■魂籠〜花宴〜■
霜月玲守 |
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【5698】【梧・北斗】【退魔師兼高校生】 |
町外れに、小さな空家があった。ぽつんと存在するその空家は、昼間でもひっそりと佇んでいる為、どことなく気持ち悪い。
心霊スポットだとか、肝試しスポットだとか、そう言う風に認識されている。
しかし霊能者がそこを訪れても、彼らは一様に首を振っていた。何も居ない、と。霊の存在など、見当たらないのだと。かといって、取り壊される事も無かった。取り壊す計画すら、持ち上がっても来なかった。
そんな不思議な不気味さに、人々はそこに足を踏み入れ続けていた。何かしらの理由をつけ、怖いもの見たさのように。無意識に、そこに足を踏み入れなければならないような感覚すらあるのだという。何となく、行きたい。そんな軽い気持ちのまま。
そんなある日、三人の若者がその空家に足を踏み入れた。肝試し、という理由をつけて。だが、入ったのは三人だったが自分の足で出てきたのはたった一人だった。他の二人は突然倒れ、動かなくなってしまったのだという。ただ一人何も無い彼は、慌てて救急車を呼んだ。倒れた二人は、理由の分からぬ意識不明の状態となっていた。
元気な一人に話を聞くと、肝試しに誘ったのは意識不明に陥っている二人だという事だった。二人が執拗に、肝試しをしようと彼を誘ってきたのだという。
彼は言う。二人のうち一人は不思議なサイトで手に入れたというアプリを、もう一人は突如送られてきたメールによって得た画像を持っていたのだと。そして、それからどことなく二人がおかしくなってしまったのだと。
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魂籠〜花宴〜
●序
きらきら、きらきら。眩いばかりの光がそこにある。
町外れに、小さな空家があった。ぽつんと存在するその空家は、昼間でもひっそりと佇んでいる為、どことなく気持ち悪い。
心霊スポットだとか、肝試しスポットだとか、そう言う風に認識されている。
しかし霊能者がそこを訪れても、彼らは一様に首を振っていた。何も居ない、と。霊の存在など、見当たらないのだと。かといって、取り壊される事も無かった。取り壊す計画すら、持ち上がっても来なかった。
そんな不思議な不気味さに、人々はそこに足を踏み入れ続けていた。何かしらの理由をつけ、怖いもの見たさのように。無意識に、そこに足を踏み入れなければならないような感覚すらあるのだという。何となく、行きたい。そんな軽い気持ちのまま。
そんなある日、三人の若者がその空家に足を踏み入れた。肝試し、という理由をつけて。だが、入ったのは三人だったが自分の足で出てきたのはたった一人だった。他の二人は突然倒れ、動かなくなってしまったのだという。ただ一人何も無い彼は、慌てて救急車を呼んだ。倒れた二人は、理由の分からぬ意識不明の状態となっていた。
元気な一人に話を聞くと、肝試しに誘ったのは意識不明に陥っている二人だという事だった。二人が執拗に、肝試しをしようと彼を誘ってきたのだという。
彼は言う。二人のうち一人は不思議なサイトで手に入れたというアプリを、もう一人は突如送られてきたメールによって得た画像を持っていたのだと。そして、それからどことなく二人がおかしくなってしまったのだと。
彼は意を決し、草間興信所に訪れる事を決めたのだった。
●始
選び取りし光は、そこに在るまま。
草間興信所のソファに、梧・北斗（あおぎり ほくと）は座っていた。隣には草間が座っており、真剣な眼差しで対面のソファに座る青年の顔をじっとみている。目の前には草間が入れてくれたコーヒーが置いてあるが、手は付けられていない。
「……以上、です」
青年はそう言い、ようやくコーヒーに手を伸ばした。出されたまま放置されていたコーヒーは、既にぬるくなってしまっている。
「アプリと画像についてですが、それはどういうものか詳しく分かりますか？」
「はい。面白いだろう、と見せられた事がありますから。アプリはゲームでしたね。卵とコミュニケーションとったりして、育てるって言う」
北斗と草間は顔を見合わせる。それは、以前あった事件のアプリゲーム、株式会社ＨＩＫＡＲＩが引き起こした「天使の卵」というゲームに間違いないだろう。
