■おそらくはそれさえも平凡な日々■
西東慶三 |
【1136】【訃・時】【未来世界を崩壊させた魔】 |
個性豊かすぎる教員と学生、異様なほど多くの組織が存在するクラブ活動、
そして、「自由な校風」の一言でそれらをほぼ野放しにしている学長・東郷十三郎。
この状況で、何事も起きない日などあるはずがない。
多少のトラブルや心霊現象は、すでにここでは日常茶飯事と化していた。
それらの騒動に学外の人間が巻き込まれることも、実は決して珍しいことではない。
この物語も、東郷大学ではほんの些細な日常の一コマに過ぎないのである……。
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ライターより
・シチュエーションノベルに近い形となりますので、以下のことにご注意下さい。
*シナリオ傾向はプレイングによって変動します。
*ノベルは基本的にPC別となります。
他のPCとご一緒に参加される場合は必ずその旨を明記して下さい。
*プレイングには結果まで書いて下さっても構いませんし、
結果はこちらに任せていただいても結構です。
*これはあくまでゲームノベルですので、プレイングの内容によっては
プレイングの一部がノベルに反映されない場合がございます。
あらかじめご了承下さい。
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微かな希望
〜 断ちきれぬ鎖 〜
ぶつかり合う、三本の光刃。
紅色の刃は訃時(ふ・どき)の、そして残る二本は風野時音(かぜの・ときね)のものである。
その刃と刃がぶつかり合うたびに、時音の桜刃と蒼刃は徐々に力を増していく。
光刃同士のぶつかり合いで放出される魔力をそのまま取り込み、自らの光刃に上乗せする――土壇場で時音が編み出した戦術は、明らかに戦況を変えつつあった。
やがて、時音の刃は、訃時のそれを大きく上回る力を持つに至り――ついに、その時が訪れる。
時音の白き光刃を受け止めきれず、訃時の光刃が「折れる」。
その一瞬の隙を見逃さず、時音はもう一本の――歌姫から託された桜色の光刃にて、横薙ぎの一撃を見舞った。
斬撃が、狙い過たず訃時の胴を捉える。
さすがに両断するには至らないだろうが、少なくともかなりの深傷は負わせられるはずだ。
これで、全てが終わる。
時音と歌姫の二人を、そして周りの多くの人々を絡み取ってきた運命の鎖が、ついに断ち切られる時が来る。
時音の心に、その確信が生まれかかった時。
事態は、思わぬ展開を見せた。
斬撃によって刻まれた傷口。
そこから吹き出したのは――漆黒の闇だった。
驚く時音の目の前で、その闇の奥底から、無数の腕が突きだしてくる。
それぞれの手に、紅の光刃を握りしめて。
「――っ!?」
とっさに自らの蒼刃を盾に変化させ、せめて直撃だけでも回避しようとする時音。
けれども、一枚の盾で防ぎ切るには、敵はあまりにも多く。
次の瞬間、防ぎきれなかった無数の紅刃が、時音の全身を切り裂く。
必死の防御のおかげと、事前に東郷大学に発注していた特注のボディーアーマーのおかげで、どうにか即死だけは免れたものの、全身に浅からぬ傷を受け、時音はその場に崩れ落ちた。
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〜 訃時の真実 〜
「……やっぱり……貴方は此処で死ぬ」
遠ざかりかけた時音の意識を呼び戻したのは、歌姫の悲鳴と、訃時の声だった。
目の前に、微笑みを――そう、傍目には弓原詩織と同じに見える微笑みを浮かべた訃時の姿がある。
「私と一緒に……世界と一緒に……これから此処で」
勝利を確信してか、彼女は饒舌に言葉を紡ぐ。
「私は『私と私達』で一つ。私は異常結界に生まれた心そのもの」
わかっている。
訃時が異常結界の化身だということくらい。
「そして異常結界はね? IO2とその夢が生んだ無数の死者の怨念で出来ているの」
それも、わかっている。
IO2の暴走が、異常結界を生み、訃時を生んだ。
だからこそ、この場で決着をつけなければならなかった。
訃時を倒すと同時に、再び未来において訃時が生まれないようにするために。
だが。
訃時の次の言葉は、さすがに時音の予想を超えていた。
「だとしたら……私の中には……『無限に近い私が存在しているということになる』」
その言葉と同時に、訃時の傷口からあふれ出した闇が、一瞬にして無数の亡者へと姿を変えた。
その全てが怨念の化身であり、言ってしまえば異常結界そのものである。
恐らく、訃時はこの世界の全てから――いや、それにしてもこの数は多すぎる。
だとすれば、この世界と、それに連なる全ての時間、全ての世界から、自らの動力となる怨念をこの場に結集させているのだろう。
その影響は、きっとこの部屋、この建物の内部に留まらず、外部にも強く及んでいるに違いない。
このままにしておけば――取り返しのつかないことになる!
