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■夜と昼の双子 〜輝く名を持つもの■ |
紺藤 碧 |
【3376】【国盗・護狼丸】【異界職】 |
普段人は余り通る事がない路地。だけれどこの道が一番近道だと知っている。
「何とか言ったらどうなんだ、あ?」
そう、時々こう、おあつらえ向きに絡まれている人もいたりする、路地。
やれやれと息を吐き、人だかりの一角に近づいてく。
顔を上げた反動だろうか、絡まれていた人のフードがはらりとはだける。
空がそこに舞い降りた。
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夜と昼の双子 〜優しき巨人
聖都エルザード―――治安も良く、平和な国だと聞いていたが、こういったやからはどこにでも現れるらしい。
国盗・護狼丸は、下っ端が言い捨てるような余りにも目に余る決まり文句の言葉ばかりを放つごろつき達の声にその一角へと視線を向けた。
「何とか言ったらどうなんだ、あ?」
頭一個分ごろつき立ち寄り小さく見えるフードを被ったその人は、ただ黙ったまま俯いている。
「……急がば回れって言うけどさ」
護狼丸はごろつき達にわざと聞こえるように、やれやれと言った声音を含めて一角に近づいていく。
「なんだてめぇは!」
ごろつき達が一斉に護狼丸に振り返り、中心の絡まれていた人物が弾かれるように顔を上げた瞬間、そのフードがはらりと落ちた。
(女の子――だな)
澄み渡る青空をそのまま髪の毛にしたような少女は、まるで太陽のように輝く瞳を持ち、護狼丸をその視線で射抜いた。
「たまには、近道も良いみたいだな?」
護狼丸は人を喰ったような物言いで小さく呟く。
少女の瞳は、どうやら自分が敵か味方か見定めているように見えた。
「てめぇにゃ関係ねーだろ! 引っ込んでろ」
お決まりの脅し文句にどうにもため息が隠せない。
「女の子一人相手にずいぶんな物言いだな。それがこっちの世界の口説き文句か?」
元々護狼丸は、ジャパンという場所で生きてきた泥棒。弱きを助け悪を挫く天下の大泥棒(修行中)だ。
一番絡んでくるごろつきを除いて、他のごろつき達は巨人族と呼ばれるジャイアントである護狼丸の長身に圧倒されてか、すでにぽかんと口を開けてしまっているものさえ居る。
「そんな言葉じゃ、今まで誰も振り向いてくれなかったろう?」
ごろつき達に向けてある種の哀れみさえ感じる口調に、大の男である自分達がなめられているのが分かったのか、ごろつき達の顔が徐々に熟れたトマトのように真っ赤に染まっていく。
護狼丸は予想通りに反応するごろつき達に追い討ちをかけるように挑発の言葉を投げかける。
「ま、言葉以前の問題かもしれないけど、その面じゃあ」
「お前、もういっぺん言ってみろ!」
「事と場合によっちゃただじゃおかねぇぞ!」
完全に護狼丸の口車に乗せられたごろつき達は、それぞれが――護狼丸の身長に圧巻されていた者も含めて――自分達の懐や腰に持っていた得物を構える。
「……俺とやるのかい?」
護狼丸がにやりと笑った。
冷静さを失った者は、ほとんどその太刀筋が単純になる。倒すのはいとも容易い。
「だったら、良いことを教えてやるよ」
無駄な奇声を上げて切り付けたごろつきの一人を余裕の表情で難無くかわし、護狼丸はその手刀をごろつきの首の付け根に入れる。
トスンと小気味良い音がして、ごろつきが地面に倒れこんだ。
気絶したごろつきの一人を見下ろして、にやっと笑って護狼丸が残りのごろつきたちを見る。
「俺は女の子には優しくしろって教えられたが、男にはそうしろとは教わってない」
本気にでもなるのだろうか護狼丸がコキコキと手を鳴らし、関節を確認するように肩を回す。
その後、真正面からごろつき達を見据え、
「優しくは、してやれないぞ?」
その言葉と共に、にっと笑って地面を蹴った。
勝敗は始める前からもう既に決まっていた。
次々と倒れていく仲間の姿を見て取り、ごろつきの足が護狼丸に向っていくことを躊躇った。そんな時。
「お、おとなしくしろ!」
少女の首元に当てられている短剣。
白い肌に銀の刃が良く映える。しかし今はそんな事を言っている場合ではない。
護狼丸は少女を先に自分の後ろに匿っておかなかった事を後悔した。
いや、それでもおかしい事がある。
少女は怯え震えていたわけでも、ましてや腰を抜かしていたわけでもない。護狼丸が乱入してからずっと、ただその場で立ち尽くしていただけ。
しかし少女を助けるために割って入ったのに、少女が怪我をしてしまっては本末転倒だ。
「だから、もてないんだぞ?」
護狼丸は苦笑して両手を挙げる。
「そうだ、おとなし――く……?」
「??」
人質を手に入れた事で躍起づいたごろつきが、卑下な笑いで剣を持って護狼丸に迫ったその瞬間だった。
―――ドサッ!
