■祠の奥■ |
雨音響希 |
【3342】【ベーレン・アウスレーゼ】【フードファイター】 |
リンク エルフィアは、所属する“組織”からの手紙に頭を悩ませていた。
「うー・・・調査っつっても、俺1人でぇ・・・??」
薄いピンク色の地図はここから山を1つ越えたところにある寂れた村の周辺図だ。
村の中心に赤い丸印がしてあり、そこには“祠”と書かれている。
「祠の奥を調査せよって、なぁんかバチ当たりそうじゃん・・・」
村人の了承は得ているとは言え、なんだか乗り気がしない。
“水天使に逢うは地、炎龍に逢うは天”
祠にはそんな言葉が刻まれているらしい。
それを調査せよと言う事なのだが・・・。
「なんだよ、水天使って・・・炎龍って・・・。特に炎龍なんてヤバそうじゃん・・・」
敵が途中で出現しないとも限らない。その場合、リンク1人では少し心細い。
決して弱くないにしても、あまり戦いには向かない性格なのだ。
「・・・しょーがないな。誰か雇うか・・・」
秘密の祠の謎と、あればお宝と・・・あと、ティクルアの料理で護衛を引き受けてくれる人はいないだろうか。
リンクはそう思うと、ボウっと窓から外の通りを眺めた・・・。
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祠の奥 + 古の詩 +
◇★◇
微かな水音が響くこの洞窟の中。
紡ぐ音は壁に跳ね返って幾重にも重なる。
今が昼なのか、夜なのか、そんな事は分からない。
あの日以来、幾千の月が流れたのか・・・それすらも、朧に霞む。
「王宮には花が咲き乱れ、王妃様の願いは星の彼方」
◆☆◆
ベーレン アウスレーゼは1軒の可愛らしい丸太小屋の前を散歩していた。
御伽噺の中から抜け出してきたような外観は、周囲の風景と馴染んで尚いっそうの事絵本的な絵になっていた。
ふわりと漂う穏やかな雰囲気と、良い香り。
ここは喫茶店『ティクルア』の前―――――
甘い香りに誘われて、中に入ろうかどうしようかと悩んでいると、ふと窓際の席に可愛らしい男の子が座っているのが目に入った。
年の頃なら17,8だろうか?
思案気に眉根を寄せる顔から、なにか“面白そうな話”のにおいがする。
手に持った紙に目を落とし、溜息をつく少年。その視線がゆるゆると持ち上がり・・・
バチリと、ベーレンの視線と合わさる。
「おっとー、ばっちり目が合ってしまいましたわ」
『えっと・・・』
薄い窓ガラス越しに聞こえる少年の声はくぐもって聞こえる。
「なにかお困りですの?」
『えぇ。まぁ・・・でも、とりあえず・・・』
少年が何かを言いかけて立ち上がると、カチャリと音を立てて木の扉が開かれた。
「窓越しに会話するのもなんですし、どうぞ。あ・・・俺、ここのウェイターをしてます、リンク エルフィアと申します」
「私はベーレンと申しますの。ベーレン アウスレーゼ」
ベーレンはそう言うと、リンクの招きに従ってティクルアの中へと足を踏み入れた・・・。
◇★◇
「祠の謎?面白そうですわね」
リンクから大まかな内容を聞いた後で、ベーレンは目を輝かせた。
勿論、それは依頼の内容が純粋に楽しそうだと言う事もあるのだが・・・
それ以上にベーレンの心を捕らえたのは、リンクが依頼料として提示した報酬の内容だった。
即ち、ここの店長であるリタ ツヴァイの作る料理―――――
「そうですね、勿論引き受けますわ」
「本当ですか!?」
パァっと顔を輝かせたリンクの目の前に、ビシっと人差し指を突きつける。
「そうですね、報酬は・・・リタさんのショートケーキとスパゲッティ・・・」
「あぁ、それでしたらどちらもリタは上手く・・・」
「と牛丼とサラダと親子丼とパフェとシチューとドリアとオムライスとサンドイッチと・・・(略)」
「え・・・あの・・・えぇぇぇぇぇぇぇぇーーーーーーーっ!!!!!?????」
「あ、もちろんワインも付けて下さいねー」
にっこりと微笑んでそう言うと、ベーレンはぺこりと頭を下げた。
「では、よろしくお願いいたします、リンクさん」
「ちょ・・・ちょちょちょちょっ!!!まっ!!待ってくださいよーーー!!」
リンクの声がティクルアの中に響き渡る。
それはある一種の悲壮感を漂わせており、店内にベーレン以外の一般客が居なかった事が幸いだった。
