■Dead Or Alive !?■
ひろち |
【1252】【海原・みなも】【女学生】 |
「・・・何やってんだ、お前・・・・・・?」
草むらにレジャーシートを広げサンドウィッチを頬張る深紅に、綺音は問いかけた。
彼はいつもの気の抜けきった笑顔を向け答える。
「何ってピクニック。普通は明るい時にやるものなんだろうけど、ここには太陽が昇らないからね。綺音も一緒にどう?」
「阿呆か、お前はーーーーーー!!」
深紅ごとシートをひっくり返した。
「痛・・・っ!って、あー!サンドウィッチが!結構凝って作ってみたのに・・・」
「そんなことしてる暇あったら仕事しろ、仕事!そんなんだから厄介な仕事が回ってくんだよっ」
ここ太陽が昇らない街・ナイトメアでは人間の命の管理を行っている。ここでいつ誰が死に、誰が生まれるのかが決められているのだ。一日に消える命と生まれる命の数は予め決められており、その通りに調節するのが深紅達の仕事である。人間界では「死神」と呼ばれているらしいが、ナイトメアでは「生命の調律師」と呼んでいた。
「厄介・・・って、仕事来たの・・・?」
「そーだよ。ただし、上の奴らのミスの尻拭い」
「ミス?」
綺音は溜息をつき、数枚の書類を深紅に投げた。
「何これ。写真・・・・・・?」
「それ、明日死ぬ予定の奴ら」
「じゃあ、この人達がちゃんと死ぬか見届ければいいんだね」
「それがさあ・・・間違いなんだってよ」
「間違い・・・?」
深紅が顔をしかめる。
「そいつら、手違いでリストに入っちまったらしいんだ」
リストというのはその日に死ぬ人間の名前が記されているもので、そのリストに載った人間は一部の例外を除き、死ぬことになっている。
「え?じゃあ、この人達が死ぬと・・・」
「生命のバランスが崩れるんだと」
バランスが崩れると何かとんでもないことが起こる・・・・・・らしい。
「ど・・・どうするの・・・?」
「それが今回の仕事。その写真の奴らが死ぬのを全力で防げ・・・だってさ」
|
Dead Or Alive !?
「おい・・・深紅・・・」
上司から渡された書類に目を通しつつ、生命の調律師・助手・紺乃綺音は呻くように相棒の名前を呼んだ。
「何?綺音」
応える鎌形深紅の声は相変わらずのんびりしている。綺音はその緩みきった顔に紙を押し付けた。
「うわっ!何っ」
「海原みなも。死亡リストに間違って名前が書かれちまった奴。13歳の少女でアルバイト経験豊富。んでもって人魚の末裔・・・とここまではいいとして、だ」
「うん」
「死因の欄見てみな」
「死因・・・?」
深紅は書類に目を走らせ―――言葉を失ったようだった。
「”宇宙からの侵略者に寄生されて機械生命体にされ意識もろとも肉体が乗っ取られてしまう”だあ!?何なんだよ、そのB級SF映画みたいな無茶な設定は・・・」
溜息をつき、肩を落とす。この書類に書かれていることは絶対・・・のはずなのだが、綺音はまだ半信半疑だった。
もしかして上の奴らは、俺達をからかって楽しんでるんじゃないか?
「・・・す・・・」
「深紅?」
「凄いよ、綺音!!」
「あ・・・?」
書類から上げられた深紅の顔は何故か輝いていた。
うざいくらいに。
「宇宙からの侵略者ってつまりは宇宙人のことだよね!?本当にいるんだ!僕達、ひょっとして宇宙人に会えちゃうってこと・・・!?うわーっ」
「・・・お前・・・」
そうだった。この男は超がつくほどの天然だった。
「あれ?でもこの子が死なないようにしないといけないわけだから、僕ら宇宙人と戦うってことなのかな。対策練らないと・・・!宇宙人って何が苦手なんだろ・・・」
深紅の馬鹿話に付き合うよりも、海原みなもと接触を図る方が先だ。
後ろでまだぶつぶつ言っている深紅を無視し、綺音は歩き出した。
「ねえ、綺音?あれ・・・?綺音ーーー?」
【頑張れ女の子〜海原みなも〜】
今日、君は死ぬ。
突然現れた生命の調律師と名乗る二人組に、突然そんなことを言われた。
「は・・・・」
思わず顔をしかめてしまう。
死ぬ?誰が?
