■【 おいでませ、ハザマ海岸 】〜夏〜■
四月一日。 |
【0086】【シュライン・エマ】【翻訳家&幽霊作家+草間興信所事務員】 |
ハザマ海岸。
そこは県境に近い、海洋遊戯スポットの集まった一帯である。
河川の河口付近には干潟、数キロ先には砂浜と岩場、そして岬のほうには水族館を中心とした遊園地もある。一粒で二度どころか四度ぐらい美味しい(楽しい)海岸である。
その一帯は、守り神(まだ見習い)・来流海が守護している。彼女は十代半ばぐらいの風貌で、黒い長髪の房を肩と腰の辺りで切り揃え、丈の短い浴衣のような着物を身に着けている。何故かその着物は湿っていた。
「困っているのですぅ」
「‥‥主語を抜かすな、主語を」
「あう。相変わらず人手が足りなくて…。あ、でも! 皆さんのお陰で、海の家には連日たくさんのお客様に来て頂いていますぅv ただ…」
「…ただ?」
「いろいろな催しの、裏方さん出場者さんの人数に、組合の方がまだ不安があるそうで…」
「出場者も仕込みなのかよ…」
「い、いえ!そういう訳じゃぁ。とにかく、ハザマ海岸でいろいろ催し物をやっているので、皆さんに来ていただけるよう宣伝してもらえたらなぁって」
と、知り合いから、海岸で行われている催しについて聞いたアナタ。
どのイベントに興味を持たれましたか?
ハザマ海岸漁業組合は、皆さまのご来場を心よりお待ちしております。
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【 おいでませ、ハザマ海岸 】〜夏〜
巷では冷夏ではないかと囁かれているが、やはり夏は暑いのである。
シュライン・エマが外出先から興信所へ戻ると、デスクに一通の手紙が置いてあった。丸っこいその筆跡に心当たりはあまり無かったが、ほのかに感じる海の香りにピンときてシュラインは封を切った。
―― シュライン・江間様
こんにちは 来流海です
先日は来流海ノ茶屋のお手伝い 本当にありがとうございました!
おかげさまで海の家はとっても盛況で 今では周りのお店の皆さんとも仲良くお仕事させて頂いています!
零さんから聞いてらっしゃると思いますが 草間興信所関係の皆さま用に 宿はすぐご用意できますので
ぜひ 遊びにいらしてくださいね! お待ちしてまーす!!
早くしないと クラゲが出てきちゃいますよv
追伸 「シュライン」っていう漢字が分からなかったので 片仮名でゴメンナサイ ――
来流海(くるみ)とは、県境に近いハザマ海岸一帯を統治している守り神の少女である。
(‥‥珠羅院・江間とでも名乗っておこうかしら。元気でやってるみたいね)
手紙とともに、茶屋面々の写真が同封されていた。その写真を見ていると、慌しかったが充実した海開きの日のことが脳裏に浮かぶ。窓際のデスクに座る所長 ―― 草間武彦を尻目に、シュラインはふと思い出す。そういえば、前回海岸を訪れたときは海の家の様子が気になり、水着を持っていたものの結局泳ぐことができなかったのだ。
シュラインは草間のデスク前へ行って、問い掛けた。
「ねぇ、武彦さん。今週は特に予定なかったわよね」
「ああ。世間はお盆休みらしいからな、予定は入ってない」
「ハザマ海岸、行かない?」
「‥‥また厄介ごとでもあるのか?」
「そうじゃないの。来流海ちゃんから遊びに来てって手紙もらってるし、この前はお店が忙しくて海に入れなかったでしょ? どうかしら」
来流海の手紙と写真をデスクに置くと、草間はそれを手に取り、陽に透かしてみたりクンクンと匂いを嗅いだりしている。
「‥‥どうしたの?」
「いや、炙り出しか何かあるのかと思って」
「ふふふ、大丈夫よ。ね、行ってみない? 大花火大会もあるらしいわよ」
「花火か。そうだな‥‥たまには、いいか」
楽しそうに云うシュラインの表情を見、来流海たちの写真をかざしながら草間は呟いた。
ハザマ海岸。
そこは県境に近い、海洋遊戯スポットの集まった一帯である。
河川の河口付近には干潟、数キロ先には砂浜と岩場、そして岬のほうには水族館を中心とした遊園地もある。一粒で二度どころか四度ぐらい美味しい(楽しい)海岸である。
電車で海岸へやって来たシュラインと草間は早々に場所取りをし、レジャーシートの上で寛いでいた。来流海ノ茶屋へすぐに顔を出してもよかったのだが、早い今の時間は、きっと仕込みの真っ最中だろう。邪魔をしては申し訳ないので、茶屋へは昼過ぎに訪れるつもりだった。
