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■§2→円滑な外交には『極秘先遣隊』■ |
観空ハツキ |
【1989】【藤野 羽月】【傀儡師】 |
「これは極秘ミッションです」
じっと子らを見つめるのは真摯な眼差し。辺りには緊迫したムードが漂っている。
「我が国と外交を結んだ『月空庭園』を国王が訪問することになったのです。円滑な外交、さらには我らが国王の立派な体面の為に――」
「お父様の場合、体面ってあまり気になさらないと思いますわ」
「そうですわね。むしろどちらかと言うと観光が楽しければそれで良しって感じ……」
「しゃらーっぷ、ですのよ。姫君方」
にーっこり婉然微笑。圧倒的な迫力を有す大輪の花に、普段は我が道突っ走りの双子花も、わずかに後じさった。
ここはグリーンキングダム、王都ミックスベジタブルに聳える王城曲水の中の一室。
ふこふこのソファにゆったりと身を沈めているのは、他でもないこの国の王妃、スピナッチ。でもってその対面にちょっこり座しているのが国王の娘――でもスピナッチの娘じゃないのよ。義理の娘なの――の双子姫、パイナップル・東花とレタス・西姫。
彼女らがここで何をしているかと言うと。先日、グリーンキングダムと国交を樹立した『月空庭園』への極秘調査訪問の段取りについてである。
何でも国王が正式訪問する前に、かの庭園が如何な地であるかをこっそり調べようと言うらしい。
「とにかく、あちらの方々にご迷惑をおかけせず、かつ、決して悟られることなく調査してくることが姫君方へ与えられた使命です」
有無を言わさぬ継母のオーラに飲み込まれ、無言で頷きを返す東花と西姫。っていうか、この双子。さり気なくそういうことは大好きだから否やがあるはずなかったり。
「んー、でも二人だけだとちょっと心許ないから誰か一緒に行ってくれる方を探しましょうか、東花ちゃん」
「そうね、旅は道連れ世は情けって言うものね」
何かが違う、きっと違う。だけど世間は時に無情。
「調査が上手く行ったらご褒美に花火大会を催して差し上げますから、頑張ってらっしゃいな」
かくして、謎の密談は終了したのであった。
「……これは、こっそりついていった方がいいだろうな」
苦労性、長兄パンプキン・北統。
実は彼女達の内緒話を聞きつけておりましたとさ。
さてさて、どなたかご協力頂けませんか?
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§2→円滑な外交には『極秘先遣隊』
「これは極秘ミッションです」
じっと子らを見つめるのは真摯な眼差し。辺りには緊迫したムードが漂っている。
「我が国と外交を結んだ『月空庭園』を国王が訪問することになったのです。円滑な外交、さらには我らが国王の立派な体面の為に――」
「お父様の場合、体面ってあまり気になさらないと思いますわ」
「そうですわね。むしろどちらかと言うと観光が楽しければそれで良しって感じ……」
「しゃらーっぷ、ですのよ。姫君方」
にーっこり婉然微笑。圧倒的な迫力を有す大輪の花に、普段は我が道突っ走りの双子花も、わずかに後じさった。
ここはグリーンキングダム、王都ミックスベジタブルに聳える王城曲水の中の一室。
ふこふこのソファにゆったりと身を沈めているのは、他でもないこの国の王妃、スピナッチ。でもってその対面にちょっこり座しているのが国王の娘――でもスピナッチの娘じゃないのよ。義理の娘なの――の双子姫、パイナップル・東花とレタス・西姫。
彼女らがここで何をしているかと言うと。先日、グリーンキングダムと国交を樹立した『月空庭園』への極秘調査訪問の段取りについてである。
何でも国王が正式訪問する前に、かの庭園が如何な地であるかをこっそり調べようと言うらしい。
「とにかく、あちらの方々にご迷惑をおかけせず、かつ、決して悟られることなく調査してくることが姫君方へ与えられた使命です」
有無を言わさぬ継母のオーラに飲み込まれ、無言で頷きを返す東花と西姫。っていうか、この双子。さり気なくそういうことは大好きだから否やがあるはずなかったり。
「んー、でも二人だけだとちょっと心許ないから誰か一緒に行ってくれる方を探しましょうか、東花ちゃん」
「そうね、旅は道連れ世は情けって言うものね」
何かが違う、きっと違う。だけど世間は時に無情。
「調査が上手く行ったらご褒美に花火大会を催して差し上げますから、頑張ってらっしゃいな」
かくして、謎の密談は終了したのであった。
「……これは、こっそりついていった方がいいだろうな」
苦労性、長兄パンプキン・北統。
実は彼女達の内緒話を聞きつけておりましたとさ。
さてさて、どなたかご協力頂けませんか?
