■魂籠〜月戯〜■
霜月玲守 |
【4345】【蒼王・海浬】【マネージャー 来訪者】 |
携帯電話には、様々なメールがやってくる。アドレスを教えた友人から、登録をしたメールマガジンから。そして、忘れてはならないのが迷惑メールである。
何処で知ったのか、どうして分かったのか。殆どがエッチなサイトを宣伝するものなのだが、中にはお金持ちになれる方法、などといったものまで存在する。
そんな迷惑メールの中に、最近噂になっている「おみくじメール」があった。
突如やってくるそのメールには、アドレスが載っている。送り主は、株式会社LIGHTとある。
「突然のメール、失礼致します。試験的にサイトを運営するにあたり、ランダムでメールを送らせて貰っております。近く、おみくじメールというものを行う予定であり、そのチェックを行っております。宜しければ、ご協力ください」
そう書いてあるメールには、最後に「料金はかかりません」と記述がある。
アドレスをクリックすると、出てきた画面に「おみくじを引きますか?」と書いてある。「あなたの守護神がお知らせします」とも。
そこをクリックすると、最初に知らせてあった通りに守護神が画面に現れる。そして本日の運勢を五段階で評価してくれるのである。
運勢が悪くても「私がついているので大丈夫です」と、守護神が微笑んで言ってくれる。ただそれだけだ。
しかし、そこにアクセスした者の中で、異変を感じている者がいた。
夜道を歩いていると何かがついている気がするだとか、何となく何かがいるような気がするだとか。ただそれだけならば、気のせいと割り切ってもいいかもしれない。だが、同時に彼らは訴えるのだ。
色々な事を、忘れているのだと。
単にちょっとだけ忘れた訳ではない。頭の中からすっぽりと、少しずつ忘れていっているのだと。
そうして、登録した覚えも無いのに気付けば守護神の画像がデータボックスにあるのだという。それでも、削除をする者は誰もいなかった。
削除しようとする、その思いが一番に消えていってしまったからであった。
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魂籠〜月戯〜
●序
光はやがて、体に入る。
携帯電話には、様々なメールがやってくる。アドレスを教えた友人から、登録をしたメールマガジンから。そして、忘れてはならないのが迷惑メールである。
何処で知ったのか、どうして分かったのか。殆どがエッチなサイトを宣伝するものなのだが、中にはお金持ちになれる方法、などといったものまで存在する。
そんな迷惑メールの中に、最近噂になっている「おみくじメール」があった。
突如やってくるそのメールには、アドレスが載っている。送り主は、株式会社LIGHTとある。
「突然のメール、失礼致します。試験的にサイトを運営するにあたり、ランダムでメールを送らせて貰っております。近く、おみくじメールというものを行う予定であり、そのチェックを行っております。宜しければ、ご協力ください」
そう書いてあるメールには、最後に「料金はかかりません」と記述がある。
アドレスをクリックすると、出てきた画面に「おみくじを引きますか?」と書いてある。「あなたの守護神がお知らせします」とも。
そこをクリックすると、最初に知らせてあった通りに守護神が画面に現れる。そして本日の運勢を五段階で評価してくれるのである。
運勢が悪くても「私がついているので大丈夫です」と、守護神が微笑んで言ってくれる。ただそれだけだ。
しかし、そこにアクセスした者の中で、異変を感じている者がいた。
夜道を歩いていると何かがついている気がするだとか、何となく何かがいるような気がするだとか。ただそれだけならば、気のせいと割り切ってもいいかもしれない。だが、同時に彼らは訴えるのだ。
色々な事を、忘れているのだと。
単にちょっとだけ忘れた訳ではない。頭の中からすっぽりと、少しずつ忘れていっているのだと。
そうして、登録した覚えも無いのに気付けば守護神の画像がデータボックスにあるのだという。それでも、削除をする者は誰もいなかった。
削除しようとする、その思いが一番に消えていってしまったからであった。
●始
落ちた先を見る事は、今は叶う事もなく。
再び訪れた月刊アトラス編集部は、相変わらず騒然としていた。蒼王・海浬(そうおう かいり)は編集部内を見回し、碇の姿を探す。
「ああ、来てくれたのね」
海浬の肩を、碇がぽんと叩いた。振り返ると、碇が片手に大きなファイルを持ち、にこやかに立っていた。
「資料でも取りに行っていたのか」
「ええ。本当は誰かに頼みたかったんだけど、ちょうど締め切り直前なのよ」
碇はそう言い、いつものようにソファへと足を赴く。海浬は「そうか」と答え、碇の後ろをついていく。