「ほら、武彦さん! 日焼け止め塗らないと明日椅子に座るとき大変よ」
そう云いながら、シュラインは日焼け止めローションの容器をシャカシャカと鳴らした。草間は水着になり、既に甲羅干し状態で寝そべっている。シュラインは背中を中心に、草間の自分の手では届かないであろう箇所に日焼け止めを塗っていく。
「首の後ろや、耳の後ろも忘れずにね。鼻の頭も焼けやすいから、こまめに塗り直してちょうだい」
にっこり笑うと、シュラインは草間の背をパシリと軽く叩いた。
「ん」
頷きながら草間が右手を出した。シュラインは一瞬首を傾げたが、意図が分かり容器を草間に手渡す。
シュラインの水着はビキニだが、トップスカバーにシフォンを使った透け感のある大判のスカーフを巻いており、遠目にはアメリカンスリーブ調キャミソールを着ているように見えた。
そのシフォンを取りシュラインが腹這いになると、草間はぎこちなさそうに彼女の背に日焼け止めを塗り始めた。
午後2時も過ぎれば、海の家も食事処としての役目は終盤に近く、従業員の面々は交代で休憩に入り始めた。アンネリーゼ・ネーフェと黒羽 陽月は、それぞれ海辺へ出ている。
「あっ! シュラインさん、草間さん!いらっしゃいませ」
来流海がシュライン・エマたちに気付き、大きく手を振った。串刺しフルーツは完売らしく、ソレが入っていた筈の大きなクーラーボックスには缶ジュースが冷やされているようだ。
「こんにちは、来流海ちゃん。そろそろお店も落ち着く時間だと思って」
「はいー、今日も忙しかったですぅ。あと小一時間もすると、今度はシャワー目当てのお客さんで忙しいんですよぉ〜」
額の汗を拭う来流海の表情は、すっかり茶屋の経営者と化していた。
厨房横。
シオン・レ・ハイは、海翔が注文物を作っている待ちすがら、その様子をジーっと見つめている。
「私もなにかオリジナルメニューを作ってみたいです、海翔さん」
「あぁー?そうだなぁ‥‥料理を作るにはそろそろ材料が足りないから、今の時間なら、カキ氷とか冷たいモンが良いんじゃないかな」
「とりあえず、コレ持っていってな」と、シオンに皿を手渡した。
シオンが店内に戻ると、見知った人物たちがテーブル席に座っていた。
「あら、シオンさん。お手伝い今日だったのね」
シュラインは手を振り、草間は振り返った。
「‥‥スーツか。シオンお前、暑くないのか?」
「ええ、特に問題ないですよー。飲食店のお手伝いと聞いていましたので、一張羅を着てきました!」
ふんっと誇らしげに胸を張るシオン。奥の座敷で膝に兎を乗せている深波を草間は半眼で見つめた。
(あの女神さんは、何も云わなかったのか‥‥?)
「ご注文はもうお決まりですか? デザートはマチェドニアがお勧めです」
「そうね。グラスビールと‥‥武彦さんは、もう海入らない?‥そう。じゃ、ジョッキを1つと『緑の誘惑』を1皿お願い」
「流石ですね、メニュー表見ないでもメニュー名が出てくるんですねー」
「ふふふ、大半は私が考えたメニュー名なの。遊び心があっていいかなって思って。あ、マチェドニアも一緒にお願いするわ」
「とりあえず、生。早く頼むな」
草間に急かされシオンは厨房に戻っていく。
その背を見送りながら、シュラインは改めてメニュー表を手に取る。そこには、シュラインの見知らぬメニュー名が幾つか追加されていた。きっと、ここを訪れた臨時従業員たちがそれぞれのオリジナル・メニューを追加していったのだろう。メニュー名はごく普通のものであったり、シュラインの例に倣ってか、内容説明を読まないと想像できないようなメニュー名など様々だ。冠されている素材名でなんとなく料理を想像し「アレのことかしら?」と、まるで古い文献でも見付けたように楽しげにメニュー表を捲るのであった。
「あーっ 枝豆切れそうなんだ、茹でてるからちょっと待ってくれよ」
シュライン ―― 知り合いのオーダーだというのをいいことに、後から入った客用に茹で枝豆皿を持ち出す海翔。
「それじゃ、待っているあいだ私はマチェドニアの準備をしましょうか‥‥」
海翔の背を見送り冷蔵庫のドアを開けながら、シオンは独り言つ。視線を戻すと、冷蔵庫のドアポケットには色取り取りのカキ氷シロップがストックされていた。そこへ、来流海がひょっこり顔を出す。