「……もう一度、行ってみたいと思うんです」
可愛らしく小首を傾げれば、ライラック色の髪がふわりと揺れる。同じ色をした瞳は、やや上向きの視線。
多くを語らぬ細君の言葉に、藤野羽月は「何処へ?」と問い返すことなく頷きを返した。
「そうだな、良かったら今度は私も一緒に」
青い双眸がにこやかに細められる。その様子に、リラ・サファトの面(おもて)に満面の笑みが広がった。
何処へ――聞き返さなかったのは、彼女が先ほどまで手にしていたもので大よその予想がついていたから。
何を導くでもないと思われるような真夏の果実、小柄なリラだと一抱えするのに申し訳なさが先立つような大きな西瓜。今日のお昼にでも食べましょうと、冷やそうとして――リラ、固まる事暫し。
様々な世界と交差する聖獣界ソーン。しかし『西瓜』から直接連想する世界はそう多くはないはずだ。ならば、今、彼女の胸の内側に思い描かれているのは――
「何か果物か野菜を自分の名前に冠さないといけなかったんだよな?」
「そうなんです!」
「リラさんは確か……ほうれん草、だったっけ?」
「はい! 王妃様と……お揃いなんです」
リラが手にしたままだったスイカを受け取り、羽月はそれを食物用の倉庫にしまいなおす。おそらくこれを今日の昼食後に食べる、というのは実現しないだろう。
とって返す動きで、簡単な旅支度を整える。
「そんなに遠くはないんだよな?」
「……えっと、港町までは一瞬です。そこから王都までは……少し時間がかかりますけど」
頬に指をあて考え込む仕草は、彼女の愛らしさを引き立てる――が、どちらかと言うと今は西瓜が手の中からなくなっていることに全く気付いた様子がない方が可愛らしい。
すっかり行き先の事に夢中になっているリラの風情に、羽月は表情を緩めながら食料庫から念のための保存食を引っ張り出す。
と、その動作にリラがピクリと我に返った。
「……羽月さん」
やや遠慮がちに名を呼ばれ、どうしたことかと振り返る。
「どうかしたのか?」
「……羽月さん、何のお野菜がいいですか?」
じっと見つめられて、ポムっと両手を打ち鳴らす。手にとりかけていた干した果物が、ころりと床に転がる。
「そうか、私も決めねばならないのか」
「……そうなんです。どうしましょう……王妃様に羽月さんも決めてもらいます?」
「いや――」
それは何となく御免被りたい気がする、何故か。己の身を唐突に捉えた不可思議な予感に、羽月は肩を聳やかす。
「……羽月さん?」
「いや、自分で考える――そうだな」
飛来したのは奇妙な悪寒。何だか受難が彼を待ち受けている……ような。しかし確たる証拠も何もないので、リラには気持ちを取り直した笑みを投げる。
「そうだ、パプリカというのはどうだろう? いつでも色鮮やか、褪せることのない」
「……まぁ!」
喜色が浮かんだリラの表情に、羽月は自分の提案が好評であることを知る。
「それじゃ、行こうか」
相変わらず断続的に襲い来る不可解な違和感に蓋をして、羽月は転がったままの保存食に手を伸ばす。
「……あ、羽月さん。……きっとあちらでは保存食はいらないと思い……ます――あら? そういえば西瓜は何処に?」
そんなこんなで、ご夫婦一組グリーンキングダムへご案内。
羽月氏に出ている受難の相は、吉と出るのか、凶と出るのか――や、受難の相だから吉と出る望みは非常に薄いんだけど。
なんとなく今のうちに……合掌。
★夫妻は王妃と戯れる
「王妃さま、お久し振りなんです!」
「まぁまぁ! さぁさぁ、此方にいらっしゃい♪」
そういって自分の膝の上をポンポンと叩くのは、スピナッチ王妃。それが向けられている対象は勿論リラだ。えぇ、リラです。さぁさ、いらっしゃい。私のお膝の上へ。
「……でも、それでは王妃さまが大変です」
「そのようなことは心配無用でしてよ? 私の可愛いほうれん草さんv」
「……何か色々と間違っているような気がするんだが」
ぼそりと小さく零れた羽月の呟きは、あえなく抹殺――もとい、スピナッチ王妃の小耳にも届いていない。再会を祝す華やかな女性二人の周囲には、幻の花々が舞っているが、彼の元だけ摂氏零度以下。
明らかに、自分は無視されている。
そんな気がしてならない。
リラと羽月がソーンと繋がる時空陣のあるこの港町ルリリアに辿り着いたのは、半刻ほど前。これからゆるゆると王都ミックスベジタブルへの旅路につこうと、二人で仲良く微笑みあっていたところに割り込んできたのは、波打つほどに長く、そして艶やかな緑色の髪。
その髪の主こそ、誰であろうこの国の王妃。
羽月は知らないが、身分のわりに思わぬところに出没しては周囲を驚かせている――目的は主に自分好みの少女の拉致……違った、少女たちへのお茶会へのお誘い(←名目)。
前回この国を訪れたリラは、その魔手……ぢゃなくって、毒牙……でもなくって……えーっと、とにかくスピナッチ王妃にたいそう気にいられ、冠する野菜に彼女と同じ「ほうれん草」を戴く事と相成ったわけだが。
「いや、そんな過去回想より今を何とかしてもらった方が」
「……あら? 羽月さん、どなたとお話してるんですか?」
スピナッチ王妃と一通りの挨拶抱擁を済ませた――ってか、スピナッチ王妃が愛でまくっていただけだが――リラが、一人黄昏まくってる羽月にようやく気付いた。
