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■例えばこんな……■ |
紺藤 碧 |
【2470】【サクリファイス】【狂騎士】 |
あなたの時を聞かせてもらえませんか?
どんな時の出来事でも構いません。
あなたのその出来事をここに記しておきたいのです。
どうか、あなたの時を……
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例えばこんな理由
サクリファイスはある人物を探してエルファリア別荘まで来ていた。
コールと知り合いらしいあの黒い少年――アクラ=ジンク ホワイトに出会うため。
それは、ついこの間の出会いと、そしてその中で自分が経験した出来事の真実を知りたかったから。
サクリファイスはそっとコールの部屋の扉を開ける。
そして窓枠を椅子代わりにして逆光の中ページを捲る影を見て取り、ほっと胸をなでおろした。
「会えて良かった……」
安心するようにそう小さく口にしてサクリファイスは扉を開け放つ。
その扉が開く音に気がついて、影も顔を上げたようだった。
「アクラ、だったかな」
「キミはこの前白山羊亭であった子だ。そう、サクリファイスちゃん」
嬉しいなぁ。会いに来てくれるなんて。これって運命? などなど口にして、アクラはそっとサクリファイスの手を取る。加えて、サクリファイスは長いから、サクリちゃんって呼ぶね。なんて勝手に決めてしまっている。
「この前の、コールのことで聞きたいことがあったんだ」
自然とアクラの手の中に納まっている自分の手のことなどまったく気にせず、サクリファイスは言葉を続ける。
「っち……」
小さな舌打ちと共にアクラの手がサクリファイスから離れる。
「うん、まぁいいけど?」
コールの名を出したとたん、いきなり態度が急変したような気がしてサクリファイスは瞳を白黒させる。
「?? どうかしたのか?」
理由など、麗しの女性の口から別の男の名が出て不機嫌にならない男など居ない。まぁ、そんな感じ。
続けて。と促された態度に頷き、サクリファイスは言葉を続ける。
「あれは、コールの記憶で、いいんだよな?」
白山羊亭で1冊の本を手にルディアと話していたアクラは、あれがコール自身の物語だと言っていたのだ。そう、あれはコールの記憶だと。
「そうだよ」
そして、あっさりと返ってきた返事に促されるようにまたサクリファイスは言葉を続ける。
「つまり、もう、すでに起こったこと、なんだよな……?」
念を押すようなその言葉に、アクラの表情が少し変化したのが見て取れた。
「何が言いたいの?」
自分でもとても残酷なことを問うているような気がする。だって、この答えを聞いてしまったら、本当に―――
「……物語の中では、彼の弟を助けられた。でも、記憶、だとしたら……?」
サクリファイスの口調がどんどん途切れ途切れになり、声音も落ちていく。
アクラもサクリファイスが言わんとしている事を感じ取ったのか、真剣な面持ちでその場に立ち尽くす。
それでも止められなくて、掠れてしまいそうな声音で言葉を続ける。
「……悪夢は終わったかもしれない。でも」
「分かってるよ」
揺れるサクリファイスの瞳を真正面から射抜くアクラ。
「コールが記憶を取り戻したら、でしょ?」
そうして紡ぎだされた言葉に、サクリファイスはこくんと頷く。
「起こったことは覆せない……」
そう、いつかコールが記憶を取り戻したなら、その時は“弟が死んだ”という現実と向き合わなくてはならない。
「わかってはいるけど、何だか、やりきれなくて」
皆と協力してコールとそしてあの子を助けたのに、それが全て物語の中だけの話である事が、どうしてもやりきれない。しかも物語りはコールの過去。今を生きるサクリファイスには何も出来ない事が分かっている分余計にそう思ってしまった。
「あのさ、サクリちゃん」
そっと手に持っていた本を空いた机に置き、アクラはふっと息を漏らす。
「あの子が死んだかどうかなんて、本当は誰も知らないんだ」
「え?」
アクラは少しだけ悲しそうに眉を寄せたまま、それでも悪戯っぽく笑う。
「覚えてる?」
物語の最後は『遺体の無い墓標』だった事を。
「それは、つまり……」
「コールは死んだと思い込んでる。だから、あの結末だった」
今でも生きている可能性がある。
ただ、アクラを含めコールも時空を超えてソーンへと来てしまったから、それを確かめる術が無いだけなのだけれど。
「そうか…それなら……」
微かに芽生えた希望にサクリファイスは安堵と微笑みがもれる。
