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■夜と昼の双子 〜日の入りと夜明け■ |
紺藤 碧 |
【2470】【サクリファイス】【狂騎士】 |
気分が優れないのだろうか。足取りは重く、少し熱に侵されている頬は赤らんでいる。
「………」
小さく呟き、かの人は腕の中に倒れこんだ。
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夜と昼の双子 〜手から零れ落ちる砂の如く
もしかしたらという思いを抱いてサクリファイスはまた月が輝く空の下、天使の広場へと足を踏み入れた。
そして見知ったあのフードを見つけ、微かに顔をほころばせ声をかける。
「ああ、ソール、また会……て、どうした!?」
けれど振り向いたフード――ソール・ムンディルファリの顔色を見るなりに驚きに口を速める。
「おまえ……か…」
ソールは小さく呟きその場を去ろうとしたが、上手くいかず逆にサクリファイスに向って倒れ掛かる。
支えたサクリファイスの手に伝わる仄かな熱気。
「……熱?」
ソールは力の入らない両手でサクリファイスを押しのけるように伸ばし、
「何でも…ない……」
と、一人で立とうとするが足元がおぼつかず、サクリファイスの肩を掴むような形になる。
「と、ともかく医者に……」
今この時間も開いている医者はあるだろうかとサクリファイスは考えをめぐらせる。しかしソールはこの言葉を聞くなり、何処にそんな体力が残っていたのか分からないような力でサクリファイスを押しのける。
「医者は…嫌だ!」
「ソール!?」
けれど、ソールはまるで糸が切れた人形のようにかくっと膝を折りその場に倒れこむ。
「分かった。医者には行かない。けれど、ちゃんと体を休めてほしい」
サクリファイスはソールを支えるように肩に手を回し、ソールが滞在している宿の所在も分からないし、これ以上動かすのは辛いだろうと考え近場の宿を取った。
宿屋の亭主に事情を話し、洗面器に氷水を入れてもらい、タオルと共に受け取る。
このまま目を開けないのではないかと深夜という時間にも関わらず、ハラハラとして眠気さえも飛んでいた。
そして、あれから数時間。ゆっくりとソールは瞳を開いた。
「……まずは一安心、なのかな」
瞳を開けたものの、まだ少し完全に覚醒してはいないように見えるソールを見て、サクリファイスはほっと胸をなでおろす。
「スープを、温めてくる」
サクリファイスはソールにそう告げると、宿屋の主人が作っておいてくれたスープを温め、部屋へと戻る。
一眠りして多少気分が優れたのか、ソールはベッドの上で身を起こしていた。
サクリファイスはお盆に乗せたスープをソールに手渡す。
多少渋い顔をしたソールであったが、体は正直なものでその匂いに腹から鈍い音を放つ。
サクリファイスはその様に、くすりと微笑してベッドサイドの椅子に腰掛けた。
「辛ければ辛いと、倒れる前にちゃんと養生しないと」
けれどソールはスープをすする音だけを発するのみ。
「今、聞いてよいものか分からぬが……また、聞いてもいいかな?」
ソール自身に疑問が多すぎる。けれど、次、何時出会えるかも分からない。サクリファイスには、今聞くしか時がないのだ。
「あなたの一族とは、なんなのだろう……? 咎人とは……?」
前、天使の広場で出会ったときに、ソールは自分のことをそう言っていた。
「話したくなかったら、それでもいい。無理強いはしないから」
コト…と、小さな音を立ててスプーンを置く音がやけに大きく耳に届く。
「ただ、もう一つだけ……こっちは、できたら聞かせてほしい」
サクリファイスは真剣な眼差しでソールを見つめ、ゆっくりと問いかける。
「独りになりたい奴なんて、いないんだよな?」
声音に少しだけ力をこめて確認するように問いかける。
「それは、あなたもなのかな?」
「どうだろう」
ソールは空になったスープ皿をベッドサイドに寄せて、膝を抱えるようにして座り込む。
「もう、分からない」
独りを望む事。孤独でいる事が長すぎて、それが望んでいたのか嫌だったのか、もう分からない。