ソファに座るよう促し、碇は自らのデスクへと向かっていった。持ってきたファイルを一旦置く為だ。碇はファイルを置いた後、両手にコーヒーカップを二つ持って再び海浬の前にやってきた。
「ごめんなさいね、ばたばたしていて」
「いや、構わない」
海浬はそう答え、碇が持っているコーヒーカップに目を向ける。
「コーヒーメーカーは買ったんだったか」
「ええ、さすが新品ね。すこぶるご機嫌よ」
碇はそう言ってコーヒーカップを海浬の前に置く。嬉しそうな碇に海浬は「そうか」と頷き、コーヒーに口をつける。
「早速本題に入るけど、先日これが編集部に届いたの」
碇はそう言い、一通の手紙を海浬の前に置いた。「月刊アトラス編集部御中」と書かれている。投稿手紙だろうか。
「中を開けて見ても?」
海浬が確認すると、碇はこっくりと頷いた。海浬は軽く頷き、中を確認する。
「初めまして。最近、自分におかしな出来事が起こっているので投稿します。数日前、おみくじメールと言うメールが携帯に入ってきました。面白半分にやってみたら、小吉と守護神が出てきました。ふと気づくと、その守護神が画像フォルダの中に入っているんです。それから、いろんな事を少しずつ忘れ始めました。主に、予定を」
手紙を読み終え、海浬は小さくため息をつく。
「……非常に、興味深い内容だな」
「そうでしょう?」
「この、おみくじメールと言うのをやっているのはどこだ?」
「株式会社LIGHTというそうよ」
「LIGHT……」
海浬は呟き、少しだけ考え込む。
(似ている)
関連性を疑えといわんばかりの名前と、内容である。
「株式会社HIKARIとの関連性は、あるのだろうか?」
「HIKARIっていうと、前回関わっていたところよね?」
碇の問いに海浬は頷く。碇は「ちょっと待ってて」といい、少しだけ席をはずした。そして先ほど持っていたファイルの一つを手にし、戻ってくる。
再びソファに座ってぱらぱらとファイルをめくり、ページを開いたまま海浬に見せてくれる。そこにあるのは、株式会社HIKARIと株式会社LIGHTについての情報だ。詳細が相変わらず分かっておらず、携帯電話を媒体としているという事くらいしかかかれていない。
「関連性は、あるといえばあるといえるでしょうね。詳細が分からないって言う点で」
「それと、携帯電話を媒体にしている、か。……なるほど、胡散臭さと言う点では同じようなものと見ていいだろうな」
海浬の言葉に、碇は「そうね」と言って小さく笑った。
「今回の件についての詳しい事はこっちの資料に書いてあるわ。それと、この投稿者の連絡先は、ここ」
碇に指差された先には「神田・真澄(かんだ ますみ)」と書いてある。
「連絡を取っても構わないのか?」
「ええ。手紙には取材してくれるのならば是非、と書いてあったから」
碇はそう言い「会ってみる?」と尋ねてくる。
「おそらく、また会社を調べてもまた何も出てこないだろう」
「そうね。実際に調べても分からなかったし」
「だとすれば、投稿者に会って話を直接聞いた方がいいだろう」
海浬の言葉に、碇は頷く。
「じゃあ、彼女には連絡をつけておくわ。明日の午後とかでも大丈夫なのかしら?」
カレンダーを見ながら尋ねる碇に、海浬はちらりとカレンダーを見てから頷く。
「ああ、大丈夫だ」
「それじゃあ、明日の午後にここでいいかしら?ちゃんと会議室を予約しておくから」
碇の提案に、海浬は再び頷いた。アトラス編集部ならば相手も警戒せず、色々話してくれるかもしれない。
「では、また明日来よう。午後、だな」
「ええ。もし何か都合が悪い事とかあったら、連絡するわ」
「頼む」
海浬の言葉に碇は頷き、携帯電話を使って神田に連絡を取り始める。海浬は机の上に残っているコーヒーをぐいっと飲み干し、アトラス編集部を後にするのだった。
●動
落ちたという事実のみが、何度も頭をよぎっている。
翌日、結局碇から連絡がなかった為、海浬は約束どおり月刊アトラス編集部に午後訪れた。相変わらず騒然としている編集部内で碇を探すと、碇の方から海浬に気づいてやってきた。
「神田さんは、もう来て会議室で待っているわ」
碇はそう言い、第三会議室、と付け加えた。
「打ち合わせがあるから、同席できないの。別にいいかしら?」
「構わない。……先に聞いておくが、彼女に何か変わった様子などはあるのか?」
「どうかしら。さっき少しだけ話した位だから、なんとも判断はつきにくいわね」
海浬は「そうか」と答え、会議室に向かう。背中から「よろしくね」と声をかけられたので、手だけで答えた。
第三会議室には「使用中」のプレートがかかっていた。海浬は「ここだな」と小さく呟き、ドアノブにてをかける。
「……なんだ?」
ふと、何かの視線を感じて振り返る。だが、そこには何も居ない。誰の姿も無い。
(アトラス編集部の一員か?)
