本調子ではない欠月のことを心配する静だったが、欠月は苦笑した。
「買い物くらいでそんなに心配しないでよ。荷物持ちくらいにはなるから」
「にっ、荷物なんて持たせられませんよ!」
「どうして? あー……でも確かに今は前ほど怪力は出せないからね」
「そ、そうじゃなくてっ。欠月さんは一応病人なんですよ!?」
「病人てわけじゃないんだけど……。身体の制御がきかないだけで」
「突然倒れたりするのは病人です!」
 勢い込んで言われて欠月は「そ、そう?」と、のけぞった。
 欠月は困ったように嘆息する。
「そうか……。じゃあ付き合うのはやめておこうかな」
「ええっ!?」
 しまった、と静が慌てた。
 欠月の身体が心配なのは本当だが、一緒に買い物には行きたい!
「えと、えと……無理しなければいいんじゃないでしょうか?」
「? どっちなの、静君」
「いや……えっと、欠月さんと買い物に行きたい……ですから」
 もぞもぞと小さな声で言うと、欠月はくすくすと笑った。
「了解。じゃあ日曜にね」



 病院の前で待っていた欠月と一緒に買い物に出かけた。
 日曜だけあってやはり人は多く、静はおろおろと周囲を見回す。
「ほ、本当に大丈夫ですか、欠月さん!?」
「大丈夫だってば」
 欠月は呆れたように応える。
「だ、だって突然倒れたりしたら……」
「そんなことは稀だよ。急激に動かしたらそうなる確率は高いけど……」
「…………」
 じとっと見てくる静の横で彼は嘆息した。
「無理は絶対しないから」
「本当ですか?」
「……ボクってそんなに信用ないの?」
「欠月さんは、無理をしていても、無理してないって言いそう」
「そんなこと……」
 じぃ……と見られて欠月は本能的に視線を逸らした。
 欠月は嘘をつくのが上手い。まず顔に出さない。態度に出さない。嘘を嘘と思っていないのかもしれない。
 だが彼は必要外の嘘に対しては若干ガードが緩くなる。今がその時だ。
 静の視線に負けて彼は降参した。
「どうしてもって時以外は、大丈夫」
「どうしてもって……どういう時ですか」
「例えばキミが痴漢されたりとか、そういう時は紳士的に助けてアゲル」
 語尾にハートマークをつけて喋っているような口調で、ウィンクする欠月。
 静はむす、とした。
「僕は男です……」
「男の尻がいいというヤツもいる。……と、最近読んだ本に書いてあった」
 うんうんと頷く欠月に静は顔を赤らめる。
「どっ、どこでそんなもの読んだんですかっ!?」
「まあいいじゃない。さてと、まずはどこに行く?」
「ちょっと誤魔化さないでください!」



 色々と服を見て回る静の後ろで、欠月はその様子をただ眺めている。
 静は欠月のほうを振り向いた。この洋服店は静がよく来る店だったのだが、欠月の趣味と合わなかったのだろうか?
「あの……つまらないですか?」
「え? そんな顔してた?」
 にこ、と微笑む欠月に、静はためらう。
「してませんけど……服を見てるのは僕ばかりなので」
「ああ、なんだ。ボクは自分で選ぶことないんだよ」
 彼の発言に静は疑問符を浮かべた。
「……えと? どういうことですか?」
「店員さんに見繕ってもらうから」
 さらっと言い放った欠月の前で、がーんと妙なショックを受ける静。
 そんな静に欠月は不思議そうにした。
「ボクは楽しいよ? キミが楽しそうだから」
「あ、あの……恥ずかしいですよ」
 頬を赤らめて言う静に欠月はにっこりと微笑む。それだけで何も言わない。
 彼が何も言わないので静は困ったように視線をさ迷わせた。
「あ、え、えっと……あの、これ、似合いますか?」
 静は衣服を手に取って欠月に見せる。彼は静と衣服を見比べ、軽く首を傾げた。
「そうだなぁ……似合うか否かというなら……似合うよ?」
「……なんですかその答え方」
「だって似合うかって訊くから」
 嘆息した静は「もういいです」と呟く。
 店内を物色した静は、気に入った服を見つける。
(この服……いいな)
 手にとって見るが、眉間に皺を寄せる。
 値段は別にいいのだが……問題はサイズだ。このサイズは大きい。
 もう少し小さいサイズでなければ衣服のほうが余ってしまい、だぶだぶになる。
「ああ、なんかそれ、静君っぽいね」
 欠月の声に静はすぐに反応してしまった。
「ほ、ほんとですか!?」
「うん。でもそれだと大きいね」
「は、はい」
 小さいサイズを探すが、見つからなかった。仕方なく店員に尋ねる。
 店員の若い青年は苦笑した。
「すみません。これが一番小さいのになるんですよ」
「そ、そうなんですか」
「でも同じデザインで子供服ならありますけど」
「こ、子供服……!?」
 さすがにそれはちょっと……。
 がっくりした静は、結局別の衣服を購入したのだった。



