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■陰の中で地を這う■

志摩
【5307】【施祇・刹利】【過剰付与師】
 その姿は、ぱっと見ると何があったのかと思う。
 ぼろぼろの服、ばさばさに乱れた髪。
 手ひどく誰かにやられた、としか思えない。
 声を掛けて良いのか、それとも駄目なのか。
 視線があって、そして弱弱しい笑みを向けられた。
 笑うなら笑えと言っているような笑み。
 でもその奥に何か別のものが、あるような気がした。
 一歩踏み込むか、踏み込まないか。



陰の中で地を這う



 暗闇の中で、薄く笑う。
 視線があって、それが誰なのかを理解した。
 一瞬吃驚して、そして近づこうか迷ったのだけれども、施祇刹利はその一歩を踏み出した。
「大丈夫……?」
「あー……多分」
「嘘」
 刹利は視線を泳がす空海レキハを真っ直ぐ、見る。
 どうみても、大丈夫じゃない。
「何だよ……」
 真面目な表情でレキハに近づいて、視線は外さない。
「キミは今弱ってる、なのに敵であるボクの前に現われてしまったという事の意味、わかるかな? 何されても文句言えないよね」
「弱って……ない」
「弱ってる」
「ねぇよ」
 否定しつつもちょっと後ろに下がりつつ、レキハは刹利に押される。
 暫くの沈黙。
 お互いに睨み合うような、そんな状態。
 先に動いたのは刹利だった。
「えい」
「うおっ!」
 ズタズタボロボロのレキハを容赦なく足払い。
 油断していたのか、それとも交わす余裕がなかったのか。
 何する、と立ち上がろうとするレキハを刹利は制する。
 そして自分もそこに正座して、問答無用、無理矢理にレキハの頭を自分の膝の上へ。
「ちょっ、何すんだよ!」
「え、膝枕だよ?」
 起き上がろうとするレキハの頭をそうはさせないと押さえる。
「それはわかってる! 離せって! 膝枕なんて屈辱……!」
「嫌だよ。膝枕やめてほしいなら話しを聞くのだ」
 にっこり笑顔で刹利は言い、押さえつける力を更に込める。
「恥ずかしーだろうがっ!」
「誰もいないから大丈夫だよ」
 確かにそこは路地裏で人気もなく。
 それでもレキハは断固拒否と暴れるのだけれどもやがて疲れてか大人しくなった。
「……もう暴れない?」
「そのうちまた暴れる」
「大人しく自己治癒するといいよ、でもボクの話を聞き終わるまではこのまま」
 ぺしぺしっと額を叩きながら言うと、レキハは薄く笑う。
「なんだそれ」
「いいから聞く……シハルさんは」
「その名前聞きたくねー」
 ふいっと視線を反らせて、レキハは言う。
 刹利は何かあったのかと思うけれどもそこは深く突っ込まずに続ける。
「シハルさんは、家族みたいになるのOKっぽいよ」
「ありえないし」
「なんで?」
「嫌だから。シハルも嫌がるって、それお前の勘違いだって絶対」
 半眼で見上げながらレキハは言う。
 刹利はそんなことないよ、と笑顔を浮かべた。
「この前話した時に……最初は嫌だって言ってたけど、忘れてくださいって言われたんだよ。嫌がってる事を忘れて……なんだろうからイコールOKってことだよね?」
「や、それ絶対違う、勘違い、勘違いだろう。それ絶対別のことを忘れてくれだと思うぞ。俺の方がなんだかんだで付き合い長いからわかる」
「そんなことないって。お互いを知るのに時間なんて関係ないよ。それに現状、ボクの方がシハルさんと仲良いし」
 有無を言わさぬほど爽やかな笑みを浮かべ、刹利は言う。
 それに、溜息一つ、レキハは返した。
「あのなぁ……ありえねーの、俺らが仲良くなんて」
「できるって。やらないうちから出来ないなんで駄目だよ」
「んなこと言ったって……」
「文句言わない。そういえばレキハ君、シハルさんとの出会いとか覚えてるかな?」
 刹利は話を切り替える。
 そんなの忘れた、とレキハは言うのだがその表情は、よくわからないといった様子だった。
「……気にかかることあるのかな?」
「や……そう……だな……」
「何? 言ってみるとわかるかもしれないよ」
「あー……えー……」
 刹利が促すものの、レキハは言葉を濁す。
「なんか」
「なんか?」
「気がついたら嫌いだったって感じなんだよな」
 気がついたら、と刹利はつられたように呟いて暫く黙る。