「えっと・・・あたしが・・・ですか?」
「そう、君が」
「・・・」
海原みなも。この世に生をうけてから13年。面と向かって「死ぬ」などと言われたのは初めてだ。
「それは・・・その・・・からかってるとかそういうのではなく・・・」
「本当なんだよ。そりゃ・・・信じられないとは思うけど」
人間の魂を管理している「ナイトメア」という場所があって。そこにある「死亡リスト」とやらに誤ってみなもの名前が記されてしまったというのだ。
深紅という青年が心の底から申し訳なさそうな顔で説明するので、妙に信憑性はあった。
今日、死ぬかもしれない。
こんなことを言われて信じる人間はあまりいないと思うが・・・
―――絶対にないとはいいきれない・・・かな・・・?
アルバイト等で色々と人外な事には関わっている。だったらこの人達の言うことだって・・・
そう思うと急に怖くなってきた。
「あ・・・あの・・・死ぬ・・・死ぬって、あたし・・・っ。ど・・・どうしたら・・・っ」
「とりあえず落ち着け」
綺音という名の少年に肩を掴まれた。
「だって・・・っ」
取り乱す反面、心の奥底は驚くほど穏やかになっていくのを感じる。
―――でも、死ぬのもいいかもしれない
そう思ってしまう自分もいて。
だって死ねば、色々な悩みからも解放されるのだ。
「俺達はお前を助けに来たんだよ」
「助けに・・・?」
その言葉にはっと我に帰った。
「そう。僕達が君を全力で護るから。安心して、みなもちゃん」
「護って・・・」
綺音と深紅の顔を交互に見る。彼らは頷き、微笑んで見せた。
「なら・・・その・・・頑張ってみます」
「おう。その意気だ」
くしゃりと綺音の手がみなもの髪を撫でる。何だか妙に温かかった。
生命の調律師とは死神のようなもの・・・と自分達で言っていたのでもっと冷たい手を想像していたのだ。
「それで、あたしの死因って何なんですか?」
それがわかれば、防ぐ方法が見つかるのではないだろうか。
そう思ったのだが、綺音があからさまに顔をしかめ、深紅の目が光ったので何事かと思う。
そんな顔をさせる死因って・・・・・・?
「宇宙からの侵略者に寄生されて機械生命体にされ意識もろとも肉体が乗っ取られてしまう」
「はい?」
綺音の言葉は外国語の早口言葉を聞いているようで、まったく脳に入っていかなかった。
「あの・・・もう一度よろしいですか?」
「宇宙からの侵略者に寄生されて機械生命体にされ意識もろとも肉体が乗っ取られてしまう」
「宇宙・・・侵略者・・・寄生・・・機械生命体・・・・・・」
一つ一つ単語を理解していく。みなもは綺音の顔を見上げ、
「それは何かの小説の話ですか?」
「だよな。普通そう思うよな」
「え!?本気なんですか・・・!?」
深紅に紙の束を渡された。一番上の紙にはみなもの顔写真とプロフィール。そして死因。
「・・・本気・・・みたいですね」
「残念ながら」
「宇宙人ってあれかな。やっぱUFOで来るのかなあ」
「深紅、お前ちょっと黙ってろ」
「あれ・・・?あの、これは・・・?」
「ん?」
二枚目の紙を綺音に差し出す。
「えーっと・・・?”今回は死因が極めて特殊な為、回避方法を記す”・・・?って何だこれ!こんなんあるなら事前に言えっての!」
どうやら綺音達は一枚目しか目を通していなかったようだ。まあ、普段はそれで事足りるのだろう。
「”寄生は恐らく避けられない。寄生されたら機械化され、最後の要として『核』が形成される一瞬にその核を抜くしか方法はない”」
「・・・何かますますSFみたいな話になってきましたね・・・・・・っ痛」
「どうした?」
首筋に痛みを感じ、押さえる。
「あれ?みなもちゃん、何か虫に刺されたみたいな跡が・・・」
「”ちなみに奴らは蚊のような姿をしており、首筋に刺されたような跡ができていたら寄生されたという印であり―――」
「え・・・」
「えええええええええっ!?」
思わず大声をあげていた。綺音の腕を掴み、思い切り揺さぶる。
「ちょ・・・どうしましょう・・・!?あたし・・・あたし、寄生され・・・!?」