「入口から図書館へ! 歌姫さんを連れて逃げて!」
そう叫ぶなり、時音は羽織っていた長衣ごと「鍵」を歌姫と金山武満に投げ、最後の力を振り絞って訃時に突撃をかけた。
状況は――すでに、絶望的なまでに不利。
それでも、もし、まだ勝ち目があるとするなら。
怨念が集中しきるより早く、訃時の中枢として、この怨念を制御している詩織の身体を破壊すれば、あるいは、どうにかなるかもしれない。
そして、訃時が時音のみならず歌姫をも狙っていることを考えれば、彼女を逃がせる最後のチャンスも今をおいて他にない。
いずれにしても、かなり分の悪い賭けには違いないが――もはや、それ以外に打てる手などなかった。
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〜 果てしなき悪夢 〜
時音の全てを賭けた突撃は、分厚い怨念の軍勢の壁によって阻まれた。
闇の奥に姿を現したのは無数の骸。
それぞれが泣き叫び、怒り狂い、あるいは怨嗟の声を上げる様子は、まさにこの世に地獄が現出したというより他にない有様であった。
その亡者たちが、ある瞬間に、まるで号令でもかけられたかのように一斉に時音に斬りかかってくる。
時音は、それを防ごうとして守勢に転じ――それが、命取りになった。
次の瞬間、亡者たちの壁を切り裂きつつ、予期せぬ方向から紅色の光刃が現れる。
この怨念は、訃時の動力であると同時に武器でもあり――極論すれば、ただの道具でもある。
とはいえ――まさか、それをただの目くらましに使うとは!
その不意打ちの一撃を防ぐだけの力は、もはや時音には残っていなかった。
紅の刃が、時音の腹を薙ぐ。
激痛と同時に鮮血が吹き出す。
一瞬意識が途切れ、気がついた時には時音は床に――あるいは怨念の海の中に倒れ伏していた。
そんな時音に、再び優しげな笑みを浮かべた訃時が歩み寄ってくる。
やがて、彼女は時音のすぐ目の前まで来ると、その場に腰をかがめ、時音を抱き起こし――そして、優しく抱きしめた。
「……身体と心が燃えつきかけていたんだね?」
それは、敵に対してではなく、まるで愛する人に対する抱擁のようで。
「もしも……もう少しだけ時間が貴方の味方をしていたならば……貴方は未来をつかめたかもしれないのに」
朦朧とする時音の耳には、その声すら夢幻の彼方から聞こえてくるようで。
混沌に沈み始める意識の片隅で、考えたくない不吉な予想が頭をもたげ始める。
「……その声で……! 何を……」
時音は懸命にそれを振り払おうとしたが、その努力も空しく、声はなおも聞こえ続ける。
「でも……これで一緒。ずっと一緒……」
一緒……誰と?
訃時?
詩織?
――それとも?
「大丈夫。歌姫ちゃんも直ぐに逢わせてあげるから……」
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〜 想い故に 〜
歌が、聞こえる。
――行っちゃダメ!
あの歌が。
いつも支えてくれた、守ってくれたあの声が。
再び目を開いた時音の目の前で、歌声が闇を切り裂いていく。
そして。
「どりゃあぁっ!」
雄叫びとともに、「何か」が訃時を弾き飛ばした。
歌姫とともに脱出したはずの、武満の姿が目に飛び込んでくる。
その衝撃で訃時の腕から離れ、再び冷たい床に横たわる時音を、今度は歌姫がかばうように優しく抱きしめた。
「二人とも……どうして、戻って……?」
時音の言葉に、歌姫はたった一言、こう伝えてくる。
――私は、貴方の恋人だから――。
そんな二人の様子に、武満がパワードスーツの中で大きく息をついた。
「お前たちを見捨てて一人で逃げたりしちゃ、宵子さんに合わせる顔がないからな。
どうせ乗りかかった船だ、こうなりゃ最後までつきあうぜ」
それだけ言うと、彼は二人を守るように一歩前に進み出る。
とはいえ。
歌姫にも、もちろん武満にも、この状況を打開できるだけの力はあるまい。
「……おかげで、迎えに行く手間が省けたわ……」
訃時が嗤う。
客観的に見て、状況は悪くなる一方だ。
ところが。
「悪いが、そう簡単にやられるつもりはないぜ」
武満が。
そして、歌姫が、必死の交戦の構えを取る。
「私に、勝てると……?」
嘲笑うかのように言う訃時に、武満は小さく肩をすくめた。
「わかってねぇな。
『できる』『できない』じゃねぇ、『やる』んだよ。
人間には、例えできなくてもやらなきゃいけねぇ時が――」
その言葉は、しかし、途中で遮られた。
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〜 空気も読まずに萌え者襲来! 〜
辺りに満ちた怨念を切り裂き、ついでに武満の言葉まで断ち切って、辺りに吹き荒れる強力なエネルギーの嵐。
訃時の闇とは明らかに異質な、しかし光か闇かと言われればやっぱり闇寄りなそのエネルギーの正体は――魔王・海塚要(うみずか・かなめ)の「ブル魔嵐」であった。
外の様子から異変を察知したブル魔王が、表での戦闘をやめて自らこの場に乗り込んできたのである。
「ふははははは!
