■CallingV 【小噺・遊泳】■
ともやいずみ |
【0413】【神崎・美桜】【高校生】 |
噂の全天候型屋内ウォーターレジャーランドにやって来た。
そこで出会う、意外な人物とは……?
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CallingV 【小噺・遊泳】
神崎美桜は、恋人である遠逆和彦と共に、最近出来たという全天候型の屋内ウォーターレジャーランドにやって来ていた。
出来たばかりということもあって、人が非常に多い。夏休みに入っていることもあって、人で溢れ返っていた。
この間買ったばかりのピンクの水着姿の美桜は「あ」とか「う」とか言いながら人の波に流されていた。
(ああ〜、か、和彦さんとはぐれてしまいました……)
せっかく遊びに来たのに。
とはいえ、美桜は泳げないのだからここに来ること自体、和彦は無謀だと言わんばかりの顔をしていたのだが。
「泳げないのに何しに行くんだ?」
と、彼は不思議そうにしていたが、結局ついて来てくれた。なんだかんだ言っても、彼は優しい。
「す、すみませ……」
人の波を掻き分けて進もうとするが、押し流されてしまう。美桜は泣きそうだった。
(どうしましょう……和彦さん、きっと心配してますよね……)
こんなことなら手を繋いでおけばよかった。気づけば自分があっという間に人の波にさらわれてしまったため、対処することもできなかったのである。
「きゃっ」
押された拍子に転んでしまい、美桜は痛みに眉根を寄せる。
すると人込みを掻き分けて誰かが近づいてきた。
「大丈夫ですか?」
一瞬、和彦かと思ったがそうではなかった。
淡い水色のパーカーを着込み、頭にはサンバイザー。水着はオリーブ色のトランクスタイプだ。
遠逆陽狩だった。
「ケガはないですか? 立てますか?」
優しく言ってくる陽狩に驚いていた美桜は、彼が差し出した手を掴んで立ち上がる。
「遠逆さん?」
「痛いところは?」
「えっ、あ、いえ、大丈夫です」
「お連れ様とはぐれられたんですか? 呼び出しでもかけましょうか?」
微笑んで言う陽狩に、唖然とするしかない。一体全体どうしたことだ?
(本当に遠逆さん、ですよね?)
つい先月出会ったことを思い出す。
あの時の陽狩はあまり好意的ではなかった。もしかしたら、お節介なヤツと思われ、嫌われているかもしれないと美桜は不安になっていたほどだ。
「と、遠逆さん、ですよね? あの、私、神崎美桜です。憶えてますか?」
そう言うと、彼は瞬きしてからニッと笑った。
「憶えてるけど、それが?」
口調がガラっと変わる。驚く美桜に、彼は苦笑した。
「で? 呼び出ししましょうか? 相手のお名前は?」
「い、いえ。それには及びませんからっ」
「そうか? でも一人じゃ大変だろ?」
それは確かにそうだ。
せっかくなのだし、彼ともっと話してみたい。
(そうですよね。偶然なんて、ないですし)
お互いのことをよく知りたい。友達になりたい。
それにはまず、コミュニケーションが必要不可欠だろう。
「あ、あの! よければ一緒に回りませんか?」
「は?」
「お暇でしたら、ですけど。あ、あそこの滑り台とか行ってみません?」
「ウォータースライダーにか?」
陽狩の言葉に美桜の動作が停止した。
いまなんて?
(うぉーたー?)
水?
「え? あ、あれって滑り台じゃないんですか?」
「水を流してる滑り台だろ? 落ちる先はプールじゃねーか」
仰天した美桜が青ざめる。考えてみればここはウォーターレジャーランドだ。水物しかないのは当然であった。どうして自分はこうも抜けているのだろうか?
「あ、え、えっと、ではしばらくの間でいいので一緒に居てくださいませんか? きっと彼が探していると思うので、その、一人だと不安ですし」
陽狩は少しきょとんとするものの、すぐに苦笑いした。
「ワリーな。ついててやれればいいんだが、オレ、仕事中なんだ。呼び出ししてやるから、待合室で待っててくれねーかな」
「え? お、お仕事中?」
「そ。監視員のバイト中。
それにあんた高校生なんだから、一人で待つくらいできるだろ?」
そう言われて美桜は羞恥に赤くなる。ついいつもの調子で寂しく思ってしまったが、高校生が一人で待てないというのは恥ずかしいことだ。どれだけ自分が甘やかされているか、こういう時に骨身に染みる。
「じゃ、待合室まで案内するから迷子になるなよ」
「は、はい」
頷いて陽狩について行く。はぐれないようにしなければ。
「で、一緒に来てるお連れさんは彼氏か?」
「はい。えっと、遠逆和彦さんです」
「あぁ……この間言ってた……。でもあんた、無用心だなー。彼氏と来てるのにオレと回ろうなんて、誘うかねフツー」
呑気に言う陽狩の言葉に、美桜はハッとした。仲良くなりたいと思ってついそういう行動に出たが、常識がなかった。
「す、すみません」
「え? あー、別に責めてるわけじゃねーんだけど。彼氏が可哀想だなーって思っただけで」
「私、遠逆さんのこと、もっと知りたくて」
「ふーん。別にオレはあんたに興味ねーけど」
そういうもんかね、と陽狩は歩きながら言った。
美桜は陽狩の背中を見ながら尋ねる。
「あ、あの……私のこと、嫌ってるんですか?」
「嫌う? なんで?」
「え……あの、なんだか、突き放すような言い方というか」
そう言うと、彼は吹き出してクスクス笑った。
「嫌ってねーけど、好きでもねーし」
「そ、そうですか?」
「ああ」
美桜は黙り込んでしまう。
陽狩は悪い人ではない。仲良くなれたらと思う。色々話して分かり合いたいと思う。
だが。
美桜はその手段がわからない。
分かり合いたいと努力する。そう思うのは簡単だ。だがどうやって?