―――いや、分かりたくない。
「……咎人とか、捨てられたとか、あなたが背負ってきた過去を変えることはできない。でも」
サクリファイスは願うように、少しでも彼が救われる道がないかと探すように言葉を続ける。
「これからのことなら、少し、変えられるかもしれない」
サクリファイスはそっとソールの手を取った。
「……一緒にいる」
「ダメだ」
独りじゃない。と、口にしたサクリファイスに、ソールの瞳が見開かれる。
そして矢継ぎ早と言えるような速さでソールは反射的に答えていた。
「一緒にはいられない」
弱々しく首を振ってソールはベッドから立ち上がる。
「世話に、なった」
けれど、意識を取り戻し多少気分が回復していても、減った体力はまだ回復していないのだろう。そのまま足元をふらつかせベッド脇に座り込む。
無理強いはしないと、最初に言った。だから、
「そう…か……分かった」
口元にだけ微かな笑みを浮かべて、サクリファイスは顔を伏せ、「でも…」と続ける。
「今日はここで一日ゆっくりと眠ってほしい」
倒れるほどに張り詰めて生きていたのなら、1日くらい安心して心行くまで眠ったっていいじゃないか。
「何か心配なら、その間私が守るから」
サクリファイスはスープ皿を片付けてくる。と、部屋を出る背中を見つめ。ソールはぐっと唇をかみ締める。
―――ここを去ろう。
けれど体は思うように動かず、その内疲れてまた深い夢の底へと落ちていった。
サクリファイスは極力音を立てないように扉を開け、部屋の中へと入る。
自分が部屋から離れている間に彼は消えてしまうかもしれないと少し思っていた。だから、ベッドの上で寝息を立てているソールを見て、本当に安堵した。
サクリファイスはずれた布団をかけ直し、ふっと笑う。
タオルでそっと額に浮かぶ汗を拭き取って、サクリファイスはベッドサイドの椅子に腰掛けた。
ベッドの脇につい頭を預けていつの間にか寝入ってしまっていたらしい。
「もう…朝か……?」
やけに部屋の中が明るい事に、サクリファイスは目をこすって上腿を上げる。
「っな…!?」
確かに窓の外も白み始めている。けれど、サクリファイスがまぶたの裏で感じた光は別のもの。
ソールが大切にしていたあの仔狼が宙に浮いている。いや、それだけじゃない、不可思議な色に輝きながら浮いているのだ。
サクリファイスは驚愕に立ち尽くす。
同じようにソールの体も不可思議な色に包まれていく。
けれど、その色は、仔狼に吸い込まれているように見えて―――
「っ痛!?」
思わずソールに手を伸ばすが、微かな電撃が走るような衝撃にびくっと手を引っ込める。
光がソールから仔狼に移動していくにつれて、仔狼の姿は徐々に大きくなり、ソールの姿も変わっていく。
ベッドの上には、見たことも無い少女。少女はゆっくりと体を起こして、辺りを見た。
「ソール……?」
サクリファイスは思わず彼の名を呼ぶ。
「どうして、兄さんの名前を!?」
「兄…さん?」
双子は知らない。自分達が一つの体を共有しているということを。そして、夜か昼しか動けないということを。
時間は日の出過ぎ。
ベッドサイドの向こう。鋭い双眸がサクリファイスを貫いていた。
まるで獲物を見つけたかのように――――
☆―――登場人物(この物語に登場した人物の一覧)―――☆
【2470】
サクリファイス(22歳・女性)
狂騎士
【NPC】
ソール・ムンディルファリ(17歳・男性)
旅人
☆――――――――――ライター通信――――――――――☆
夜と昼の双子にご参加くださりありがとうございます。ライターの紺碧 乃空です。
確かに恋愛というよりは少々母性本能の方が強いような気もします。もしかすると、この先本気で恋愛になっていくかどうかはソールの行動に掛かっているのかもしれませんね(笑)
それはそれでまた、サクリファイス様のプレイングにNPCが答えた結果ですので、また1つの道だと思います。
それではまた、サクリファイス様に出会える事を祈って……
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