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■CallingV 【小噺・遊泳】■

ともやいずみ
【6073】【観凪・皇】【一般人(もどき)】
 噂の全天候型屋内ウォーターレジャーランドにやって来た。
 そこで出会う、意外な人物とは……?
CallingV 【小噺・遊泳】



 じりじりと照りつける真夏の太陽。
 熱さに負けて観凪皇は「一般人的」に娯楽遊泳施設にやって来ていた。
 全天候型のウォーターレジャーランド。ここは最近有名らしいのだが……。
(……一人でプールは……一般的じゃ、ない、ような……?)
 今さらながら、ぽつんと一人で居ることに皇は不安を覚えた。
 オレンジ色のトランクスタイプの水着姿の皇は、水に入るということで、いつものビン底眼鏡は外している。
 眼鏡を外していればよくわかるのだが、皇の顔立ちは女性的ではあるが整っていた。そう、美少年、なのだ。
 上京してきたばかりで友達もいない皇は、周囲を行き交う人々を眺める。
 家族連れ。友人と来ている若者。世間は夏休みなので、人も多い。
(……あぅ、友達いないなんて考えると余計悲しい)
 しょんぼりしていた皇は、気を取り直す。せっかくここまで来たのだ。楽しまないと勿体無い!
「よ〜し! 遊ぶぞ〜!」
 張り切って準備運動を始めようとした皇は、突然声をかけられた。
「ねえ、もしかして一人?」
「は?」
 誰だ?
 皇は瞬きする。二人連れの若い娘さんが皇のほうを見てにこにこしているではないか。
「あたしたちと一緒に遊ばない?」
「ねえキミ、暇ならこっちに混ざらない? ちょうど人数足りないの」
 あれよあれよという間に皇は大学生くらいの娘たちに囲まれてしまった。
 皇自身、何が起こっているか理解できずに呆然としている。
(もしかして、こ、これって噂の逆ナンパ……? で、でも……知らない人と遊ぶのは怖いし……どう切り抜けよう?)
 オロオロする皇の目の前に突然誰かが降り立った。どうやら娘たちが作っている輪の外から跳躍し、輪と皇の間に着地したらしい。片手に双眼鏡を持っているその人物は、どうやら監視員のようだ。着込んでいる淡い水色のパーカーの背中の部分には、このレジャーランドのマークがでかでかとついている。
「すみません。一箇所に留まらないでもらえますか? 他のお客様のご迷惑になりますので」
 丁寧に言う監視員の声に、皇はなんだか聞き覚えがあるような……気がする。
 監視員を邪険に見る娘たちだったが、渋々というように輪を崩して去っていった。
 皇は安堵して胸を撫で下ろす。
「ふ〜、助かりました監視員さん」
「…………」
 無言でこちらを振り向いた監視員の前で、皇は硬直した。
 長いツインテール。身に付けているサンバイザーには、この施設の名前のロゴが入っている。パーカーの下は白一色のシンプルなワンピースの水着姿だ。
 綺麗なスタイルをしているため、水着が強烈なほど似合っている。皇とて男なのだから、どうしても胸や太ももの辺りに視線が泳いだ。それほど強調はしていないが、形のいい胸や、すらっと伸びた脚が綺麗だった。
「と、遠逆……深陰さん……!」
 彼女は怪訝そうにしつつ、監視員らしいことを言った。
「ここは通路にもなっているので、立ち止まらないでもら……」
「深陰さん、どうしてここに!?」
 一種の興奮状態にある皇は、深陰に詰め寄った。
 だってそうだろう? こんなところで水着姿の深陰に会えること自体が奇跡だ。
「ひょっとしてお仕事ですか?」
 当然と言えば当然のことを皇は尋ねた。深陰は明らかにここの監視員である。おそらくはバイトだろうが。
「あの、もしお時間大丈夫でしたらこの間のお礼させてください! そこにあるカフェで飲み物ご馳走しちゃいます!」
「…………」
 皇の勢いに唖然としている深陰は、不気味なものでも見るようにこちらを見ている。
 皇はそこでやっと彼女が無反応な理由に気がついた。
「俺のこと分かります? 今日はかけてないけど……ほら、グルグル眼鏡してた観凪皇です! また会えて良かったです!」
 早口で言う皇は、にっこりと微笑んだ。彼を先ほどまで取り囲んでいた集団ならば間違いなく「可愛い」と言うであろう笑顔だった。
 だが深陰は仰天したような顔をして、後退った。
「観凪皇!? って、この間の!?」
「憶えていてくれたんですね? あの、お時間大丈夫ですか?」
「いいわけないでしょ! わたしは仕事中なのよ!」
 あっち行ってよとばかりに「しっしっ」と手を振る深陰に、皇はめげない。
「監視員のバイトですか? いつからここに? いつまでここでお仕事されるんですか? 退魔士の仕事は?」
「いつからって……短期のバイトを募集してたからここに来ただけ。夏休みの間はここで仕事するけど」
 一度に問われてつい自分でぽろっと喋ってしまい、深陰は慌てて口を手で抑えた。
 恨めしげに皇を睨み、彼女はきびすを返して歩き出す。皇はそれについて行く。
「あの、あのあの、お礼させてください。お願いしますっ」
「別にいいわよ! わたしに付きまとわないで!」
「それでは俺の気が済みませんっ。お願いします、お願いします!」
 何度も頭をさげている様子は、まるでヨリを戻そうとする元彼のようだった。周囲の人々も不審な目で二人を見た。だが皇はその様子に気づいていない。
「お願いします、おねが……」
「わかったわよ! 飲み物を奢られればいいのね!?」
 自棄になった深陰は振り向いてそう怒鳴った。皇はパッと顔を輝かせて微笑む。
「は、はい! あ、あのお時間はいつが……? 俺、一人で来てるからいつでもいいですけど」
「〜っ!」
 苦々しげに皇を見ていた深陰は、舌打ち混じりに吐く。
「……あと一時間で今日は終わるわ。それまで待てるなら」
「待てます! じゃあ今日はお昼までなんですね? あの、じゃあ終わるまでどこかで泳いでます」
「…………溺れないようにしてよね。仕事が増えるから」
 不機嫌丸出しで言う深陰の言葉に「はい!」と皇は元気よく返事をした。
 しかしなんというか、案の定皇は水中で足をつってしまったのである。浮かれて準備運動をきちんとしていなかったせいなのだが、結局深陰に助けられてしまった。
「ご、ごめんなさい……」
「いいからしっかり掴まって!」
 面倒そうに言う深陰の体に、皇は手を回した。刹那、深陰がカッと頬に朱を走らせる。
 怪訝そうにする皇は彼女に睨まれたが、何も言われなかった。
 水から上がって気づいたのだが、皇は彼女の胸を鷲掴みにしていたらしい。道理でなんだか柔らかかったはずだ。女の子の体に触ったのは初めてだが、女の子は「柔らかい」ものと信じ込んでいたため、別に不思議に思わなかったのである。
「あっ、ご、ごめんなさいっ!」
 真っ赤になって謝る皇を再度睨みつけたが、深陰は文句一つ言わずに皇の安否を確かめてから仕事に戻ってしまった。
 残された皇は、手に残る感触になんだか恥ずかしくなり、俯いてしまった。