我輩が支配予定のこの世界を汚染する悪い子は何方!?
我輩がブル魔を被せお仕置きをしてくれるわ!!」
あまりにも空気を読まない要の登場に、真っ先に武満が抗議の声を上げる。
「ちょっと待てしばし待てかなり待てっ!
なあ、今俺すごくカッコいいこと言ってなかったか!?
それなのに、よりにもよってブル魔って……雰囲気台無しじゃねえかっ!」
まあ、その気持ちはわからなくもない。
わからなくもないのだが、残念ながら相手は萌え魔王である。
当然、そんなクレームが聞き入れられるはずもない。
「何を言うか!
あのままあんなセリフを言い切っていたらその時点で死亡フラグがバッチリ成立!
それを阻止した我輩には感謝される理由こそあれ、文句を言われる筋合いはないわっ!」
「何だフラグって!? 普通の人間にわからない言葉を使うんじゃねえっ!」
話がかみ合っているのかいないのかすら微妙なまま、周囲を置き去りにして険悪な空気を醸し出す二人。
そうこうしているうちに、やがて要の方の堪忍袋の緒が切れた。
「ぬぬぬ、かくなる上は貴様からお仕置きして――」
しかし、そのセリフも第二の乱入者によって遮られる。
それも、「光学ライフルによって怨念もろとも吹っ飛ばされる」という形で。
もちろん、この状況で姿を現しうる人物で、こんなムチャをする人物は一人しかいない。
「マジカル☆ソージーただいま参上っ♪ 真打は最後に登場するものさっ☆」
そう言い放ち、ビシッとポーズを決めたのは――やはり、水野想司(みずの・そうじ)その人であった。
「歌姫君に武満君っ♪ 彼の治療機会は作ってあげる。
さあさ、だからこの場は一時脱出するがいいさ♪ 後は僕が引き受ける故☆」
グダグダな空気の中でもしっかりおいしいところを持っていく想司に、武満が苛立たしげにこう怒鳴った。
「当たり前だっ! こんなバカバカしい状況で死んでたまるか!」
いや、全くもって同感である――。
ともあれ。
なんだかんだで時音と歌姫、そして武満の三人は「鍵」を使ってこの場より脱出し。
後には、訃時と萌え者という、力の性質は大きく違いながらも互いに絶大なる力を持つ者たちだけが残された。
かくして。
ご近所どころか、世界の命運を賭けた頂上決戦が開始されることになってしまったのである――。
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■ 登場人物(この物語に登場した人物の一覧) ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】
1136 / 訃・時 / 女性 / 999 / 未来世界を崩壊させた魔
1219 / 風野・時音 / 男性 / 17 / 時空跳躍者
0424 / 水野・想司 / 男性 / 14 / 吸血鬼ハンター(埋葬騎士)
0759 / 海塚・要 / 男性 / 999 / 魔王
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■ ライター通信 ■
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撓場秀武です。
この度は私のゲームノベルにご参加下さいましてありがとうございました。
・このノベルの構成について
今回のノベルは、基本的に五つのパートで構成されています。
今回は一つの話を追う都合上、全パートを全PCに納品させて頂きました。
・個別通信(訃時様)
今回はご参加ありがとうございました。
訃時さんの描写の方、こんな感じでよろしかったでしょうか?
ちなみに、今回もセリフの方は、発注文にあったものはほぼそのまま使わせていただきました。
もし何かありましたら、ご遠慮なくお知らせいただけると幸いです。
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