「シオンさーん、どうしたんですかぁ?」
「ああ、来流海さん。一緒にかき氷を作りませんか?」
両腕いっぱいに瓶を抱えながら、シオンは嬉しそうに笑った。
だが、シオンは知らなかった。来流海に料理のセンスが、まったく無いということを ――。
「お、やっときたか。遅いぞ、シオン」
やっと枝豆が茹で上がりテーブルまで持っていくと、草間のジョッキの中身は半分ほどになっていた。
「ああー、すみません。でも、茹で立てですからきっと美味しいですよー」
『緑の誘惑』とマチェドニアをテーブルに置きながら、シオンは草間にぺこぺこと頭を下げた。
「あと、こちらはお待たせしたお詫びです」
何故か一緒にいる来流海からガラス器を受け取り、シオンは草間の前にそのガラスの器を置いた。それは兎の形に盛られたかき氷で、シロップは色合いから味はブルーハワイであろう。瞳の部分は真っ赤な果実が埋め込んであった。
ビールと枝豆に、かき氷を喰えというのか ――。
ふと視線を上げると、二人が期待に満ちた眼差しで自分を見ていることに気付き、草間は複雑そうな表情をしてシュラインに目配せした。シュラインはといえば、マチェドニア ―― フルーツ・ポンチを食べているので彼女に押し付ける訳にも行かず、草間は再びシオンたちを見上げた。
「やっぱりぃ、夏といえばカキ氷ですねぇー」
「兎さん、可愛いですよねー」
草間は観念したようにスプーンを持ち、氷兎の瞳あたりを掬って口の中に放り込む。
そして次の瞬間、草間はソレを吹き出した。
「ちょっ‥‥武彦さん、どうしたの!?」
「‥‥お前ら‥というか、来流海がいる時点で気付くべきだったんだよな、俺は」
片手で顔を覆い、草間は項垂れる。
「お気に召しませんか、草間さん?」
シュラインは氷兎を不思議そうに見、そして、気が付いてしまったのだ。
兎の瞳の部分が真っ赤なさくらんぼと思いきや、どうやら梅干だったらしい。シロップで梅干は輝き、果実に見えてしまったのかもしれない。シオンにも来流海にも悪気は(多分)無いのだろうが、この二人がタッグを組んでいる時点で右斜め上を行った品物になっているということは明白であったのだろう。
シオンと来流海は顔を見合わせ、シュンと肩を落とした。二人にしてみれば力作で、きっと草間に喜んでもらえると思っていたからだ。ただ、外見だけ見れば子供や女性に受けそうだ。梅干に変わる瞳部分の果実を用意すれば、店の売れ筋商品になるに違いない。
「こ‥今度のときは、さくらんぼでも用意しておくといいかもね。形は可愛いから、きっとお客さんに喜ばれるわよ」
少し困ったように眉を寄せ、シュラインはシオンたちに笑いかけた。
太陽が海の向こうに沈んだのは、どのくらい前か。
「ほれほれ、花火大会は8時半からじゃぞ? さっさと宿へ戻って着替えてくるのじゃ。寺ではハザマ漁業組合主催の肝試し大会をやっておる、時間のある者は寄ってくるが好い。命令じゃ!」
そう深波に急かされ各々着替えを済ませると、思い思いの催場へ出掛けて行った。
今夜はこの夏で一番華やかな花火大会らしく、ホテルでも浴衣の貸し出しをしていた。シュラインは自前の浴衣を持ってきたのだが、草間は「荷物が増えるから嫌だ」と云い張り持参しなかった。だが、どうやら現地調達できそうだ。
「武彦さん、どんな柄がいい?」
「んー‥‥おまえに任せる」
そう云われ、シュラインは貸し出し口で浴衣を物色する。ふと手に取ったグレーと紺の格子柄が気に入り、シュラインは草間に「どう?」と見せた。大半が黒地で、アクセント的に上から下まで数本格子柄が入っているものだった。
シュラインはいつもの黒の綿絽に古典的な柄の白百合で、帯は貝ノ口(かいのくち)に結っている。貝ノ口は男性に多く用いられる結い方なのだが、シュラインぐらい大人の女性であれば、このようなシンプルな結いの方が落ち着きもあり、美しい。髪もアップにし、小さな花をあしらったかんざしで留めている。
「神社の参道に屋台が出てると云ってたな。少し早いが、そこ行ってみるか?」
草間は、国道を挟んだ内陸の山の中腹を指す。そこへ向かって、なだらかなカーブを描いた光りの筋が見えた。ぼんぼりと屋台の照明なのだろう。下駄の音を響かせ、二人は参道へ入って行った。