 約束通り、深陰は現れた。パーカーとサンバイザーはない。
 水着姿の彼女は監視員の時よりも目立つため、男の視線を一手に引き受けていた。
「み、深陰さん、さっきはその……」
 照れつつ申し訳なさそうにする皇と向かい合って、彼女はイスに腰掛けている。
「言わなくていい。思い出すと腹が立つから」
 冷ややかな声で言われて、皇は物凄く落ち込んだ。不可抗力だったが、深陰が激怒するのも当然だ。
 知らなかったとはいえ、皇は思い切り彼女の胸を握りしめていたのだ。思い出すとちょっと鼻血が出そうになる。
「あ、あの、お昼まだですよね? 奢ります。さっきの、救助のお礼に」
「…………」
 メニューを眺めて深陰はどうでもいいように言った。
「リンゴジュースと、ホットケーキ」
「は、はい!」
 自分のも決めて注文すると……暇になってしまう。話題がないので、二人とも黙ったままだ。
 プールやウォータースライダーで遊ぶ人たちの楽しそうな声。それを聞きながら皇はちらちらと深陰を見た。
(どうしよう……話題話題……)
「あ、あの、深陰さん」
 名を呼ぶと深陰がぎろりと見遣ってきた。話し掛けるな、ということだろう。
 しかし皇は俯いていたので深陰の視線には気づかなかった。
「退魔士のお仕事があるのに、どうしてここでバイトを?」
「そんなこと知って、どうするのよ?」
 棘の含まれた深陰の声に皇は全く気づいていない。
「どうもしませんけど……。気になったので」
「…………」
「言いたくないならいいんです。あ、でもちょっとでも言いたいなら、俺じゃ、悩みとか相談できないと思いますけど、その」
「あんたもっとシャキっと喋りなさいよ! 鬱陶しいわね!」
 苛立った深陰は、店員が運んできたリンゴジュースを乱暴に奪い、ダン! とテーブルの上に置いた。
「そんなに知りたいなら教えてあげるわよ。一人暮らしだから、お金がいるの。退魔の仕事もしてるけど、割のいいバイトがあったらそっちもすることにしてるの。お金は多めにあっても困るものじゃないし、何かあった時のためにも必要だから」
「え? でも……退魔の仕事は結構いい値段になりますよね?」
「バカね! そんなのピンからキリまであるじゃない! それに……今のわたしは、無料奉仕に近い状態なのよ」
 最後のほうはぼそぼそと言われたので、皇は聞き取れなかった。
 とにかくだ。深陰は生活費を稼いでいる、ということだろう。そのためにバイトもしている、と。
「大変ですね、深陰さん」
「…………こんなの、もう慣れたわ」
 皮肉たっぷりに言う深陰は、運ばれてきたホットケーキを食べ始めた。