「何だ?」
圧倒的優勢だと思っていた自分達。
振り返ってみれば、少女の周りで仲間が倒れている。
護狼丸は思わず口笛を吹く。
「おらよっと!」
自分に背を向けたことをコレ幸いと、護狼丸は最後のごろつきを思いっきり蹴り倒した。
「……どこの世界でも、ちんぴらはいるもんだな」
しかもこんな真昼間から悪びれもせず。
完全に伸びてしまっているごろつき達を見ながら護狼丸は少女に近づいていく。
「……と、大丈夫か?」
「近づくな」
鈴が鳴るような声であったのに、その温度は鋭く、まるで氷のよう。
護狼丸は少女の反応にどうしたものかと視線を泳がせ、一つの結論にたどり着く。
「怪我とかしてないならいいんだ」
本当にどこか安堵したような口調に、初めて少女の瞳が驚きに見開かれる。
「何があったか知らないが、こんな路地裏女の子一人じゃ危ない。俺は国盗・護狼丸。行きたい所があるなら、俺で良かったら案内するよ」
女の子は優しくが心情の護狼丸は、それでも勤めて優しく問いかける。
「……助けてなんて頼んでない」
「はい?」
「お人好しだな、あなたは」
少女はなぜか怒っているような表情を崩すことなく言葉を続ける。
「とりあえずあたしはマーニ。一応礼は言っておく」
礼を言うとは言ったものの、その「ありがとう」も十分そっけない。それはそこに感謝の心が無いから。
「お人好しってわけでもないぞ」
そのまま行き過ぎようとしていたマーニの足が止まる。
「あれ? 聞いてなかったか」
「??」
「俺は女の子には優しくしろって教えられてるってな」
「………」
お人好しではないという答えにはなっていないが、その言葉に沈黙のまま立ち尽くすマーニに、護狼丸はしばし考えるように腕を組み、話を戻す。
「……でも、この世界に来て日が浅いから、案内もあったもんじゃないけど」
そう苦笑した護狼丸に、マーニは上から下まで護狼丸を観察し、
「そのようだな」
と、率直な言葉を吐き出した。
「………あはは」
苦笑のまま固まる護狼丸。
瞬間、マーニの視線が護狼丸を通り越し、その固い顔に安堵の微笑がもれる。
(………)
護狼丸はマーニが駆け出した方向へとそのまま視線で追いかける。
「スコール!」
「どこに行ってたんだ!」と、マーニが抱きついたのは銀色の大きな狼。
見つめる護狼丸の先、銀狼にせかされるようにマーニはすっと立ち上がり歩き出す。
そして、数歩進んだ所で、一瞬振り返った。が、すぐさま視線を外し、そこから駆け出していってしまった。
「………」
その場に一人取り残され、護狼丸は肩をすくめて息を吐く。
彼女がなぜ一瞬振り返ったのか、疑問に思いながら。
☆―――登場人物(この物語に登場した人物の一覧)―――☆
【3376】
国盗・護狼丸――クニトリ・ゴロウマル(18歳・男性)
異界職【天下の大泥棒(修行中)】
【NPC】
マーニ・ムンディルファリ(17歳・女性)
旅人
☆――――――――――ライター通信――――――――――☆
夜と昼の双子にご参加くださりありがとうございます。ライターの紺碧 乃空です。
初めての出会いなので、ちょっとそっけないお互いよそよそしい感じですがいかがだったでしょうか。思えばほとんどしゃべらないNPCで申し訳ない。
加えて初発注に当方を選んでいただきありがとうございます。護狼丸様はこのような感じでよかったでしょうか?
それではまた、護狼丸様に出会えることを祈って……
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