■獣達の啼く夜sideβ■
水貴透子 |
【5096】【陸・誠司】【高校生(高3)兼道士】 |
誰か、あたしを助けて。
そうずっと願っていた。
だけど、誰も助けてくれる人はいなかった。
あの時以上の地獄なんてあるわけないと思っていた。
だけど、あの時の出来事は地獄の始まりに過ぎなくて
更なる悪夢があたしに襲い掛かってきた。
だから、あたしはもう助けを待たない。
待っても救いの手を差し伸べてくれる人なんていなかったから。
地獄がくるなら来るがいい。
あたしは全てを受け止める事にしてやる。
今のあたしに怖いものなどない。
だから、あたしは後ろを振り返ることなく前に進む。
その先に何があるのかは分からないけれど。
※※始まりの第一夜※※
その日は激しい雨が降りしきる夜だった。
尭樟生梨覇(たかくす おりは)と雪沢海斗(ゆきさわ かいと)は公園の前で震えながら座っている少女を見つけた。
その少女の瞳は闇夜の中でもはっきりと分かるくらいの赤い瞳。
「あなた、どうしたの?」
なにやら普通ではなさそうな少女に生梨覇が問いかける。
「家出少女にしては変だな」
海斗も少女の顔を覗きこみながら言う。
だが、その瞬間、少女の身体がグラリと揺れ前のめりに倒れこんできた。
「お、おい!」
水溜りに倒れこむところを海斗が抱きとめる。
「…おい、こいつ…牙がある…」
苦しげに息を吐く少女から見え隠れするのは肉食動物のように尖った牙、犬歯にしては鋭すぎる。
「どうしたものかしらね」
生梨覇が困ったように言うと暗闇の中一人の人影が二人の視界に入ってきた。
「あら、お久しぶりね」
「何だ、あんたか。そういえば…あんたの家がこの近くだったよな。行き倒れの人間見つけたから連れて行ってもいいか?」
こうして一人の少女を拾ったのだが、キシキシと軋む運命の歯車の中に巻き込まれたことなどこの時の自分は思いもしなかった…。
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獣達の啼く夜〜sideβ〜
オープニング
誰か、あたしを助けて。
そうずっと願っていた。
だけど、誰も助けてくれる人はいなかった。
あの時以上の地獄なんてあるわけないと思っていた。
だけど、あの時の出来事は地獄の始まりに過ぎなくて
更なる悪夢があたしに襲い掛かってきた。
だから、あたしはもう助けを待たない。
待っても救いの手を差し伸べてくれる人なんていなかったから。
地獄がくるなら来るがいい。
あたしは全てを受け止める事にしてやる。
今のあたしに怖いものなどない。
だから、あたしは後ろを振り返ることなく前に進む。
その先に何があるのかは分からないけれど。
※※始まりの第一夜※※
その日は激しい雨が降りしきる夜だった。
尭樟生梨覇(たかくす おりは)と雪沢海斗(ゆきさわ かいと)は公園の前で震えながら座っている少女を見つけた。
その少女の瞳は闇夜の中でもはっきりと分かるくらいの赤い瞳。
「あなた、どうしたの?」
なにやら普通ではなさそうな少女に生梨覇が問いかける。
「家出少女にしては変だな」
海斗も少女の顔を覗きこみながら言う。
だが、その瞬間、少女の身体がグラリと揺れ前のめりに倒れこんできた。
「お、おい!」
水溜りに倒れこむところを海斗が抱きとめる。
「…おい、こいつ…牙がある…」
苦しげに息を吐く少女から見え隠れするのは肉食動物のように尖った牙、犬歯にしては鋭すぎる。
「どうしたものかしらね」
生梨覇が困ったように言うと暗闇の中一人の人影が二人の視界に入ってきた。
「あら、お久しぶりね」
「何だ、あんたか。そういえば…あんたの家がこの近くだったよな。行き倒れの人間見つけたから連れて行ってもいいか?」
こうして一人の少女を拾ったのだが、キシキシと軋む運命の歯車の中に巻き込まれたことなどこの時の自分は思いもしなかった…。
視点→陸・誠司
今、誠司の部屋には三人の来客が存在する。
一人は尭樟生梨覇(たかくす おりは)、もう一人は雪沢海斗(ゆきさわ かいと)、そして最後は名も知らぬ少女。
生梨覇と海斗の話では、公園前で倒れたのだと言う。
「目の前で倒れられたのに、見捨てて死なれたら後味が悪いでしょ?」
「いきなりで悪かったな、誠司」
海斗が少女の額に濡れたタオルを置きながらバツが悪そうに呟いた。
「気にしなくても構わないですよ、生梨覇さん、海斗さん」
本当は病院に行った方がいいんですけど…、最初に誠司が少女を見たときに提案したが、生梨覇と海斗にそれを断られた。
理由は少女が普通でない可能性が高いから、らしい。
「…普通の女の子に見えますけどね…」
別室から持ってきた薬を少女が眠るベッド近くのテーブルに置き、寝顔をちらりと見る。熱が高く苦しそうにはしている、それ以外は至って普通の女の子にしか誠司には見えなかった。
「……う…ん」
三人が黙り込んだ時、少女が少し呻きながらその赤い瞳に三人を映し出した。そして三人に気がつくと、少女はハッとしたように瞳を見開き「誰だ!」と叫んだ。