「おおおお落ち着け・・・!とりあえず落ち着け・・・!」
「うう・・・」
突然「死」というものがぐっと近いものになり、背筋が冷たくなっていくのを感じた。
得体の知れない生物に寄生されたかもしれない。いや、多分寄生された。
「あたし・・・」
地面にぽたっと雫が落ちる。雨かと思ったが、それは自分の涙だった。
「うわ・・・っ!ちょ・・・泣くなよ・・・!」
「だ・・・だって、あたし・・・っ」
一度出た涙はそう簡単に止まってくれはしない。
「あたし、馬鹿です・・・っ。死んでもいいとか、一瞬でも思ったなんて・・・っ」
やっぱり、怖い。
死ぬのは怖い。
家族を哀しませたくないとか、そういう気持ちもあるけれど。
やっぱり、こうして話したり歩いたり・・・誰かと過ごすことができなくなるのは嫌だ。
「・・・まあ、それが普通の反応だよな」
頭の上で綺音が溜息をつくのを感じる。何時の間にか、彼の胸に顔を押し付けていたらしい。
「何かお前って、達観してるっていうか妙に大人ぶり過ぎてるような感じがするんだよな」
「え・・・」
「怖かったら怖いって言えばいいんだよ。泣けばいいんだよ。そしたら大人が助けてくれっから。子供の特権活用しないでどうするよ?」
「・・・」
綺音を見上げた。霞んでいる視界でも、彼が優しく微笑んでいるのがわかった。
「つーわけで、ちゃんと大人な俺達が助けてやるから。な?」
「・・・・・・はい・・・」
小さく頷く。
「・・・っていうかさ、綺音だってまだ16歳じゃ・・・」
「こいつよりは大人だ」
「それ言うなら僕の方が綺音より二つも大人だよ?そんなわけで、みなもちゃん。綺音よりも大人な僕を頼ってくれて構わないからね!」
「お前は精神年齢が幼稚園児だろーが」
「えええ!?それ、言い過ぎだよ・・・!さすがにっ」
緊張感のまったくない二人のやり取りに・・・・・・
みなもはいつしか笑っていた。
機械化は思ったよりも早く進んでいるようだった。気を張り詰めていないと意識を保つのが難しい。
少しずつ・・・精神も支配されかけているのだろう。
「みなもちゃん・・・大丈夫?」
「平気・・・です」
「何とか頑張ってくれよ。”核”とやらが形成される直前までは意識を保っていて貰わないと・・・」
彼らから離れてしまったら、アウト。核を抜いてもらうことはできない。
「それって物凄く難しそうです・・・」
「だよね・・・。えーっと、何か気を紛らわせるような・・・」
「お話しましょう」
それがみなもの提案だった。
「楽しい話をしていれば、何か大丈夫な気がします」
とにかく頭を使うのだ。
「楽しい話?ええっと・・・」
「いくらでもあるぞ。こいつの失敗談とか」
「綺音!?」
「あ、それ。聞きたいです」
「みなもちゃん!?」
焦る深紅を無視して、綺音は話し出す。
次から次へとどんどん出てくる深紅の失敗談。
特に、仕事の途中に転んで、捨てられていたビール瓶の山に突っ込んだ話では、みなもは声をあげて笑ってしまった。
「笑い事じゃないよ!痛かったんだからね!」
「痛いどころじゃないだろ。お前、血まみれになってしばらく再起不能だったもんな。で、俺が報告書と始末書を全て仕上げた・・・と」
「・・・・・ごめん・・・」
深紅は一瞬落ち込んだような顔を見せたが、すぐに綺音の方に向き直り仕返しとばかりに切り出す。
「ていうか僕、ずっと綺音に訊こうと思ってたんだけどさ」
「何だよ?」
「妙にみなもちゃんに優しくない?何か他の人に接する態度とはちょっと違う気がするんだけど」
「え?」
驚いて綺音の方を見るみなも。深紅がにやっと笑う。
「もしかして好みのタイプ・・・とか?綺音って年下が好きなんだ?」
「へ・・・」
「ば・・・っ!ちげーよ!」
綺音は顔を真っ赤にして反論した。
「好みとかそういうんじゃなくてだな・・・ただ・・・」
「ただ?」
「俺の妹が・・・今、みなもくらいかな・・・と」
「妹さん・・・?」
綺音には妹がいるのか。しかし、言い回しが引っかかった。
「妹さんとは一緒に暮らしていないんですか・・・?」
「暮らすどころか、会ってもいねえ」
「え?」
どうして?