「いや、誰とも話していない」
「……そう、ですか? 何か……この世のものではない、何かを少し感じたんですけど……きっと気のせいですね」
そう気のせいだ。何故なら世間的にそれのことは電波というのだから。
「だから、そういう説明ではなく」
羽月、電波を一蹴。
その間に、リラはにっこり微笑んで王妃の手を引き羽月と向い合わせた。
「羽月さん、こちらがこの国の王妃さまのスピナッチ様。王妃さま、こちらは羽月さん……私の、旦那さまです」
照れからの躊躇いか、やや言いよどんだ後、リラは頬を薄紅に染めながらスピナッチ王妃に羽月を紹介した――瞬間。
「ふふ、ふふふ」
「なっ……何だ!?」
「……今、雷が落ち……ました?」
見上げる空は雲一つない晴天。天候が崩れる予兆はまったくの皆無。
なのにリラと羽月の二人は、突風と共に金色の輝きがすぐ近くを直撃したような幻聴を耳にした。さらに言うなら、ぞくぞくとしたいや〜な寒気が、羽月の背中だけを襲っている。
人の出入りが激しい賑やかな界隈、どうしてだか地鳴りのようにスピナッチの笑い声だけが響く。
「ほほほ、お二人ともこんなお天気に雷などと。さぁさ、せっかくですもの、あちらでゆっくりとお茶にでも致しましょう」
リラと羽月が察した幻の雷。
それは、これから上がる戦いへの幕開けであった……
「……あら、それでは皆さん、庭園さんにご視察に行かれたのですか……」
「そうなんですのよ。あら、羽月さんのカップが空ですわね。もう一杯、いかがかしら?」
「いえ、私はこれで十分です」
時空陣から程近いカフェの一角、どうやら王室御用達となっている貴賓席。
瑞々しい果実が美しく彫りこまれた木製の丸テーブルには、繊細で緻密なレースのカバー。その上には異国の地より取り寄せたらしい、えもいわれぬ情緒を感じさせるティーセット。
穏やか、かつ優雅な一時を過ごすには絶好のシチュエーション――なのだが。羽月はスピナッチが自ら傾けたティーポットを、失礼にならない微笑で緩やかにかわした。
何故だかは分からないが、彼の直感がそうするようにと警鐘を鳴らしている。ここで気を許したが最後、きっと夜が更ける頃まで深い眠りに誘われるような気がしてならない。寝不足だったならば、それは歓迎すべき事かもしれない。しかし生憎羽月はそんな過剰な睡眠を欲してはいない。
「あら、それは残念」
言いつつ、スピナッチは別のティーポットを何処からか取り出し、自らとリラのカップを満たして行く――って、あからさま過ぎます。王妃さま!
「……あぁ、でもそれだったら、私や羽月さんに聞いて下さればよかったのに」
まぁるいテーブルには距離均等配置で椅子が3つ。せっかくだからと一番の窓際にリラ、その右隣が羽月。左隣がスピナッチ。
「あら? リラさんと旦那さまはあちらをご訪問された事がおありでしたの?」
にこやかに弾む女性陣の会話を、どこか遠いものを眺めるように羽月は机下の気配に意識を集中させた。
――右側から伸びる足(?)に蹴られている気がするんだがっ!
声にも表情にも出さず、水面下の攻防に神経を尖らせる。
「そうなんです。えと……花束を作りにお伺いしたんですけど」
「花束! それはとてもステキな花束が完成したことでしょう!」
どうやら――っていうか、確実に。この王妃さまが自分を敵視しているのは間違いない。が、それでも。高貴な身分にある女性が――女性の部分、特に強調――が、机の下で男性を足蹴にするようなはしたない真似をするだろうか?
疑問を解決するには、垂れ下がっているレースのテーブルクロスをかきあげればよいだけなのだが――ある意味、それも非常に怖くて出来ない。
「……それから、ですね。驚くくらいのハンサムさんが、いらっしゃるんです」
「あらあら、旦那さまの前で他の男性を褒めても良いのかしら? ね、羽月さん?」
予想していなかったところで話題が振られ、羽月わずかにそれに気をとられる。途端に、鋭い刃のような靴先――と思われる物――が膝を掠めた。寸でのところで足を引いたのが功を奏したらしく、怪我を負った様子はない。
「いや……美形だったのは本当のことだからな。しかし、それよりあの庭園を語るのならば、やはり咲き乱れる色とりどりの花々だろう」
冷静に、あくまで冷静に。優雅に泳ぐ白鳥は、その美しさとは裏腹に、水面下では必死なまでに水をかいているとは言うではないか。
まさにそんな心境で、羽月も涼やかな表情で女性二人の会話に加わる。
「そう! そうなんです。あちらは……本当にお花が綺麗なんですよ。この国にはたくさんのフルーツや野菜があるじゃないですか。それと……同じくらい、たくさんの花が咲いていて、それはもう本当に……」
両手を頬をやり、うっとりとその時の光景を思い出しているであろうリラに、羽月も……そしてスピナッチも微笑ましい視線を向けた。
大事な人が美しい思い出に心を馳せる。それを温かく見守る心穏やかな一時――かと思ったら、またも尖った足先が羽月の脛のあたりを掠める。
まったくもって油断も隙もあったものではない。
しかし、リラとの会話を途切れさせることなくのこの偉業は何なのだろう? 本当に本当にほんっとーに、この王妃の仕業なのだろうか?