海浬はそう考え、首を振る。第三会議室は、フロア内で一番奥にある部屋だ。トイレや資料室は別方向にあるのだし、第一・第二会議室はまだ使用していないという事だった。
つまり、この場所に他の誰かがいるとは思いにくい。
(万が一いたとしても、俺の目に留まらぬほどとも思えない)
海浬に対して隠れる必要のあるものなどアトラス内にはいないのだから、振り返った海浬に対して身を隠すような行動を起こすことは無い。むしろ堂々と「こんにちは」くらいの声をかけてきてもおかしくないのだ。
しかし、先ほど感じた視線はそうではなかった。露骨に海浬を見ていたにも関わらず、視線の主の姿は見られない。身を隠してしまったか、そのまま消えてしまったか。
「答えは、神田が持っているのかもしれないな」
海浬はぽつりと呟き、改めて会議室のドアを開けた。
第三会議室の中に、ぽつんと神田が座っていた。ぱっと見た感じ、高校生くらいだろうか。海浬の姿に気づき、がた、と音をさせて椅子から立ち上がる。
「初めまして。あの、投稿した神田・真澄です」
「アトラス編集部調査員の蒼王・海浬だ。……座ってくれ」
海浬に勧められ、神田は椅子に座る。海浬は神田の目の前に座り、小さく「さて」と口を開く。
「まずは、具体的に話してもらえないか?おみくじメールというのは、何時頃手に入れたんだ?」
「一週間くらい前です。迷惑メールみたいな感じで、いきなり送られてきて」
「警戒はしなかったのか?」
「最初はしてたんですけど、内容を見て大丈夫そうだな、と思って試しにやってみたんです。もしワンクリック詐欺でも、別に払わずに堂々としてればいいって聞いたし」
「それで、結果と守護神を見たのか」
「はい。……でも、私には覚えが無いんです。どうして、私の携帯に守護神の画像があるのか」
神田はそう言い、鞄から携帯電話を取り出す。女子高生らしく、大きなストラップがつけてあり、表には友達と撮ったらしいプリクラが張られていた。
「中を確認しても?」
海浬が尋ねると、神田は「ちょっと待ってください」と言ってから携帯電話を操作する。そして、画像フォルダを開いてから海浬に手渡した。
携帯電話を受け取り、確認するとそこには確かに「守護神」がいた。
仁王像、というものに近いだろうか。屈強な身体を持った男が、口元だけで微笑んで立っている。
(これが、守護神?)
海浬は画像を見つめ、思わず鼻で笑う。(笑わせる)
「それを手にした時くらいから、私は物忘れが酷くなりました。友達と約束して、スケジュール帳に書くんです。だけど、どうしても忘れてしまって」
「スケジュール帳を見ても?」
「書いた事すら忘れるんです。だからもう、約束しないようにしてます」
「忘れるというのは、主に予定なのか?」
「そうですね……自分が何をしようとしたのか、とか」
「具体的には?」
「ええと、例えば。夜、小腹がすいて台所に行くんです。だけど、台所に着いたらどうしてきたか忘れる、みたいな」
神田がそう言ってから「分かりますか?」と尋ねてきた。海浬は「なんとなく」と答え、頷く。
「あと、これは私の気のせいかもしれないんですけど。……つけられている気がするんです。夜道とか歩いていると、特に」
「つけられている?」
怪訝そうに尋ねる海浬に、こっくりと神田が頷く。
「振り返っても、誰も居ないんです。気のせいかとも思ったんですけど、物忘れが始まった頃とちょうど同じくらいからだし」
神田の言葉に、海浬は思う。先ほど感じた、妙な視線の事を。
(あれが、神田が感じている気配と同じならば)
何かが彼女についていると思って、ほぼ間違いないのではないだろうか。海浬が感じた視線は、間違いなく敵意を持ったものだったのだから。
「では、少し目を閉じてもらえないか?」
「え?」
きょとんとする神田に、海浬は「大丈夫だ」と言いながら頷く。
「特に何をしようと言うわけではない。少しだけ、意識に潜らせてもらうだけだ」
「意識って」