「悪夢を変えただけで、コールにあの子が生きている可能性を持たせる事ができたのさ」
だから全てが無駄じゃないんだよ。と、アクラはサクリファイスを励ますようにして言葉を締めくくる。
そのまましばし談笑でもして帰ろうかと思っていたサクリファイスだったが、もう1つ聞きたい事があったことを思い出し顔を上げる。
「……ああ、それと、これは余談だが……」
そしてサクリファイスは首をかしげ、
「あの世界での、私の扱いはいったいなんだったんだ? まるで人を珍獣みたいに」
と、少しだけ腹を立てるように口を尖らせて口にした言葉に、アクラの笑いが広がる。
「確かに希少だからね」
「少年と街の人々、兵士達それぞれで微妙に反応が違ったし……あの世界での黒い4枚の翼、何を意味しているんだ?」
「それは、ボク達の世界を説明しないといけないな」
長くなるかもよ? と、付け加えられた言葉に、サクリファイスは構わない。と、頷く。
「OK。まずボク達の世界は、大まかに人40%その他60%で出来ている」
そしてアクラやコール、勿論コールの弟である少年はこのその他60%に入る。
なぜ人とその他なのかといえば、その他は区分が細かすぎて全体から見て何%かなんて分からないから。
まずコレだけで人が世界のほとんど占めるという事がわかる。
「なるほど。私はまずその区分で言う所の“その他60%”に入るわけだな」
「理解が早くて助かるよ」
神妙な面持ちで頷くサクリファイスにアクラはにっこりと微笑む。
「まぁ、人から見ればボク達全てが個体数がとても少ない種族だろうし」
そして、その中でも“種”と“族”ではその個体数もまた代わり、“〜〜種”とつく種族は本当に全体の0.何%と言っても過言ではない。
「そして4枚の翼はこの最希少種となる。と?」
「当たり」
アクラはパチンと指を鳴らして黒い影を背負って笑う。
「それに、ボク達の世界は今争いの真っ只中。戦いに身を置く者はキミの力が欲しいに違いない」
その力とは、自らの寿命を引き換えにし、死者を生き返らせる事。それも一人二人ではない一個師団分を一気に、だ。死と隣あわせの兵士達にとっては、喉から手が出るほど手に入れたい力だろう。
「自分達が生きるために他者への犠牲も厭わないのか……」
その事実にサクリファイスの顔が曇る。
姿は同じでもアクラ達の世界の種族ではないため、自分には彼らが望むような力など持ち合わせていない。しかし、そんな事を彼らは知らないのだから、あの行動は彼らにとって死から逃れるためのものだったのだろう。
「戦争だからね……」
他人のことより自分のことのほうが大事なのさ。
これで兵士達の行動の謎は解けたが、それならば街の人々や少年だって同じ行動をしてもいいような気がする。
「兵士達ほど街の人たちの心は荒んでいなかったって事かな」
「……そうか」
そして少年は、勘違いといえど同じ種族区分に属する者。サクリファイスが間違われた種族に過去に出会ったこともあったのかもしれない。
「伝説に、過ぎないんだけどね」
生き返る。なんて事は―――
実際誰もやろうとしなかったから。
「伝説にも縋りたいほど荒んだ世界……か」
その世界から解き放たれたコールは、記憶は無くとも元の世界でそのまま暮らしているよりは、幸せなのかもしれない。
「今日は話が聞けて良かった」
「何てことはないよ。サクリちゃんのお願いだしね」
今度はコールじゃなくて、ボクのお話をして欲しい所だけど。と付け加えたアクラに、サクリファイスは苦笑を漏らす。
そうして、エルファリア別荘のコールの部屋の窓を開け、去っていく自分に手を振るアクラに、サクリファイスは手を振り返した。
微かな笑みをその口元に乗せて―――
☆―――登場人物(この物語に登場した人物の一覧)―――☆
【2470】
サクリファイス(22歳・女性)
狂騎士
【NPC】
アクラ=ジンク ホワイト(??歳・無性)
時空間旅行者
☆――――――――――ライター通信――――――――――☆
ご参加ありがとうございます。ライターの紺碧 乃空です。ノミ結果お待たせして申し訳ありませんでした。プレイングのほうもまったく同じでなくても構いませんでしたのでお気になさらず。ただ一度考えたプレイングがあるのだし、そのまま流用すれば楽かなと思っただけですので(笑)謎がこれで大まかにですが解けている事と思います。実は細かい種族なども考えてあったのですが、組み入れると話がそれていきそうでしたのであえなくボツにしました。
それではまた、サクリファイス様に出会えることを祈って……
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