思わず深刻な表情で考えてしまいそうな羽月。彼は知らなかった、今でこそ王妃なんてポジションについているスピナッチだが、それ以前は国王警護の任に就いていたこの国でも有数の剣士であるという事実を。さらに。品位を損なわないよう美しく笑んでみせるその裏に、筋骨隆々な大男さえ一括で怯えさせるほどの獰猛さを潜ませていることも――って、だんだん王妃がスケールアップしているような。気にしちゃいけないけど。
「ところで。無事に査察が終わったら花火大会とのことだが、王妃は何か準備をされているのだろうか?」
このままでは埒があかない――と思ったかは定かではないが、会話のペースを自分のものにするために、羽月が話のネタを切り替える。途端に、リラもパっと顔を輝かせ、話に食いつく。
「あ! 私、ネズミ花火が大好きなんです。……王妃さまはご存知ですか?」
本人知らぬ間にナイス旦那フォロー。内助の功とはまさにこのこと。美しきかな、夫婦愛←そこまで言うか、このネタで。
「ネズミ……花火? ネズミとは、あの?」
しかもどうやらスピナッチはネズミ花火を知らなかったらしく、完全に気が逸れたようだ。羽月への見えない攻撃が、ふっつりと止まった――って、これで羽月は水面下の猛攻の主を確認できてしまったわけだが。
「はい、あのネズミさんです。えとですね……火をつけるとクルクル回りながら動きまわるんですよ。その姿が、ネズミさんみたいだから、ネズミ花火って」
「類似品にヘビ玉ってのもある。うにょうにょ〜って動くんだ」
「羽月さん、それはダメです。……ヘビ玉はちょっと気持ちが悪いです」
ヘビ玉の話題に、リラが眉を少し寄せた瞬間。何の予告もなく羽月が立ち上がった。
身のこなしは軽やかだったが、盛大な音をたてて後ろへひっくり返った椅子が、彼の動きの激しさを物語る。
「……羽月さん?」
「おや、どうされたのかしら?」
きょとんと目を丸くするリラと、不気味な笑みを浮べたスピナッチ。同じように見える羽月を見上げる視線――しかし、それらに含まれる色は大違い。
単純に驚いているリラと、背筋を凍りつかせるような殺気を含ませたスピナッチ。
スピナッチの知らない話題で羽月とリラが盛り上げかけたことが不満だったのだろう――にしたって、これはないだろ、これは。
羽月が立ち上がった反動で舞い踊るテーブルクロス。ちらりちらりと揺れる度、物騒な銀の輝きが視界に入る。
咄嗟の判断で立ち上がっていなければ、今頃その光――おそらくスピナッチが腰にさしていたショーとソード。もちろん柄抜き――は羽月の袴を無残な姿に変えていただろう。
けれど、おそらく。スピナッチは羽月が避けることを見越していたに違いない。万が一にも羽月に実害があっては、リラとの関係にも影響が出ることは避けられまい。
チラチラと羽月の心の中で小さな炎に火が点る。
「ネズミ花火ですか。それはなかなか興味深いですね」
「王妃さまもそう思われます? あ……でも、あれってどうしてだか、自分の方に来ちゃって怖いんですけど」
「怖い? 危険なものなのですか?」
「……いえ、そういうわけじゃないんですけど。それに……それもクセになっちゃったりして」
「あら、まぁ。そうなんですの?」
何だか微妙なツッコミ所だが、本人たちが楽しそうなので気にしないこととする。それに確かにネズミ花火におっかけられるのがクセになっちゃうの、分かるし。うんうん。
「……何が楽しそう……だ」
と、一箇所で目を瞑っていたら、違うところで新たな火の手が上がる。
立ったままだった羽月の背後に、ゆらりと幻の炎が立ち昇った。めらめらと燃えるのは闘争心。
「おや、旦那さまは如何されたのかしら?」
あくまで素知らぬフリとし通すスピナッチ。しかしぶつかり合う二人の視線は、中央で絡み合い激しい火花を散らしていた。
「王妃……王妃は線香花火というのをご存知か? ヤンキー座りで勝負する、サバイバルゲーム」
「何!? 勝負っ?」
勝負、と言う言葉に、スピナッチが大きく身を揺らす。
「そう……足を肩幅まで広げ、そのまま膝を折り腰を完全に下ろす寸前で静止するという、極限の姿勢『ヤンキー座り』。その状態で手にした細い花火を最後まで絶やすことなく誰が一番長く維持できるか――それが、線香花火の極意!」
「……旦那さまは私にその勝負を挑まれるおつもりかしら?」
「無論!」
「ならば、私もその勝負、受けてたちましょう!」
「……線香花火って……そんな勝負だった……かしら?」
リラの疑問は、轟々と吹きすさぶ二人のソウルのぶつかり合いの前に霧散した――って、何だか話の方向性、変わってきてませんかーっ!?
