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■CallingV 【木五倍子】■

ともやいずみ
【6540】【山代・克己】【大学生】
 チリリーン。
 甲高い鈴の音が夜の街に鳴り響く。どこか葬送の音のようにも聞こえた。
 暗い夜道にその音が響いた直後、闇の中から現れるようにその人物は現れた。
「憑物……」
 近くにある街灯が点滅し、そして消えた。
 辺りは闇に包まれる――――。
CallingV 【木五倍子】



 最近、噂を聞く。
 ――鈴の音をさせて現れる少女。
 都市伝説のように広がっているそれに、山代克己は興味を持った。
(これを調べて……レポートに書けるかもしれないしな)
 そんな打算もある。都市伝説というのは民俗学でもある。なぜそんな伝説があるのかを調べるのも面白いものだ。
 噂の元になる少女とは一体何者なのか? なぜ鈴の音なのか?
「え? そーだなー」
 同じ講義を受けているクラスメートも、その噂を知っていた。試しに訊いてみることにする。
「俺が聞いた話によると、なんでもすっげー美少女だってよ!」
 鼻息荒く言うクラスメートの言葉に、克己は「へえ」と小さく応える。
 雪女の伝承だって、だいたい美人が多い。そんなことは尾ひれに決まっている。
「鈴の音がするって噂だけど」
「それ、私が聞いたことある」
 と、隣の席の女生徒が言った。そういえば彼女はよく同じ講義で見かける。
「なんでも……みんなに聞こえるわけじゃないんだって!」
「みんなに聞こえない?」
「そう! 聞こえる子もいれば、聞こえない子もいるんだって! しかもね、聞こえる子のほうが少ないの!」
 さすが女子。噂好きなだけあって、よく知っている。克己も耳にしていない情報だ。
「じゃあ……この噂って、聞こえる子が広めたってことか……?」
「だって不気味じゃない! 自分にだけ聞こえるとか」
「えー、美少女が出てくるんじゃないのかー? 美少女の幽霊だって俺は聞いたぞー!」
 反対側から身を乗り出して言うクラスメートに、彼女は眉を吊り上げる。
「確かに鈴の音が鳴ったすぐ後に女の子が出てくるって、どこかで聞いたけど……美少女ってのはおかしいわよ! 絶対ブサイクよ!」
「なんでだ!」
「きっと恋人に振られたとかそういう女の子の幽霊なのよ! 美人が振られることはまずないもの」
 そりゃそうだ、と克己は思った。いや……でも美人でも性格が悪ければ振られるし……。
 黙っている克己を無視し、二人はやいやいと言い合う。
「待てよ! 美しい女に化けて出てるのかもしれないぜ? 取り憑くとか、あるじゃないか!」
「まあ……それなら」
 彼女は「うーん」と唸った。
 克己としてはそのへんはどうでもいい。
 鈴の音をさせて現れる少女。だが、その噂には「あること」の尾ひれがついていない。
 今もクラスメートが言ったが……男が取り殺されるとか、誰かが死ぬとか、そういう類いの噂がないのだ。
 自分にそっくりの人間を見たら死ぬ……そんな感じで、だいたい噂には不吉なものが付きまとう。
(鈴の音をさせて出現する……かぁ。その先の噂がないんだよなぁ)
 ぼんやりと天井を見上げる。
 噂の原因とはなんなのだろうか? その噂の元である何かの事件や事象があるはず。克己はそれに興味を抱いているのだ。
「その……鈴をさせて現れた女の子、誰も見たことないんじゃないの? だったら美少女っていうのはデマかもな」
 小さく言うと、横のクラスメートが「ええー!」と声をあげた。
「せっかく会うなら可愛い子がいいに決まってるって! 山代はそう思わねーの?」
「……僕は別に」
「私……かっこいい男の人のほうがいいなあ。なんで『女の子』なんだろぉ」
 はあ、と溜息をつく反対側の彼女は、講義の始まるチャイムの音に筆記用具を慌てて鞄から出した。
 講堂に入ってくる老人がこほん、と軽く咳をした。
「では出欠をとる」
 老人の声を聞きながら、克己は手元にあるノートにこそこそと書き出していた。
 鈴の少女の噂について、だ。
 美少女かもしれない、ということ。鈴の音は特定の人間にしか聞こえないらしい、ということ。
(問題は……その噂はどこからってことだが……)
 克己が知っている限り、場所はあちこちある。一定の場所から広まったわけではない。
(鈴の音……どこに行けば……)



 色々と噂を調べていくと、奇妙なことが判明した。
 その音がする場所というのは、曰くのある場所が多いらしい。
(事故が多い場所……それに、病院の近く……妙な死体が転がっていた工場……)
 怪異。それに関連する場所が多い。
(じゃあ……化け物とか、幽霊、妖怪の類いか?)
 そうとなれば探すのは得策ではないような……気もしないではない。
 とりあえず噂の出所を探していた克己は、自身の左の瞼を軽く擦る。
 克己の能力であるセコンド・サイト……千里眼や透視もできるものだが、果たしてこれに使えるものだろうか?
(噂の元か……。実はただの女の子だった、という説も……ありえなくはないしなぁ)
 尾ひれがかなりついて、美少女だの、鈴の音だのついたのかもしれない。
 噂とは、案外呆気ないものだったりすることもある。
 問題は、その少女が正体不明ということか……。
(セコンド・サイトで見つけられるか……)