まだ頭が痛いのだろう、頭を押えながら威嚇するように鋭い視線で三人を睨み付ける。
「まだ熱があるから、いきなり動くのは無茶よ…」
生梨覇が手を差し伸べようとすると「触るな!」とパシンと手を振り払いながら叫ぶ。
「あいつらの…追っ手なんだろ!」
「あいつら…?」
覚えのない事に誠司は「あいつら?」と言いながら首を傾げる。
「…違う、のか?」
「ここは誠司、こっちの男の家、お前を見つけたのは俺と生梨覇だが、看病してたのは誠司、礼くらい言ってもいいんじゃないのか?」
海斗に言われて、少女はキョロキョロと周りを見渡す。
「…………悪かった…………」
少女は申し訳なさそうにうな垂れながら謝罪の言葉を口にした。
「別にいいですよ、何か事情があるんでしょう?」
追っ手なんだろ、と言ってきた時の少女の顔が頭に焼き付いて誠司の頭から離れなかった。何かに怯えるような、諦めたような…。
「…ねぇ、あたし…何に見える?人に、見える?」
少女の突然の質問に三人は互いの顔を見合わせる。目の前の少女はどこからどう見ても普通の少女にしか見えない。
「…普通の人間にしか見えませんけど…?」
暫くの沈黙の後、誠司がポツリと呟くように言葉を返した。その言葉に少女は、少し悲しそうにも嬉しそうにも見える表情で「…そっか」と呟く。
「…あんた達なら信用できそうだし、言っちゃってもいいかな…」
うん、と一人で納得をした少女はキュッと唇を一度噛み締めた後に「実は…」と言葉を紡ぎだした。
「…あたし、人間じゃないんだ。いや、正確には人間だった…かな?」
「だった?」
生梨覇と海斗が声をそろえて言う。誠司は何も言葉を発することはなく、少女の泣き声にも似た言葉を黙って聞いていた。
「西脇製薬会社って知ってる?そんなに大きな会社じゃないけど…そこで、政府や警察公認の人体実験が行われていたんだ。あたしはその被験者の一人…。隙を見て逃げ出したんだけど…」
だから追っ手という言葉なのか、誠司は心の中で呟き納得をした。
「…薬だけ貰ったら出て行くよ、きっとあんた達の迷惑になるから…」
少女は薬を飲み、ふらふらとした足取りで出て行こうとする…が、誠司に腕を掴まれそれは叶わなかった。
「そんな身体で出歩いてどうなると言うんですか、病人は大人しく寝ていてください」
でも、と視線で訴えてくる少女を余所に誠司はベッドまで連れて行った。
「俺に何か出来る事があるなら、貴女の助けになりたいです」
それは誠司の偽りのない本心だった。苦しい時にこそ、差し伸べられた手は何よりも心強くて暖かいものなのだ、それは誠司自身がよく知っている。
「ま、何かの縁だし。助けになれるようだったら俺も手伝うぜ」
「そうね、私もよ」
海斗、生梨覇も誠司の言葉に納得したようにニコリと笑いながら少女に話しかける。
「貴女が、人間じゃなくても構わない。人以外だって心はあるし、分かり合えると俺は思うから」
誠司の言葉に少女は張り詰めていた何かが切れたかのように涙をぼろぼろと零し、声を上げて泣き出した。
きっと誰にも迷惑を掛けないようにと、強がっていたのだろう。
「そういえば、まだ名前を聞いていなかったわね。私は生梨覇よ、こっちが海斗」
「そして、俺が誠司、陸・誠司です」
三人が紹介を終わり、少女の方を向く。すると少女は照れたように顔を緩ませながら口を開いた。
「…あたしは、優。…小日向・優…。ありがとう、誠司」
その時、誠司は初めて優が笑った顔を見た。
だけど、この時は誰一人として気がついていなかった。
優という少女に関わった事で、自分達の運命がゆがみ始めていることに。
巨大な何かに巻き込まれていると言うことに…。
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■ 登場人物(この物語に登場した人物の一覧) ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】
5096/ 陸・誠司 / 男 /18歳 /高校生(高3)兼道士
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■ ライター通信 ■
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特別出演
東圭真喜愛様よりお借りしました⇒『尭樟生梨覇』
風深千歌様よりお借りしました⇒『雪沢海斗』
陸・誠司様>
はじめまして。
今回『獣達の啼く夜〜sideβ〜を執筆させていただきました瀬皇緋澄です。
この度は発注を掛けてくださり、ありがとうございました。
『獣達の啼く夜〜sideβ〜』はいかがだったでしょうか?
面白かったと思ってくださったら、ありがたいです^^
また、お会いできる事を祈りつつ失礼します。
−瀬皇 緋澄
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