と訊く前に、綺音は自分から話していた。
綺音は元々ナイトメアとは無関係な、人間界に住む普通の人間だったらしい。ところが仕事中の深紅に偶然出会い、ちょっとしたトラブルで深紅の使役していた式神が綺音の体に宿って抜けなくなってしまったというのだ。
それ以来、綺音は人間としての暮らしを捨て、深紅と共に調律師をやっていく道を選んだという。
「妹さんに・・・会いたいですか?」
「そりゃ・・・会いたいな。あいつ、ちょっと気弱なとこあってさ。ちょっとしたことで泣いて、死んじまうんじゃないかって心配なんだ。だから言ってやりたいんだよ。ちゃんとしっかり生きろよって」
「・・・」
しっかりと・・・生きろ。
「だから、お前ちゃんと生き残れよ。何かさ・・・変な理屈だけど、お前が大丈夫だったら妹も心配ないような気がするんだ」
「・・・・・・はい。頑張り・・・ます」
また、涙が出そうだった。
綺音の強く、優しい想いに。
でも
「あ・・・あの、あたし・・・」
「みなもちゃん?」
「め・・・目眩が・・・」
実はもう、目を開けているのも辛い状況だった。外見では全然わからないのだが、体の中がどんどん冷たくなっていくのを感じる。
手、足、胸、首・・・恐らくもう、ほとんど機械化している。
「き・・・綺音さ・・・深紅さ・・・」
「何だ!?」
「た・・・多分・・・頭が・・・さい・・・ごなんだと思います。今、首まで機械化・・・してる。か・・・核はきっと顔のどこ・・・かに・・・」
息が苦しい。上手く喋れず、唇ががくがくと震える。それに呼応するように体中が小刻みに震えていた。
「もう少しだ。頑張れ・・・!」
綺音の手が、みなもの手を強く握る。その上に、深紅の手も重ねられた。
もう、感覚はほとんどないはずなのに、温かかった。
温かくて心強かった。
大丈夫。あたしは、大丈夫。
絶対、負けない・・・・・・!
負けるものか・・・!!
遠ざかりそうな意識の中、ひたすら唱え続けていた。
「みなもちゃん・・・!みなもちゃん・・・!」
「おい、みなも・・・!」
声がする。
二つの優しい、強い声。
あたしは・・・・・・
「あ・・・」
目を開ける。ぼんやりと見えてくる綺音と深紅の顔。
「あたし・・・」
口を動かす。ちゃんと・・・喋れる。
「あたし、勝てました・・・・・・?」
綺音と深紅は顔を見合わせ、同時にこちらに向けて微笑んでみせた。
「核は額に形成されたんだけどさ。みなもちゃんのお陰で、何の苦もなく取り除くことができたよ」
「本当に・・・よく頑張ったよ、お前は」
「・・・・・・はい。あたし、頑張り屋なんです」
良かった。
みなもはにこっと笑い、二人に向けてVサインをして見せた。
仕事は無事終了・・・ということで、二人はナイトメアに帰るという。
もう少し話をしたい気持ちもあったのだが、報告書の作成をしないとならないそうだ。
「本当に、ありがとうございました」
「一番頑張ったのはお前だろ」
「でもあたし、お二人がそばにいなかったら簡単に死んじゃってたと思うんです」
すぐに諦めて。あっけなく。
「ま、そーかもな。俺達のおかげで少しは根性ついただろ?」
「ええ。あたし、色々と将来のことで悩んでて・・・そういう悩みが消えるなら、死んじゃってもいいかなって思ったりで・・・」
そんなことを知らず知らずのうちに考えていた。
「でも、何か今日のことで色々と決心がついたというか・・・あたし、頑張れそうな気がして・・・」
「ああ」
「頑張ります。あたし、しっかり生きます」
真っ直ぐに。
綺音の目を見て言う。彼はすぐに視線を外し、空を見つつ言った。
「俺の妹も・・・頑張れるかな」
「ええ・・・きっと」
あたしが頑張れるなら
きっと、あなたの大切な人だって
fin
□■■■■■■□■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
■ 登場人物(この物語に登場した人物の一覧) ■
□■■■■■■□■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
PC
【1252/海原・みなも(うなばら・みなも)/女性/13/中学生】
NPC
【鎌形深紅(かまがたしんく)/男性/18/生命の調律師】
【紺乃綺音(こんのきお)/男性/16/生命の調律師・助手】
□■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
■ ライター通信 ■
□■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
こんにちは。ライターのひろちです。
またもみなもさんを書けるという幸福に恵まれつつも、納品遅延申し訳ありませんでした・・・!
何やらSFチックな斬新な展開で、書いていてとても楽しかったです。
楽しいあまりちょっと長めのお話になってしまいました。
SFというよりは、みなもさんの内面や綺音とのふれあいを中心に書かせて頂いたのですが、いかがでしたでしょうか?
少しでもお気に召しましたら幸いです。
本当にいつもいつもありがとうございます!
また機会がありましらら、よろしくお願いしますね!
|
|