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■レセン島探訪記■ |
沙月亜衣 |
【2875】【セヴリーヌ】【異界職】 |
どこか異世界から墜ちてきたと言われている不思議な島、レセン島。
奇怪なものから危険なもの、ひょっとしたら食べたらおいしいものまで、さまざまな生物がうごめくこの島で、しばしの時を過ごしてみませんか?
フレディに懇願されて調査に同行するもよし、興味本位で上陸するもよし、砂浜でキャンプを楽しむもよし(楽しめるかどうかは微妙)、奇妙な生物を探しに来るもよし。
また、あるいは何かのきっかけでこの島に漂着して、脱出を試みるもよし。
自由にこの島での冒険を楽しんで下さい。いろいろな仕掛け(?)を用意してお待ちしています。
※基本的に、個別作成を考えています。お友達同士での探検ももちろん歓迎です。その際には、お手数ですが、プレイングにその旨添えて下さいませ。枠が足りなくて途中で閉まった際には、テラコンもしくはブログに備え付けのフォームでご連絡いただければ対処致します。
※探索する目的、場所、あと、余裕があれば季節や時間帯を書いて頂けると助かります。
※探索ポイントは随時増やしていく予定です。
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レセン島探訪記 〜紅い月の天使の試み〜
聖都エルザード、白山羊亭。
「誰か僕と一緒に無人島へ行ってくれませんか?」
ふと耳に入ったその声に、セヴリーヌは足を留めた。見れば、酒場の片隅で、金髪を無造作に結んだ貧相な男が冒険者を片端から捕まえては声をかけているところだった。
「その島はどんな島ですの?」
「レセン島という島なんだけど、島の東側には遠浅の磯と砂浜があって、西側には大秘境とも呼べる密林が! 中央から北にかけては岩場になっているけど、どうも宝石なんかも出土しそうなんだ」
一抹の好奇心を覚えてセヴリーヌが話しかければ、男は、水を得た魚のような勢いでしゃべり始めた。
「まあ、宝石が」
セヴリーヌは軽く思案した。ちょうど城からは、少し羽を伸ばしてこいと言われ、遊びに行く先を探してこの酒場に立ち寄ったところだ。
話を聞くに、なかなか面白そうな島だ。『赤い月の天使』としての能力を使わずに、島を探索してみるのも悪くないかもしれない。さらに城へのお土産に宝石が手に入るなら言うことなしだ。
「よろしければ同行させて頂きたいですわ」
「もちろん、喜んで……って、ええっ、あなたが!?」
セヴリーヌの申し出に食いつきかけた男は、けれどセヴリーヌの姿を見直して目を白黒させた。
「あの……、メイドさん……だよね?」
「ええ、城つきのメイドでございますわ」
くすり、とセヴリーヌは軽い笑みをもらす。
「でも……、あの島は危険でございますですよ」
セヴリーヌの口調につられたのだろうが、男の語尾は実に珍妙なものになっていた。
「構いませんわ。少々の心得はございますから」
「そうなんだ。やっぱり城つきのメイドさんは違うんだなぁ……。あの、ひょっとして僕の護衛も頼めますですか?」
ひとしきり勝手に感心した男は、今度は図々しくも自分の護衛を求めた。
「ええ、微力ながら」
――前言撤回、能力は最小限度に、ですわね。
セヴリーヌが微笑むと、男は大げさに安堵の息をついた。
「よかったぁ……。僕はフレデリック・ヨースター。生物学者なんだ。フレディって呼んでくれると嬉しいな」
「セヴリーヌと申します、フレディ様」
互いに握手を交わした2人は、善は急げとばかりに出発を翌朝に定めた。
翌日、聖都の連絡船を使い、2人はレセン島へ降り立った。
さまざまな珍種がいるという話通り、島のあちこちからは奇妙な気配が漂ってくる。セヴリーヌは口元だけでほんのわずか微笑んだ。
「晴れてよかったねぇ。さあ、行こうか。岩場の方はあんまり行ったことないから楽しみだなぁ。うまく宝石の鉱脈見つかるといいね」
フレディの方は一応ロープなどを担いでいそいそと持ち物チェックに励んでいる。
「ええ」
セヴリーヌもにこやかに頷いた。
幸いにも、岩場と言っても足場はさほど悪くはなかった。貧相なフレディでもふらつかない程度の平面はどこにでもあったし、崩れ落ちてきそうな岩もほとんどない。凶暴な獣の気配も特に感じない。