「画像の方は、最初はおみくじがやって来たって言ってたかな。そこで守護神の画像を手に入れてたんです。ちょっと、気持ち悪い感じだったけど」
そちらも、以前関わった事件のものに間違いない。株式会社ＬＩＧＨＴが引き起こした「おみくじメール」だ。守護神の画像と言っているから、こちらもそれで間違いない。
「でも、それが関係あるんでしょうか。……って、これくらいしか思い当たらなかったのは事実ですけど」
青年が苦笑混じりに言う。
「関わっていると見て、まず間違いないと思いますよ。何故なら、あなたが無事だからです」
草間が言うと、青年は「そうですね」と言って頷いた。
「空家って、どこにあるんだ？」
北斗が尋ねると、青年は「ええと」と言いながら、記憶をたどる。友人達に連れて行かれただけなので、しっかりは覚えていないのかもしれない。
「町外れにぽつんと立っている空家です。ずっとこの国道を通っていって」
青年はそう言いながら、窓の外を指差す。説明を聞くうちに、草間興信所から徒歩２０分くらいの場所だという事が判明した。
「どうした、北斗。空家が気になるのか？」
草間が尋ねる。北斗はこっくりと頷き、口を開く。
「何か関係があると思う。だって、ただ意識不明になるだけだったら、別に空家でなくてもいいじゃん」
北斗の説明に、草間が「それもそうだな」と頷く。
「もう一個確認するけど。あんたはアプリもメールもやってないんだよな？」
「あ、はい。どっちもやってないです」
青年の答えに、北斗は「よし」と呟く。
質問は大丈夫だと判断した草間は、青年に向き直る。
「では、調査してみましょう」
「お願いします。何かあったら、俺の携帯にかけてもらって構いませんから」
青年はそう言い、携帯番号を草間に教える。そして、深く一礼をして草間興信所を後にした。
「……ここに来て、繋がったって感じだよな」
ぽつり、と北斗は呟く。
天使の卵と言うアプリゲーム、守護神と言う画像を押し付けるおみくじメール。関連付けられていると分かっていながらも、一体何がしたかったのかいまいち分からなかった事柄たち。
それが、此処に来て「どちらかをやった者が意識不明になる」という事態が起こったことにより、繋がったような感じがした。
北斗は傍らに置いてあった、布に包まれた棒のようなものを掴む。北斗の弓、氷月だ。
「何処に行く気だ？」
「決まってるじゃん。空家だよ」
「空家……まあ、確かに気になる箇所ではあるな」
「というか、むしろ一番怪しい」
北斗はそう言い、ぽんと草間の肩を叩く。
「なんだ？」
「武彦の煙草代が何処から出ているのか不思議なくらい、怪しい」
北斗の言葉に、草間はむっとして「何だと？」と言い返す。
「だって、そうじゃん。いっつも『金が無い』って言ってるのに、絶対煙草の補充だけはしてるし。身体に悪いから止めてもいいんじゃない？」
「身体に悪くても、こればっかりは」
「やめたら、その分金が貯まるのに」
北斗の言葉に、草間はぐっと言葉をつまらせる。そして何か言おうとして口を開き、はっとした。
「今はそんな事を言っている場合じゃないだろう」
「それもそうだ」
北斗はそう言ってくすくすと笑う。草間は「全く」と言って、大きくため息をついた。
「それで、空家に行ってどうする気だ？」
「武彦、忘れたのかよ？俺は『天使の卵』のゲームアプリで遊んだんだぜ」
その言葉に、草間ははっとする。
「そうか……空家に行けば、お前にも何かが起こるかもしれないということか」
「そういう事。何かに出会えるかもしれないし」
北斗はそう言ってにっと笑う。
「でも、危険じゃないか？」
草間は真剣な顔でそう言った。北斗と同じ条件で空家に行った者は、意識不明の重態に陥っている。
「危険なのは、承知の上」
北斗はそう言ってにっこりと笑い、手をひらひらと振って草間興信所を後にする。
「無理はするなよ！」
背中にかけられた草間の声が、妙に嬉しく感じるのだった。
●動
理を以って決まりし道は、戯れにも似ている。
青年に教えられた空家は、割合簡単に見つけることが出来た。町外れまで来ると、極端に住宅や店が少なくなる。空家の周りは、空き地や畑といったものに囲まれていた。もし何か起こったとしても、近隣住人が気づく事は少ないだろう。
「携帯の電波は……何とか大丈夫か」
北斗は携帯電話を取り出して確認する。電波を示すアンテナが２本立っている。これならば、何かがあったとしてもすぐに助けを呼べるだろう。
（思えば、この携帯から始まったんだよな）