普段は物腰穏やかで、優しそうな笑顔を浮かべて接客をしている彼から、まさかこんな声が出ようとは思いもよらないだろう。
「どうしたの?リンク、そんな大声を・・・」
トントンと軽い音を鳴らしながら、階上から1人の金髪の女性が下りてきた。
華奢な体型の女性は、ベーレンとリンクを交互に見比べて不思議そうな顔をしている。
「リンク?そちらは・・・」
「ベーレン アウスレーゼと申します。リタさん・・・ですね?」
すっと立ち上がり、にこやかに微笑むベーレンに自己紹介を簡単に述べると、リタがリンクに視線を移した。
「今日、依頼が入って・・・それで、1人で行くのも心もとないから、ベーレンさんに頼もうと思ったんだ」
「そうなんですか・・・?」
「はい」
「すっごく快く引き受けてくれて・・・」
リンクの言葉には軽い棘が見られたが、リタはそんな些細なことには気を遣わない。
・・・いや、気付かないのだ。
「そうなんですか。それは・・・なにかお礼を・・・」
「お礼って言うか、善意で引き受けてもらったわけじゃなくて、ちゃんと依頼料払うからね?」
「そうなんですか?」
「はい。祠の謎と、それと・・・」
「リタの料理で手を打ってくれるってさ」
その言葉に、リタが目を丸くした。
「私の料理・・・ですか?」
「はい!リタさんのお料理で引き受けさせていただきますわ」
無邪気なベーレンの笑顔に、リタが赤面する。
「そんな、私の料理なんて・・・報酬にならないくらいの代物で・・・あの、えっと・・・とりあえず、祠に行く前に何か口になさった方が宜しいですね。お腹が空いていては力も出ませんし」
小走りで奥へと走り去るリタの背中を見詰める。
「・・・照れてる・・・」
「とても可愛らしい方なんですのね」
「可愛らしい・・・うーん・・・。あ、そうだ。それでベーレンさん。炎龍と水天使、どちらに行きます?俺はどっちでも良いんですけれど」
「そうですわね。私は風と水の属性ですから、水天使を選択しますね」
「良いですね、水天使。なんだか穏やかに事が運びそうで」
炎龍は名前からして厄介事のにおいがするらしい。
龍の名ですでに恐怖ものだが、炎とつくからにはさらに厄介なことこの上ない。
「私の武器は細身剣です。これでもそこそこ腕が立つと評判なんですのよ」
それは心強いですーと、なんら感情の篭っていない声で言うリンク。
まったく信じていないらしいのは心外だったが、いざと言う時に華麗な剣術でも披露すればリンクも考えを改めるかも知れない。
「敵がどういうモノかは分かりかねますが、生物なら私の声による音波攻撃が有効ですね」
「声・・・ですか?」
「はい。無生物でも声によるフォノンメーザーで防御値無視の大ダメージを与える事は出来ますが・・・」
そう言って、チラリと意味ありげにリンクに視線を向ける。
「・・・味方にも被害がでるので、できたらしないほうが・・・」
「絶対止めてください!絶対やらないでください!やったら怒りますからね!!」
椅子を蹴って立ち上がったリンクの頭を、トレーを片手にやってきたリタが軽く叩く。
「・・・った!!」
「騒々しいですよ、リンク」
「だって、ベーレンさんが・・・!」
「私、正直に申し上げまして頭はいいほうではありませんけれども、勘は鋭いんですのよ」
ベーレンとリンクの前に、美味しそうなサンドイッチが置かれる。
真っ白なお皿の縁には黄色い小さな花が描かれており、不思議な色をした蝶がその周りを飛びまわっている。
「ですので、今回の調査でもきっとお役に立てると思いますわ」
小さく「いただきます」と言った後で、ベーレンは1つ、サンドイッチを手に取った。
「報酬の食べ物に関しては、フードファイターの名にかけて容赦しませんわよ?うふふ・・・」
不気味な笑いを張り付かせながら、パクリ・・・一口サンドイッチをほうばった。
味の方は中々美味しい。
これならば、他の料理も不味いと言う事はないだろう。
味のランクは十分だった。
問題は――――――量のほうだった・・・・・・
◆☆◆
ティクルアから出て、竜樹(りゅじゅ)の鳥に乗って山を一つ越えた場所、人里離れたその村の中心部にある祠。
その前に着いた時、リンクのとった行動にベーレンは唖然とした。