 しかし、克己の能力はこれに関しては全く役に立たなかった。
 そもそも噂がかなり曖昧なのだ。
(明日大学でまた聞いてみるか……)
 そのほうが早そうだ。とはいえ、もうあらかたの噂は集めている。
(案外、鈴の音って……その子が持っている鞄についてるキーホルダーってことも考えられるしなぁ……)
 調べに調べて、結局何もありませんでした……だとしても、別に構わない。
(次の公園も妙な噂が多いところか……。手招きする子供が出るとか……)
 まあものは試し。ちらっと見てどこもおかしくなければ帰ればいいのだ。
 克己は公園までの道を進み、そこにやって来た。
 公園は時間のせいもあって、誰も居ない。
(……まあ当然か。もう夜の九時だしな……)
 あちこちをウロウロしていてこの時間だ。今日はここで最後にしよう。
 手招きする子供など、居る様子は無い。
「………………」
 克己は公園の中を塀の外から見遣り、軽く嘆息した。
 その時だ。
 リーン、と鈴の音がした。
「っ」
 澄んだ高い音だ。風鈴の音に似ている。
 周辺を見回す。噂の鈴かどうか、を確かめるためだ。
 公園の出入り口のところで克己は視線を止めた。そこに少女が一人、佇んでいた。
 長い髪はツインテール。丸眼鏡をつけている。
 幽霊……というわけではなさそうだ。どう見ても人間である。
(だ、誰……? どこから……?)
 まさか彼女が噂の「鈴の少女」?
 期待半分、怯え半分。
 克己はそ、と近づく。
 少女は俯かせていた顔をあげた。克己のいる場所からもはっきり顔が見える。
 クラスメートの「美少女」という、あの声が脳裏によぎった。
 本当に美少女だ。整った顔立ちにあの丸眼鏡は邪魔に見える。遠くから見れば人形に見間違うかもしれない。
 こんなに綺麗な少女にお目にかかったのは初めてかもしれなかった。
 セーラー服姿の彼女は怪訝そうに眉をひそめた。公園の中を凝視し、それから首を軽く傾げる。
 思案していたらしい少女は何かに気づいてきびすを返すと、公園とは逆方向に歩き出した。
(どこへ行くんだ……?)
 克己は彼女を尾行することにした。
 少女は颯爽と歩き、きょろきょろと左右を見てからまた歩く。その繰り返しだ。何をしているのだろうか?
 ぴた、と彼女は足を止めて振り向いた。
 気づいているはずがないのに、克己のほうにぴたりと視線を止める。
「……そこのあんた、さっきから何してんの?」
 どうやら気づかれたようだ。
 克己は「見つかってしまった以上、仕方ない」という結論で姿を現した。
 なんだか……少し怖い少女だ。
「こんにちは……」
 そっと囁くと彼女は片眉をあげて「こんにちは」と返してきた。
 少女との距離はかなりある。だが真正面から見ると彼女の美貌は強烈だった。
(なるほど……。確かにこれは噂になる……かもしれない。でも、なんで鈴?)
 彼女は冷たい視線で克己を見ると、口を開いた。
「で? わたしに何か用なの? ナンパならお断りよ!」
「いや……僕は調べ物をしていて……。最近、鈴の音をさせて現れるという女の子を探していたんだ」
 初対面なので丁寧に対応したほうがいいだろう。この少女は見た感じ、短気そうだ。
「鈴? ……あぁ、なるほど」
 心当たりがあるのか、彼女は小さくそう洩らした。
「どうしてそんな噂が流れているのか気になって。それで調べてる。都市伝説みたいになっているし」
「…………それは、わたしだけが原因じゃない」
 ぼそりと少女は呟く。克己の耳にそれは届きはしなかったが。
「え? なにか言った?」
「……べつに。それで? そんなの調べてどうするの?」
「噂の原因……元凶がなんなのか、興味があって。昔話や伝承は、なにかしらの要因があってできた、ということもあるし……今回の都市伝説もそうかなと考えて」
 わりと饒舌に説明できている。克己はそう思った。
 なんだか言い訳をしているような気持ちになったが、嘘は言っていない。
「はーん。ようは面白そうだと思ったわけ?」
「…………」
「物好きな若者ね。でも、そういうのって、痛い目に遭ってからじゃ遅いのよ?」
 鼻で笑う少女は腕組みした。
「結論はこうよ。その鈴の音、わたしが原因ね。わたしってちょっと特殊なのよ。わたしと同調できる人は、稀にそういう風に鈴の音が聞こえるみたい。
 ほら。これで満足? 謎は解けたわよ?」
「……それだけ?」
「それだけ。嫌なら『空耳』だと思うのね」
 棘のある声で言い放ち、彼女は目を細めて肩越しに背後を見遣った。
「……チッ、追わないと逃げられるわね」
 再び視線を克己に戻す。
「好奇心は悪いとは思わないわ。でも……命が惜しいなら、わたしに関わるのはやめなさい。いいことないから」
「君は……?」
「あんたに関係ないわ」
 拒絶するような冷たい声で言い放ち、彼女はきびすを返して走り出す。その疾走は、克己に驚きを与えるものだった。
 彼女はあっという間に見えなくなってしまう。
 何事もなく普通が一番の克己にとって、まさに異世界の住人のような少女……に見えた。
「変な……子、だな……」
 名前を訊くべきだっただろうか?
 だが……克己は不安だった。なんだろう……あの女の子は。
(『普通』とか『平和』から……かけ離れたところに居るような……)



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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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PC
【6540/山代・克己(やましろ・かつき)/男/19/大学生】

NPC
【遠逆・深陰(とおさか・みかげ)/女/17/退魔士】

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■         ライター通信          ■
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 ご参加ありがとうございます、山代様。ライターのともやいずみです。
 深陰との出会い、いかがでしたでしょうか? 初対面なので……ほんとうに触りだけな感じになってしまいました。
 少しでも楽しんで読んでいただければ幸いです。

 今回は本当にありがとうございました! 書かせていただき、大感謝です!