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■CallingV 【木五倍子】■

ともやいずみ
【6073】【観凪・皇】【一般人(もどき)】
 チリリーン。
 甲高い鈴の音が夜の街に鳴り響く。どこか葬送の音のようにも聞こえた。
 暗い夜道にその音が響いた直後、闇の中から現れるようにその人物は現れた。
「憑物……」
 近くにある街灯が点滅し、そして消えた。
 辺りは闇に包まれる――――。
CallingV 【木五倍子】



 なんでこんなことになってるんだろ。
 いや、だからさ。
 よく思い出してみればいいじゃん。
 一般人的行動に何か間違いがあった……とか? それが一番ありえるけど。
 だってさ、俺は一般人なんだからなんでこんな……。
 だいたい自分はただコンビニに行こうとしていただけだ。一般人というのはちょっと小腹が空いたら近くのコンビニに行くことだってあるし、コンビニを利用するのはもはや当たり前だし。
(なんでこんな)
 と、観凪皇は思った。
 コンビニに行こうとしているところまでは良かったのだ。
 問題はそれからだ。
 建築現場から悲鳴が聞こえた。その時点でおかしいと思うべきだったのかもしれない。
 ついつい悲鳴が気になって行ってみたら……。
(目の前にバッサバッサと飛んでる……あれは、えっと、鳥人間?)
 手の部分が翼。下半身も鳥。あれはどう見ても……その、人間という種類ではない。
 まあアイツが人間の子供を捕まえているわけだ。
 皇はぎぎぎ、と首を軋ませて振り向く。そこにカメラでもあれば「撮影」で済まされるのだろうが……生憎と、そんなものはない。
 ふふ、と軽く乾いた笑いを浮かべて皇は視線を前に戻す。
 上空を飛ぶ鳥人の抱える子供は完全に気絶している。
(ど、どどどどうしよう!? た、助けるったって、俺、空間跳躍とかできないから飛べないし……まして飛べてもあの子を落とされたら駄目じゃんか……)
 オロオロする皇はきゅ、と拳を握りしめた。
 よし、ここは。
(一般人的に援軍を呼ぶ!)
 ドラマとかでよく見るじゃないか。引ったくりなどに遭ったらまず叫ぶシーンを。
「誰か助けてーっっ!」
 きっと親切な誰かが助けに……。
(来てくれるかな……こんな夜更けのこんな人通りのないところへ……)
 なんてことをちょっと思っていた皇の背後から、足音が聞こえた。
 かつかつ、と早足で近づいて来るそれに皇はパッと顔を輝かせる。
 もしかして援軍!?
(は、初めて援軍が! 一般人やってて良かった!)
 そう思って振り向いた先を見て、皇は完全に硬直した。
 長い髪をツインテールにし、セーラー服姿で現れた人物は――――とんでもない美少女だったのだ。
 どこかで小さく鈴の音がしたような、気がした。
 皇は頬を染める。
(…………び、美人……)
 まるでテレビや映画の中から抜け出してきたように、少女の美貌はずば抜けていた。
 ハッとして首を左右に振った。援軍はいいが、こんな女の子で大丈夫だろうか?
 と、とにかくだ!
(ここには二人しかいないわけだし、なんとかしないといけないわけでっ)
「そ、そこの女の子! きょ、協力しましょ……ぅ……って! あーっ!」
 鳥人が子供を落としたのに気づき、皇が悲鳴をあげた。背筋が粟立ち、青ざめる。
 慌てて落ちてくる子供をキャッチしに走る皇の横を、何かが駆け抜けた。
 皇の視界の隅に映ったのは、長い髪。
 建築途中のモノに足をかけ、彼女は軽々と空中に跳躍した。とんでもない脚力である。
 落下する子供を抱えると、くるんと身体を回転させ、皇目掛けて落ちてくる。
(えっ、うわっ! ど、どどどどうし……!)
 両手を広げてあっちへ行ったりこっちへ行ったり。
 一般人として、なんとしても助けなければ。人命救助は良き一般人への道である。
 石につまづき、皇はバランスを崩した。
「あっ、わわっ……」
 よろめく皇。
 ぎょっとしたように少女が目を見開く。
「ちょっとあんた邪魔よ! どきなさいっ!」