神田は戸惑いつつ、海浬をじっと見る。しばらく迷ってから、小さく頷く。「分かりました」と言いながら。
神田が目を閉じたのを見、海浬はそっと手を神田にかざした。
(忘れるという事は、意識に介入する行為。それによって、行動を操ろうとしているように思える)
海浬はそう思い「ならば」と呟く。
「前回と同じく『器』を手に入れようとしているはずだ」
ゆるり、と空気が動いた。神田の意識の中に潜る為に、ゆるり、と。
●遊
確かめる事は出来ると知りつつ、目を背けている。
神田の意識内に潜った海浬は、自らが求める情報を探す。おみくじメールと守護神に関する、彼女の意識だ。
(守護神と前回の天使が同じように「器」を求めているのならば、意識に介入した形跡があるはずだ)
海浬は注意深く意識を探る。前回の天使が「器」となるべき人間の意識下にいたように、今回の守護神も同じように意識下にいると考えるのが普通だ。
「……ここまで来たか」
突如聞こえた声に、海浬はそちらを確認する。すると、そこには画像で見た守護神が立っていた。口元に笑みを携えているものの、その目には鋭く冷たい光が宿っている。
「お前が、守護神か」
海浬は静かにそう言い、ふん、と鼻で笑う。「馬鹿らしい」
「一体、何を考えているんだ?」
「何を、とは」
「決まっている。お前達の、目的だ」
海浬が言い放つと、守護神はぴくりと表情を動かした。
「以前、お前と良く似た天使とか言う存在が言っていた。『我らが悲願』とな」
前回関わった、携帯アプリの天使が言っていた事だ。己の事を複数形で表しているところを見ても、複数の存在がいるのだと言うことを暗示していた。
守護神は口元に笑みを携えたまま「なるほど」と呟く。
「我々の目的を、調べに来たか」
「そうだ」
「そう易々と教えてやると思うのかね?」
皮肉っぽく笑う守護神に、海浬は「ふん」と鼻で笑う。
「教えてもらう必要は無い。ただ……勝手に知るだけだ」
海浬はそう言うと、手をかざす。一瞬のうちに、今度は守護神の意識へと潜る。
(二段階のようになってしまったが)
思わず苦笑する。一気に守護神の意識下へ潜れば良かったのだが、仕方が無い。
守護神の意識下はゆらゆらと揺らいでおり、定着していなかった。「器」とする神田の中で、定着しようとしている最中だからだろうか。
そんな中で、はっきりとした意識が露出してくる。海浬はそれをたどり、その意識を手繰り寄せる。
「……世界を綺麗にすべきだ」
言葉に対し、おおお、と叫び声が上がる。
「人間とはつまり、汚染されてしまったものにしか過ぎぬ。ならば、その汚染を綺麗にする為に動くべきなのだ」
(綺麗にする、だと?)
海浬は怪訝そうにその意識を見つめる。時折画像が揺れ、しっかりと風景を捉えることが出来ない。元々定着していない意識なのだから仕方ないのかもしれないが。
(目的はやはり世界の浄化なのか?)
言葉から察するに、それが目的であるといってもよさそうだった。
(となれば、浄化された世界とはどのようなものだ?)
今の世の中が汚染されているというのならば、それを綺麗にしようとしているのならば。どのように綺麗にするのか、またどのような世界にするのだろうか。そういった具体的なものが知りたかった。
「世界を綺麗にするために、我々が立ち上がるべきなのだ!」
再び上がる、賛同者達の声。それを見る限り、先導者が一人とそれに賛同する者達が大勢いるといったところだろうか。
(つまり、指導者がいる)
このような事態を巻き起こしているリーダー的存在が、確かにいるのだ。
「人間の意識を、初期化する!そして、そこに新たなプログラムを書き込むのだ」
おおお、と声が上がる。小さく「素晴らしい」だとか「なるほど」だとかいう言葉まで混じっている。
(意識を初期化し、プログラムを書き込む、だと?)
海浬は眉間に皺を寄せる。再び(馬鹿な事を)と心の中で呟く。
「その際、たくさんの力を手に入れることが出来よう!さすれば、美しい世界が……浄化された世界が実現するのだ」
(たくさんの力、だと?)