北斗はじっと携帯電話を見つめたまま、小さく苦笑を漏らす。
最初にやってきたメールは、携帯電話に直接入ってきたものだ。迷惑メールと同じような感じで「アプリゲームをしませんか」と言っていた。
次に関わった「おみくじメール」を受け取る事は無かったが、それも携帯電話が関連していた。
全てが、手の中に在る小さな機械を中心として動いているような気がしてならない。
「大体、人から決められた世界が正しいわけないっつーの」
北斗はぽつりと呟き、携帯電話をポケットにねじりこんだ。そうしてぐっと拳を握り締め、空家の中に入っていくのだった。
空家の中は、しんと静まり返っていた。もう何年も使われてないのだろう。畳はぼろぼろになっており、襖や引き戸は外れかけている。
一歩足を踏み出すと、ぎし、と板が音を立てる。
「ふっるいな」
北斗は呟き、辺りを見回す。まだ昼間なのに、空家の中は電気が通っていない為か薄暗い。
（気をつけないと、破壊しそうだな）
ずぼっと突如穴が開いて、足がはまってもおかしくない。北斗は慎重に家の中を探索していく。
「特に変な所は見当たらないな」
空家の中を大方回った後、北斗は呟く。中が古く、壊れやすくなってしまっているという事以外、特に変わっているという場所は無い。確かに雰囲気は抜群なので、肝試しをするのにはうってつけかもしれないが。
北斗は玄関と思われる場所に立ち、再び空家の中を見回す。が、やはり何もない。
「家の周りでもぐるっと回ってみるか」
北斗はそう呟き、ため息一つついてから外に出ようとした。
ヴヴヴ。
その瞬間、ポケットにねじりこんでいた携帯が震えた。マナーモードにしているわけでもないのに、音は出ない。
ただ、震えているだけ。
「何だ？」
北斗は訝しげに携帯を取り出し、確認する。未だに携帯は震え続けているままだ。
ぱか、と中を開いても何もない。黒い画面だけがそこに映し出されているのだ。
（黒い、画面？）
北斗は訝しげにじっと携帯電話の画面を見つめる。
「待ちうけが、ない」
北斗が設定している、待ち受け画面がそこには無かった。別に設定をしたとかそういうわけではない。出てくるはずの画像はそこにはなく、ただ真っ暗な闇が続いている。
時計表示も、アンテナ表示も、電池表示も、何もない。
真っ暗な、深淵を垣間見ているかのような暗闇。
「……やっぱり、ここにいるんだな？」
それは、確信だった。真っ黒な画面が、予感をそのまま確信に直結させる。
「ここにいるんだろう？」
既にいるものと断定しての問いかけ。
「アプリゲームも、守護神も。勝手に押し付けておいて、ここでも押し付けか？」
北斗はそう言いながら、氷月の布を紐解く。ぐっと弓の部分を握り締め、備える。
現れるであろう、ものを。
しかし、なかなかそれは現れない。じらしているのだろうか。
「俺も、意識不明にしたいんじゃねーのか？」
北斗は呟き、ぐっと氷月を握り締める。そして弦をぴんと引っ張り、かき鳴らした。
びいん、という音が空家中に響き渡る。
「出て来いよ。いい加減、様子見も出来ただろ？」
びいん、びいん。
かき鳴らされる弓は、静かに静かに空家中に響き渡る。魔を祓う弦の音が、空家中を震わせている。
ヴヴヴ、と再び携帯電話が震えた。弦の音に呼応するかのように。それでも構わず、北斗は弦を鳴らし続けた。
「……行くべき道を、何故阻むか」
静かな声が響き渡った。
弦を鳴らすのをやめて目の前を見つめていると、ゆらゆらと影が出てきて、それは人影となった。
それは、艶やかな女性の姿に変わっていくのだった。
●舞
宴の始まりは甘く、苦しく、恐ろしい。
北斗は女性を睨みつける。携帯電話と弓鳴りに呼応して出てきた人物が、今回起こった一連の事件に関わっている事は疑いようも無い。
「お前、何者だ？」
静かに北斗が尋ねると、女性は無表情のままで北斗をじっと見つめた。
深い闇のような目が、北斗に向けられる。
「何者、とは。良く知っているだろうに」
女性は静かにそう答えた。怪訝そうに女性を見るが、女性はそれ以上口を開こうとはしない。名を名乗る事はしないようだ。北斗は思わず肩を竦める。
「知らねーから聞いてるんじゃん。それとも、何者か当てるゲームでもやってんの？」
「ゲームとは、娯楽であろう。私がやるのは、娯楽ではない」
女性はそう言い、すっと北斗を指差す。
「何だよ？」
「お主には資格があるというのに、それを阻むかのように不愉快な音を発していたな」
「不愉快な音？」