「――へ?」
 怒鳴られて疑問符を浮かべた瞬間、落下した少女と激突してしまった。
 少女に下敷きにされた皇は背中の痛みに眉をひそめる。
「いたた……受け止めようとしたのになんでこんな……」
 起き上がった先に少女の顔がある。びっくりする皇に少女は子供を押し付けた。
「邪魔した罰よ! 責任持ってこの子、保護しなさい!」
「え???」
 ちんぷんかんぷんの皇を無視して少女は上空を見上げた。鳥人は大空へ向けて何か歌っている。
 少女の足もとからじわ、と影が浮かび上がった。
 油のように粘着質なそれは形をとりつつ少女の手におさまる。
 アーチェリーだ。矢を構えた彼女は鳥人に狙いを定める。
「――――散れ」
 構えられた矢の数がぼうっ、と増えた。
 バシュ! と放たれた矢は舞う鳥人をズタズタに貫いた。大勢に一斉に矢を射られたような惨状だった。
(うわー)
 スプラッタ映画でも観ているような光景に皇は青くなる。
 ぐるぐる眼鏡越しでもかなり強烈なものだ。
 空中に縫い付けられた鳥人は、それから……そのまま闇に溶けるように消えてしまう。
「………………………………」
 皇は眼鏡を外し、それからごしごしと瞼を擦った。眼鏡をかけ直し、それからしばらくして。
「ははは。いやぁ、すごい。最近の特撮ってすごいなぁ」
「ナニが特撮よ」
 背後からの声にギクッとして、皇は振り向く。
 先ほどの少女が腰に両手を当てて立っていた。
「いつまで座り込んでんのよ、あんた」
「あ」
 反射的に皇は立ち上がる。腕に抱えた幼い子供の重みに少しだけ目を見開いた。
 少女は周囲を見回し、チッと舌打ちした。
「周辺に狙った妖魔の気配はないわね……。まあいいわ。今日はこのまま帰ろうと思ってたし」
 きびすを返して歩き出した少女に皇は慌てる。
「あ、ちょっと待ってください!」
「…………なによ?」
 ぎろ、と肩越しに睨まれて皇は身をすくませる。
 視線をさ迷わせ、「えっと」と続けた。
「お、お礼を……」
 一般人としてそれは当然だろう。いや、人間として当然のことだ。
 とにかく目の前のこの子のおかげで……助かったのは間違いないわけで。
(ど、どう考えてもこの女の子……一般人じゃ……ないとは思うけど)
「どうもありがとうございました」
 ぺこ、と頭をさげる。顔をあげると、呆れたような表情をしている少女が目に入った。
 ハッとしたように我に返った少女はぷいっと顔を逸らした。
「ふん。いい心がけね。礼も言わないならぶっ飛ばしてやるところだったわ」
 皇は少女を観察した。彼女は高校生くらいに見える。それにどこから見ても一般的な女の子である。
(な、名前くらい訊いても……大丈夫かな。でも、助けてくれた相手の名前を訊くっていうのはよく見るし……)
 名乗るほどの者じゃない、とか言われたらどうしよう。
「あ、俺、観凪皇と言います。恩人さん、お名前教えてくれますか? 今度お礼でもします」
 しどろもどろで尋ねると、少女は皇をじろりと見遣る。一々睨むのは勘弁して欲しかった。
「…………みかげ」
 小さく彼女は洩らした。
「え?」
「遠逆深陰。遠距離の『遠』に、逆さまの『逆』。深い陰で、ミカゲ」
 フツーだ。名前の響きがかなりフツーだった。
「みかげちゃ……」
 声に出してみると違和感が全くなかったが、瞬間、深陰が怒鳴った。
「馴れ馴れしく呼ばないでよ!」
 キーン、と声が耳に響いた。
「だいたいあんた、こんな夜中にウロウロしないでよね! いい迷惑だわ!」
「そ、そんな……」
 なんでそんなことを怒られなければならないのか。皇は混乱する。
「コンビニへ行こうとしただけなんですけど……俺……」
 ぼそぼそ呟いていると深陰に睨まれた。思わず口を閉じる。
 深陰は可愛い顔をしているが、性格はかなり強烈なようだ。
「遠逆さんは、ど、どうしてここに?」
 話題を変えることにする。
 深陰は目を細めた。
「やっぱり、俺と同じようにコンビニ……ですか?」
「……わたしが夜中にコンビニへ一人で行くような、そんな高校生に見えるっていうわけ?」