もちろん、聖都の石畳を歩くよりは体力と神経とを使うが、それもセヴリーヌにとっては新鮮で、自分の足で探索しているという実感がほどよいスパイスとなった。
道行きにはさほどの苦労がなかったが、岩場の広さは島の半分近くを占める。すぐに宝石の鉱脈を発見、探索終了とはいかない。
「セヴリーヌさん」
彼にはロープの重さすらバカにならないのだろう。すっかり息を乱したフレディがセヴリーヌを振り返った。
「ええ、ここでお昼ご飯に致しましょう」
彼の言わんとすることを察して微笑めば、フレディは心底ほっとした顔で座り込んだ。
セヴリーヌはくすくすと笑いながら、きちんと敷物を敷き、持参してきた大きなバスケットを開ける。
「うわぁ、すごい!」
横から覗き込んだフレディが疲れを忘れたような歓声を上げた。中には分厚いローストチキンや新鮮なレタスを惜しげもなく挟んだサンドイッチ、色鮮やかなサラダ、からりと色よく揚がったフィッシュアンドチップスなどがぎっしりと詰め込まれている。
見た目の華やかさもさることながら、栄養のバランスも完璧。朝早くからセヴリーヌが腕をふるった力作だった。とはいっても、セヴリーヌにとってはこれもまた興味深いひとつの試み、といった方が正確かもしれない。
「はい、どうぞ、フレディ様」
セヴリーヌはカップを取り出すと、そこにグレープジュースをなみなみと次いだ。もちろん、程よく冷えたままで。
「わぁ……。まさか無人島でこんな豪勢な食事にありつけるなんて思わなかったなぁ」
キラキラと目を輝かせるフレディを見る限り、この昼食は「成功」だと見て良いようだ。
おいしい食事というのは人を無言にさせる力がある。多分に漏れずフレディも、何も言わずにひたすら料理を口に運び続けた。セヴリーヌもにこやかな笑みを浮かべながら、一口、二口と城で身につけた上品な手つきで食べ物を口に運ぶ。
「とってもおいしかったよ、ごちそうさま」
貧相な体格に似合わぬ量をぺろりとたいらげ――それもこの昼食のおいしさのなせるわざだったのだが――、フレディが満足しきった顔でセヴリーヌに向かって手を合わせた。
「ご満足いただけて光栄ですわ」
食器類を手際良く片付けながら、セヴリーヌは微笑んだ。
「この島はね」
よっぽど気分が上向いたらしい。フレディが座り込んだまま、機嫌良く口を開いた。
「とかく珍種というより常識はずれな生態が多いんだ。特に密林にはキメラ的な動物が多くてね。でも、ここまで歩いてきた感じだと、岩場の生態は普通の火山島のものに近いね」
「そうなのですか?」
セヴリーヌは軽く首を傾げた。
「うん……。もともと火山島っていうのはその島ごとに独自の生態が発展しやすいものだから、『普通』も何もないという考え方もあるんだけど……。ここの環境から考えると、常識的な生態が多いんだよ。たとえば、ほら、あの木……」
どこか慈しむような顔さえ見せて、フレディは滔々と岩場で見かけた動植物について語り続ける。
「さすがですわ。お詳しいのですね」
セヴリーヌは素直に感心した。
「あ、ごめん。こういう話、退屈じゃない?」
はっと我に返った様子でフレディが頭をかいた。
「いいえ、大変興味深いですわ」
その言葉に嘘はなかった。何せ、セヴリーヌには今まで、生き物がなぜそんな姿をしているかなど考える必要もなかったのだ。そのようなことを知識として整理し、積み上げていくという行為は、いたくセヴリーヌの興味を引いた。
「話聞いてくれてありがとう。じゃ、行こうか」
フレディはよいしょ、とかけ声をかけて立ち上がった。
「はい」
セヴリーヌもそれに続く。
「あ、セヴリーヌさん、あそこ」
小一時間ほど歩いた頃、フレディが前方を指差した。そこは岩肌が崩れて、中から美しい緑色の輝きが顔を見せていた。
「まあ」
セヴリーヌも口元を綻ばせた。遠目にも上質の宝石であることがすぐにわかる。
ただ、岩肌が崩れたせいで、そこに行くには足場が心もとない。
「ロープを使って降りないとダメだね」
フレディは呟いて、荷物から工具を取り出し、ロープを固定するための金具を岸壁に打ち込み始めた。セヴリーヌはさりげなく『転送』と『創世術』を使い、金具の周りを補強する。
「じゃ、僕が先に行くよ」