★たまやー、かぎやーで日は暮れて
「たまやー」
地面が震えるほどの轟音と共に、星々が瞬く夜空に大輪の光の花が咲く。
一発、また一発と。去り行く夏への名残を惜しむかのように。
「かぎやー」
「……羽月さん、その掛け声って何ですか?」
打ち上げ花火が上がるたび、羽月が発する不思議な言葉に、リラがきょとんと首を傾げた。
「……玉屋さんと……鍵屋さんですか? 鍵屋さんはともかく……玉屋さんって、どんな商品を扱ってるんでしょう?」
ふーむっと口元に手をあて考え込む風情は愛らしい。が、考え込むポイントが微妙と言えば微妙。そんな愛妻のほんわか具合に、羽月は相好を崩した。
「私のいた世界での花火の時の合言葉みたいなものかな。花火を作った人を賞賛するための掛け声だったそうだが――だから、たまやもかぎやも花火屋さんということだな」
「はいはい、難しい話はその辺にして。せっかくだから西瓜も用意しましたわよ、あとこれも♪」
エイっと羽月の頭に大きなお盆をドンっと置いたのは、浴衣に着替えたスピナッチ王妃。本日の彼女は晴れ時々雷。落下対象は羽月オンリーだから、避難警報は発令しておりません。
「まぁ! 花火といったらやっぱり西瓜ですよね♪ それに……手持ち花火もこんなにいっぱい!」
「リラさん……その西瓜の山が私の頭上にあるっていうのはスルー?」
「はっはっは、そない細いトコを男が気にしたらアカンでぇ」
どうやらお気に入りのリラの旦那さんというだけで、スピナッチ王妃にいちびられているらしいという羽月の実情に気付いた多祇が、彼の頭上のお盆から大きくカットされた西瓜を一切れ取る――お盆ごととらないのは自分に火の粉が飛んでこないようにする為の処世術。
藤野羽月、今日は本当にいろいろついていない……ってか、大変な一日だった。
彼が王妃と繰り広げた水面下での激闘は、おそらくグリーンキングダムの歴史に深々と刻まれたことだろう。
かくして羽月とリラが王妃番(?)している間に、多祇とスフィンクス伯爵が同行した東花と西姫は無事に月空庭園の極秘調査を完了させた。
彼らが持ち帰った情報に、スピナッチ王妃はいたくご満悦顔になり――なかでもスフィンクス伯爵が身を持って立証した絶好のお昼寝スポットには涙を浮べて喜んだ――ご褒美の花火大会が催される事になったのだ。
しかしここには秘められた苦労話がもう一つ隠されていた。先遣隊が立派に情報収集を成しえた裏に、こそりと隠れてついていった北統やオーマ、そして熾徨の涙ぐましい努力。
「やー、悪筋退治は大変だったな。北統」
「そうですね。オーマさんには幾度もピンチを助けて頂き感謝しています」
しゃくしゃくと小気味の良い音を立てながら西瓜を並んで齧るオーマと北統。二人の間に芽生えたのは男の友情。激しい任務をこなした者同士にこそ、分かち合うに相応しい人生の中の至宝。
そんな二人を恨めしげに眺めるのは熾徨。ゆらりと気配を消して立つ姿は、さながら夏の風物詩のアレ。いっそ呪ってやろうかという気配を発散している様子は、周囲にいる者の背中にイヤンな悪寒を走らせていた。
いったい何があった、陰のフォローチーム。誰かがそう彼女に尋ねてくれれば、少しは熾徨の気持ちも浮かばれるのだろうが――生憎、彼女たちが密かに月空庭園を訪れていたことを知る者はいない……幸か不幸か。
「ふむ、この西瓜は絶品なのじゃ♪ ほら、お前も食べるのじゃ〜」
スフィンクス伯爵が、羽月の頭上の盆から西瓜を一切れ取る。彼の右手には既に自分用の西瓜。新たにとった分は、彼の背中におぶされた子アフロウサギの為のもの。甲斐甲斐しくアフロウサギの世話を焼くスフィンクス伯爵の様子に、場がさらにほっこり度を増す――一部、羽月と熾徨の場所を除いて。
「……何故!? 何故私がこんな事をいつまでもっ!! そうだスピナッチ王妃! 勝負だっ!!」
唐突に羽月がキレた――いや、ここまでよくもったと言うべきか。
彼が頭にお盆を載せたままスピナッチ王妃に突き出したのは線香花火の束。
「……ふ、一度受けた勝負、忘れるはずなどありますまい――ふふふふふ」
両者の間で激しく散る火花。なんだか既にお空の花火より、めさめさ激しい。
「なぁ? 線香花火で勝負って何なん?」
さすがに当事者の二人に聞くのは憚られたのか、多祇が全く動じていないリラに問いかける。
「……えと、ですね。やんきー座りって言うんですか? その極限の姿勢で、どちらが線香花火を長持ちできるか……そういう勝負だそうです」
「へぇ、そらおもろそうやな」
や。面白そうっていうか、なんで『ヤンキー座り』なのかを小一時間問い詰めたい気持ち一杯だが、多祇はそんな事を気にした様子もなく、ふむふむっと納得顔。
「でも……僕が混ざったらお妃さんら気悪くするやろか?」
「……んー……そんなこと、ないと思いますよ」
見れば羽月とスピナッチ王妃、細いロウソクを挟んで真正面から睨みあい中。しかも立派な『ヤンキー座り』で←ここばっかりは羽月指導。