参道の両脇には、さまざまな屋台が並んでいる。
『この夏一番』というのは伊達でなく、天候にも恵まれ、人出もかなりのものである。草間はシュラインの目の前を歩いているが、少しでも目を逸らしたらすぐに人混みへ紛れてしまいそうだ。気になる屋台に後ろ髪引かれながら、シュラインは草間の背中を追った。
「シュラインさん、草間さん!」
聞き慣れた声と呼び掛けに、草間が立ち止まった。不意の呼び掛けに脚のタイミングが合わず、シュラインはムギュっと草間の背中に顔が埋(うず)まる。
「‥‥シオン。おまえ、なにやってんだ?」
「お面屋さんのアルバイトですよ。草間さんもお一つ如何ですか〜?」
「食べ物勧めるみたいに云うな」
呆れ顔の草間を他所にシオンはにっこり笑い、ひょっとこの面を差し出した。それは垂れ目で、今の草間とは逆に満面の笑みを浮かべている。よく見掛けるものとは意匠が異なるようで、かなりユニークな表情をしていた。
「ふふふ せっかくだから頂いて行きましょ、武彦さん。シオンさん、私はアレをお願い」
そう云って自分はおかめの面を指差す。
「ありがとうございます! お二人はこれから花火観賞ですか?」
「ええ。海の方から上がるみたいだから、山からの方が全体を見渡せていいかしらと思って」
「おお、神社まで登るのか?」
それまで反対側の柱の前で接客していた年配の店主が、シュラインたちを覗き込んだ。
「はい、境内まで行けば、海に面したところは林が低いから見やすいかもしれないと思いまして」
「コイツの知り合いなんなら、俺が穴場を教えてやろう。地元民も滅多に来ない、超穴場だ。その代わり、道は険しいから気をつけてな」
店主から穴場の入り口を聞くと、シュラインたちはシオンと別れた。
その場所は、神社の裏にある小道をさらに登っていくらしい。少々歩みを速めないと、開演まで間に合わないかもしれない。
―― ん。慣れている下駄だから、少しぐらいの早足は大丈夫そう。
そんなことを考え足元を見ていると、ふいに視界の隅へ手の平が入ってくる。顔を上げると、草間が ―― ひょっとこが手を差し出していた。
「急ぐぞ」
後頭部側に面を被った草間は、そう云ってシュラインに背を向けたまま、もう一度手の平を軽く振っていた。
境内に入り、社の裏側に回る。そこは表側とは異なり、しんと静まり返っている。
お面屋の主人の云った通り、そこには小さな ―― 獣道と云っていいほど細い道が奥へと繋がっているようだ。シュラインと草間は、その道を進んでいった。
「か‥‥かなり、キツいな‥‥大丈夫か、シュライン?」
「ええ、私はね。武彦さんこそ、夕方お酒呑んだからキツいんじゃない?」
アルコールが入っていない分、まだシュラインの方が若干余裕がある。人工ではない岩の階段が延々続き、かなり急勾配だ。
主人の話しでは、暫らく進むと松の大木があるらしい。それを目印に左へ登れ、とのことだった。
が。
「‥‥ん、確かに。道は険しくて、地元民も滅多に来ない、わね」
「‥‥だな」
登る ―― ロック・クライミング宜しく、この絶壁を登るのだろう。それでも時々使われているらしく、岩場の上方からは手綱が垂らされていた。
「あのご主人、酔っ払っていたのかしら? 普通、浴衣姿の人間にこんなところ勧めないわよね」
次の瞬間、大きな音が辺りに響き渡り、シュラインは海側を振り向いた。
打ち上げ花火が始まったのだ。
前を遮る木々はなく、ここも充分見晴らしがいい。
「今年は、十年に一度の大花火大会だそうだ」
そう云って松の木に寄り掛かり、草間は袂から煙草とライター、携帯灰皿を取り出した。
十年 ―― それは、なかなかお目に掛かれるものではないだろう。
「ここからでも、充分ね」
ドン!と一際派手な音が腹に響き、玉が上空へ登っていく音が聞こえる。
再び顔を向ければ、大輪の八重芯が夜空を覆っていた。
音と光りの宴は、1時間近く続いている。
ひと際大きな打ち上げ音が響く。
導火線の火はやがて割薬に到達し、星に引火して美しい色を放ち夜空を染める。
「‥‥錦冠柳、しだれ柳ね」
海面へ届きそうなほど柳は垂れ下がる。光りの軌跡は僅かに瞬き、最後は暗闇に消えていった。
辺りは再び、静寂に包まれた。
「‥‥終わりか?」
「そう、みたいね‥‥」