ロープを引っ張って強度を確認し、フレディがそれにぶら下がった。慎重な足取りで、少しずつ降りて行く。セヴリーヌがそれを上から見守っていると、ふ、と視界に陰が差した。
見ると、大きな鳥が旋回しながら、セヴリーヌとフレディを睨んでいた。ぎらり、と鋭いかぎ爪が光っているのが見える。
「あちゃあ、光り物が好きなんだろうなぁ。僕たちを泥棒だと思っているみたいだよ。困ったなぁ。……まあ、あながち間違ってもいないかもしれないんだけど」
ロープにぶら下がったままで、フレディが呟く。彼がのんきなことを言っている間にも、鳥はフレディとセヴリーヌに迫ってくる。
セヴリーヌは素早くヴィエルジュを取り出して投げ放った。それは鳥のすぐ脇をかすめて飛んで行く。
野生の本能と言うべきか、すぐに鳥はかなわないと悟ったらしい。一声甲高い声で鳴くと、羽音も重たげに飛び去った。
「ごめんねー。根こそぎとったりはしないからねー」
その後ろ姿にフレディが叫ぶ。
フレディが降り立ったのを確認して、セヴリーヌもロープに掴まった。そのままするするとそれを伝って降りて行く。こういう体験も悪くはない。
「それじゃ、切り出すね」
セヴリーヌが降りたのを見て、フレディが道具を取り出した。慎重に原石の境界を見極め、のみの刃先を当てる。
「……お、思いのほかきれいにとれたよ」
しばしの後、フレディが拳大の原石を切り出した。いまだ研磨されていない緑の石はややくすんでいたが、それでも切り口からは内側に炎のような揺らめきが煌めいているのが見て取れる。お城への土産にするにも十分だ。
「では、戻りましょう」
原石を受け取り、セヴリーヌはにこりと微笑んだ。途端にフレディの姿が消える。もちろん、セヴリーヌが転送したのだ。ついで、セヴリーヌも自ら転移した。
一瞬にして初めに上陸した海岸に戻れば、フレディがぽかんとした顔をしている。
「もうお迎えの船が来る時間ですわ」
セヴリーヌはくすくすと笑みを漏らし、茜色に染まった海面を滑るように近づいてくる船を指した。
「へえ……。すごいなぁ、セヴリーヌさんも魔法使いさんだったんだ」
しぱしぱ、と目を瞬かせてフレディが呟いた。
「それはともかく、おかげで岩山の生態調査もざっとできて助かったよ、ありがとう」
「こちらこそ、お土産もいただいて、楽しかったですわ」
改まってフレディがセヴリーヌに握手を求め、セヴリーヌもそれににこやかに応える。
確かに、今回の体験は新鮮だったし、興味深いものだった。たまにはこういうのも悪くはない。
迎えの船の汽笛が、夕方の空に高く、高く響いた。
<了>
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■ 登場人物(この物語に登場した人物の一覧) ■
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【2875/セヴリーヌ/女性/24歳(実年齢999歳)/異界職】
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■ ライター通信 ■
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こんにちは。ライターの沙月亜衣と申します。
この度はご発注、まことにありがとうございました。
非常に高い能力を持つセヴリーヌさんにとっては、こういうことも純粋な好奇心ゆえの一種の遊びのような感じで楽しんでおられるのかなぁ、と感じてこのような話にさせていただきました。
セヴリーヌさんの天使らしさがうまく描けていれば幸いです。
今回はセヴリーヌさんの見かけにだまされたかフレディ、ちょっと頑張っております。
セヴリーヌさんは真性の百合とのことで(フレディも学問が恋人みたいな奴です)、一緒にお弁当とかいうらぶらぶっぽいシーンもさらりと書けて楽しかったです。
とまれ、少しでも楽しんでいただければ幸いです。ご意見等ありましたら、遠慮なくお申し付け下さい。できるだけ真摯に受け止め、次回からの参考にさせて頂きたいと思います。
それでは、またどこかでお会いできることを祈りつつ、失礼致します。本当にありがとうございました。
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