「ホンマ? 僕混ざっても平気と思う?」
「えぇ。……良かったら、私が二人にお願いしてみましょうか?」
「それなら俺も!」
「私も混ぜろ!」
リラの提案に、オーマと熾徨も身を乗り出す。どうやらこの二人も、勝負と聞いたら体がウズウズしてくる性質らしい――勝負つっても線香花火は線香花火だけど。
「いや、ポイントはそこではなくヤンキー座りだな。アレは存外筋肉が鍛えられる良い運動だ。地面に尻をつけずにいることは、やがて足の痺れを誘う――それをいかに平然と耐えるかはワンダホーでビュリホーな美筋である証拠!」
「っていうか、もう筋肉はいいから。とにかく勝負で私のストレスを発散させろ!」
言い寄る二人のあまりの勢いに、さすがのリラもやや引きつつ、わかりましたと小さな頷き一つ。
それから約3分。
一本のロウソクを囲んで、ヤンキー座りで円陣を組むという不可思議な光景が出来上がっていた。
「あらあら、皆さまも負けん気がお強くていらっしゃる」
「線香花火は私の生まれ故郷が産地――負けるわけにはいかない」
スピナッチ王妃がくすくすと笑えば――目は全く笑っていない。それだけで人を射殺すことが出来そうなほどの鋭さでキラリ――羽月が日本出身の意地に胸を張る。
「何をっ! 火を扱う事に関しては私だって負けないっ!」
「俺だって筋肉を使うことなら誰にも負けないぞっ!!」
蓮火族の王としてのプライドを熾徨が滲ませると、オーマも負けじと胸筋ピクピク、おまけに立派な力瘤を作って見事なアピール。
「なぁなぁ、そんなん建前はどーでもえぇから、さっくり勝負しようや! ほら、早せなロウソクどんどんチマくなってくやん〜っ」
おそらく円陣の中で唯一真っ当な感覚を有した多祇――羽月もマトモな感性の持ち主のはずだが、ただ今変なスイッチON中――が痺れをきらして、線香花火の先端を小さな炎の上に垂らした。
その瞬間、ピッキーンっと光が走ったのは競技参加者の瞳の端。
「ほほほ、多祇さまは慌て者ですのねっ、これは駆け引きでしたのよっ」
「いかにも! 最初に痺れをきらして火を点けた人はそれだけ線香花火が終わるのが早いっ!」
「そういうことだっ! 甘いな少年っ!!」
「筋肉フェスティバルカーニバル着火〜っ!!」
「なーっ! そんなんありか!? ちゅーか、この勝負にはそんなん策が必要やったんかっ!?」
どの台詞が自分の発したものかはご想像にお任せ致します。
かくしてまさに戦闘の火蓋は切って落とされた――線香花火だから落としちゃいけないんだけどね。
じっくりまったり、火がついてしまったら無言でジジジジっと可憐な花を咲かせる炎の玉を見守るのみ。
「……スフィンクス伯爵は、線香花火よかったんですか?」
異様な熱気を醸し出す人口密集地をほのぼの見守っていたリラ――ある意味、彼女が一番の大物――が、一人我関せず風のスフィンクス伯爵を振り仰ぐ。
「うむ。火に近づいてこの子が火傷をしたりしたら大変なのじゃ。それにワシはこの美味なる西瓜があればそれでじゅーぶんっ」
辺りを注意深く見てみれば、いつの間にやらそこら中にネコが点在。しかもみんな自分専用の西瓜をカジカジと美味そうに食んでいる。
「ふふ、そうですね……それに、線香花火はそっと静かにやるものだと思いますし」
悪気なく呟かれたリラの一言は、おそらくこの世の殆どの人と一致する意見だろう。けれど、スフィンクス伯爵はアフロウサギのもこもこ頭を撫でながら、ダンディに笑んだ。
「それは、人それぞれ。あぁいう楽しみ方も、あっていいんじゃないかな?」
「……それも、そうですね。人生は楽しんだ者の勝ち……なんですっけ?」
「そうそう。その通り」
日中にお昼寝たんまりで充電満タン状態のスフィンクス伯爵、いつになく――失礼な――真っ当にリラとの緩やかな会話を楽しむ。
すっかり勝負に熱中しちゃってる羽月あたりが聞いたら「私は決して楽しんでいるんじゃないっ!」という抗議の声の一つでも上げそうだが。
「……随分、涼しくなりましたね」
「ふむ、これからは美味しいものがたくさんの季節なのだ」
辺りを撫でるように吹く風は、凛とした芯の強さを内包している。日中の暑さにまろやかに抱き込まれたそれは、もう少し北の地方ではほどなく正体を露にして大地を駆ける木枯らしになるのだ。
グリーンキングダムは間もなく一年で最も収穫に忙しい時期が訪れる。
そして月空庭園には、今日見た彩とはまた違う花々が咲く季節がやってくるのだろう。
「はーい! 変な勝負に熱中してる皆さぁーん!」
「今からドーンと特別な花火を打ち上げますわよー!」
線香花火競争――ただいま物凄い激闘中。やっぱり断然有利は慣れてる羽月。それを果敢に妨害に走るのがスピナッチ王妃。多祇は我関せずと素直にパチパチ、オーマもやや黄昏て花火の中に家族への思いを馳せ中。そして熾徨は小さな火にジレンマ爆発させて一気に引火→消火を繰り返し中――の車座一団から少し離れたところから、姿の見えなかった双子姫の甲高い声が上がった。