打ち上げ花火が終わってしまうと、みな何故だか口数が極端に減る気がする。
色気のないことを云ってしまえば、大きな音に耳が慣れて、小さな普段の生活音が聞こえ辛いだけなのかもしれないが。
終わってしまったという独特のもの悲しさを背負(しょ)いながら、無言であっても共有する満足感 ――。
―――― ちょっと寂しいけど、こんなひと時も好きなのよね。
「‥‥良かったな」
「そうね‥‥」
二人は暫らく佇んでいた、眼下の喧騒が聞こえ始めるまで。
シュラインたちが来流海ノ茶屋へ戻ってくると、アンネリーゼ、来流海、海翔が海岸のゴミ拾いをしているようだった。
「私たちもお手伝いしましょ」
工藤・黒羽両少年と草間を振り返り、シュラインはパンッと手を叩く。
「こちらの海岸の利用者は、本当にマナーが良いのですね。目立ったゴミは見当たりません」
「そうなの、それは前回店を手伝いに来たとき感じたわ」
アンネリーゼとシュラインは、顔を見合わせ微笑んだ。
「綺麗だと、ゴミは捨て辛いもんね」
「‥‥そもそも、ゴミ置き場でないところにゴミを捨てていく人間の神経が分からないのだが」
「まぁ、そうなんだけど。あ、工藤、後ろにゴミある。拾って」
「おまえの方が近いだろうが」
ブツブツ云いながら、工藤は振り返って紙屑を拾い上げる。
「そういえば‥‥シオンさんはどうされたのですか?」
「ああ、バイトがしたいって云うからテキ屋紹介しといた。もうすぐ帰ってくるんじゃねーかな?」
アンネリーゼの問いに、海翔は熊手で砂を掻きながら答える。
「みなさぁーん! 西瓜切ったのでぇ、よかったら召し上がりませんかぁー!」
来流海ノ茶屋の方から来流海の声が聞こえ、皆振り返る。周りの人間の顔を見回しながら、お互い頷いて茶屋へと歩みを進める。
そのとき、国道の方から走ってくる長身と小さくて跳ねる影が現れた。
「あぁーっ 私にも‥私にもっ 西瓜、くださーい!」
参道から全速力で走ってきたのか汗まみれで髪を振り乱しやってくるそのシオンの形相は、肝試し組曰く「どの出し物より恐ろしかった‥‥」だったそうだ。
【 了 】
_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/ 登 場 人 物 _/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/ ※PC番号順
【 0086 】 シュライン・エマ | 女性 | 26歳 | 翻訳家&幽霊作家+草間興信所事務員
【 3356 】 シオン・レ・ハイ | 男性 | 42歳 | 紳士きどりの内職人+高校生?+α
【 5615 】 アンネリーゼ・ネーフェ | 女性 | 19歳 | リヴァイア
【 6178 】 黒羽・陽月(くろば・ひづき)| 男性 | 17歳 | 高校生(怪盗Feathery/柴紺の影
【 6198 】 工藤・光太郎(くどう・こうたろう)| 男性 | 17歳 | 高校生・探偵
【 NPC 】 来流海、深波、海翔、草間武彦
_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/ ひ と こ と _/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/
こんにちは、担当WR・四月一日。(ワタヌキ)です。この度はご参加誠にありがとうございました。
ハザマ海岸シリーズ第2弾となりました。ハザマNPCズも弄っていただけて嬉しい限りです。今回のノベルは個別であったり集合であったり、かなりザッピングしております。
なお、人数多め・海岸での過ごし方が皆さん異なっているため、一部プレイングが省略気味になったことをお詫び申し上げます。
後日、来流海が海の家を手伝っていただいた皆様へ労いのもてなしを考えているようですので、機会がございましたら、ぜひ覗いてやってください。
らめるIL異界「おいでませ、ハザマ海岸inモノクロリウム」にて、ハザマ海岸連動の異界ピンナップが募集中です。
今年の夏の思い出に記念ピンナップはいかがでしょうか? ご都合が宜しければ、ご検討・ご参加をお待ちしておりますー!
四月一日。
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