「ここが祠ですー!とりあえず、下に進みますね」
そう言って、ゲシっと祠を蹴っ飛ばしたのだ。
そうすることによって祠が傾き、通路の中へと入れるようになっているのだが・・・それにしたって手荒すぎる気が否めない。
続く階段を下り、岩肌がむき出しになったトンネルを突き進む。
ヒンヤリと奥から感じる風は冷たく、時折天井から雫が落ちてくる。
狭い通路は1人分しか幅がなく、ベーレンはリンクの後に続いた。
数歩先を進んでいたリンクが突然「あっ」と声を上げて立ち止まる。
「如何いたしましたの?」
ベーレンの質問を無視して、リンクは奥へと進んだ。
・・・そこは先ほどまでの狭い通路とは違い、随分と開けた場所だった。
天井へと伸びる1本の柱の周囲には、なにやら奇怪な文字が羅列されており、その近くには小さな台座が置かれている。
台座の上には四角い穴が数個開いており、その下には柱に刻まれたものと同じ文字が書かれたブロックが数個落ちている。
「ここで行き止まり・・・ですか?」
「きっと、この穴にブロックをはめ込めば良いんですよ」
「・・・適当に・・・は、ダメですね、きっと」
「恐らく。・・・穴の数は5つ、ブロックの数は30・・・。柱の文字を解読しない限りはどうしようもないですね」
「解読できますの?」
「えぇ。この柱の文字は・・・なかなか古いですね。この辺りで古来使われていた文字です」
柱をジっと見詰めるリンクの隣で、ベーレンもソレに習う。
しかしベーレンの目には、文字はただの記号の羅列にしか見えない。
せいぜい幾つか同じ“記号”が数行おきにあるのが分かる程度だった。
「面白いですね。1行目と2行目は使われている文字が違います。1行目と3行目に使われている文字が同じで、2行目と4行目が同じです」
「偶数行と奇数行で使われている文字が違うと言う事ですの?」
「そうですね。きっと、どちらかを読まなければ正解ではないんでしょう」
「読めますの?」
「えぇ。・・・訳しましょうか?」
リンクの言葉に、ベーレンはコクリと頷いた。
この、記号にしか見えない“絵”に何の意味が込められているのか・・・ベーレンの好奇心が疼いたのだ。
「奇数行は・・・“古より伝わりし秘宝を抱き、長く眠るは幼き少女。紅蓮の炎に身を任せ、聖巫女を守る聖なる獣の名を刻め”」
「なんだかまどろっこしい言い回しですのね」
「偶数行は・・・“神々に祝福されし、蒼の妖精。かの者たちの話を聞く時、閉ざされし歴史が再び開く。かの者たちの名を刻め”」
ベーレンはまどろっこしい言い回しの文句に頭を悩ませていた。
どうしてもっとストレートに言ってくれないのだろうかと、そればかりが頭の中を過ぎる・・・。
「恐らく、偶数行を読めば良いんでしょうね。蒼の妖精ですから・・・」
リンクが散らばったブロックの中から5つのブロックを取り出すと、穴にパチリとはめた。
「きっと“す・い・て・ん・し”で合ってますよ」
「それならば、奇数行は“え・ん・り・ゅ・う”ですのね・・・あら?どちらも5文字ですのね」
―――――パチリ
ベーレンの言葉の途中で、最後のブロックがはまった。
柱がゆっくりと回転し、真ん中からパッカリと2つに裂ける・・・
「凄い技術ですわ・・・」
あまりの迫力にポカンとしてる2人の目の前で、柱の中心に階下へと続く階段が現れた。
ヒンヤリと冷たいソレは水の匂いを含んでおり、楽しげな歌声までもが上ってくる。
「どうやら、水天使は友好的な存在みたいですね」
安堵したような表情でリンクはそう言うと、トントンと石の階段を下りていく。
その背後にベーレンも続き・・・楽しげに聞こえる美しい旋律に、耳を澄ませた。
◇★◇
地下の部屋は全面水色で、壁の岩肌すらも透けるように美しい淡い色をしていた。
足元には七色に光る水がキラキラと、光もないのに輝いていた。
「綺麗ですわ・・・」
ベーレンの口から零れた言葉は半ば無意識に、小声にも拘らず大きく響いた。
聞こえていた歌声がプツリと途切れ、なにかが奥から此方へ歩いてくる。
パシャパシャと、水を蹴る音が響く。
それは確かに二足歩行をしており、奥の暗がりから現れたのは人の姿をしていた。
青い瞳は角度によって色を変え、丁度足元で揺れる水と同じ色をしている。