「いきますわよー、これぞグリーンキングダム名物!!」
「ナマモノ花火〜」
「……ネーミング、なんだかイマイチですね」
最後の鋭い突っ込みはリラ。うん、旦那さんと別行動してる間に、ツッコミ調子が上がってきたようだ。誰だって乙女は愛する人の前では可愛らしくありたいものだものv
と、妙なハートマークはさておいて。
双子の掛け声と同時に、シュっと短い音とともに微かな光が中空を目指して走った。
直後、天空に開いたのは紫色したドラゴンフルーツ型の花火。さらに追いかけるようにオーマの顔が夜空いっぱいに瞬いた。
「「次々いきますわよー」」
どうやら双子の魔法も関与しているらしい。光の花が咲く直前に、薄ぼんやりとした灯が少女たちの体を包む。
「これは、また」
「粋な演出だな」
オーマの笑顔が空から消えた後に広がったのは、真っ赤なトマト花火と熾徨の顔。
線香花火に集中していた面々も、どうしたことかと空を見上げた。
「あ、今度は僕や」
とげとげした形はどうやって作ったのだろう、アセロラの花火は天を突く槍のよう。その頂点には多祇が笑っている。
「今度は私か」
星の煌きの中に実ったパプリカは、赤や黄色やオレンジと色とりどり。ヘタの先端にちょっと仏頂面気味の羽月の顔が浮かんだが、やがてそれも笑顔に変わった。
「お、ワシじゃな」
今度は小さなオリーブの実にも似た紫色のミラクルベリーの粒が点々と空に散らばった。それからにゃんにゃんにゃんっと小さな子猫たちがミラクルベリーを追いかけて飛び、最後には大きなスフィンクス伯爵のダンディ笑顔の完成。
「……ということは」
最後に、リラ。いよいよ自分の番かと胸の前で両手を組んで、空を見上げた。
予想通り、緑色のほうれん草の葉が空にドンっと広がる。
続いてリラの笑顔がパっと華やかに咲いたと思ったら、並んでスピナッチ王妃の嫣然とした微笑が並んでぽっかり。
「グッジョブ! グッジョブですわ、姫君方!!」
「なんで貴女も一緒なんだっ!」
双子姫にむかってスピナッチが労いの言葉を投げると、羽月がすかさず喰らいつく。
「何を仰るのでしょう。言っておきますけれど私もほうれん草ですわよ? スピナッチ=ほうれん草。偶然並んで何が悪いのでしょう?」
「意図的じゃないのか? そうじゃないのか? 線香花火勝負で負けたからって腹いせじゃないのかっ!?」
「……っ、そんなこと、私がするはずありませんでしょう?」
反論の前に飛来した僅かな沈黙が、羽月の言い分がズバリそのものであることを物語っていたりするのはさておいて。
「まぁまぁ、ケンカはよくない、ケンカは」
日頃冷静な羽月と、それ以上に化け狐の皮を被りまくっているスピナッチ王妃の間に生じた駄々っ子空気に、オーマの声が割って入る。
「ほらほら、せっかくなんだからギスギスするな――ほら、これは俺からだ」
そういうとオーマ、どこから取り出したのか愛用の銃器を肩に担いだ。銃口は遥か高みを目指している。
「これは任務完遂祝いと、外交が結ばれた祝いだ」
音もなく、銃口から気が放たれた。
目に見えない何かが夜気を切り裂き、そして十数メートル上空で軽やかな鈴の音のようなメロディーと共に弾ける。
幻想的な七色に輝く美しい光の花。オーマの精神力を具現化する能力が夜空に描き出したそれは、ちらちらと雪のように人々の下まで舞い降りる。
「これは……美しいですわ」
羽月とにらみ合っていたスピナッチ王妃が、感動の溜息を零す。
「本当に素晴らしい祝いを、ありがとうございます」
怒涛のように過ぎた一日もこれにて閉幕。
どんちゃん騒ぎで、どこに理があるのかさっぱりだったけど――だってそれはここがグリーンキングダムというお国だからということで、さっくり解決。
皆さん、それぞれのお仕事、お疲れさまでした〜
そして月空庭園さんも、ありがとうございました。
「……ところで、全然関係ないですけど。西瓜って野菜なんですか? 果物なんですか?」
はうっ、リラさん突然何ですか(汗)。
そういうわけで、本日の野菜果物豆知識。
日本――ソーンのお話だけど、そこんとこは置いといて――では野菜と果物の判別は、草なのか木なのかで行うそうなので、それで言ったらズバリ「野菜」。
でも甘さが強いので感覚的には果物として扱われてるみたい。
ちなみに、グリーンキングダムでは果物扱いなのでした。
以上、ミニ知識講座お〜終い。
★結局夫婦仲には敵わない
「こら、リラさん。目輝かせすぎだって」
「でもでも、凄いと思いませんか? ほらほら羽月さんもっ」
数本の手持ち花火を纏めて持って――でも持ち過ぎは危険なので、その辺は節度もって――リラがはしゃいだ声を上げて喜んでいる。
日頃は一本一本しか火をつけない花火。
それを一度に数本点けて、まとめて持ったらどうなるだろう?