「えと……学校の部活の帰り……ですか?」
「あんたいま何時だと思ってんのよ。深夜の1時よ!」
 『それらしい』と思うような理由を考えても、どうやら全部違うようだ。
 この年頃の女子高生が夜中にウロウロする理由……理由……。
 皇は散々考えて、なぜか顔を赤らめた。深陰が「ん?」と眉をひそめる。
「あ……と……よ、夜遊び……ですか? え、エンコー……と、とか……」
 バシィッ!
 と、強烈なビンタが頬で炸裂した。
 衝撃に皇の視界が一瞬真っ白になる。
「バッカじゃないの! なにが援交よ! わたしは化物退治をしている退魔士! 化物のいるところに現れるのは当然でしょ!」
 偉そうに言い放つ深陰だったが、皇は痛みに悶絶していた。
「だ、だって制服でうろうろしてるって……もう他に考えつかなくて……。ご、ごめんなさい……」
「ヤラシーわね!」
「ご、ごめんなさぃ……」
 小さな声で謝る皇はかなり小さく見える。深陰に圧倒されているためだろう。
 しかし、皇は気づいた。
(え? 化物退治?)
 目の前に立つ深陰は「退魔士」と名乗った。かなり「一般人」とかけ離れている存在だ。
「とにかく! 変な目に遭いたくないなら夜中にウロウロするのはよすのね」
 じゃあね!
 と言い放って深陰は歩き出す。
 皇はその後ろ姿を眺めていたが、何かに気づいて慌てて追いかける。
「ま、待ってぇー!  待ってください遠逆さぁーん!」
「なによ! まだなんか用なの!?」
「あの、この男の子、どうすればいいんでしょうか……? どこの子供かわかりませんけど……」
 腕に抱えている少年を見下ろして言うと、深陰がフンと鼻息を洩らした。
「知らないわよ。あんたがなんとかしてちょうだい」
「ええーっ! そんなぁ……。一般人はそこまでできませんよぅ」
「はあ? イッパンジン?」
「と、とにかく手伝ってください! こういう時は一人より二人です」
「ちょ、寄って来ないでよ!」
「え? あっ!」
 石に再び蹴躓いて皇は深陰のほうへ倒れた。腕に抱えている少年のことを思って、腕に力を込める。
(この子だけは守らないと!)
 前に倒れていく皇の姿に、深陰は一瞬、避けようとする素振りを見せた。しかし彼女は動かなかった。
「わあ!」
 どしゃ、とまた一斉に倒れてしまう。今日はこれで二度目だ。
「いたた……ん?」
 両腕で少年を抱えて転倒したにしては、痛くない。それもそうだろう。深陰が彼の下敷きになったのだ。
「ど、どこに顔埋めてんのよ! このド変態ッ!」
 上のほうから深陰の声が聞こえたが、皇は彼女にまた殴られて……意識を失ってしまった。



 意識を取り戻したそこは、建築現場だった。
「あれ……?」
 不思議そうにした皇は起き上がる。
「…………夢……?」
 少年も、そして深陰の姿もなかった。
 夜空を見上げると、月が見えた。やけに神々しく……明るい月が。



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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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PC
【6073/観凪・皇(かんなぎ・こう)/男/19/一般人(もどき)】

NPC
【遠逆・深陰(とおさか・みかげ)/女/17/退魔士】

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■         ライター通信          ■
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 ご参加ありがとうございます、観凪様。ライターのともやいずみです。
 深陰との出会い、いかがでしたでしょうか? ちょっと観凪様がドジっこ系に……。
 少しでも楽しんで読んでいただければ幸いです。

 今回は本当にありがとうございました! 書かせていただき、大感謝です!