「次はここです」
 静が指差したのは、大型書店だ。専門書も多く揃えているここならば、静の探しているものもあるはず。
「あ」
 欠月が小さく呟く。なんだか少し嬉しそうな欠月の表情に、静は気づいた。
 そういえば彼はよく本を読んでいる。もしかして、ココは当たりだったのかもしれない。
「僕はあっちの棚に用があるので、欠月さんは好きなの見ててください」
「あ、うん。わかった」
 微妙に反応が遅れた欠月は頷く。
 静は内心、驚きだった。あの欠月が注意散漫になっているなんて。
 実用書の棚のほうへ静は向かう。
(えっと……料理料理……)
 きょろきょろと棚を見ながら探す。
 料理の本が並んだところへ来ると、顔を輝かせた。今度はお菓子の本を探す。
(お菓子お菓子……和菓子和菓子……)
 案外早く見つかった。
 菓子の本はまとめて並んでいる。そこから目当てのものが載っている本を探した。
 静の目当てはおはぎだ。
(茶碗蒸しはだいぶ上手く作れるようになったんだけど、おはぎはまだ少し納得できないんだよね……もう少しなんだけど)
 欠月の好みをなんとか上手に作りたい。彼に喜んでもらいたい。
 静は緩む口元に力を入れる。
(こっそり練習してるの知ったら……欠月さんビックリするかな?)
 感動されたらどうしよう。なんちゃって。
 ぱらぱらと本を捲り、色々と検討した結果……静は二冊ほど購入することにした。
 レジで会計を済ませてから静は欠月を探す。
 棚と棚の間を覗いていると、カゴに本を大量に入れた欠月の姿が目に入った。
「欠月さん!?」
「ん?」
 振り向いた欠月はにっこりと笑顔になる。
「やあ」
「やあ、じゃないですよ! な、なんですかその山盛りの本は!」
 大声をあげる静は慌てて口を塞ぎ、周囲の人々に頭をさげる。うるさくして、すみません。
 静は欠月の足もとに置いてあるカゴに目を遣った。
 文庫がどっちゃり。マンガもどっちゃり。
「最近は便利だよねぇ。マンガも文庫サイズのがあるんだもん」
「いやいやいや! 買い過ぎですからっ」
「だって病院は暇なんだよね〜」
 手に持っていた本をカゴに入れると、欠月はよいしょと持ち上げる。しかし、入れ過ぎたのが災いして、欠月はふらふら〜っとよろめいた。
「うわぁ! 欠月さんっ!」
 慌てて静がカゴを支える。
 欠月は照れたように苦笑した。
「ご、ごめん……ね」
「…………」
 欠月の照れた顔を見るのは初めてだ。静は目を見開いて頬を染めた。
「お、重いなこれ。ちょっとビックリだよ」
 困ったような欠月の声にハッと我に返る。
「そりゃこれだけ入れてたら重いに決まってます!」
「そ、そうだよね。アハハ……」
 苦笑いする欠月は、だが棚に戻す気はないらしい。
 静は彼を手伝ってレジに向かう。
 会計を済ませるとやはり大量の荷物になってしまった。
「こ、困ったな……持って帰れないから送ってもらうか、ほとんど」
「そうしたほうがいいですよ」
 というわけで、少量だけ手提げ袋に入れてもらうことにする。
 店員の女性に申し訳なさそうに言う欠月だったが、彼女は「気にしないでください」と弾んだ声で応えた。
 自動ドアをくぐって本屋から出てくると、静はじとっと欠月を見遣った。
「…………欠月さんて、あんなに女性ウケがいいんですね」
「え? あー……うん。そういえば、そうだね」
 どうでもいいように言う欠月の言葉に嘆息する。本当に自分の興味のあること以外、全く気にしない人だ。
「でも欠月さんて本、好きなんですね」
「好き、なのかな。単なる暇潰しなんだけど」
 きょとんとする欠月には悪意が欠片もない。
「色んなことを知るのは、いい勉強になるからね。そういえば静君は何を買ったの?」
「えっ!? そ、それは、い、色々ですよ!」
 笑って誤魔化す静であった。
 欠月は「ふぅん」と呟いてから、ああ、と洩らす。にこにこした。
「大丈夫だよ。やっぱ思春期の男の子はそういうの読むよね」
「ええっ!? ち、違いますって! 欠月さん、何か勘違いしてますよ!」
「いいよいいよ。隠さなくて」
「違います! 本当に誤解です!」
 必死に言う静だったが、欠月はヘラヘラと笑うばかりだ。



 その後に食事をし、それからインテリアの店なども見ながら病院までの帰り道。
「今日はありがとうございます、欠月さん」
 礼を言う静に彼は苦笑する。
「そんな。ボクこそ楽しかったよ。どうもありがとう」
「でも付き合ってもらったのは僕ですから」
「……変なとこで律儀だねぇ」
 もうすぐ病院だ。また欠月と別れなければならない。
 信号が青に変わるのを待っている間、欠月は自分の持つ紙袋の中をつつく。
「やっぱあっちにすれば良かったかな……」
 ぶつぶつと言っていた欠月だったが、「あ」と呟いた瞬間紙袋の底が抜けて本が落ち、散らばった。
 青ざめる静はすぐさま拾いにかかる。
「だ、大丈夫ですか欠月さん」
「ご、ごめん。なんか今日は迷惑かけてばっかりだね」
 屈んで拾う欠月は、心底申し訳なさそうにした。
 全部拾い終えて渡すと、欠月は「ありがとう」と照れ臭そうに言う。だがそこで気づいた。
「これ……和菓子の本?」
 一番上にある紙袋は白いため、中が透けて見える。
 慌てて静は紙袋を掴んで隠す。どうやら拾っている時に自分の荷物を乗せて一緒に渡してしまったようだ。
(ば、バレた……)
 恥ずかしそうにする静を見て、欠月は苦笑した。
「なるほど。だからボクに見られたくなかったわけか」



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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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PC
【5566/菊坂・静(きっさか・しずか)/男/15/高校生・「気狂い屋」】

NPC
【遠逆・欠月(とおさか・かづき)/男/17/退魔士】

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■         ライター通信          ■
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 ご参加ありがとうございます、菊坂様。ライターのともやいずみです。
 欠月とお買い物、いかがでしたでしょうか?
 少しでも楽しんで読んでいただければ幸いです。

 今回は本当にありがとうございました。書かせていただき、大感謝です。