腰近くまで伸びた髪は青みがかった銀色で、肌は真っ白だ。
「お迷いになられまして?」
「え?」
「王宮からの使いの方は、度々ここに迷い込まれますの。それは時に王妃様の御心によることも御座いますけれども、大抵はお迷いになられてここに足を踏み入れてしまいますのよ」
王宮?王妃?彼女の言っていることはよく分からない。
見た目は10代後半から20代前半くらいで、言葉遣いは至極丁寧だ。
悪意もなにもない瞳は純粋で、事実しか述べていないようだった。
「私たちは、ここに調査に来たんですの」
「調査?王様から言われてですの?それとも、王妃様かしら・・・まぁ、わたくしたちの歌声は、そんなに大きく響いてしまいまして?」
「いえ、そうでなく・・・」
どうにも話がかみ合わない。
ベーレンとリンクは困ったように顔を見合わせた。
「どう言う事でしょうか・・・」
「・・・私、思いますに・・・あの柱にかかれていたことと関係があると思いますの」
「柱に書かれていたこと・・・?」
“神々に祝福されし、蒼の妖精。かの者たちの話を聞く時、閉ざされし歴史が再び開く”
「ここには元々王宮があったってことでしょうか?」
「それは分かりませんけれど・・・」
「貴重な歴史の証言になりそうですね。話を聞いてみましょう」
ベーレンとリンクの話を黙って聞いていた“水天使”は、ニコニコと笑顔を向けると2人を奥へと案内した。
水は本当に薄く張っているだけで、靴すらも濡らさないほどだった。
時折ポチャリと音を立てて天井から水滴が落ちてくるほかは、なんの音もしない空間だった。
「お姉様たちは、驚いて歌うのをやめてしまわれたのね。けれど、大丈夫ですわ。貴方様がたは決して悪い方ではないのですから」
「私、ベーレンと申しますの。こちらはリンク」
「まぁ、素敵なお名前でしてね。わたくしは“ソフィナ”と申しますのよ。あと、ここにはお姉様が2人と妹が1人、そしてお母様がいらっしゃいますの」
「・・・全員で5人ですか?」
「えぇ。お母様は“オウナ”、1番上のお姉様が“セラフィー”わたくしのすぐ上のお姉様が“シャイラ”そして、妹は“エリーン”と申しますの」
ソフィナはそう言うと、パチンと1つだけ手を叩いた。
目の前にある石の椅子の上に座るように2人に指示し・・・どこからともなく、綺麗な歌声が響いてきた。
それは何処の言葉とも分からない響を持っており、けれど隣に座るリンクにはその意味が分かるのか、時折頷くような仕草を見せている。
「お母様もお姉様たちも妹も、恥ずかしがりやなんですのよ」
「あなたは違うんですの?」
「わたくしは、外の世界に憧れておりますので・・・」
美しい王妃様は毎年ここに遊びに来られ
美しい音色の楽器を置いていく
外の世界は如何ですかと聞けば
相も変わらず平和に染まっていると微笑む
花の都を過ぎれば水の都
その向こうの都市は知らねども
続く平野は新たな町への道標
魔も聖も人も
全ての人が共存している都
争いもなく
時の流れは緩やかで
まるで全てが止まってしまったかのように
穏やかで優しい都
「その都に、名前はあるんですか?」
「おかしなことを聞く方でしてね。ベーレン様も、リンク様も、その都よりここに来られたのでしょう?」
「・・・えっと・・・」
「“レーリア”が花の都“ソワル”が水の都でしてよ」
リンクがソフィナの言葉を持っていたノートに書き記す。
「レーリアは聖女のティレイア様が治める都。ソワルは天女のエスカリア様が治める都」
「どちらも女性が治めているのですね」
「えぇ。・・・だって、そのほうが・・・」
言いかけたソフィナが、なにかに気がついたように顔を上げた。
「また誰か迷い込まれたようですわ」
「え?」
「水の響が違いますでしょう?この靴の音は、王宮の方ですわ。・・・そう言えば、貴方様がたは随分と不思議な恰好をしておいでですのね」
「えぇ、俺達は別に王宮のつかいじゃなく・・・」
「まぁ!それは本当でして?・・・もしかして・・・いえ、もしかしなくても、貴方様がたは遠い国からやっていらしたんじゃなくて?」
「え?」
「この場所は、不思議な場所。遠い世界同士が通じ合う場所。時を越えた世界をもまたにかける場所・・・」