意識を初期化するとは、今神田の身に起こっている「忘れる」という現象をさしているのだろう。それが終われば、神田はプログラムを書き込まれる手はずになっているのだ。天使だとか守護神だとかが作り上げた、理想とするようなものを。
(下らない事を)
ぐらり、と大きく意識が揺らいだ。はっきりとしている意識が、そこで終わりを告げたのだ。
海浬はため息をつき、守護神の意識下から出る。潜る前と同じく、目の前に守護神が立っていた。
「……何をした?」
「馬鹿な真似をするという、それだけは分かった」
海浬はそう言い、ゆっくりと守護神を指差す。「下らない真似だ」
「お前には分からぬ。我らがどんなに絶望し、切望したか」
「絶望……切望、だと?一体、何に」
守護神はくつくつと笑い、すぐに真顔になる。
「決まっている。人間に、だ」
「人間に過剰な期待を寄せていたのか?」
海浬が尋ねると、守護神は「過剰?」といい、大声で笑う。
「過剰などではない!我らはいつでも見守っていた。だが、見守っているだけでは駄目なのだ。駄目だと、教えられたのだ」
「教えられた、だと?誰に」
守護神は答えない。ただ、小さく口元だけで笑っている。
(あの、指導者のような奴か)
それは分かっても、それ以上が分からない。それこそが、恐らく一番重要なことだというのに。
「……我らが望む、世界の為に!」
守護神はそう言い、地を蹴って海浬に向かってきた。海浬は小さく「やれやれ」と言うと、ゆっくりと弓を構える。
海浬の為の、太陽の光と炎で出来た黄金弓だ。
「お前に必要なのは、絶望でも切望でもない。希望、だ」
ぱんっ!
海浬の手によって放たれた矢は、まっすぐ守護神の元に行って胸を貫いた。守護神は一瞬自らの胸に刺さった矢を見つめ、それから笑い始めた。
「希望は、希望とは!我らの手によって得られるものなのだ!」
その言葉を最後に、神田の意識内が崩れた。
それは完全に守護神が消え失せたという事実をも、暗に示しているのだった。
●結
目を背けてばかりでは何も解決しない。さあ、切望せよ。
再び戻ってきたアトラス編集部では、神田が「あの」と話しかけてきた。
「もう、目を開けてもいいですか?」
律儀に目を閉じていたままだったようだ。海浬は「ああ」と答える。神田はゆっくりと目を開き、ぱちぱちと何度も瞬きする。
「どうだ?気分は」
「どうって……」
最初はきょとんとしていた神田だが、何かに気づいたようにはっとし、携帯電話を開く。
画像フォルダの中に、例の守護神は居ない。
「一体、どうやったんですか?私、消そうとしても消せなくて……」
「一種の契約を結んでいたようだが、契約主が居ないのだからその契約書とも成りうる画像は不必要となる」
海浬が説明するが、神田はきょとんとしている。よく理解できないのだろう。海浬はため息をつき「ともかく」と口を開く。
「もう、忘れる事はないだろう」
「そうですか」
海浬の言葉に、ぱあ、と神田の顔が明るくなった。と、そこに碇が顔を覗かせる。
「どんな具合かしら?」
「この件に関しては、終わった」
碇は「あら」といい、苦笑交じりに会議室の中に入る。海浬は小さくため息をつき、小さな声で「綿密には終わってない」と碇に伝える。
「まだ、終わっていないように思う」
「そう……」
碇はそう答え「でも」と付け加える。目線の先には、嬉しそうな神田の姿がある。
「一応は一件落着じゃない?」
海浬は苦笑し、小さな声で「一応はな」と答えた。
(子ども騙しのようだが)
にこやかな碇と嬉しそうな神田を見つつ、海浬はそっと心の中で付け加えるのだった。
<陰影のある戯れにも似て・終>
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■ 登場人物(この物語に登場した人物の一覧) ■
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【 4345 / 蒼王・海浬 / 男 / 25 / マネージャー 来訪者 】
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■ ライター通信 ■
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お待たせしました、コニチハ。霜月玲守です。この度はゲームノベル「魂籠〜雪蛍〜」にご参加いただき、有難う御座います。
「雪蛍」に続いての参加、有難うございます。続けての参加ですので、前回の結果を反映しつつ、書かせていただいております。如何だったでしょうか。
このゲームノベル「魂籠」は全三話となっており、今回は第二話となっております。
一話完結にはなっておりますが、同じPCさんで続きを参加された場合は、今回の結果が反映される事となります。
ご意見・ご感想等、心よりお待ちしております。それではまたお会いできるその時迄。
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