北斗はそう言い、びいん、と弓をかき鳴らす。無表情な女性の顔が、嫌な顔つきになる。北斗はにやりと笑い「これのこと？」と、尋ねる。
「分かっていてやるのは、失礼ではないか」
「失礼かどうかを俺に問うよりも、自分が失礼な事をしてないかどうかを考えるのが筋ってもんじゃねーか？」
「私、が？」
女性はそう言い、北斗を見つめる。「失礼な事など」と呟きながら。
「株式会社ＨＩＫＡＲＩと、株式会社ＬＩＧＨＴっていう二つの会社。あれって、あんたが仕組んでたんだろ？」
北斗の言葉に、女性は小首を傾げる。北斗は「とぼけんな」と言い、強い口調で言葉を続ける。
「人を試すようなゲームアプリに、勝手な自己主張をしやがる守護神。どっちも、あんたが噛んでるんだろ？」
その言葉に、女性はようやく「ああ」と言って頷く。
「人は、愚かだ」
「は？」
怪訝そうに聞き返す北斗に構うことなく、女性は続ける。
「どのような存在であるかを充分に調査し、愚かな生き物であると判断した。よって、人は導かれるべきものとしたのだ」
女性の言葉に、北斗は「何だ、それ」と呟く。そして、じろり、と女性を睨みつける。
「あんた、何様だ？決められた世界が正しいだなんて、下らねー事考えてんのかよ？」
北斗は「ばっからしい！」と吐き捨てるように言い、氷月を構える。
「進むべき道は、自分で決めるもんだ。あんたがそうやって押し付けるようなもんじゃ、決してねーんだよ！」
びいんっ！
力強く弦がかき鳴らされる。北斗の憤りをそのまま反映しているかのように。
「一連に関わったというのならば、お前も見たはずだ。人の愚かさを、導かれるべき存在だという事を」
「確かに、人は愚かかもしれねーな。導かれたら多少はよくなるかもしれねーな」
苛立ちが、憤りが。体の中をぐるぐると駆け巡っているようだった。
無表情に腹立たしい言葉を連ねられる事自体が北斗にとっては驚きで、同時に不愉快極まりない。
「だけどな、どういう理由があったとしても、それはあんたがやる事じゃねーんだよ！愚かでも、導かれないといけなくても、選ぶのは自分自身なんだよ！」
「……なるほど」
女性はそう言い、北斗を見て微笑む。
初めて、微笑む。
そして、北斗が「分かってくれたか？」と言おうとするのを遮って口を開いた。
「お前は面白いが、愚かしい。人の本質を理解しつつも、まだ選ばせるとは」
分かってはいないのだ。
結局、理解しようともしないのだ。
北斗の言葉をそのまま受け止める事はなく、独断を通す。その独断を通さない存在ですら、愚かしいと判断して。
「そんなん、お前だって充分愚かしいんじゃねーか！」
北斗が言い放つと、女性の表情が変わった。微笑んでいた表情は、一変して冷たいものになっていた。
「ごちゃごちゃと……よく喚く！」
女性はそう言うと、掌を緩やかに上へと向ける。すると掌の上にいくつもの黒い礫が発生した。
一つ一つが、人の悪意。負の感情。
それらが黒い光となり、女性の掌の上で舞い踊っているのだ。
女性はある程度数が出来た後、勢い良く振りかぶって北斗に向かって放ってきた。北斗は氷月を握り締め、一閃する。
ガガガガッ、という音と共に礫は弾き返される。
「人は支配されるべきだ。愚鈍な存在である、その身を自覚して！」
「それをお前がするんじゃねーよ！」
北斗は氷月を構え、すっと弦を引く。
そこに、矢は無い。
弦を引く手に意識を集中させ、力を一本の矢として形成させる。鋭く、細く、強く。目の前の存在を、愚かしさばかりを主張する者を、穿てるように。
強固な馬鹿馬鹿しい女性の主張を、貫くように。
「人は、自分の力で道を選び取っていくんだよ……！」
バシュッ！
まばゆい光を放つ矢が、北斗の手によって放たれる。女性はその光に目を細め、手を伸ばす。
「光、この光、は」
手を伸ばす。
彼女にとっては「愚かしい」存在である「導かなければならない」ものが放った、一本の矢に向かって。
光に向かって。
「あ」
ズンッ……！
声と共に、衝撃が彼女の身体に襲い掛かってきた。
北斗が氷月を握り締めたまま、ゆっくりと女性に近づいた。女性の腹に、放たれた矢が刺さっている。
確かに、貫いている。
女性は震える手で矢に触れる。
「これも、人間、か」
そうぽつりと言うと、すう、と姿を消してしまった。北斗が放った矢をその身に受けたままに。
「言うほど、捨てたもんじゃないと思うぜ？」
何者もいなくなり、しんと静まり返った空家の中で北斗は呟く。