陽狩は美桜に興味がないという。美桜が話す話題をつまらないと感じるだろう。だいたい「話す」って、なにを? 何を話せばいいのだ?
まだ嫌ってくれているほうがマシな気もした。少しでもこちらに反応があるほうが、いい。
だが陽狩はそれもないという。彼にとっての美桜は、そのへんを歩いている通行人と同じなのだ。
分かり合う、そうありたいと思うのは互いの感情があってこそだ。美桜だけの一方通行ではそれは叶わない。
美桜が彼のことを知りたいと思っていても、陽狩は美桜などどうとも思っていないのだ。
現に、美桜が彼にあれこれ尋ねても、彼は美桜に尋ねてきてはいない。
「あ、あの、退魔士なのに、どうしてここでバイトをしてるんですか?」
「退魔士だってバイトくらいするだろ」
さらっと言われ、また会話が途切れた。
どうしよう。どうすればいいんだろう?
いっそ友達になってくださいと言ってみようか? だがどう返されるか予想できてしまう。
「いやー、遠慮するわ」
そう言いそうだ。
*
待合室まで案内された美桜は、イスに腰掛ける。美桜の他にも子供が数人居た。
(迷子になるのって……やっぱり子供ばっかりなんですかね)
美桜とてまだ未成年なのだから「子供」ではあるのだが、やはり小学生と高校生では違う。
陽狩は受付口にいた従業員に何か言っている。呼び出しをするように手配しているのだろう。
美桜のもとに戻って来た陽狩は微笑んだ。
「トーサカカズヒコ、だったな? もうすぐ放送かかると思うから、ここで待ってれば迎えに来てくれると思うぜ」
「あ、何から何までありがとうございます」
立ち上がって頭をさげると、彼はきょとんとした。
「気にすることねーよ。これがオレの仕事だし。
ま、彼氏と楽しんで帰れよな!」
元気よく言うと、陽狩はさっさと待合室を出てしまった。それもそうだろう。彼は仕事中なのだ。ここに引き留めてはおけない。
待合室を出た途端、陽狩は他の客につかまってしまった。どうやら場所を訊かれているらしい。丁寧に説明している陽狩はその人を案内するために完全に行ってしまう。
残された美桜はイスに座り直すと嘆息した。
(また……何も話せませんでした)
陽狩は親切だが、それだけだ。
そもそも美桜は、自分がなぜこれほど陽狩を気にかけるか自分でもわかっていない。
偶然など存在しておらず、全ては必然だと、彼女は言われたことがある。義兄だが。
(必然……)
彼と出会ったことも必然だと言い聞かせていたのだが、自信がなくなった。
全ての出会いを必然とすれば、一言も喋らず次の年にクラスが違ってしまった同級生はどうなるのだろう? そんな同級生に自分は何かできた? いや、できていないはずだ。
偶然などないのかもしれないが、同時に本当に微かにしか縁のできない人もいる。むしろ、縁が切れることだってあるのだ。
(どうしたら……)
このままでは嫌われないだろうが、ただそれだけだ。
そもそもしつこく言っていたら迷惑ではないだろうか? うるさいと思われてしまうかもしれない。
しばらく待っていると和彦が現れた。彼は呆れている。
「あれほど言ったのに、どうしてはぐれるんだ?」
「す、すみません」
謝る美桜を連れて待合室の外に出ると、彼は不思議そうにした。
「だが……珍しいな。美桜が放送で俺を呼び出すなんて」
「え……は、はい」
だいたいその場から動かなくなるのだが、今回は違ったのである。
「監視員の方が、呼び出してくださったんです」
「ああ、だからか」
納得する和彦の態度に、美桜は「ん?」と思った。
「な、なんだか今の言い方、引っかかりますけど」
「美桜が自分からそんなことできるわけないだろ?」
「で、できますよ! 小学生じゃないんですから!」
「嘘をつくな。放送で呼び出そうなんて知恵を使うとは思えないが」
きっぱり言われてガーンとショックを受ける。
でも、否定ができない。そもそも自分はそんなことをせずとも、今まで見つけてもらえたのだ。
「ひ、ひどいですっ!」
「そう思うなら迷子になるな」
ぴしゃりと言い切られてしまい、美桜は悔しくなった。
ふと、気づいて尋ねる。
「あの、和彦さん、退魔士の方でも、他の仕事をする時があるんですか?」
「は?」
「例えば……アルバイトとか」
「そりゃ、するヤツもいるだろう。仕事はピンからキリまであるんだからな」
「……そうなんですか」
へえ、と感心しつつ、美桜は和彦に手を引っ張られて歩き出した。
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■ 登場人物(この物語に登場した人物の一覧) ■
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PC
【0413/神崎・美桜(かんざき・みお)/女/17/高校生】
NPC
【遠逆・陽狩(とおさか・ひかる)/男/17/退魔士】
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■ ライター通信 ■
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ご参加ありがとうございます、神崎様。ライターのともやいずみです。
進展は……あまりないようでしたが、いかがでしたでしょうか?
少しでも楽しんで読んでいただければ幸いです。
今回は本当にありがとうございました! 書かせていただき、大感謝です!
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