シャラシャラと音を立てて降り注ぐ、光のシャワー。夏の終わりに舞い込んだ、飛び切り幻想的な光の芸術。
あまりのリラの喜びように、羽月は注意を促しながら、心の中でクスリと笑う。
リラの瞳の輝きようといったら、まるでどちらが花火か分からぬほどだ。
双子姫から送られたナマモノ花火の後、線香花火が尽きたこともあり、花火大会の主流はのんびり手持ち花火を楽しむことに移った。
色んな意味で気が済んだのか、スピナッチ王妃の猛攻も今は絶えている。
羽月にようやく訪れた安寧の時間。
隣でリラがこの上なく幸せそうに笑っていてくれれば、それこそ至福の一時。
「羽月さん、今日は一日楽しかったですね」
「……あぁ、そうだな」
次から次へと溢れ出す眩しい雫に負けないくらいの笑顔で言われ、暫し応えあぐねた羽月も微かな苦笑を交えながらも肯定を返す。
確かにこれが毎日のことだったら、神経がどれほど太くてもやっていけないだろうが。今日一日くらいのことと思えば、何かの時の笑い話のタネにはなるだろう。
そう思えば、スピナッチ王妃との激闘も悪いものではなかったかもしれない――かといって、リラの隣を譲る気は毛頭ないのだが。
そんな夫の心理を知ってか知らずか、リラは手にした花火で光のハートマークを描いてみせた。
「羽月さーん。ハートですよ、ハート。お花さんも描けるかしら?」
「それは……ちょっといいか?」
羽月、手近にあった花火を数歩取り、そのうちの一本をリラの持つ花火に近づける。
妻から夫へ炎の欠片が渡され、羽月の花火からパっと鮮やかな光の奔流が噴き出す。
「こうやって……多少、時間差をつけて」
あとは羽月、花火の長さを加減しながら順々に花火に火を点し――軽快な動きで宙に5枚の花弁を描き出す。
「……わぁっ!」
リラのライラック色の瞳に映ったのは、光の桜。
可憐な花弁が虚空に幾重にも咲き誇る。
「羽月さん、凄いです、凄いです!」
「さすが夫君、素晴らしい技ですわ」
一瞬、桜の花を描き出す羽月の手が止まった。背後から気配を消して忍び寄ったのは――他でもない、スピナッチ王妃。
「ふふ、そんなに警戒しなくても。今日は本当に楽しませて頂いたから」
忍び笑いは彼女の本音が何処にあるかを包み隠す。けれどその気配から先ほどまで彼女が纏っていた羽月への敵意は消えている。
どうやら、認められたって事らしい。いや、根本的に認めるも認めないもないのだけれど。
「また機会があったらいつでもおいでなさい、ほうれん草さんにパプリカさん」
ひょいっと羽月の花火から火を貰い、スピナッチが悪戯気に笑う。それに応えて、リラも「ぜひ、また」と朗らかな笑みを浮べた。
「……まぁ、また機会があれば」
心に妙なシコリが出来てしまったのは仕方ないこととして。
パプリカ・羽月。
その名の通り、案外しっかりしていて丈夫、壊れない――や、違う意味では壊れかけたけど。
ともかくこれでめげずにまたいつかご夫妻で訪れて頂けるよう、王国住人代表して祈っておきます。なむなむ。
「……あら? そう言えばネズミ花火さんはどうなったんでしょう?」
あぁ……それなら。
皆で盛り上がってるうちにちょっと忘れられちゃいまして。
結果として、熾徨さんがなんだかとんでもない被害に遭っちゃったそうです。はい。
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■ 登場人物(この物語に登場した人物の一覧) ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】
0520 / スフィンクス伯爵 / 男 / 34 / ネコネコ団総帥
1879 / リラ・サファト / 女 / 16 / 家事?
1953 / オーマ・シュヴァルツ / 男 / 39歳 /
医者兼ヴァンサー(ガンナー)
1989 / 藤野 羽月 / 男 / 17 / 傀儡師
2166 / 熾徨 / 女 / 18歳 / 煉獄王
3335 / 多祇 / 男 / 18歳 / 風喚師
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■ ライター通信 ■
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こんにちは。もしくは初めまして。ソーンゲーノベ第2弾をお届けいたしますライターの観空ハツキです。
この度は外交において重要な(?)先遣調査ならびに、王妃のお相手をして頂きありがとうございました。
……って言うか。色々な意味で各所で壊れて頂いておりますが……だ、大丈夫でしたでしょうか?(汗)
●藤野羽月さま
初めまして! この度はご夫妻でのご参加、ありがとうございます。
羽月さん……なんと申しましょうか……あの、その……すいませんっ(平身低頭)
お…王妃があんなにライバル心を燃やすとは私も思わず……羽月さんのイメージまで崩壊させておりましたら、本当に申し訳ございませんでしたっ(激謝)
誤字脱字等には注意はしておりますが、お目汚しの部分残っておりましたら申し訳ございません。
ご意見、ご要望などございましたらテラコン等からお気軽にお送り頂けますと幸いです。
この度はご参加下さいまして、ありがとうございました。少しでも皆さまに喜んで頂ける部分があるよう、切に願っております。
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