暫く何もない空間を見つめた後、くるりと踵を返す。解いた布を、元通り氷月に被せて空家を後にした。
草間興信所に帰る途中、ドドドという崩壊音を耳にして振り返る。
空家が、壊れていっていた。それは全てが終わった事を、指し示しているかのようだった。
●結
全ては終わる。また元の姿となる為に。
北斗は草間興信所で、草間が淹れてくれたコーヒーをすする。言葉は無い。草間はそんな北斗を見て、ぼりぼりと後頭部を掻いた後に「ええと」と口を開く。
「意識不明に陥っていた人たちは、無事に意識を取り戻したそうだ。アプリや画像も、一切消えた状態で」
「そっか。……そりゃ、良かったな」
「そうだな。一件落着って所だ」
「一件落着、だよなぁ」
北斗はそう言い、ため息をつく。
光り輝く矢に向かって伸ばした掌が、妙に目に焼きついていた。導くだとか、愚かしいだとか、そのような事ばかり言っていたというのに、最後には光を求めるかのように手を伸ばしてきた。
光を与える立場のものが、一番光を欲していたかのように。
「何か気になる事でもあるのか？」
草間はそう尋ねながら、煙草に火をつける。軽く心配しているような表情だ。
「そりゃ、あるけど」
「どうした？何があった」
北斗はそう尋ねられ、じっと草間の口元にある煙草を見つめる。じわじわと煙草が燃えている。
「その煙草代、どっから出てるかなーとか」
げほ、と草間が咳き込む。
「お、俺はそういうのを聞いてるんじゃなくてな」
「あと、このコーヒー？薄めてるのかって思うくらい、薄い気がする」
北斗はそう言ってコーヒーをすする。アメリカンコーヒーは多少薄めの飲みやすい味だが、こんなに薄いものだっただろうか、と思いつつ。
「……俺がコーヒーをけちって、煙草代に回してるといいたいのか？」
「まさか。武彦がそんな事をするなんて、これーっぽっちも思ってねーって」
多分、と付け加えて、にやりと笑う。その表情を見、草間は「おい」と突っ込む。
「お前、思い切り疑っているだろう？」
「気のせいじゃない？武彦ってば、妄想被害しまくりなんだから」
草間は「あのな」と言いながら、ぼりぼりと後頭部を掻く。そして、何かを思い立ったかのようにポケットを探り、そこから出したものを北斗に手渡す。
しめて、百二十円。
「それで、好きなジュースを買って来い。それで文句ないだろ」
「ジュースかよ」
北斗が突っ込むと、草間はにやりと笑う。
「何でもいいって言うなら、冷蔵庫にあるものを適当に飲ますぞ？」
草間の言葉に、北斗はちらりと冷蔵庫を見る。一本くらいジュースが入っていそうだったが、北斗は「いや」といって立ち上がる。
「ジュースくらい、好きなのを選んでくる」
「そうか。行って来い行って来い」
草間に見送られ、北斗は手の中の小銭を握り締める。
（俺は、選ぶんだ）
どれだけ選択肢が少なかろうと、小さな出来事だろうと。自分が進むべき道くらい自分自身で掴みたい。
北斗はにっと笑い、自動販売機に向かった。
まずは何のジュースにするかを、選ぶ為に。
＜宴の終わりを選び取り・了＞
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■ 登場人物（この物語に登場した人物の一覧） ■
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【 5698 ／ 梧・北斗 ／ 男 ／ 17 ／ 退魔師兼高校生 】
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■ ライター通信 ■
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お待たせしました、コニチハ。霜月玲守です。この度はゲームノベル「魂籠〜花宴〜」にご参加頂き、本当に有難うございます。
第一話「雪蛍」と第二話「月戯」の結果を反映しつつ書かせていただいております。如何でしたでしょうか。そして、この「花宴」を以って「魂籠」は完了となります。最後までお付き合いくださいまして、有難うございました。
一話完結でありつつも緩やかに繋がっているという世界を、少しでも楽しんでいただけましたら光栄です。
ご意見・ご感想等、心よりお待ちしております。それではまたお会いできるその時迄。
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