「・・・未来と過去が繋がる場所ってことなのかしら?」
「そうだとしたら、まずい事になる・・・」
ベーレンのおっとりとした言葉にかぶせるようにリンクがそう言い、ソフィナもその意見に賛同する。
「貴方様がたは、不思議な存在。この世界に混乱はまだ必要ありませんの」
「帰りましょう、ベーレンさん」
「そうですわね。なにやら厄介な事になりそうな感じがしますわ」
「もし、またこの場所にいらっしゃることがあるならば、その時はティレイア様にお会いになられると良いわ。妹のエリーンに案内させます。きっと、ティレイア様ならば時の繋ぎ目のこの場所の事もよくご存知でしょうから」
楽しいお話が聞けるかもしれませんわ―――――
そんなソフィナの言葉を待たずに、ベーレンとリンクの視界は闇で覆われた。
背後から近づいてきた何者かによって視界を遮られ・・・そのまま、意識が遠退いた・・・
●時の繋ぎ目
ふっと、目を開ければそこは暗い場所だった。
ポチャンと、水がどこかから滴り落ちる音が反響している場所だった。
「ここは・・・」
「うっ・・・」
「リンクさん!?」
「あ・・・ベーレンさん??って、どこにいるのかわからないですけど・・・」
直ぐ隣でリンクが起き上がる気配を感じ、そちらに手を伸ばす。
温かい何かが指先に触れ、微かな笑い声が起こる。
「ちょ・・・!脇腹くすぐらないでくださいよ!」
「すみません。別に、くすぐろうとしたわけではないのですけれども・・・」
ゴソゴソと何かを探る音の後に、カチリと明るいライトがついた。
リンクが持っていたペンライトのスイッチを入れたらしい。
真っ暗だった視界に、ポっと1つの明かりが灯り―――――
「ここは、さきほどの場所・・・ですわよね?」
「おそらく、現在の時の場所なんでしょう」
地面を触ればそこは湿っており、茶色の岩肌が見えている。
あの七色に透ける不思議な水はなく、勿論水天使たちのか細い歌声も聞こえない。
「・・・こんなになってしまっているんですね」
「時の流れは寂しいものですから」
リンクが立ち上がり、ベーレンに手を差し出す。
それに掴まって起き上がると、スカートについた砂を手で払った。
「それにしても、不思議な体験でしたわ」
「そうですね。今度また来たいと思います。ティレイア様にも会いたいですしね」
「・・・えぇ」
ベーレンは小さく頷くと、漆黒に濡れる闇の向こうに目を凝らした。
どんなに目を凝らしてみても、あの美しいソフィナの姿は見えないけれども・・・
「素敵な時間でしたわ」
「俺もそう思いますよ」
「・・・それよりも、どのくらい経ったのかしら?」
「そうですね。そう言えば、時間の感覚が・・・」
「ティクルアに戻って、早速お礼のお料理をいただかなければなりませんわ」
「へ?」
「フードファイターの意地にかけて、必ず完食してみせましてよ!」
「いや!意地なんてかけないでください!ちょ・・・ベーレンさん!!待ってください!!」
叫ぶリンクに背を向けると、ベーレンは階段の方へと歩いて行った。
リンクがベーレンの行く先を照らし・・・階段に足をかけた時、ふっとあの不思議な歌が聞こえた気がした―――――
――――― 花の都を過ぎれば水の都
その向こうの都市は知らねども
続く平野は新たな町への道標 ――――――――
≪ E N D ≫
◇★◇★◇★ 登場人物 ★◇★◇★◇
【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】
3342 / ベーレン アウスレーゼ / 女性 / 20歳 / フードファイター
NPC / リンク エルフィア
◆☆◆☆◆☆ ライター通信 ☆◆☆◆☆◆
この度は『祠の奥』にご参加いただきましてまことに有難う御座いました。
そして、初めましてのご参加まことに有難う御座いました(ペコリ
可愛らしく、ふわふわとした印象を受けるベーレン様。
戦闘シーンがなく、活躍の場面が描けなかったのが残念ではありますが・・・
ベーレン様の雰囲気を損なわずに描けていればと思います。
それでは、またどこかでお逢いいたしました時はよろしくお願いいたします。
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