 どうしたんだと下からの視線にはゆるく微笑み返して。
 このレキハと今まで色々とあったけれども、本当に敵対しているわけではない。
「色々考えてたんだけど、二人って鏡合わせみたいな感じなんだよね」
「鏡合わせ……? いやいやいや、そんなことないない」
「あるって。一人の人間を二人に分けたって言うほうがしっくりくるかな……」
 うーん、とちょっと悩みながら、刹利は言った。
「まー……シハルは俺の持ってないもん一杯持ってるからなー」
「そうだねー、レキハ君は鎌持ってないからね」
「いや、そういう意味じゃねーし。あ、そういえば」
 ふと思い出した、というようにレキハは言い始める。
 それに刹利は耳を傾けて。
「先生が昔何か言ってたなー、俺とシハルは……なんだったか」
「うわー肝心な所覚えてないんだねー」
「……みたいだな」
 くしゃりと髪をかきあげつつ苦笑。
「まー思い出したら教えてやるよ」
 そう言いながらレキハは起き上がる。そして座りなおし、刹利を真っ直ぐ、見た。
「お前さ、そんなに俺ら仲良くさせてどーしたいわけ。先生は俺にとって先生だからそれ以外にはならねーし。シハルは……俺にとって、何だろう、ああ、ライバルでいいや。そんなもんなんだぜ」
「んー、どうするってことはないんだけど……」
「……そんなんだろうと思った……」
 溜息交じりの苦笑。そしてレキハはまぁいいか、と立ち上がる。
「もう大丈夫?」
「ん、多分……」
「膝枕のおかげだね」
「いや、それは違う違う」
 首を横に振って否定するレキハに、刹利は膝枕のおかげだよとにっこり笑顔でもう一度言う。
「……そういうことにしといてやる」
「そうそう、最初からそう言ってれば良いんだよ」
「マイペースだな、お前……ま、そーゆーのは嫌いじゃないな」
「ありがとう」
 ぺこっと頭を下げる刹利に、ひらひら手を振りながらレキハは歩き出す。
 まだ足取りは覚束ないのだけれども、出会ったときよりかはしっかりとしていた。
 その背を見送りつつ刹利ははた、と気がつく。
「レキハ君、仲良くするって言わなかったなぁ……」
 それでも、自分の言いたいことは伝えたのだし、ちょっとは考えてくれるかな、と思う。
「うん、今度会った時にどうなのって言えば良いし。あ、ちゃんと思い出してくれてるといいなー」
 刹利は立ち上がり、膝をはたく。正座をしてせいで、ちょっと足が痺れていた。
「う、今歩くとこける、かも」
 暫く体勢そのままで、刹利は微笑を浮かべる。
 三人仲良くしている所を思い浮かべて。
「早く仲良くなれば、いいのにな……」
 呟きと共に、一歩踏みしめる。
 そのまま、レキハとは反対方向へ歩き出す。
 次に出会う時を、楽しみにしつつ。



 仲良くなってほしいと、思う。
 わからない事の方が、まだ多い。
 施祇刹利と凪風シハルと空海レキハ。
 この出会いが一つの結果に結びつくのはきっともうすぐ。
 それがどんな形になるのか。
 それはまだ、今は、わからない。




<END>



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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号/PC名/性別/年齢/職業】

【5307/施祇・刹利/男性/18歳/過剰付与師】

【NPC/空海レキハ/男性/18歳/何でも屋】

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■         ライター通信          ■
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 施祇・刹利さま

 無限関係性六話目、陰の中で地を這うに参加いただきありがとうございました。ライターの志摩です。
 シリアスにも膝枕効果でほのぼのと…!ひそりとにやにやしておりました(笑)レキハもたじたじです…!このまま行けばきっと、きっと…!(きっと何ですか)ネタがバレる前に口を閉じます。
 次は七話目です、色々なネタばらしに突入で、色々が色々です!(もう意味不明です)
 ではでは、またお会いできれば嬉しく思います!