 自分の食事も済ませた皇は、立ち去ろうとする深陰を止めた。
「あ、あの!」
「なによ? まだ用があるの?」
 そんなに嫌そうな顔をしないでください、と、ちょっと思う。
 皇は俯いたまま、もじもじと指先を合わせて小さく言った。
「……しょ……せんか?」
「は?」
 眉をひそめた深陰が聞き返す。皇は思い切って顔をあげた。
「暇なら一緒に遊びませんか!?」
 びっくりぎょうてん。
 その言葉がピッタリだった。
 深陰は目を丸くしたままぽかんとしている。
「あ、あの……俺、実は上京してきたばかりで、友達がいなくて……。ですから、一人で遊ぶのもなんだかなとちょっと思ってまして。深陰さんさえよければ、あの、一緒に」
「あんた友達いないのっ!?」
 大声で言い放った深陰は、本気で驚愕しているようだ。途端に彼女は憐れむような瞳で皇を見ると、渋々というように頷いた。
「……わかったわよ。付き合ってあげる」
「えっ! あ、ありがとうございます!」
 嘆息しながら深陰が歩き出す。皇はそれにいそいそと続いたのだった。



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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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PC
【6073/観凪・皇(かんなぎ・こう)/男/19/一般人(もどき)】

NPC
【遠逆・深陰(とおさか・みかげ)/女/17/退魔士】

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■         ライター通信          ■
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 ご参加ありがとうございます、観凪様。ライターのともやいずみです。
 深陰とのプールでの一時、いかがでしたでしょうか?
 少しでも楽しんで読んでいただければ幸いです。

 今回は本当にありがとうございました! 書かせていただき、大感謝です!